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【特別講演】第7回
【特別講演】
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withコロナの時代を踏まえた「地域包括ケアシステム実現に向けた総合診療医の役割と多職種連携への期待」
【座長】
戸田 爲久(第7回地域包括ケア病棟研究大会 大会長/社会医療法人 生長会 ベルピアノ病院 院長)
特別講演を草場先生にお願いしております。
御紹介させていただきます。京都大学を御卒業後、研修医として研修をされました。その後、家庭医を目指したいということで、北海道の家庭医療学センターの後期研修医になられ、平成15年家庭医療学センターの本輪西サテライトクリニックに就職されておられます。その後、院長を経られ、今現在、平成20年から医療法人北海道家庭医療学センター理事長として、病院経営と研修医、研究医の育成、家庭医の育成に取り組んでおられます。現在、日本プライマリ・ケア連合学会の理事長としてご活躍されております。
草場先生の御資格は、プライマリ・ケア学会認定の家庭医専門医、指導医として指導されまして、公職は先ほどお話ししたように日本プライマリ・ケア連合学会の理事長をされておりますし、北海道医療対策協議会の委員、京都大学の非常勤講師もなさっておられます。
著書も、「家庭医療のエッセンス」あるいは「家庭医療マニュアル」等々、家庭医学に携わるたくさんの著書と論文を書かれておられます。
本日は、「withコロナの時代を踏まえた「地域包括ケアシステム実現に向けた総合診療医の役割と多職種連携への期待」」ということで、家庭医、総合診療医に期待するところ、これからの役割についてお話をしていただきます。
草場先生、よろしくお願いします。
【演者】
草場 鉄周(一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会 理事長)
日本プライマリ・ケア連合学会理事長の草場でございます。私平素は、北海道で地域医療、家庭医療という形を実践しているものでございます。
本日の講演は、事前に録画しているものでございますが視聴していただければと思います。そこでもまた改めて挨拶をしておりますので、どうかよろしくお願いいたします。
それでは、事務局のほうでお願いします。
皆さん、こんにちは。医療法人北海道家庭医療学センターの草場鉄周と申します。
本日は、このような貴重な講演の機会を頂きまして、誠にありがとうございます。「地域包括ケアシステム実現に向けた総合診療医の役割と多職種連携への期待」と題しまして、この地域包括ケア病棟協会の講演をさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
COIについては、特にございません。
私は、現在も北海道・室蘭という地方都市の家庭医として働いております。出身は福岡県で、京都大学を1999年に卒業しました。その後、そのまますぐに日鋼記念病院、室蘭にある総合病院で卒後臨床研修を2年間実施しまして、従来から目指していた家庭医になりたいという希望を実現するために、室蘭の北海道家庭医療学センター・家庭医療専門研修を修了しました。その後診療についたわけでございますが、その途中でカナダのウェスタン大学、当時はウェスタンオンタリオ大学と言っていましたが、こちらの大学院の家庭医療学専攻、大学院を修了いたしました。Master of Clinical Scienceという修士号を取ったということでございます。また、それと同じ時期に、2003年より、現在も勤めております、本輪西ファミリークリニックで勤務を開始し、2006年には、前所長の葛西先生の福島県立医大総合診療の教授就任ということがございましたので、私が引き継ぐ形で2代目の所長を拝命したということでございます。
その後、いろいろと医療法人の中での問題がございまして、当時の医療法人から独立をし、新たに医療法人という形で北海道家庭医療学センターを衣替えいたしまして、そこからは理事長という形で経営にもタッチしているということでございます。
現在、法人経営に加えて、室蘭での外来診療、訪問診療を提供するという形で医師としては働いてございます。また、医療法人の動きとは別ですけれども、2019年には一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会の理事長ということで、学会の会務にも携わっておる立場でございます。
こうした立場を見ますと、特に病棟での勤務が私の中心ではないということがおわかりだと思いますけれども、今回この地域包括ケア病棟協会でお話しさせていただくのはなぜか、その点は後々触れてまいりたいと思います。
本日は、大きく5つのテーマで。まず最初は、総論的な日本の医療の課題とプライマリ・ケア、総合診療という流れ。そして、コロナ禍で見えてきたプライマリ・ケアの課題。また、私が経営します北海道家庭医療学センターの取組を具体例として提示し、病院での総合診療医の活躍と多職種連携。最後に、私自身が今回強くメッセージとしてお伝えしたい、教育を通した組織作りということについてお話をさせていただきたいと思います。
まず、Part1ということで、日本の医療の課題とプライマリ・ケア、そして総合診療医というテーマでお話をいたします。
日本の医療の課題、どういったものがあるでしょうか。
郡部・僻地の医師不足の問題。これは非常に根強く、なかなか解決が難しい問題として現在も大きなテーマになっています。
その一方で、都市部では急性期の大病院が大変高度で専門化した診療というものに注力していくわけでございますので、結果的に幅広い、よくある疾患については診療所・小病院がもっと診ていかなきゃいけないよといった流れもございます。いわゆるかかりつけ医に対する期待ということとほぼ同じでございます。
また、時代の流れの中で、病診連携、診診連携、医療・介護・福祉などの連携の中で医療の提供をしていかなきゃいけないよということも大きなテーマになるわけです。
その背景には、高齢化が進む中で、多疾患を合併する高齢者、また認知症を抱える高齢者、こういった非常に複合的な問題を抱えた高齢者に対して、医療も一個一個の健康問題に細かく対応するだけではなくて、包括的に高齢者を診ていくという枠組みが必要になってきているなと感じます。
また、高齢者の最後の流れとしましては、当然人生の終末期ということになってまいりますので、いわゆる看取りといったものに対応する在宅医療のニーズも高まってきたという流れがございます。
こういったニーズを考えますと、プライマリ・ケアを強化していく、こういったものがやはり日本の中でも求められるよということが、ここ5年、10年唱えられてきたということでございます。
では、プライマリ・ケアとは何か。
