第11回地域包括ケア推進病棟研究大会
【基調講演】
地域包括ケア推進のための展望

仲井培雄
皆さん、改めまして、おはようございます。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、お待ちかねの基調講演です。「地域包括ケア推進のための展望」ということで、香取照幸先生に御登壇いただきます。
香取先生は、抄録に詳しく経歴が載っておりますので、まずはそちらを御覧いただいて、早目に講演をしていただくということで、少し急いでお話をしたいと思います。
1980年に旧厚労省に入省されまして、その後、様々なことをされてまいりました。現在は兵庫県立大学の特任教授や藤田医科大学の客員教授をされています。そして、一般社団法人未来研究所臥龍の代表理事もされています。
私が初めて香取先生にお目にかかったのは、2008年の11月にできた社会保障国民会議が出来上がった頃に、たしか全日病の学会だったと思うんですけれども、神野先生に御紹介していただいたことを覚えております。
当時、経産省が、技術ロードマップというのをもう少し前につくっていまして、日本の未来はこうなるんだよということを示してありました。ところが、社会保障分野に関してはそういうのがなかったんですね。厚労省のほうではどう考えているのかな、どうなるのかなと思っていたら、社会保障国民会議が出てきまして、その中心でまとめられたのが香取先生というふうに私は理解しております。
その後もいろいろと、何度かお目にかかる機会があったんですが、私もこの未来研究所臥龍に参加しておりまして、時々ウェブのミーティングや現地でお目にかかって、いろんなお話を聞くことがございます。
そんな香取先生ですので、本当にたくさんのいろんな経験や思いがいっぱいあると思います。ぜひこの機会に皆さんと一緒に伺って、我々がたくさん気づきを持って帰れるようにしたいと思います。
それでは、香取先生、よろしくお願いいたします。
地域包括ケアのための展望~在宅医療・地域包括ネットワーク・かかりつけ医搬送は「三位一体」~

香取照幸
皆さん、おはようございます。
御紹介いただきました香取でございます。
時間がもったいないので、話を始めたいと思います。
COIはありません。
私の経歴は今御紹介ありましたとおり、1980年に厚生省に入りまして、36年厚生省で医療や介護の仕事をしてきました。2016年に退官した後、アゼルバイジャンという、カスピ海の横にある国の大使を3年やって2020年に帰任し、上智大学に3年、現在は兵庫県立大大学院の特任教授と藤田医科大の客員教授を務めています。
その間に未来研究所臥龍という勉強会をつくりました。若い人たちにいろんな職種横断、分野横断の勉強をする機会をつくる、そんな活動をしています。
医療関係では、日本医師会の医療政策会議の委員を、2回目になりますが務めています。あと、私、東京の人間なので、東京都医師会の在宅医療の関係のお手伝いをしています。国の関係では、全世代型社会保障構築会議のメンバーになっていまして、それ以外に、医政局のかかりつけ医の検討会と地域医療構想の検討会のメンバーということで、この2つの検討会の取りまとめに関与しているということでございます。
かかりつけ医の話と地域医療構想の話、今大きな2つの話が流れているんですけれども、今日は先にかかりつけ医の話をしておこうかと思います。
かかりつけ医の話というと、クリニックの話だと思われるかもしれませんが、かかりつけ医の話というのは診療所と中小病院の話だというふうに理解をしていただきたい。そのことをお話ししたくて、このかかりつけ医の話を先にしておこうかと思います。
かかりつけ医の話、この4月から報告制度が始まっているわけですけれども、一昨年の11月に検討会が始まりまして、去年1年間議論をして報告書を出しました。分科会のメンバーはこんな方々です。
報告書の概要のスライドをお示ししています。役所の作るスライドはとにかく字がいっぱい書いてあります。後で読んでおいていただければと思うんですけれども、地域医療構想を考える中で、地域医療を面で支える医療のキーパーソンになる人が誰かという話が、このかかりつけ医機能、あるいはかかりつけ医の話のメインということになります。
分科会で私がお話ししたことを、プライマリ・ケア連合学会/多摩クリニックの大橋先生がわかりやすく簡単にまとめてくださったので、ちょっと御紹介します。これをご覧になると、おおよそこの話のポイントが分かるかと思います。
地域医療構想もそうなんですが、この議論のきっかけになったのはやっぱりコロナなんですね。コロナで医療崩壊というか、医療がシステミック・リスクを起こした。そこから何を学ぶかということからこの話は始まっています。
コロナからの学びは、地域や在宅の医療がきちんと機能していないと、結局、病院の負荷が大きくなって医療全体が動かなくなるということです。今、地域医療計画で病床の機能分化とか病床の数を減らすとかいう議論をしていますけれども、これから議論していくときには、病床の話、病院の話だけではなくて、診療所も含めた地域全体の医療提供体制をどう考えるか、地域完結の医療をつくっていくことが必要だということです。
もう1つは、病気になってからではなくて、日常的な健康管理も含めて包括的な医療サービス、健康サービスの保障をしようと思うと、個々の医療機関はそれぞれの役割があるわけですけれども、提供者側がきちんと連携をしていく、つまり、途中に切れ目がないような医療提供体制をつくっていかないといけない。
さらに言えば、超高齢社会ですから、医療だけでは患者さんを支えられない。医療と介護、さらには生活支援も含めて切れ目のない面的なサポートをしないといけない。そうすると、その全体を調整するハブ機能が必要になります。それが実はかかりつけ医・かかりつけ医機能の話ということになります。
この話を開業医の先生とすると、24時間対応しないといけない、夜間も対応しないといけない、何かあったら全部やんなきゃいけない、そんなの一馬力のソロ・プラクティスではできないという話になるんですが、実はこの話はそういう話ではありません。
もちろん、個々のお医者さんには、かかりつけ医となる能力、資質、意思が必要です。これは患者とのコミュニケーション能力とか総合診療能力という話になるわけですが、他方で例えば24時間対応できるとか、病診の連携が取れるとか、確実に退院支援ができる、入退院管理ができるということで言えば、それは個々のお医者さんの問題ではなくて、機関としての医療機関の問題になります。この機能を担える形の医療機関が必要だ、ということになると、単に診療所だけの問題ではなくて、地域を支える地域密着型の病院の問題でもあるということです。
もう1つは、それが機能するためには、それを支える基盤が必要です。具体的に言えば、情報連携の基盤であるとか、データベースの統一であるとか、継続的に患者さんの情報を共有できるようなシステムをつくる、そういう話になります。
そうなっていくと、これから地域医療、在宅医療を考える上では、かかりつけ医の視点からすれば、病診・診診・病病といった連携、あるいは医療以外の機関も含めた、多事業所・多機関・多職種の連携が必ず必要になります。
一方で、日本はフリーアクセスという体制を取っているわけですから、フリーアクセスとかかりつけ医機能の問題。つまり、患者・利用者の立場に立って最適な医療サービスをきちんと継続的に支援していけるような仕組みが必要ですねと。それは実は保険者の立場に立てば医療資源の効率的な利用ということになるので、患者にとっても、保険者にとっても、そして医療提供する提供者側にとってもプラスになる話ですよと、こういう話を私は申し上げました。
これは、厚労省がかかりつけ医の話をするときに出してくる絵ですけれども、発症前があり、発症後に急性期があります、回復期があります、慢性期があります、容態急変があって再入院があったりして、看取りにいく、ということになっているんですけれども、医療保険制度って発症してから後を見ているわけですよね。実はこの前っていうのがあって、ここを含めて考える、トータルで患者さんの、あるいは国民の、地域住民の健康管理をするということになるわけです。
今回かかりつけ医の議論をするにあたって、どういう議論をしていたかというと、高齢者の話だと、それから既に慢性疾患を持っている人の慢性疾患の医学管理をやるんだ、ということで議論している。だけど、実際は発症前があるし、さらに言えば高齢者になる前、現役時代の健康管理のこともある。この話は高齢者だけの話じゃない。ということになると、今回やっているかかりつけ医の議論は、実は第一歩に過ぎないんですね。これからもっと本格的にかかりつけ医機能を地域で実装していくための本格的な議論、制度改正がされないといけないということになります。