非常に簡単に説明いたしますと、プライマリ・ケア、非常に多様なよくある健康問題、いわゆるコモンディジーズ、こういったものに対応していくことがまず大きな柱でございます。そして、住民が生活する地域の中で継続的に、またすぐにアクセスできる身近なケアとして提供されることが大事です。先ほどもありましたような連携、協調、他の医療機関、介護・福祉機関、こういったものとの連携をしっかりしていくケアも大切な枠組みでございます。そして、この身近な中で継続して患者さんを診ていくということは、一人一人の患者さんの個性の違い、生活背景の違い、あるいは家族の状況の違い、ひょっとすると人生観といったものも含めた、個別性と我々言っていますが、こういったものを重視したケアを提供することも大変重要でございます。その総体として、ある地域の中で地域全体の健康問題を解決していこうという面の視点、それを地域包括ケアの視点と我々は言っていますけれども、こういった面の視点を持ちながら診ていくということがプライマリ・ケアの基本原則ということで、これはもう20年前30年前から枠組みがあると考えています。
では、こういったプライマリ・ケアを実践することは、本当に日本の医療に貢献するんだろうか。
日本の中ではまだまだ研究が少ないわけでございますが、諸外国ではかなりいろんな研究が行われています。
実際にプライマリ・ケアが非常に進んだ地域と進んでいない地域を比較した研究ですけれども、例えばプライマリ・ケアがよく発達していると総死亡率が減る、また若年死亡率が減る、こういったエビデンスが実はございます。さらに糖尿病、高血圧などの慢性疾患に罹患する人の割合が減っているということも明らかですし、こういったハードデータに加えて、患者さんの主観的な思いとして患者満足度の上昇といったものも出ています。
そして、先ほどの地域包括ケアの視点で見ますと、地域全体のヘルスケアへのアクセス、こういったものが非常に公平に行われるということもわかってきていますし、医療のクオリティーとかかる費用とのバランスがいつも大事になりますけれども、費用対効果も非常によいというデータがございます。結果として、いわゆるGDP比の医療費ということでは、やはり少なく抑えられる。一定の質の医療をコストパフォーマンスよく提供できるということが明らかになっているわけでございます。
では、日本ではこのプライマリ・ケアということについて現在どういうような取組があるのか。
私自身は、この日本の医療政策の地域医療構想と地域包括ケアシステムというのは、プライマリ・ケアとの連動がある政策じゃないかなと考えています。というのも、いずれも地域の診療所が身近な健康問題に対応する、プライマリ・ケア機能を発揮すると。これは診療所だけでなくても結構です、地域の小病院でも結構でございます。そういったものを発揮して外来・在宅・救急医療を担い、日常生活圏域の中で医療・介護・福祉がある程度完結することを大前提としているわけです。ですので、プライマリ・ケアがしっかり行われないと、この地域包括ケアシステムとか地域医療構想というものも絵に描いた餅になるということでございます。このプライマリ・ケアが今後の日本の医療をさらにいいものにしていく、この展開の鍵を握っていると私は考えています。
もう1つ大事なのは、このプライマリ・ケアを担う担い手はどういうふうに考えていくのか。実は、こちらも国の政策の中に既に動きがございます。総合診療専門医というものでございます。
ここ10年ぐらい、専門医制度改革というのが行われてきています。基本領域、そしてサブスペシャルティー領域という形で専門医というものを整理しよう。そして、基本領域は当初18領域、内科、小児科、皮膚科、精神科、外科などなど、ここに書いてあるような基本領域が18個設定されていましたけれども、これだけではなく、やはりプライマリ・ケアの専門家として総合診療専門医を作るべきだということが提言されました。これは日本の医療の中で大変大きな変化だと思っています。
厚生労働省専門医の在り方検討会の最終報告では、このように記載されています。総合診療専門医は、従来の領域別専門医が「深さ」が特徴であるのに対し、「扱う問題の広さと多様性」が特徴であり、専門医の一つとして基本領域に加えるべきである。また、日常的に頻度の高い疾病や傷害に対応できる、いわゆるコモンディジーズに加えて、地域によって異なる医療ニーズに的確に対応できる「地域を診る医師の視点」、これがまさに地域包括ケアでございます。
そして、こういった地域ニーズを基盤としながら、多職種と連携し、包括的かつ多様な医療サービス、その中には在宅医療、緩和ケア、高齢者ケアなどが入っていますが、これを柔軟に提供し、地域における予防医療・健康増進、こういった活動を通して地域全体の健康向上に貢献できる。
これを見ていただくと、先ほど私が解説したプライマリ・ケアの基本原則そのものであるとわかっていただけるかと思います。ですので、今回この総合診療専門医が明確に定義されたということが大変大きな変化でございます。
そして、この総合診療専門医を作る意味は何なのか。
こういった専門医であれば提供する医療のレベルが、いわゆる知識・技能・態度と表現されますが、これが一定の水準以上であるということが保証されるわけでございます。今までのプライマリ・ケアというのは、定義も明確なものがなく、養成システムも特にございませんでした。ですので、ある意味非常に千差万別、地域によってはすばらしい先生もいれば、十分なプライマリ・ケアを提供できていない地域もあったりするということがございましたが、こういった定義をされることによって、日本医師会もこうした総合診療というものに対する期待というものの変化を敏感に捉えて、日本医師会としてのかかりつけ医というものを真剣に考え始めているということ、これも大変我々にとってありがたいなと思うことでございます。
実際、現時点でこの地域包括ケアシステムの医療において、やっぱり中心的な役割を担われているのはかかりつけ医の先生方、開業医の先生方でございます。
日本医師会のかかりつけ医の定義の中では、日常診療での生活背景の把握と病診連携、そして診療時間外の医療への対応、地域住民への支援活動と在宅医療推進、わかりやすい情報提供ということで、こちらもプライマリ・ケア機能ということについてかなり類似した内容になってきているのかなと考えるわけでございます。
そして、実際に2016年、今から5年前からこのかかりつけ医機能研修制度というものがスタートしております。これは現在既に地域でされている先生方にさらにブラッシュアップしていただく講習ということになってございますが、こういったものを今後さらに発展させながら、かかりつけ医という枠組みも恐らくさらに質が高まっていくと考えるわけでございます。
つまり、当面のプライマリ・ケアのあり方ということについては、現時点でたくさんある病院、そして診療所の先生方がかかりつけ医機能研修制度などなどでさらに力を高めていただきながら、若いドクターからこの総合診療専門医というものが徐々に育っていく。そして、こういったものが緩やかなかかりつけ医集団という形で地域の中で働きつつ、そこに対して様々な医療政策とか診療報酬というものがついていく。こういった方向で日本のプライマリ・ケアは強化されていくんだろうなと期待しているところでございます。
ただ、こういった枠組みから徐々に、最終的にはこういった形になるのかなと私が考えているのが、将来期待される医療提供体制というものでございます。一体どういうものでしょうか。
まず診療所。現在は非常にたくさんの診療所がございますけれども、診療所の中でも特に総合診療専門医などがグループで働く診療所、我々は家庭医療という言葉も使ってございますが、こういった診療所が地域の中に徐々に増えていく。こういったところは外来も訪問診療も、地域の予防医療、公衆衛生的なことも含めて、どんどん地域の中で活躍をされる。そして、地域の中で一番近い、密着した地域病院というものがございますが、こちらの中では、実はここには病院で活躍する総合診療専門医というものが在籍して、その地域病院の中のよくある健康問題の入院診療、外来診療についてはこの総合診療専門医が対応する。つまり、この診療所も病院も両方ともジェネラルなトレーニングを受けた医師がきちんといるということになりますと、非常にこの間での連携がなめらかで、そして違和感なく行われますし、住民も病院から診療所に戻ったり、また病院に一時期行ったり、ここは大変緩やかに進んでいく。恐らく後でお話しする地域包括ケア病棟もこういった地域病院の中に存在し、欠かせない存在になると私は思っています。
そして、この中でなかなか手に負えない健康問題が出てきますと、これはもう地方のさらに拠点病院、2次、3次という病院の中で。この中には各科の専門医の先生方がある程度集約化しながら在籍をされ、高度医療を提供していく。循環器内科の先生が1人2人ということになりますとなかなか高度医療の提供は難しいと思いますが、4人5人という形で在籍されればかなり深い治療ができるわけでございますので、恐らくこういった形で今後は医療提供体制が、10年20年というスパンになると思いますが、統合されていくのかなと考えているわけでございます。
こういったことをもともと考えながら制度が進んでいったのかなと思うんですが、今回、コロナ禍の中で非常に時計の針が大きく進んだなと感じています。一体どういうことか、少し御紹介したいと思うんですけれども、コロナ禍の中でプライマリ・ケアはどういう役割を果たしたのかなということが、非常に生々しく目の前に出てきたなと私現在も感じています。
このコロナ禍の中で今のプライマリ・ケアが果たせたことを振り返りたいと思うんですけれども、まず最初に大きかったのが、発熱や上気道炎などの症状を持ってコロナの可能性があるなという患者さんについて、ちょっとそういった人は診たくないということで診察を断る医療機関も当初やっぱり少なくなかったと思います。また、感染への不安もあって受診したくない、しばらく家でじっとしたい、こういった患者さんに対しては電話で、あるいはオンライン診療でという形で、スムーズにそういった方に遠隔での診察を提供する用意もほとんどなかったと思います。
それから時間もたち、感染状況も悪化してコロナ感染者がだんだん増えてまいりましたが、感染者として入院ができずに施設療養、あるいは宿泊療養、また自宅での待機ということを強いられた方が多かった地域もございました。こういった患者さんに対して我々が本来果たすべきかかりつけ医としてアプローチする機会はほとんど与えられず、保健所あるいは自治体の保健師さん、自治体職員の方にフォローアップは全てお任せすることになってしまった。これもプライマリ・ケアとしてはじくじたるものがありました。
また、クラスターが発生した介護福祉施設の患者さんについても、本来は診療、急性期治療を終えて戻られた場合に、訪問診療あるいはオンライン診療というものを通じてサポートすることが我々の仕事かなと思っていたわけでございますが、なかなかそこも、そういった機会もなかったなと思っています。
そして、最近のワクチンの課題ですけれども、ワクチン接種の場合に、個別接種をする場合にはかかりつけ医に受診してくださいということが国から呼びかけられましたが、実はかかりつけの認識に医療機関と患者さんとの間で結構差異があった。本来かかりつけ医と思っていた医師から、あなたはかかりつけ患者ではありませんよと言われてワクチンを接種してもらえなかった、こういった現象も少なくなかったと聞いているわけでございます。
こういったことの結果として、有症状の方が普段かかっている医療機関で診察を受けられなかったということで、困惑、不安というものもありましたし、こういった方が結果的に地域の診療所ではなく急性期病院に直接受診、あるいは保健所、自治体にどんどん電話をして、本来果たすべき機能が果たせずにいたと、いわゆる医療逼迫の状況につながったのかなと考えます。
また、施設などでクラスターが発生した場合に、そこで診療に当たる医師・看護師の確保も大変困難であった。
また、急性期の治療を終えた患者さんを受入れる施設が、受入れに不安を覚え難色を示したので、急性期病院に患者さんが滞留した。結果的にこれがまた病棟を埋めて、医療逼迫というものにつながったということでございます。
ワクチンの問題は、普段かかりつけと考えていた医療機関でワクチンができないということで、集団接種にも結果的にすぐに入れなかった方が不安を感じた。こういったケースも当初は結構多かったかなと思います。
なぜこうしたことが起きるのか。個々の医療機関の対応が千差万別であったというのは事実でございますが、私は、これは決して医師あるいは医療機関のエゴの問題ということではないと考えています。どちらかというと構造的な問題が背景にあったのではないか。
まず、我が国のプライマリ・ケア医療機関の多くは一人医師の診療所です。そして、施設規模も小さ目というところで、感染防御をするためのゆとりある施設構造を取るのはかなり難しいという現状がございます。いわゆるビル診みたいなものを考えていただくとおわかりいただけるかと思います。感染防御対策が困難であったので発熱の方はお断りしたという経過があったかもしれません。電話、オンライン診療ということも平時よりほとんどやっていませんので、急にこういう状況でやってくださいと言われても、できないのは当然です。自宅療養の方の診療を提供するということについては、もともと訪問診療を提供している医療機関がまだまだ少ない状況の中で、コロナだからといって突然自宅療養の方のフォローはできないというのは当然かと思います。
このワクチンの問題で非常に見えてくるのは、フリーアクセスということで医療機関を選べる自由というのは確かにある。ただ、逆に住民一人一人の健康管理というものにどこかが責任を持っているということもないわけです。つまり、住民はこのコロナ禍などの有事の際には自分自身で健康リスクも取らざるを得ないというのが日本医療の体制の大きな問題になるかと思います。自由はあるけれども責任も非常に重いと、このバランスをどう考えるか、非常に難しい問題だと考えています。