さて、これから地域医療提供体制をどう考えていくのかということですが、キャッチフレーズ的に言うと、在宅医療を強化するということと、地域包括ケアネットワークを整備するということと、かかりつけ医機能を実装すること、この3つは三位一体だ、ということになります。
地域包括ケアについてここでちょっと補足しておきます。「地域包括ケアシステム」という言い方をします。「システム」という言い方をすると、そういう仕組み、制度というふうにみんな思うんですけれども、私は地域包括ケアはネットワークだと思っています。それぞれの地域で提供者側がきちんと切れ目のないネットワークをつくることによって実現するものです。なので、これはシステムではなくてネットワークだ、と私は考えています。なので私はいつも「地域包括ケアネットワーク」という表現をしています。
今日お話しすることは、大きくこれだけです。まず、日本の医療提供体制にはどんな特徴があって、現状はどうなっているのか、という現状認識の問題。そしてこれから医療提供体制改革をしていく上での幾つかの視点。その視点を1つ1つ話していきます。
1つは、もう既に申し上げましたが、在宅医療・地域医療を強化していかないといけないということ。
2つ目は、超高齢社会で医療に求められるもの、医療の役割というものが恐らく大きく変わっていくだろうということ。
3つ目は、そういった役割を果たしていくためには、医療サービスの保障が切れ目のない形でつながっていかないといけない。それは、提供機関相互の役割分担と連携ということであり、地域包括ケアネットワークの中できちんと医療が機能する。かつ、それをマネジメントしていく機能が求められるということ。
4つ目は、資源の効率利用と働き方改革と書いてありますが、まだこれから高齢化は進みます。2040年ぐらいまで進みますし、75歳以上人口はさらにその先、2060年過ぎぐらいまで増えていきます。後でグラフを出しますけれども、医療・介護のニーズということでいうと、実は85歳以上というのが圧倒的なボリュームゾーンなんですね。そうすると、2040年で高齢者人口がピークアウトしても、高齢者の中の高齢化がどんどん進んでいくので、実は医療・介護ニーズはまだ減らないということになる。そう考えると、この先まだ医療・介護は仕事がいっぱいある。
他方で、例えば、私は昭和31年(1956年)生まれですが、私の同級生はたしか120万人か130万人ぐらいいたんじゃないかと思います。今、1年間に生まれている子供は70万人を切りました。つまり、これから20年後に大人になって労働市場に参入してくる子供たちは、私の時代の半分だということになります。ということは、今、年間に8,000人か1万人ぐらいお医者さんを養成しているし、看護師も4万人だか5万人だか忘れましたが養成していますが、多分同じ数の医療従事者を市場に輩出することはできなくなります。子供の絶対数が減るわけですから。ということは、この先、人的資源は供給制約がかかっていく。より少ないマンパワーで医療・介護を抱えていかないといけない、カバーしていかないといけないということになります。となると、今と同じようなやり方で果たしてこういった超高齢社会の医療や介護が支え切れるのか。そう考えれば、提供体制の改革、資源の効率利用は必ず必要になります。
もう1つは、既に日本の医療提供体制って、医療関係者に相当な過重労働を強いている。看護師さんもそうだし、お医者さんもそうですね。ということになると、その観点から考えても、今と同じようなやり方では絶対にもたないということを考えていかないといけない。
最後に、現実問題として財政制約もかかりますから、費用対効果を高めるという意味で、より最適な医療を行わないといけないし、言うところの無駄な医療や介護というのはそれなりに排除していかないといけないことになります。
日本の医療提供体制の現状認識ですが、多くの人が言っていますけれども、コロナ禍というのは、未来に起こるであろうことが目の前に突然現実の形で現れた、ということです。「既に起こっている未来」と言いますが、2040年に直面するであろう医療の現場の姿を私たちは現在進行形で経験したということです。能登半島で起こっていることもそうです。高齢化率50%の町で、医療・介護ニーズが瞬時にぼんと増えたときに何が起こるかということで、言ってみればコロナと同じ。将来の日本で起こるであろう光景を我々は目にしているのです。
申し上げたように、高齢者人口は2040年代半ばでピークアウトしますが後期高齢者は2060年代まで増えていくし、85歳以上はさらにその先まで増えていきます。もうすぐ85歳以上人口は1,000万人になります。
既に入院患者の7割は65歳以上です。半分は75歳以上です。昔の定義で言えば、急性期病院も含め、日本の病院は老人病院ですね。
他方で、地域で高齢者がどんな生活をしているか見てみると、高齢者の6割は独居か高齢夫婦世帯です。つまり、高齢者しかいない世帯に住んでいる人が高齢者全体の6割、ということです。
東京はもっとすごいですね。東京って、平均世帯人員が1.何人ですよね。たしか、目黒区とか渋谷区は人口の半分以上が一人世帯です。恐らく今後結婚する人って6割以下ぐらいしかいないと思うので、そういう人たちがそのまま高齢化していくということになる。一体どんなことになるんでしょうか。
近い将来、医療現場は、要介護の高齢者で複数の基礎疾患を持っている患者さんが、例えば転倒骨折であるとか急性増悪であるとか、それこそ感染症であるとか、そういうことで急性期対応で入院してくる。そんな患者ばかり、という世界になるということです。かつ、ほぼ家族介護は当てにならない。そういう時代が来るということを考えると、今みたいな医療・介護提供体制のままで果たしていけるのか、ということを今から真剣に考えないといけないということになります。
これは、コロナのときに有名になりましたが、ファストドクターというお医者さんのグループがあって、ここのリーダーである菊池先生が講演で使っている資料をお借りしたものです。さっき申し上げたように、菊池先生も、コロナというのは2040年の世界でした、とおっしゃっています。
コロナで感染者が急増しました。コロナは感染症法第2類指定の疾患ですから、原則全員隔離ということになりますね。ということになると、入院させないといけない。ところが、現実には感染者の急増で入院できない。在宅にあふれかえっているコロナ患者を支えなきゃいけない。菊池先生は病院前医療と表現するんですが、在宅の患者さんに対して往診ができない、あるいは発熱治療ができないということになると在宅の患者さんは医療が受けられない。容態急変が起こると救急車を呼ぼうとなって、消防と病院にものすごい負荷がかかります。というのが現実に起こったということです。
2040年、高齢者が急増します。そこで在宅のお医者さんがいない、往診ができない、アウトリーチの医療ができないということになれば、また同じことが起こる。在宅医療を強化しておかないと、病院もおかしくなるということで、全体が機能不全を起こしますよということをおっしゃっています。
コロナの後、国は感染症法を改正して、都道府県と医療機関との間で「医療措置協定(病床確保などをあらかじめ定める協定)」を締結する制度を作りました。緊急時対応、健康危機が生じた時のための有事対応の仕組みをつくりました。もちろん、それはそれでいいんですけれども、実はこの問題の本質はそこにあるのではなくて、私たちがつくってきた平時の医療提供体制に、実は構造的な弱点があると、そこが露呈したと考えないといけないということです。
これはいい悪い問題ではありません。日本はそういう医療制度をつくってきて、それで日本の医療を守ってきたのです。
どういう提供体制かというと、まず自由開業医制ですよね。誰でも自由に開業できます。そして自由標榜制ですね。お医者さんは基本的にはどんな診療科でも標榜できる。
かつ、歴史的な経緯から、日本は民間の中小病院を中心に医療提供体制ができています。ベッド数でも機関数でも、全体の7割以上は民間病院で、しかも、200床以下の中小病院です。民間病院ですから、いってみれば独立採算、オーナーシップの利いた中小企業みたいなものですね。それが日本の医療を支えるという格好で発展してきました。
個々の医療機関はそれぞれ自分のリスクで経営していますから、設備投資をするにしても、人の配置をするにしても、それぞれの医療機関は自分の体制、懐。――懐と言うと語弊がありますが、経営のことも考えながら判断をしているということになります。
現実の日本の医療機関は、基本的には機能が未分化で、相互に重複していて、競争・競合関係にあるというのが現実の姿です。黙ってほっておくと、連携とか協働の契機というのはおよそつくられない。
患者さんの方はどうかというと、こんなに自由に自分の好きな医療機関に好きなときに行けるという、フリーアクセスの体制を取っている国は世界中にありません。普通、診療所でも病院でも予約を取らないといけないのが常識です。
ウォークインって言うんですけれども、その日に行って診察券を出してじっと待っていれば必ずその日のうちに見てもらえる。「今日はおしまいだから、明日またいらっしゃい」はないんですね。そういう体制で日本はずっとやってきた。患者さんはそれが当たり前だと思っている。
なので、本当に必要な医療を本当に必要な、その人に最適な病院・診療所で治療を受けるというような、トリアージに相当するもの、患者さんの振り分けというのは制度的に行われていません。言ってみれば患者の流れをコントロールできない。唯一できるのは、一部負担であるとか、紹介状の8,000円取るとか、そういう経済的な誘導しかできないというのが現実の姿です。
で、出来上がった医療提供体制はといえば、それぞれの医療圏、地域で医療資源の最適配分ということを誰もやっていない。機能未分化で非効率で、小さい病院がいっぱいあって。患者さんからしてみれば、自由に選べて、どこにでも医療機関があるということになっているので、アクセスがいいからいいようなものですけれども、全体として見ると、医療資源が薄まきになっていて個々の医療機関には余力がない。こういう医療提供体制では、供給側もコントロールできないし、需要側も制御できない。そういう状態でコロナのように特定の医療ニーズがぼんっとかかると、簡単に破ける。これが日本の提供体制の弱さということになります。
何でこうなっているかというと、これは歴史的な経緯ですね。
1961年に皆保険制度をつくり、医療需要は爆発的に増えました。多くの人が医療を受けられるようになり、患者な急増した。それに併せて提供体制が強化されたかというと、それはなかなかできなかった。そんなに急に人は増やせないですからね。でも、当時は開業は自由だし、病床規制もなかったので、民間は自分の力で資本投下して病院をつくってきたわけです。ある意味、民間に任せてそういう提供体制をつくってきたということになるわけです。 これで今まで機能してきたわけですけれども、これから人的・物的資源に制約がかかる、医療需要が変わる、患者さんの状態像も変わるという中で、果たしてこのままでいけるかということを考えると、ニーズの側、疾病構造が変わり、患者像が変わり、社会的な環境が変わる中で、病院や診療所の機能、大きく言えば医療資源の再配分というのを考えていく。かかりつけ医のような機能を持った存在をこの中に組み込んでいかないと今回と同じようなことが起これば、恐らく同じような医療崩壊が起こる。このことこそが今回の教訓ではないかと思います。
これから医療提供体制の改革はどうやっていくのか。既に論点はお示ししたので、ちょっと考えれば、何をしないといけないかというのは大体分かってくる。
私が参加していた全世代型社会保障構築会議の中でも指摘されています。コロナで明らかになったこととして、在宅・地域医療の弱さが病院の負荷になって全体がおかしくなった。なので、だから、在宅や地域の医療をきちんと強化しないと、同じことが起こったらまた病院や救急に負荷がかかって破綻する、と。
医療需要も介護需要はこれからまだ増えますが、資源の方は人的にも物的にも有限ですということになると、手持ちのリソース、制約のかかっているリソースでどうやってこの需要に応えていくかということを考えないといけない。
その視点で考えれば、病院病床の機能分化・連携も大事ですけれども、診療所も含めて地域医療全体の提供体制をどうするかということを考えないといけない。言い換えれば、地域完結型の医療をどうやってつくっていくかということを考えないといけないということです。
実は、このことは全体の資源利用の最適化、保険者が言うところの医療費の適正化にもつながることなので、両者に利害対立はない。そうなんだから、ちゃんとみんなで頑張ってくださいというのがこの問題の結論です。
これは、救急の例を出しました。
左側は救急の出動件数。これは東京都のデータで、コロナ前までですけれども、ほぼ10年間で救急出動件数も搬送人員も、これだけ右肩上がりで増えている。コロナのときはもっとすごいことになった。
じゃあ、搬送されている人ってどういう人かというと、6割は高齢者です。かつ、実際に救急で来た人の重症度判定をすると、半分は軽症です、そのままお帰りくださいです。中等症、これも処置してお帰りですよね。実際に入院対応が必要な人は10%いないという状態です。
かつ、この高齢者たちに、在宅できちんと医療を受けているか聞くと、95%の人は「在宅医療は受けていません」とおっしゃいます。つまり、初期救急の往診体制がちゃんとあれば、この救急の出動件数は相当減らすことができることになります。
厚労省は医療費のことばかり見ているから、コストという視点ではあまり救急のことを考えていない。ですが自治体の立場からすると、消防・救急のコストは自治体の一般会計で持っているコストですから、これがすごく膨らんでいくのは、大きな財政的負荷になります。、それに、救急患者がたらい回しにして死んじゃったりしたら、それこそ首長さんの選挙に関わります、なので救急の問題は自治体にとっては非常に大きい問題です。この問題も、根っこの医療提供体制をどうつくるかによって、問題解決につながるということになります。
2つ目、超高齢社会と言われていますけれども、その世界での医療のあり方はどういうものかを改めt考えないといけない。
現場で仕事をされている皆さんはお分かりになっていると思いますが、もちろん治すというのは医療の基本的な役割なので、それはなくなりませんけれども、そこだけやっていればいいかというと、もうそうではない時代になっています。
治すということと、その人を支えていく。ずっと病気を持って地域で暮らしている人に伴走して、最期までその人の人生を全うさせるために必要なサービスを提供するというのが、これからの医療の役割です。
象徴的に言うと、医療の上に上位概念として生活というのがあって、その生活の中に医療がある。言い換えれば、その人の日常生活をできるだけ犠牲にしない医療を行う、ということです。治せばいいということだけではない。QOLにきちんと沿った医療を提供するということです。私はずっと介護の仕事をしてきたので、これは介護の世界では当たり前のことです。
介護保険は2000年につくりましたが、当初から一貫して在宅介護優先ということを言ってきました。当時は、在宅で介護って言ったって、そんなのできない。とにかく要介護になったら施設に入れて施設で面倒見る。そっちのほうがコストも安いし家族も楽になる、とみんな言っていましたが、特養の4人部屋に、自分の人生を段ボール1個の荷物にまとめて、片道切符で入ってそこで最期まで生活したい、そこで死にたいと思っている人なんていないんですね。みんな、これ以上家にいると家族が大変だと思って、家族のために、言ってみれば諦めて施設に入っていくわけじゃないですか。それが当たり前だって考えるのはやっぱりおかしいと思ったので、在宅原則というのをつくりました。介護保険ができたときの給付は、特養1兆、老健1兆、療養型1兆、在宅1兆で、4兆円。つまり3対1だったんです。今、介護保険の給付は10兆になりますけれども、在宅5.5、施設4.5。在宅がすごく伸びました。
それでもまだ介護保険にはいろいろ課題はあります。でも、私たちは、とにかく人は最期まで自分の住み慣れた地域で、自分の自宅で過ごしたいと思っている。それを実現するためにどういう提供体制をつくるかってずっと考えてきました。多分、医療もこれから同じことを考える、そういう時代なんだろうと思います。
そう考えると、病院はどういう役割を果たさないといけないか。もちろん医療は日進月歩で、どんどん新しい技術を生んできます。新しい治療技術も生まれます。モダリティも生まれます。今まで治せなかった病気がどんどん治せるようになります。ゲノム医療もできるでしょう、テーラーメイドの医療もできるでしょう、ダヴィンチもできるとなれば、今まで治せなかった病気を治すという意味で、高次機能を担う病院には資源投下をして、それこそ国際標準に伍した医療をつくっていく。これはもちろん大事ですが、実は圧倒的な国民医療ニーズはそっちにあるんじゃない。地域で暮らす人をどうやって支えていくか、複数の病気を持って病気とともに生きていく人を最期まで支えることが大事な役割です。
地域医療とか在宅医療を診療所と一緒に支えていく病院が必要だということを考えて、病院の方々は、この先10年20年、自分はどういう医療をやっていくのかを考えていただくことが必要なんだろうと思います。