改めてプライマリ・ケアということを考えますと、現在の日本の医療の中でやはり大きな断絶があるのではないかなと考えます。
医療のほうは、右側の赤で囲ってございますけれども、専門医療は病院を中心とした入院診療、救急、そして集中治療などがございます。そして、現在の日本のプライマリ・ケアというのは、どちらかというと急性疾患、慢性疾患の外来診療を提供するというところにかなり特化していると、その中でいろんなバラエティーがあるという状況でございます。
それに対して、今回のコロナ禍で見えたような公衆衛生的なものについては完全に行政のほうの役割になっているわけです。法定感染症の管理とか医療計画の話、母子保健・予防接種・健康増進。この間がすぽんと抜けているわけです。薬を出すとか検査をするということはたくさんやりますよ、ただ予防医療とか今回の公衆衛生的なことについては、それはもう行政でしょうというのが現場の感覚として根強くあるのかなと感じています。
本来、このギャップというものを放置していいんだろうかということですね。つまり、この専門医療と公衆衛生/保健行政の間にあるものが、私はやはりプライマリ・ケアではないかなと感じています。
現在、医師は病院に21万人、診療所に11万人在籍されているということでございます。高度専門医療については、やはり集約化しながら、たくさんの医療リソースを使わなきゃいけない、これも当然でございますけれども、診療所医師の部分については、もっともっとよりこの公衆衛生/保健行政に近い仕事ができるのではないか。そして、外来診療だけじゃなくて、訪問診療、予防医療、健康増進、地域包括ケアという本来のプライマリ・ケア機能をしっかり果たせば、この間に位置して大きな活躍ができるんじゃないかなと考えています。
それでは、この大きな活躍ということを具体的にCOVID19に当てはめるとどうなのかということでございますけれども、まず公衆衛生の役割については、感染者の診療状況の管理とか、あるいは感染経路と経緯の把握、そして感染拡大を防止するという、いわゆる本当にトレーシングみたいな活動。そして、ワクチン接種の後方支援、ロジスティックの部分、こういったところは行政の仕事として最後まで残っていくと思います。
プライマリ・ケアのほうでは、この有症状者・濃厚接触者への検査は当然行うべきですし、施設や自宅療養の無症状・軽症者の方の診療はやはりプライマリ・ケアのほうが担う。そして保健行政と連携する。クラスターが発生した施設での診療も担うべきだと思いますし、治療後の患者さんのフォローアップ、そしてワクチンの接種、非常に大きな役割をプライマリ・ケアは果たせるのではないかなと考えています。
この専門医療のところは、COVID19の中等症あるいは重症者の入院診療は、医師のみならず看護師さんも含めて大変なリソースが必要になるわけでございますが、ここに集中して取り組んでいただく。そうすると、今回非常に逼迫した公衆衛生とか専門医療の部分の動きをより緩和できたのではないのかなと考えているところでございます。
今回、このコロナ禍で見えてきたことは、プライマリ・ケアというものはシステムとして構築していく必要があるのではないかということでございます。有事の際だけにシステムを構築することはできません。有事の際に動けるように、平素から保健所、自治体、急性期病院、地域の介護施設、こういったところと連携を取りながら対応することができるシステムを整備することが非常に大事ではないでしょうか。
具体的には、普段から予防医療というものあるいは公衆衛生の活動は保健所などを中心に動いていますので、こういったところにちゃんとプライマリ・ケアのかかりつけ医が入っていく、そしてネットワークを構築することが非常に重要でございます。地域の医師会活動などでは、ある程度この予防医療、公衆衛生の部分に入っている部分がございますけれども、例えば健康診断とか予防接種という形でかなり限定された部分だけ参加していますので、ここにもっと面として入っていくことが大事ではないでしょうか。
これは本当に一つの考え方になりますけれども、かかりつけ医への住民の緩やかな登録システムといったものも今後考えるべきではないかなと、私自身、個人的に考えています。この登録をすることによって、誰がかかりつけ医だということが明確になりますし、かかりつけ医の側も、この住民は私が担当するべき方たちだという意識を持って診ることができます。相互にちゃんとかかりつけということのひもづけができるわけでございます。そうすることによって、行政もかかりつけ医を通していろんな活動を展開することができます。そして、それが連携することで住民の健康サポートを隙間なく行うシステムが構築できるのではないかなと考えています。
これはすぐにできるようなものではございません。ただ、今回のコロナ禍の中で見えてきた課題解決の、一つの根本的な解決策になるのではないかなと考えています。ぜひこのコロナ禍を契機に、プライマリ・ケアの仕組みを作っていくことを考えていきたいということでございます。
こういった流れの中で、現在北海道家庭医療学センターがどういう取組をしているか、少し御紹介します。
北海道家庭医療学センターグループは、良質な家庭医療の実践、家庭医の養成、また日本・北海道の家庭医療の発展の貢献ということを目指して運営されてきた組織でございます。ビジョンとしまして、多様性と学びを重視した活力ある組織づくり、そして地域ニーズに応える質の高い家庭医療の実践、また、現場からのアカデミアのモデル発信などに取り組んでございます。
沿革は非常に多岐にわたりますが、ポイントだけお話ししますと、冒頭お話ししたように、2006年に私が2代目の所長、そして医療法人が2008年に設立されたということ。そして、この緑色で書いているような、更別村、寿都町、上川などなど、郡部、都市部に徐々に我々の診療所ネットワークを広げていったという組織でございます。2014年、2015年には九州、京都など、OB、ここを卒業した者がぜひ働きたいという地域に我々も一緒に進出するような形で全国展開をしてきました。2016年に、今回非常に大きなテーマになります帯広協会病院の総合診療科の開設を行い、病院での総合診療医の育成に取り組み始めた。そして、その展開をずっとしてまいりまして、2021年、十勝のほうの中札内村の村立診療所をこの春から引き受けて運営しておる状況でございます。
私どものグループは、全医師数52名、家庭医療の専門医、学会の専門医ですが、家庭医療専門医を28名持っています。そして、現在勉強中の専攻医、卒後3年目から6年目になりますが、後期研修医が24名という組織でございます。当初1名からスタートして、ここまで徐々に徐々に広がってきた組織でございます。