繰り返しになりますけれども、高齢化が進む、過疎化が進むということを考えれば、在宅医療というのはますます大事になりますし、患者とか利用者の日常生活に近いところで医療を提供することが必要になります。
今度のコロナが起こったことで、実は世界中で在宅医療は大きく進みました。
今日はお示ししませんけれども、イスラエルの在宅医療のビデオというのがあって、在宅に医療キットが届いて、その医療キットを使って在宅で遠隔で診療するんですね。イスラエルは在宅で死なせたコロナ患者はいないというんです。本当かなと思っているんですけれども、イスラエルではコロナの期間中に遠隔診療が標準化されました。
診断・治療技術の進歩やDXの進展で、かなりのことが在宅でできるようになった。コロナを契機に医療現場の変革が起こったということです。
時間や空間を超えて医療が提供できるようになった。必ず病院に来なきゃいけないとか、そういうことがなくても医療ができるようになったということです。限られたリソースの中で医療を提供していくということを考えれば、オンライン診療や遠隔診療、DtoP with D、DtoP with Nといった非対面診療は、今後標準的な診療形態として考えないといけない。入院・外来・往診に加えて、非対面診療は第四の診療形態になっていく。
今度医療法の改正をしますが、医療法の改正の一番最初に出てくるのはオンライン診療の制度化ですから、これからはそういう形になっていくということなのではないかと思っています。
3つ目、これも申し上げたことですが、入院したり転院したり退院したり、患者が容態急変を起こしたり、何かするたびに医療サービスのネットワークの穴に落ちる、などということことがないようにする。切れ目のない保障ができるようにする。これを地域でつくるというのが大きな問題です。このためには、提供機関相互の役割分担と連携をしないといけないし、ネットワークをつくらないといけないし、それを担っていくようなマネジメントの機能が必要だということになります。
考えてみれば当たり前のことです。医療や介護のサービスというのは、患者・利用者の状態像の変化に対応して必要なサービスが切れ目なく提供されないといけない。患者や家族が自分で走り回って次の行き先を探すなんていう、そんなばかなことはあり得ないので、提供体制側がきちんと連携をして、それぞれの医療機関が自分の立ち位置をきちんと理解し、お互いに役割分担して継続的に患者に伴走していくというシステムを地域でつくらないといけない。これをやっていくというのが今度の地域医療構想の大きなテーマです。
また介護と比較してしまいますけれども、介護は、いろいろ議論はありますけれども、そういう調整の役割を果たすべき人が制度的に用意されています。ケアマネジャーです。制度をつくったときはケアマネって何をする人なのか分からない、なんて言われましたが、ケアマネジメントという概念があって、ケアマネがいて、ケアマネと主治医の連携が制度的枠組みのベースになっています。
医療の世界も、今やそういう視点で全体を動かすことができないとうまく回っていかない。そういう時代になっているということです。
先ほど65歳以上が入院患者の7割を占める、と話しましたが、65歳以上、さらに言うと75歳以上の高齢者は、いろんな統計を見ると、かなりの人、3割ぐらいの人が同一月内に複数の医療機関を受診しています。このこと自体が無駄だと財務省や保険者は言うわけですけれども、無駄かどうかという話は置いておいて、必要があれば複数診療科受診はあると思うんですが、当然ながら、重複検査や多剤投与のリスクは高くなります。この話は、医療費の無駄とか医療費の適正化の問題ではなくて、患者にとって最適な医療が提供されていることになっているのか、という視点で考えないといけない。個々の医療機関はそれぞれ、自分が診ている診療領域について最適な医療をしているのでしょうけれども、全部まとめたときに果たしてその患者にとって最適の医療になっているのか。合成の誤謬って起こっていないのか、むしろそれを考えないといけない。となれば、患者や家族の立場に立って最適な医療が提供されるように調整をする、コントロールする。――コントロールというのは言葉が悪いですけれども、そういう機能は、地域医療には絶対に必要なんです。
さらに言えば、医療以外のいろんなサービスがないと患者さんの在宅生活は成り立たないわけですから、介護・生活支援・栄養管理・投薬管理、いろんなものがあって、それを担っていく専門職が絶対に必要だということになります。包括的で継続的なサービスが医療を超えて提供されないといけない。そのためにあるのが地域包括ケアネットワークだということですね。
これから、医療と介護の両方が必要で、かつ複数の疾患を持っている人が増えていきます。そんな人たちが地域で生活するという世界を考えてみてください。地域包括ケアネットワークって、何となく介護の世界の話だと皆さん思っているかもしれませんけれども、実は医療というのは地域包括ケアネットワークの中のすごく重要な構成要素となんですね。なので、これからの医療提供体制を考えていく上では、地域包括ケアネットワークという文脈の中で医療をどう位置付け、機能させるかと考えていかないと多分だめですね、ということになります。
4つ目、資源の効率利用という話です。これも冒頭にお話ししたことですが、日本の医療提供体制は、皆保険成立後、医療ニーズが爆発的に増大していく中で、最小限の設備とマンパワーで、民間医療機関を中心にそれを引き受けてきたんです。
日本の診療報酬は、基本出来高払いということになっていますね。要するに診たら診ただけ支払います、という仕組み。そのせいで過剰診療になるんだって財務省や保険者は言うんですが、何でそうなっているのか。昭和40年代50年代の現実を考えれば、それこそ医療を必要とする人は巷にあふれかえっていたわけです。その人たちをとにかく診てもらう、数少ない医療機関で診てもらうにはどうするか、ということを考えて、診たら診ただけお金を払うので、とにかく患者さんを診てくれ、というのが今の出来高払いのベースだったんだろうと思います。
当時も今も、現実には医師も医療スタッフも慢性的な過重労働。やったらやっただけお金が稼げるならいいじゃないかという世界になっていて、一種の過重労働になっているということです。
これは、私が電卓をたたいた数字なのでオフィシャルな数字ではありませんが、お医者さん1人当たり何人の入院担当患者を持っているか。アメリカは1.1人、患者の数だけ医者がいます。日本は5.5人。1人で5.5人持っている。外来の延べ患者数、アメリカはお医者さん1人当たり1,500人です。日本は5,300人です。勤務医の長時間労働は常態化していて、過労死レベル。今度の働き方改革でも、医師の働き方改革は大問題になっています。だけど、働き方改革をすると現場がもたないって、病院の経営者はみんな言います。それが医療現場の現実の姿。
そう考えていくと、医療提供体制改革というのは、病床のみならずお医者さんや医療スタッフという人的資源の再配分・再配置をしてより効率的な提供体制をつくっていく、ということですから、限りある人的・物的資源をどうやって効率的にするかと考える。それをちゃんとやれば、お医者さんとか看護師さんの働き方改革にもつながるということになります。
じゃあ、どうするんだ。
まず1つは、DXも含め、機械にできることはできるだけ機械に任せることで、とにかく医者の負担を軽くする。
AI診断ってありますね。あれって、何となくお医者さんの仕事が奪われるみたいに思っている人がいるかもしれません。それって、産業革命で蒸気機関ができたときに仕事が奪われるって労働者たちが抵抗運動をした、ラッダイト運動っていうんですけれども、それと同じで、発想を変えないといけない。あれを使いこなすことで自分たちは楽になる、と考えなきゃいけないんですね。同じように、その専門職でないとできないこと以外は手放していく。そういうことを考えていかないと、恐らくもたなくなります。
とにかく機械でできるものは機械にやらせる、タスクシフトをやる、チームを組むといったようなことは積極的にやっていかないといけない。結局、それは自分が軽くなることだし、患者の負荷が軽くなるということです。
このことは、最終的には医療費の最適化〜僕は「適正化」という言葉が嫌いなので「最適化」って言ってます〜につながる。無駄な医療の排除ということにつながる。医療提供体制改革というのは、実はみんなにとってプラスになると、考えないといけないのではないかと思っています。
改めて、高齢化社会でどういう医療が求められるか、確認しましょう。