現在、実践の場として14の診療所、病院がございまして、都市部には私が勤務する室蘭本輪西ファミリークリニックをはじめとして5つ、郡部では更別、中札内、寿都、上川の4町村、関西では2つの診療所と1つの病院の家庭医療科、九州も1つの診療所、そして病院の総合診療を担うための拠点でございます帯広協会病院の総合診療科の運営ということも担ってございます。
現在我々の運営の特徴としましては、所長と副所長、そして一般医師、また勉強する専攻医ということで、グループ診療体制を大切にしてございます。いわゆる屋根瓦方式というものを診療所の中でも構築しているところでございます。こういった多様なレベルの医師が配置されますと教育体制は充実しますし、また地方でも都市部でも、待機業務の共有、そして共同主治医制などによって、休暇とか自己学習時間を十分に確保できる体制を現在確保できているということでございます。
こういった枠組みを展開しながら、循環型地域医療支援モデルということで、私たち本部のほうから、いわゆる家庭医療指導医、専門医、研修医をチームで送り、地域の中に貢献をすると。そして、地域の町村との業務提携を結ぶことによって、町村は非常に医療体制が整備され整う。その対価としまして、地域住民、行政は家庭医療に対する理解を深める努力を続けていただき、私たちの家庭医療教育のハード面のサポート。これは住居、教材、テレビ会議システムなど、こういったことについて様々な御支援を頂きながら、ウィン・ウィンの形で現在地域の中で診療所を展開している組織でございます。
また、私たちの組織は教育ということに力を入れておりまして、医学生の教育はもちろん、卒後臨床研修、2年間の中の地域医療の研修というものが必修化されていますが、この部分は道内外から多数の研修の先生を受入れています。家庭医療専門研修というところは後ほど詳しく説明しますが、病棟2年、診療所2年の4年間の研修を20年提供してきています。フェローシップということで、この家庭医療専門医を取った後に、さらに指導医あるいは施設の管理者、こういったものを目指している方のための養成コースも準備いたしまして、その方の希望に合わせて柔軟に選択できるコースを用意しています。こういった当センターの教育が総合診療領域の教育を牽引していると自負しておるところでございます。
郡部診療所における役割としては、やはり幅広い疾患に対応しつつ、救急医療にももちろん対応し、そして入院診療、また市町村と連携した住民の健康増進とか予防医療に関わる政策については、これは自治体立の診療所が多い状況ですので、もうかなり深く入っている。予防接種あるいは健康増進の住民活動、こういったものも支援してございます。
一方、都市部においては、周辺医療機関がたくさんございますので、地域ニーズに応じて少しめり張りをつけながら様々な診療を提供しています。内視鏡を重点的にやっているところもあれば、乳幼児健診、子育て支援なんかに力を入れるところもございますし、産業医活動、メンタルヘルス等々、地域が必要だなと思われるものをしっかり提供する家庭医療。ただ、内容は、基本的には包括的にコモンディジーズというのは変わりません。ポイントは、都市部では在宅医療というものをかなり積極的に提供しておりまして、開業医の先生方と協力体制をしっかり築いて、面としてプライマリ・ケア機能を担うということで、診診連携等も時間外の中で行いながら、地域医療の充実・発展に貢献しているわけでございます。
こういった診療所の活動を我々メインで展開してきたわけでございますけれども、病院でもやはり総合診療医が必要だという声が北海道の中でも非常に強くなってきまして、ぜひここにも取り組みたいということで実践してまいりました。
では、この総合診療専門医、国が定義した専門医でございますが、こちらのコアコンピテンシーの中に病院での総合診療の役割はあるんだろうか、疑問に思われる部分もあるかもしれません。ただ、私たちはあると思っています。
見ていただくと、この包括的統合アプローチというところには、未分化で多様かつ複雑な健康問題への対応、効率よく的確な臨床推論、これは病棟の総合診療の中でも非常に重要な能力です。そして、連携をしていくということもうたわれています。地域志向のアプローチを行っていくということも入っていますので、こういったコンピテンシーの中にも幾つか既に病棟での総合診療医の役割は書き込まれていると考えているんですね。見ていただくと、診療の場の多様性のところにもちゃんと病棟医療が入っているわけでございます。
整理しますと、病棟における総合診療医の役割というのは、当該地域医療機関において入院頻度の高い疾患あるいは健康問題の診断と治療がきちんとできる。そして外来・在宅など他のセッティングとの切れ目のない連携のもとで、リハビリテーション、長期入院患者さんの診療、術前術後の病棟患者さんの管理を含む必要な入院ケアが提供できる。そして、併存疾患の多い患者さんへの主治医機能を果たすことができる。また、心理社会的複雑事例への対応とマネジメントができる。地域連携を活かして退院支援ができる。終末期患者への病棟医療を適切に提供できるということで、非常に多くの役割を私たちは果たせるんじゃないかなと考えていました。
そんな中で、こういった理念を実際に行動に活かすということで、今回帯広の協会病院に総合診療科を新設しようということになったわけでございます。
この背景には、総合診療専門医を養成する際に、病院での教育が不可欠であるという点、これは非常に大きいポイントでした。また、地域枠制度という形で、北海道の中でも地域枠の学生さんがたくさんいますが、地域枠の方が在籍できる地域、札幌、旭川は難しいわけでございますが、帯広は可能ということもございまして、その地域枠の方を受け入れていく場としても帯広というのは適切だったということがございます。
帯広協会病院につきましては、非常に歴史のある病院でございます。いわゆる公的病院という位置づけになる場です。病床数は300床ございますが、その中に地域包括ケア病棟が48床あるという病院です。こちらはもちろん急性期医療も提供していますので、非常に重い方もいらっしゃる。ただ、その一方で、いわゆるコモンディジーズの入院も少なくはないということで、肺炎、単純骨折といった方もいらっしゃるわけですね。あるいはリハビリ、療養の機能も多少ある。この病院の中では、おおよそこういったところが特に大きく求められているのかなということでございます。
そして、受入機能というものを整理しますと、入院経路によっては、予定入院、緊急入院の方もいたり、あるいはその中でも緊急時、急性期からという方もいらっしゃる。生活支援が必要な方なのかそうではない方なのかということがあって、これは仲井先生のほうでこういった形で整理いただいているわけでございますけれども、総合診療科の役割は、やはりこういった中でこのサブアキュート、ポストアキュートのところにちょっとかかるような形で診ていくところ。これは非常に総合的な診療能力が実際求められていきますし、そこからさらにやはり生活支援が非常に必要な方、生活支援が多いと書いたところの人たちについては、介護との連携という意味では非常に我々大きな貢献ができるのではないかなと考えているわけです。