まず医療の目的が変わる。治す、から、治し支える、へ。治し支える、というのは、その人の地域の中での生活をどうやって支えるか、という視点で医療を考える、ということです。
介護保険制度の制度理念の中に、高齢者保健福祉三原則っていうのがあります。元々は北欧の考え方で、御存じの方もおられると思います。その第一が、「生活の継続性の尊重」です。医療も介護も同じで、要するにまず尊重すべきはその人の生活。その大前提の上で医療がある。つまり、生活を犠牲にしないでその人を支えていくような医療の形を考えるということになると思います。
そう考えると、病院・病床に求められる役割も変わります。「治す」に特化した高次機能・専門治療の病院と、「治し支える」を担う在宅・地域の医療を担う機能。それを診療所と一緒に担っていくような地域密着病院ということになります。
治し支えるは医療だけではできないということを考えれば、地域医療の形も変わっていきます。患者の状態像を考えれば、外来だけでは支えられない。アウトリーチのサービスを組み込んでいかないといけないし、病院と診療所の連携、協働というのはさらに必要になります。医療・介護・看護・生活支援、いろんなサービスをパッケージでやっていかないといけないので、多職種の連携とか協働というのは当たり前の標準装備ということになる。だから地域包括ケアネットワーク、ということになるわけですね。
多職種の連携ということですが、それぞれ専門用語が違い、機能役割も違う専門職の人たちが、一人の患者さんについて共同作業をする、ということですから当然この人たちを支える共通の情報連携基盤というのが必要になる。なので、ITとかDXとかPHRとか、そういった道具立ては不可欠のツールになっていくということだろうと思います。
ここから少し数字の話をします。申し上げたことのファクトを並べているだけです。
まず、外来・入院患者の年齢構成です。これもコロナ前ですから、コロナの後はまたさらに変わるんですが、外来患者の半分は65歳以上です。入院患者の70%は65歳以上、さらに50%以上が75歳以上というのが現実の姿です。今年が2025年ですが、2035年になると、85歳以上の高齢者が1,000万人を超えます。この後ちょっと減りますが、その後もまた増えていく。
この間の増え方。2000年、介護保険ができたとき230万人。今、700万人を超える位。それがあと10年で300万人ぐらい増える。
85歳以上ってどういう人たちでしょうか。介護保険が65歳からからですよね、65歳から69歳、私は今この年齢層ですけれども、この年齢層の人で要介護認定を受けている人は2%か3%、ほとんどいないです。75歳、後期高齢者になっても要介護認定を受けている人は十数%。これが、85を超えると5割になります。95歳を超えると80%。日本の平均寿命は男性が80歳、女性が86歳か87歳ぐらいですね。平均寿命が80歳ということは、80歳で同窓会をやると、3分の2、7割弱ぐらいはまだ生きています。つまり、平均寿命で半分じゃないんですね。ということを考えると、この「高齢者の中の高齢化」のインパクトって人数増以上に大きいわけですね。
認知症のスコアを見ても、後期高齢者になったってせいぜい十数%、85歳以上になると4割が認知症のスコア、MCIも含めるともうすぐ1,200万人になるという統計もありますが、もう認知症って当たり前に標準的な、私たちが普通に直面する医療・介護ニーズということになります。
実際、往診、訪問診療を受けている人ってどういう人かというと、全体の85%は要介護者、要支援者で、要介護3・4・5で半分です。当たり前ですね。自分で病院まで歩いて来られない、あるいは連れてきてくれる家族がいないから、こっちから行かざるを得ないということになるわけですから。こういう人がどんどん増えているということです。
どんな増え方をしているか。左側は社会医療調査、毎年6月にやっているレセプトを積み上げてやる統計ですけれども、在宅患者訪問診療料と往診料、いわゆる往診と訪問診察を受けている人がどれくらいいるか示しています。2006年、今から20年前、訪問診察を受けている人が大体20万人。6月1か月で全国で20万ぐらいの請求です。コロナ前、2019年で80万です。4倍に増えました。今取ると、恐らくもっと増えているでしょう。
どういう人が在宅で医療を受けているか。80歳以上で全体の8割、85歳以上で3分の2を占めます。圧倒的に80歳、85歳の人が対象です。これ、論理的にそうですよね。この人たちはもう自分で病院に来れないんですから、こっちから行かざるを得ないと、こう言った人やちがこれから増えるんです、ここがボリュームゾーン。これをどうやって支えるかというのを地域医療構想で考えなきゃいけない。
入院患者は、日本全体で見ると2040年ぐらいにピークアウトすると厚労省は言っています。ただし、これは地域差がすごく大きいです。
さっき、2040年で65歳以上人口ピークアウトして、2060年で75歳以上がピークアウトして、と言いましたが、東京など都市部はまだこれから高齢者がどんどん増えるし、一人暮らしも増えますが、既に人口減少の波が高齢者にまで及んでいる、つまり高齢者の人口も減っているというところはたくさんあります。言ってみれば、2040年、2060年の状態になっている地域ということです。そういう地域では医療ニーズの絶対量が減っていますから、入院も外来もみんな減ることになる。
2040年を考えるといっても、東京の2040年を考えるのと、地方の2040年を考えるのは状況が全然違うということです。
外来に至っては、もうほとんどの医療圏でピークアウトしています。外来はもう増えないです。2020年時点で、すでに217の医療圏で外来がピークアウトしています。まだ増えるのは人口が増えている大都市圏だけ。
他方で、在宅、こっちからアウトリーチしないといけない患者の数は、日本中でこれから増えます。例えば、中山間地域で高齢者人口も減っている、絶対数が減っているという中でも高齢化がどんどん進むので、アウトリーチしないといけない人が増える。キャンセルアウトしてプラスマイナスしてみると、限界集落のようなところを除けばやっぱり在宅のニーズは増えていくことになる。
もう1つは救急搬送。先ほど申し上げましたような理由で、地域の体制が十分でないと救急搬送は増えます。よほどの過疎地以外は救急搬送件数がこれからも増えるということになる。これは、地域の医療提携体制がどうつくれるかということによって変わるのですが。。
もう1つ、地域医療構想の検討会の中で、急性期の医療をどう考えるか議論しました。問題意識は、高齢者の救急ってどういう患者さんなのかという話です。
厚労省はこういう資料を出しました。85歳以上の急性期の入院はどういう疾患か、どういう治療が必要なのか。若い人、現役世代と比べて何が違うのか。右と左を比べてみると、明らかに疾患の構造が違います。見ないといけないのは、手術対応が必要になるような傷病は高齢者の場合には極めて少ない。つまり、転倒骨折と大腿骨頚部骨折、要するに骨折ですね。骨折系以外は、基本的には手術対応が必要でないような急性期の医療だと。若年層は、ここにありますように様々な疾患があって、明らかに疾患構造が違っていると考えると、高齢者の救急と若い人の救急を切り分けて考える、別の医療提供体制を考えるということになるのではないか。
簡単に言うと、高齢者の急性期対応は、いわゆる急性期の病院と切り離して、中小病院とかそういうところである程度受けることができるようにしないといけないんじゃないかという話になります。
もう1つは、とにかくできるだけ入院させない、ということをやらないと、高齢者のADLはどんどん下がっていく。これは皆さん御承知のとおりですけれども、若い人でも2週間も入院したら歩けなくなります。高齢者は10日入院に入ると下肢機能が15.6%低下で、脂肪を抜いた体重、筋骨格が3.2%減ります。ということになるので、とにかく高齢者は入院させないことと、徹底的に離床、ADLの維持が必要だと。
このことから考えても、リハの介入が必要だし、できるだけ入院させないようにしないと後が大変。結局、最終的には介護が引き受けることになりますから、これはもう大変です、ということになります。
診療科別の手術の件数はこうなっています。今言ったような構造を考えると、実はどこの診療領域でも、それぞれの地域で見ていくと、絶対的な手術の件数は減るということが見てとれる。そうなると、高齢者救急については、とにかくできるだけ入院させなくて、かつ、安静が筋力低下になるので、とにかくリハビリをちゃんとやらないとだめだということになります。
転倒骨折なんかについても、手術までの期間が長くなれば長くなっただけ後が大変になるので、とにかくできるだけ入院期間を短くしないといけない。ADLが下がれば合併症も出るし、となるので、高齢者救急の受け皿は、通常の病院でも受けられる、ということを考えてください。
かつ、普通の急性期は絶対数が減る。24時間救急で手術を受ける体制をつくるためには、麻酔医も必要だし、看護師も必要だし、それなりの体制を組まなきゃいけない。全体として人的制約がある中で、みんなして急性期病院をやっていてはもたないということなので、非常に簡単に言うと、急性期あるいは救急はある程度基幹病院に集約するということを考えていかないといけない。そうすると、それぞれの病院の立場からすると、うちの病院はどういうふうにこの中で自分の役割を果たしていくかということを考えないといけなくなるということです。
ということで、これも繰り返しになりますが、これから地域医療構想をそれぞれの地域で考えていくわけですけれども、とにかく治す医療は急性期、高度急性期に集約をしていくということになります。手術ができるような病院も、ある程度人的資源をそこに集中して、そこはもうそういう入院機能に特化してもらう。多くの病院は治し支える、地域医療を強化するような役割を果たしてもらうようにしていかないといけない。かかりつけ医機能を実装し、かかりつけ医機能を支援する地域の多機能型の病院を用意する、あるいは病院自身がかかりつけ医機能を担う、という形で、より地域に根づいた病院の形になっていく。
この議論は、例えばコミュニティホスピタルの議論もそうだし、在宅療養支援病院の議論もそうだし、そして実際にそれを担っていくにはどういう医師が必要かとなれば、総合診療医が必要だという話になっていく。
つまり、地域医療構想、在宅医療を強化するという話と、地域包括ケアの話と、かかりつけ医の話というのは三位一体です。その中で病院はどういう役割を果たしていくのか、どういう機能があるのかを考える、ということになる。
この絵は、皆さん見たことがあると思うんですけれども、総合診療を担っている先生方の講演でよく出てくる絵です。国民の医療ニーズってどこにあるんですか、本当のボリュームゾーンはどこにあるんですかという絵です。
対象者が1,000人います。何らかの身体的な異常を感じる人は大体860人います。日本はフリーアクセスなので、そう感じたらみなさん医者に行く、というか行けるわけですけれども、実際に受診する人は307人います。860人中の307人だから、健康状態に異常が生じたときに医療機関で受診する人は35%。このうち、入院する人は2%です。在宅医療を受けている人は1%です。実は、96.6%は外来診療までで医療は完結している。
307人が医者を受診する。病院の外来は88人、急患に行くのが10人、一般病院入院が7人、大学病院6人。大学病院についてみると、大学病院の外来受診が6人、入院する人は0.3人ということになります。この0.3人は確かに「治す医療」ということになるんですけれども、全体の医療ニーズのボリュームはこういう感じになっているということです。
だから、大学病院はこの0.6人の患者さんから医療を見ている、あるいは地域の姿を見ているということになりますが、地域から見ている人は、こっち側から見ていますからね。いわゆる地域を俯瞰する視点、コミュニティ・オリエンテッド・プライマリケア、こっちから見ている。どっちが地域住民のニーズをちゃんと見て医療の形を考えているかということですね。
これは、最近医政局が使い始めた絵で、なかなかいい絵だと僕は思っているんですけれども、左側は今までの地域医療計画ですね。垂直的連携で医療を支える、となっていて、施設から地域、医療から介護、急性期・回復期・慢性期、そして在宅、こういう医療機関同士が連携してちゃんと患者さんを支えましょうねと。機能分化と連携、まさに垂直連携ですよね。それに対して、これからは日常生活圏域ごとにかかりつけ医と地域密着型の多機能病院と訪問看護とかケアマネとか介護とか地域包括センターとか、そういう機関が水平的に連携するんですと、そういう形になっていって、医療のみの垂直連携から、多機関・多職種が連携する水平連携になっていく。
そのときに、病院はどうなるのか。左から右に矢印がついていて、手術等の急性期医療のニーズが減っていくということなので、高度急性期や急性期、「治す機能」は強化をして集約していく。他方、多くの病院はむしろ高齢者の医療ニーズが増えるし、複合的なニーズが増えるので、それに対応する地域包括ケアネットワークというのがあって、それを支えるような病院とか有床診療所が要るんです、水平連携ですよ、と。まさにさっき言った2つのベクトルが示されている。
これ、全日病副会長の織田先生が使っておられる絵で、地域医療構想と地域包括ケアは車の両輪です、その真ん中にあるのがかかりつけ医機能ですと、これを地域の診療所と中小病院がきちんと担ってくださいねと、そういう絵ですね。
在宅医療はかかりつけ医機能の重要な役割です。介護の世界ではとにかく在宅原則というのがあって、24時間365日在宅できちんと支えることを前提に、いろんな制度ができています。夜間介護もあるし、巡回介護もあるし、小規模多機能みたいなものもあるし、グループホームもあります。とにかく高齢者の状態像の変化に合わせて切れ目のないサービスをつくっていくというのが介護保険の世界です。これからは恐らく医療も同じことが求められる。時間外診療、オンライン診療、その人の生活の場で医療を支えるというものをこれからつくっていくということになります。
日本はソロ・プラクティスが多いんですけれども、ソロ・プラクティスでこれを全部やるのは、当たり前ですけれども無理です。これはシステムとかネットワークをつくることによって実現していくことです。それをやっていくということになると、複数の医療機関がチームを組むグループプラクティスもありますし、ファストドクターや大規模在宅のような、時間外を専門に往診で担うような医療機関と連携をしていくというのもありますし、多機能病院との連携というのもあります。
さらに重要なのは、訪問看護など多様な機能を組み込むことによって対応していく。それぞれの地域によって持っているリソースが違うので、その違うリソースをシステムとして組んでいくことによってそれを実現する。そういうことが必要になっていくということだと思います。
これは、在宅医療とは何か、ということを説明している医政局の絵ですけれども、医政局はどういう説明をしているかというと、まず、在宅医療の機能は、第一に退院支援です。退院支援して、退院した人を受けて日常的な療養支援をする。急変時の入退院がある。そして最期に看取りをする、と、こういう絵になっているんですね。
それぞれ、どういう医療機関が担うかとか、在宅医療を担う拠点はどこかって書いてあるんですけれども、私、前からちょっと違和感があってですね。要素としては、こういう要素で成り立っているというのはそのとおりだと思うんですけれども、何かちょっと違和感があった。何が違和感かと思ったら、順番が違う。退院支援から始まるというのが違和感だったんですね。つまり、厚労省は病院を、ベッドを減らしたいわけですから、とにかく病院から出す。病院から出てくる人の受け皿、というのが在宅医療の視点になっているんです。
本当は日常的な療養を支援するというのがまずあって、何かあったときに入院すると。それも、原則在宅ときどき入院で、できるだけ早く引き取る。入院したら病院に行きっ放しということがないようにして、ちゃんと退院支援もして地域で受け止める。再入院をできるだけさせない。そのための在宅の医療管理をちゃんとやる、ずっと伴走して、最期に看取りにいく、ということだから、順番は、②、③、①、④となるんじゃないかと思うんですね。
在宅での医療を考えていくときに、そもそも入院と在宅ってどういう線引きになるのでしょうか。在宅側から見ると、どこまで在宅でできて、ここから先は入院ですよねという、その境界点ってどこにあるんだろうかということです。
そもそも医療って連続的なものだから、それぞれ機能の違いはありますけれども、断絶はないはずですよね。つまり、入院するというのは、病院に入院しないと受けられない医療があるから入院する、日常生活を中断して24時間医師の管理下に入ることですから、病院に入院するのは日常生活の中断、つまり生活よりも医療のほうを優先させるっていうことですよね。そう考えると、在宅での診断治療技術がどんどん進んで、在宅の医療資源が充実して、テクノロジーが進めば、在宅側のテリトリーは広がっていくはずですよね。用のない検査入院とかしなくてよくなるわけだから。
実際、コロナの過程で様々な技術が現場に導入されて、在宅ってすごく強化されたわけじゃないですか。ということは、これから在宅の限界点をどうやって高めるか、在宅にどれだけの地域資源を入れて組み立てていくかということを考えないといけない。これは現実にコロナの中で学んだことですよね。