我々総合診療の立ち位置で見ると、常に生物心理社会モデルということで、人間を基盤としながら、もちろん臓器の診療を行いますけれども、その背景にある家族、地域、こういったものもちょっと俯瞰して見るのが我々の一つの売りでございます。ですので、深く診ていく部分だけではなくて、幅広く診ていくというところになるわけです。
総合診療科の位置づけということで考えますと、たくさんの科が病院にあっても、その中でも軽症でよくある疾患については、科を問わず、コモンディジーズに我々対応させていただきます。そうすることによって、より重症で希少性の高い疾患について各科の先生方が時間をかけてしっかり外来診療、入院診療をしていただけると、いわゆる専門医の専門性が遺憾なく発揮できるのではないかなと考えているわけでございます。つまり、本来持っている病院の機能をそれぞれ遺憾なく発揮するために、総合診療科は役に立つと考えています。
実際にこの帯広協会病院総合診療科が現在どういう仕事をしているかということを整理してまとめましたけれども、外来診療もしっかり担っています。ただ、主としてこれは初診外来の方。病院のほうに初診で来る方もやはりおられますので、どういった健康問題があるかということで、まず区分けされない手前の段階の幅広い訴えにまず対応するということを我々やらせていただいています。そして入院診療は、急性期病棟も一部やりつつ、地域包括ケア病棟のほうでも力を発揮しながら、入院の患者さんを診ているということです。
院内の科を超えた包括的な課題については、チーム活動をかなり頑張っています。認知症ケアチーム、そして院内感染対策チーム、また抗菌薬の適正使用推進チームなど、こういったところでチームのリーダーとして総合診療科は活躍しています。救急診療についても、救急医療対策委員会などの運営も含めて力を発揮していますし、病院の中で健診、予防接種をある程度担っていますが、そこも総合診療科の役割。また、十勝地域の医師不足に困っている地域への診療支援を幾つかの町に行っているということもございます。
また、先ほどから教育ということはずっと言い続けていますけれども、この病院の中でも、総合診療専門研修はもちろんですが、初期臨床研修、医学生の実習等も総合診療科が全面的に担っているということでございます。
入院診療については、やはり肺炎、糖尿病、尿路感染症、脱水など、高齢者に多いコモンな健康問題、よくある健康問題が上がっています。一部、悪性腫瘍の方とか不明熱の方とかもおられますけれども、やはり高齢者のよくある課題を中心に入院を引き受けさせていただいているということ。また、地域包括ケア病棟は、協会病院さんのほうは整形の術後の方が比較的多いというのがあるので整形外科の方が一番多いんですが、2番目の数、入院患者さんを総合診療科は引き受けているということでございます。
これはちょっと古いデータではございますけれども、現在もトレンドはあまり変わらないということですので、着々とこの病院の中での総合診療の位置づけというものを強化していることをおわかりいただけるのではないかなと思います。
ただ、そういった中でも、今回のテーマである多職種連携ということについては、病院の中でも当然大変重要なテーマということで、我々展開してございます。家庭医と書きましたけれども、特に地域の中では、看護、リハビリ、ケアマネジャー、薬剤師、栄養士などなど、こういった方との連携が当たり前のように行われているということでございます。
今回、病院の中ということではございませんけれども、診療所の中で私たちがどういった多職種連携を大切にしているかということを少し御紹介させていただこうと思います。
まず、薬剤師さんとの連携ということについては、外来の中で非常に日常的なコミュニケーション、いわゆる一般的な疾患に対する標準的な薬物的治療ということについて、今はフォーミュラリーという言葉もあったりしますが、こういったことについて話し合う場も設けていますし、日常的な処方箋に対する疑義照会、薬情交換、こういったものも定期的にやっています。また、地域によっては、症例検討会とか抄読会みたいなものをやらせていただいて、ケアの方向性の統一感というものも薬剤師さんとの間で作っていく、こういったことを心がけています。訪問診療の中でも薬剤師さんの位置づけは非常に重要になってきています。在宅患者さんに対する訪問薬剤管理指導というものも最近は非常に増えてきたなと感じています。御自宅に行って実際の内服状況を薬剤師さん自身が確認する、大変重要な役割だと私は思っています。そして、この処方薬を患者さん宅に届けると同時に、ちゃんと薬情提供、コンプライアンスの把握。副作用は大丈夫かといったことを確認していただく。大変心強いですね。こういった連携をすることによって、外来診療も訪問診療も質が上がるということを実感しています。
近隣の町村への訪問リハビリというものも展開されているということでございます。また、2011年には札幌栄町ファミリークリニックにも我々リハのセラピストを配置しました。ここは在宅医療を強化した診療所ということで、患者さんからの訪問リハビリのニーズに対応し、業務がどんどん拡大しています。利用者数に応じて現在人員を強化し、3名体制になっているということで、大変勢いがあります。訪問診療と密接に連携した訪問リハビリテーションということにかなり期待が大きく、今後もこのニーズ拡大に対応していきたいということで、ますます地域の信頼を得ている状況でございます。
最後に、栄養士さんとの連携ということをお話ししたいと思います。本輪西、室蘭のほうでは外来訪問や診療を提供していますけれども、地域の管理栄養士さんと契約をして、主に外来患者さんへの栄養指導を提供しています。年6名程度の新規患者さんを対応頂いて、主に糖尿病、高脂血症、慢性腎臓病の方が多いんですけれども、回数はかなりばらつきがございますけれども、非常にしっかりと指導いただいているということでございます。 指導の基本は、1週間の食事記録、そして食生活の調査票の作成、こういったものに基づいて食事の取り方の傾向を把握して改善を提案する、この枠組みを繰り返し行動変容に導くということでございます。
こういった形で、我々医師、看護師ではなかなかきめ細やかにできない部分まで、連携をする中で提供できている。プライマリ・ケアの中での多職種連携ということが効果的だなということを感じていただけるかと思います。
それでは、少し話戻りまして、我々総合診療の専門研修というものをやっているというお話をしましたけれども、この中で総合診療科も非常に大きな役割を果たしている。特に1年目2年目というところで、内科、小児科、救急と並んで、病院での研修というところを総合診療科で担っているわけでございます。