となれば、技術革新の成果をどんどん在宅に入れていって、在宅の機能を強化していく、そこに資源投入するのは絶対に必要だということです。医療の形はこれを通じてどんどん変わっていくし、変わっていかないといけないということです。
さらに言えば、医療技術革新は、単に入院と在宅の関係を変えるということだけではなくて、診療の形そのものを変えていくことになります。
幾つか例を書きましたが、例えばウェアラブルデバイス。私も今アップルウォッチをつけていますけれども、これからいいやつがどんどんできますよね。エレクトリック・スキンみたいなやつを東大が開発していますけれども、ああいうのができていくと、医療機関以外の場、つまり医師が直接関与しない場で生体情報って幾らでも取れる、集積もできる、分析もできる。あるいは、遠隔とか在宅、医療機関以外の場での診断とか治療がかなりのレベルでできるようになる。つまり、時間と空間を超えた診療というのができるようになる。10年も経ったら普通にできるようになるでしょう。
ゲノム診断みたいなものができていくと、一人一人の個人のレベルで疾病のリスクの予測とか予防とか治療ができます。テーラーメイド医療とか個別化医療露言われているものです。そうすると、診断と予防と治療は一体的にできるということになります。あらかじめ予測して対応することができることになりますから、病気になってから医者に来る、医療が始まるという世界じゃなくなるので、診療という概念も変わる。
データヘルスとかPHRができると、医療職、看護職含め専門職の役割がどんどん変わりますよね。IoTが入れば医療従事者の負担が軽くなるし、医療現場は効率化されるし、そもそもプロセスが標準化できます。AI診断が進めば、お医者さんはかなりの部分をAIに任せることができる。機械は責任を取ってくれないので最後に診断するのは医者ですが、どんどん負荷が軽くなっていく。
地域医療構想とかかりつけ医機能という絵があって、昔こういう絵を描いていたんです。今はこうなっている。何が言いたいかというと、昔、かかりつけ医機能って診療所歯科念頭に置いてないんですよ。だけど、今の絵はそうなっていなくて、診療所と中小病院が、地域医療構想と地域包括ケアの結節点に立っている。これは日本の医療提供体制の特徴から導き出されることなんです。時間がないのでその話はしませんけれども、そういうことになっている。
かかりつけ医の機能に戻すと、これから医療を支えていくためには、まず1つは、医師の資質。どういう資質が求められるかということになります。これはまさに総合診療、包括的に患者さんを受け止めることができるような、そういった診療ができる医師を養成することが必要。もう1つは、機関として、夜間対応であるとか、多機能連携であるとか、そういうことを担っていくことができるような医療機関としての機能を強化するというのがあります。3つ目は、それを支える連携・協働のシステム、情報基盤であるとか地域包括ネットワークの基盤。それを支える制度と財源、こういう話になっていくということではないかと思っています。
最後に、もう時間がほとんどないので簡単にお話ししますけれども、私、ここ数年の間に3回イギリスに行って、イギリスのGPやNHS病院など、彼の国の医療提供体制を見てきました。結論的にいうと、イギリスと比べると日本はある意味すごく進んでいる。進んでいると言うと何ですが、結果的に実はラッキーな部分があるというのが分かります。
まず1つは、イギリス、ヨーロッパ全部そうですけれども、診療所と病院って完全に別系統のものです。歴史的に発展してきた形態も違う。一方に1,000床規模の大病院があります、NHSの病院があります。一方にGPがあります。この2本立てなんですね。GPももともとソロ・プラクティス中心だった。この形だと、今の日本のようにイギリスもこれから高齢化していきますから、複数疾患を持っている人とか、医療とか介護、そういうニーズを持っている人が増える。そうするとGPだけで受け切れないんですね。病院は急性期中心の大病院ですから、入院できない人、退院しても行き場のない人であふれかえるんです。
イギリス、正確にはイングランドは人口5,000万かそこらですけれども、入院待機者が700万人いるんです。700万人ですよ。コロナ前で400万。それこそ緊急的に手術が必要な人以外が延々待たされている状態です。それこそ白内障であるとか、股関節変形症であるとか、リウマチとか、この手の人は全部待たされている。人によっては、52週とか100週とか待たされているという状態です。この人たちは、それこそ在宅にいるわけですよね。
GPはGPで、とにかく医療以外のニーズを持っている人がやってくる。何せ一部負担はない。無料ですから。とにかくGPは負荷が大きくなっている。今やGP診療所は8割がグループ診療です。かつ、GPにGPの仕事をしてもらうために、GPが抱えている医療以外のニーズを切り離す。それが社会的処方です。
イギリスから見ると、真ん中に中小病院があって、診療所と病院と大病院が一種連続的に存在しているっていうのは、むしろうらやましい、と言ったら何ですが、真ん中にリソースがあるってすごくいいよね、って見えるわけです。
イギリスも人口がどんどん高齢化して、日本と同じような問題がこれから起こってくる。イギリスではGPをグループ化したり、サブスペを持っている人がGPになったり(GP with Special Interest)、地域に仮想病棟を作ったりと、そういう真ん中を埋めるための努力をしている。
日本はすごく高齢化が先進している国で、例えば地域包括ケアみたいなものがあります、介護保険のような長期ケアを支える制度があります。イギリスはコミュニティケアでやっているんですけれども、ぼろぼろなので、社会的処方で切り離したはいいけれど受け皿がない。リンクワーカーという専門職を作りましたが、そのそもリソースが足りてない。やっぱりそこで人がたまることが起きているわけです。そうすると、日本の取組って、彼らから見るとすごく先進的に見えるんです。
我々、GPの話を聞きに行ったんですけれども、むしろ向こうから質問されるのは、高齢化率30%でどういう医療体制を組んでいるんだ、長期ケアは介護保険があるそうだけど、財源は? 仕組みは? ケアマネジメントってどうやってるんだ? ケアマネージャーってどんな職種の人がやってるんだ? 地域包括ケアで多職種連携とかやっているけれどもどうやってやっているんだと、地域包括ケアセンターってあるらしいけれども何をやっているんだと、こちらが質問攻めに会う。こういう世界になっています。
診療所と中小病院が一体になって地域を支えるという絵が日本は描けて、そこにリソースがあるわけですから、ある意味中小病院はアセットなんです。でも、今みたいな形だったら多分大多数の中小病院は生き残っていけない。自分が地域の中でどういう役割を果たすのか、どういう機能を持ったらいいのかを考えて、自分を変えていく。地域のニーズに合わせて自分の役割を変えていくということをきちんとやっていく。そのための道具立ては厚労省が用意しているので、それをどうやって自分で受け止めるかということを考えるのが、これからすごく大事になる。私はそう思っているということであります。
ということで、この後の資料は、お配りしてあるので、見ておいていただければ結構です。イギリスから比べると日本って結構まともに機能しているんだなということが分かると思います。
ということで、私の話は以上です。
御清聴ありがとうございました。
仲井培雄
香取先生、どうもありがとうございました。
本当にたくさんの経験されたことを、それから、今まさにかかりつけ医制度のことで中央で取り組まれているお姿を拝見いたしました。
まず、フロアの方から何か御質問ありませんか。
どうぞ。
質問者1
貴重な講演、ありがとうございました。
うちの病院が200床ぐらいのところで、約80床の地域包括ケア病棟があります。さっき先生のお話で、2035年で85歳前後の患者さんが増えて、85歳以上の方の入院のきっかけになるオペが整形疾患が多いということなんですけれども、うちの病院が、整形医のオペする先生がおられなくて、非常勤で来られているんですよ。急性期からオペして来るっていう感じで、さっき資料にあったADLのことを考えたら、入院をなるべく短くっていうことなんですけれども、うちに来る段階でもう入院から2週間とか経ってスタートっていう感じで、複合疾患も持っているので、結構、40日とかかかっているケースが多くて。
さっき、データ的には岡山県が2040年で入院の最大値みたいな感じで出ていたんで、ちょっとこの10年後怖いなって思っていて。
うちの病院でできる10年後までの準備とか、急性期病院さんとの連携とか、もし何かお考えがありましたら、教えてほしいです。
香取照幸
それはご自身で考えていただかないといけないことだと思います。その地域の資源・リソースがどうなっているか、将来どうなるのかはその地域の人でなければわからない・。
さっき言いましたけれども、今でも病床利用率は下がっているわけですよね。全体に医療ニーズって変わっているわけじゃないですか。入院患者が減る中でも、どこにニーズがあるかということと、おっしゃるように、簡単に言うとできるだけ入院を短くするってことだし、療養病床側から言わせると、急性期でリハでちゃんとやっていないから、アルブミン値は低いし、それこそ栄養失調になって筋骨格がぼろぼろになって、みたいな患者が送り込まれてくる、っていうわけですよ。
急性期とかリハビリの側できちんとやってくれれば、とにかく全体がきれいに流れるし、患者さんにとってもいい。これはみんな分かっていることですよね。分かっているんだけれども、それぞれの病院が、うちはうちでちゃんとやっていますとか、うちの領分はこうですってやっていたら、全体最適はつくれないわけじゃないですか。
地域医療構想に関する地域の会議では、そういう議論をしてほしいんです。本当にここが足りないんだったらここに行ってくださいって。岡山の数字は分かりませんけれども、人口が減っているんだったら、将来総数としてはベッドが要らなくなるわけですよね。潰すのもいいけれども、でも、足りない機能のところもあるんだから、そこに移っていく。
本当は、そういう一種機能転換のための支援措置って政府は考えなきゃいけないんだと思います。単に400万円あげるからベッドを減らしなさいだけじゃなくて。
それも含めて、自分たちはこういうふうにしていくと。1つの病院だけじゃなくて、全体として20年後僕たちどうなっているんだろうかとk。黙って放っておくと共倒れになりますから、そこをどうするか、頭を切り替えてもらうのが大事なことだと思います。
もっと大変な地域になると、経営統合するとかいうところにまでなるわけですよね。そのための道具立ても厚労省は用意したわけですよ。地域医療連携法人。。そういうのを使ってとにかく考える。
本当は行政がもうちょっと考えることですけれども、医療の世界って当事者が考えないとだめなので、院長さん同士が集まって、僕たちどうしようってよく考えるのが大事なんじゃないかと思います。
今のお話で言えば、恐らく手術ができるような機能はどこかに集約しないとだめなので。みんなが足りない足りないって言っていて、それこそ薄まきになっている状態だと対応できないので、ある程度集約していって、自分の機能をどうするか。機能転換していくためには当然設備投資も要るしということになるので、そこは何らかの形で政策支援をする。地域医療構想の次のステージって、それだと思います。
今、基金を持っていますよね、総合基金。恐らく何千億って基金が積んであるので、もうちょっと上手に使えば、それは財源が出るので、多分そういうことを厚労省は考えないといけないと僕は思っています。
以上です。
質問者1
ありがとうございます。
先ほどの資料とか、先生の話とか、また持ち帰って考えていきたいと思います。
ありがとうございました。
仲井培雄
ありがとうございました。
地域包括ケア病棟は、今、ポストアキュート中心のお話でしたけれども、本来、サブアキュートもいっぱい受け入れることが求められていて。今回のお話の中では、特に中小の病院としてかかりつけ医機能を持って診療所などとタイアップしてやっていくというところがかなり重要視されていて、先ほどから香取先生が言われているように、在宅医療、地域包括ケアネットワーク、かかりつけ医、この三位一体が大事だということだと思います。
もうほとんど時間ないんですけれども、ちょっとだけ。
イギリスと比較して、なぜイギリスは大病院と診療所しかないのか。それで財政的にはうまく回っているんですよね、多分日本よりも。そこを、日本は中小病院をどうしたら財政的にうまくいくのかというところも。
香取照幸
この話をすると長くなるんですけれども、とにかく日本は特殊なんです。
診療所って英語で何て言いますか?クリニックですよね。病院はホスピタルでしょ。
ホスピタルの語源は。ホテル、ホスピス、ホスピタリティと同じ。要するに、人をもてなすとか人を受け入れるっていうことですよね。もともと病院の起源は貧者の収容所ですよね。イギリスもそうだし、フランスもそうですね。オスピス・ド・ボーヌってありますよね。日本もそうでしょ、小石川養生所でしょ。つまり、貧者を収容する場所だったんですよ。施療院とか看護院とか、行き倒れの人を引き受けるとかね。あとは、イギリスのエリザベス救貧法でできた施設や感染症の隔離病院。あとは軍隊の病院ですね、軍事病院。日本の国立病院って元々は陸軍病院と海軍病院です。つまり、病院ってそうやって発展してきたものなんですよ。それぞれが別系統で発展してきて医療を支えてきた。
「風と共に去りぬ」っていう映画を見たことありますか。スカーレット・オハラの片思いの相手、アシュレーが死ぬんですが、かばんを持ったお医者さんが家に来るでしょ。あれが普通の医療ですよ。だから、往診っていうのは開業医の標準形なんですよ。病院っていうのは、家に医者が呼べない人、貧乏人が行くところなんです。診療所とクリニックは全然別系統で、初めから役割も違うし、機能も違う。その病院が一般に開放されていって今みたいな形になっていくわけです。
だから、欧米には200床とか300床ぐらいの中途半端な病院ってそもそもないんですよ。日本は違いますよね。クリニックがあって、クリニックが大きくなってベッドを持って、それが法人になって病院ができてきたわけじゃないですか。だから機能がつながっている。日本の大きな病院は、公立病院だったり、済生会とか日赤だったり、これはこれで全然別系統でつくられている。だから、向こうには日本の中小病院みたいなものってそもそも存在していない。あるのは、眼科の入院とかやっている専門病院で、普通はないんですよ。ということは、日本の中小病院というのは、考えてみれば、これからの医療を考えていく上では役にたつ大事なアセットなんです。でも、今のままだと多分多くの病院が立ち枯れていく。役割が明確でないし、機能が明確でないから。むしろ、これをどうやってアセットとして生かすかというふうに政策の側は考えるし、中小病院もそういうふうに考える。そうすると、どういう機能を持っていればいいかとかいう話になってくるんです。
東京のように、人口も多くて交通機関も整っているところだと、自分のやりたいことだけやっていてもそれなりに患者は集まるので経営は成り立つ。でも日本全国、そんなところはそうはない。
だから、地ケア病棟だとか地域医療病棟であるとか在支病だとか、コミュニティホスピタルとか、これからの中小病院のあり方を考えるという人たちがいて、そういうものが少しずつ形になっている、っていうことです。僕はこの学会もそういう活動の一つなんだと思っています。
自分たちで考えるっていうのがすごく大事なんです。さっき言ったように、東京の真ん中で東京の2040年を考えたときに僕たちどうするかという話と、岡山県で考えるのと、秋田県で考えるのでは、地域にあるリソースも違う、自分たちが持っているリソースも違う、仲間が誰がいるかも違う、そもそも人口構成も疾病構造も、将来の姿も違うので、絵の描き方が全部違うんです。だけど、恐らく求められるのは、総合診療がきちんとできる、地域の中に穴が開いていない形をつくるために、それぞれの自分が持っているリソースでどういう絵を描くのか。役割分担して、自分たちの病院の立ち位置をはっきりさせ、一人でできないことは誰かとアライアンスしてや、そういうことをそれぞれの地域で、与えられた条件の中で考えるということをこれから考えないといけない。
なので、厚労省も最近一枚の絵は描かないでしょ。いろんなパターンがあって、それぞれのパターンごとの絵っていうのを描きますよね。今度のガイドラインもそうなっていますよね。そうなるんですよ。でも、ガイドラインってどこまでいったってガイドラインだから、最後は自分で考えないといけないということだろうと思います。
以上です。
仲井培雄
ありがとうございました。
地域包括ケアはシステムでなくてネットワーク。その中で我々の地域包括ケア病棟や地域包括医療をどう生かすのか。地域ごとっていう、御当地ごとっていうのが非常に大事なキーワードですので、その中で皆さんが自分たちの立ち位置を考えながらこの病棟を生かしていっていただければ、日本の医療は輝くのではないかと思います。
香取先生、どうもありがとうございました。