こういった専門研修の一翼を担うということが組織にどういう影響を与えるか、最後にそこだけちょっとお話をして今日の講演を閉じたいと思ってございます。つまり、教育を通した組織づくりということでございます。
総合診療の専門研修プログラムは、これは詳しくは今日はよろしいですけれども、3年間以上の研修期間が必要で、その中で総合診療Ⅱという、病院総合診療部門における研修が必修になってございます。少なくとも6か月以上という形になっています。
では、総合診療専門研修Ⅱとは何なのか。総合診療部門を有する病院がもちろん必要ですし、ここで一般病床を有し救急医療を提供し、臓器別ではない病棟診療を行っているかどうかというのが問われます。高齢入院患者、心理・社会・倫理的問題を含む複数の健康問題を抱える患者さんへの包括ケア。がん、非がん患者の緩和ケアと臓器別でない外来診療ができるということが求められているわけでございます。先生方の病院はいかがでしょうか。こういった機能を果たせるのであれば、実は総合診療専門研修Ⅱの役割を果たしていただける可能性が十分あるということでございます。
先ほど出しましたとおり、北海道家庭医療学センターでは4年のローテーションというのを組んでおりまして、1年目と2年目、ここが病院研修ということで総合診療の病棟での学び、総合診療の基礎を固めるという学びがございます。また、内科、小児科、救急は2年目と。3年目4年目が、それぞれ診療所で1年、地域、都市で1年ずつという形で、計4年間の研修を行うのが北海道家庭医療学センターの枠組みです。
その中では、研修経験をちゃんと記録する研修手帳というものが初期研修と同じようにありまして、ここに研修の実績を記録して、内容を定期的に把握して、そしてそれをレポートいただくと。特徴としましては、専攻医が習得すべき能力をポートフォリオという形でまとめてもらって、これを提出してもらうということを我々義務づけています。
こういったポートフォリオの学びの中で、単なる疾患の経験ではなくて、総合診療の重要な能力を評価していくことになるんですけれども、その一つが病診連携の学びということで、診療所での役割、そして病院での役割、異なるわけでございますが、紹介、逆紹介ということで流れていきます。こういった枠組みを診療所側でも学ばなければいけないですし、病院の総合診療の中でも学んでいただくということで、ここも総合診療科の中で研修する上で非常に重要な学習ポイントということで我々強調して、日々教えております。
ただ、そうはいっても、この帯広協会病院だけではなくて様々な診療所等も回っていきますので、我々が効果的に使っているのはテレビ会議システムです。こういったものを使いながらたくさんある研修の場をつなげていく。そうすると、同じ学びが4年間続けられますので、質を維持しながら、毎週1回オンラインFaMReFという講義も提供しています。家庭医療に関する知識をわかりやすく学び、そして家庭医、総合診療医のアイデンティティを維持していくということを重視してやっています。さらに、専攻医の先生方は、年に4、5回集まって家庭医療に関する研修会を実施しています。コロナ禍では、これも今全部オンラインになっています。ここでは経験事例をみんなで共有しながら、家庭医療の重要な要素についての理解を深めるという場で、いわゆるチームの絆を高める研修会でございます。こういったことを大切にしていく。
つまり、この人財育成、専門性の維持、専門職の誇りというものもありますし、将来の期待というものをやっていく中で抱ける待遇があり、職場教育があり、そして学会など専門職団体の教育がある。この専門職団体での教育はまさに総合診療専門医の学びと考えています。
人財育成にはこういった4つが非常に重要だと言われているわけでございますが、この人財育成というものを診療の場でも行っていく。そうすると、職員の皆さんがやりがいとモチベーションが高まっていきます。さらにこの組織が活性化し、発展していくと、結果的にこれは相互に密接につながってまいりますので、非常にいい人材が定着をし、診療にも貢献し、組織としては大変ありがたい流れができるということでございます。
ですので、人財育成、資格取得後の生涯教育もあります、多職種で学んでいくということも大事です。そして、最終的に学び続けることを応援する、学習する組織ということに、これが組織の形に最終的に結実すると、後戻りもしない、大変いい枠組みになるのではないかなと考えているわけでございます。
地域包括ケア病棟、もちろん地域住民の医療提供ということが大前提でございますけれども、それに加えて、ぜひこの教育の場にしていただきたいなというのが私の最後のメッセージでございます。
地域医療のシステムの要にあるのは地域包括ケア病棟だと思います。今後、住民が高齢化し、地域医療構想が進展すると、その役割はますます増大していくと思います。総合診療医の養成が進む中で、その活躍の場としての位置づけをしっかり確保いただいて、なおかつ教育の場としての役割を果たすことができれば、これは地域にとっても病院にとってもウィン・ウィンになると思います。どうぞ我々総合診療専門医を育てる仲間として、先生方のお力をお貸しいただけるとありがたいなと思ってございます。
以上、長々とお話をしましたけれども、私からの講演はこれで終了させていただきたいと思います。
どうも御清聴ありがとうございました。
○座長 戸田爲久
草場先生、どうもありがとうございました。
草場先生には、コロナ状況下での総合診療医、家庭医の役割の大事さ、大切さ、これから担っていきたい部分、あるいは病院での総合診療医と家庭医それぞれの役割、それから、病院あるいは外でも、在宅でも同じだと思うんですが、多職種連携としてゲートキーパー的に広い範囲でフットワーク軽く家庭医は活躍していただけるという話、あるいは今後の人材育成についてもお話を頂きました。
病院でのということにはなるかもしれませんが、総合診療医の役割は地域包括ケア病棟の役割とかなり一致した部分にもなってくるかと思いますし、病院としてはそういう総合診療のスキルを身につけたドクターに来ていただけるって非常にありがたい話かと思います。
先生、お時間もありますので、何かほかに追加でお話しされたいことがありましたらお願いします。
○草場鉄周 ありがとうございます。
今回の講演の中でも触れさせていただいたんですが、まだまだ総合診療医を目指す医師が多くないです。現在、専門研修を目指しているのが1学年200人ぐらいという状況になっていますので、9,000人のうちの200人となりますと2%程度、非常に残念な状況であります。本来的にはこの総合診療を専門とする方というのは10%あるいは20%という形で、むしろこれからの地域ニーズに合って増やしていかなきゃいけない局面になると理解しておるんですけれども、まだまだ勢いが弱い。
その理由はいろいろあるとは思うんですが、やはり大学の中の教育において総合診療ということがどれぐらい理解されて推進されているかという点も大きいとは思います。
ただ、その一方で、本当に今回参加頂いている先生方のように、地域で本当に地域医療に取り組んでおられる先生方が、ぜひ総合診療医が欲しいと。国が育てていく医者はもちろんいろんな医者がいていいわけですが、地域の中には、専門医ももちろん必要だけれども、総合診療専門医というものをより育てて、ぜひフィールドがあるので来てほしいと声を上げていただく。ニーズがあるというのが出てきますと、やっぱりこれは育成にもっともっとかじを切らなきゃいけないと、国・厚労省、あるいは日本専門医機構も真剣に捉えていくと思いますので、ぜひ地域から必要であるという声を発信いただけると私はすごくありがたいなと思っていて。
それを大局的な視点で最後お話に入れられなかったので、一言付け加えさせていただきたいと思います。
○戸田爲久 それぞれの病院が必要だと声を上げていろんなところ、国なり大学なりに伝えてというところも一つですね。
医学部の学生とか初期研修医に対する家庭医、総合専門医に伝える魅力があれば、また彼らもそちらに。先生のところは非常に魅力的でたくさん集まっていると思うんですが、ほかにもそういう魅力的なプログラムであったり、ならではの魅力があると思うんですが、そこを一言お願いします。
○草場鉄周 本当にそこが大きなポイントだと思っています。
一番のポイントは、地域で指導的な形でやっている先生が総合診療を楽しいと思っていると。総合診療というものを専門としてやることに生きがいとか充実感を持ってやっているという背中を見るだけで、医学生さん、研修医の先生方の目が全く違うなと思っています。つまり、地域、例えば僻地であったり離島とかそういう状況の中で仕方なくやっているということではなくて、それが非常に楽しいと。充実した場であり、自分の専門を発揮できる場なんだよねという姿勢でやると、見方が全く変わるんですね。
そういう意味では、やっていることを言語化できると。循環器の先生であれば、例えばこういった薬を使うとか、こういったインターベンションを行うとか、外科の先生であれば様々な手術の術式の話があったりすると思うんですが、それと同じように総合診療も言語化をしてやっていることをクリアに説明できると、これは1つの専門領域で勉強する価値があるなとわかっていただけると思うんですね。
現に地域医療をされている先生方がたくさんいらっしゃる中で、私からぜひお願いしたのは、言語化していく。実践を言葉にしてわかりやすく後輩とか第三者に伝えられるということを目指していただけると本当にうれしい。そうすると、こういったフィールドに入っていこうというハードルがどんどん下がってくるかなという感じがして、私たちの組織でもそれをかなり意識して、いろんな研修活動を提供しているという状況です。
○戸田爲久 ありがとうございます。
総合病院とかで総合診療というと、ほかの科が診たくない患者を診させられるみたいなイメージがどうしても強いというところがあって、なかなかそこに進まないというところもあるかと思います。ただ、やっぱりいろんな患者さんをたくさん診られて知識が増えるということで、それを魅力に感じて研修医が集まっている病院もあるようですので、病院の中での総合診療科の立ち位置ということも関係してくるんだろうとは思うんです。そこは病院の経営者に求められる姿勢なのかもしれないですね。
○草場鉄周 先生おっしゃるとおりで、私自身も学生時代に、京都大学に総合診療部というのが当時あって、運用されていて、そこでも実習があったんですね、医学部の5年生のときに。ただ、特に大学病院だったからだと思うんですけれども、もう一つ位置づけが見えづらかった。一体どういう役割を他科の専門の先生とシェアできるんだろうというのが見えなかったというのがあって、どちらかというと診療所ベースのほうの専門研修とか実践に入っていったんですね。
それこそ帯広協会病院の実践を見て非常に驚いて、私自身が診療しているわけではないんですけれども、そこにいる堀ドクターという主任科長が、本当に家庭医の視点で地域病院で働くことでこんなにも必要とされるんだと。決して専門の先生から何にも専門を持たないのは何なんだみたいな目で見られることもなくて、むしろ非常に大切にしていただいて、本当に専門の先生は専門のところにしっかり特化しながら価値提供して、経営的にも貢献できると。総合診療は非常に裾野広くいろんな患者さんを診ることができるので、本当にウィン・ウィンの関係ができるなというのを実感したんですね。
ですから、地域包括ケア病棟もそうですが、急性期ももちろん、本当に総合診療医をうまくチームの中に組み入れていただくと、病院の中での役割、あるいは病院そのものが非常に活性化するなというのをこの5年間ずっと見てきていますので、私も考えが本当に変わったところです。
○戸田爲久 今後、総合診療医、家庭医が増えて、在宅医療もちろん中心だと思うんですが、病院なりで、特に地域包括ケア病棟のニーズと非常にマッチしている部分があると思いますので、そこでたくさんのドクターに活躍していただけるとうれしいと思います。
最後に一言ありましたら。お時間もう少しですが。
○草場鉄周 ありがとうございます。
本当にたくさんの方に聞いていただいていて、光栄に思います。
ただ、そうはいっても、本当にまだまだ道のりは長いなと感じています。地域ニーズとか医療界としてのニーズが非常にあるにもかかわらず、人材養成というのがなかなかうまくできていないというのが日本の特徴なのかなという気がしています。いろんなものというか、検査機器であったり、ハード面は得意なんですけれども、ソフト面を養成するというのはものすごく時間がかかって、なかなか変わらないというのが日本の特徴だと私は感じているんですね。
例えば、IT業界なんかがどうしてもアメリカとか中国に非常に引けを取っているというのと構図は似ている気がしています。コンピュータはあっても、それを使いこなせる人材が少ないという状況があると思うんですね。ですから、医療においてもやはり人材養成というところにもっともっとエネルギーと仕組みづくりというのをやっぱり持ち込んでいかなきゃいけないところがあると思っています。
地域包括ケア病棟協会の先生方は、非常に現場を御存じの先生方ばかりだと思いますので、やっぱり現場から人材養成に声を上げていただく。繰り返しになりますけれども、それが一番響く声だと私は思っていますので、今後ともそういったところにお力を貸していただければと思ってございます。
本当に長時間御清聴ありがとうございました。
○戸田爲久 草場先生、いろいろとありがとうございました。
総合診療医とか家庭医の役割というのはよくわかりましたし、今後の御活躍、先生の活躍もそうですし、総合診療医、家庭医の活躍に期待したいと思います。
先生、どうもありがとうございました。
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(了)
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