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【シンポジウム1】第7回
【シンポジウム1】
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「地域包括ケア病棟のこれから(withコロナの時代に向けて)
【座長】
平林 高之(砂川市立病院 病院事業管理者)
【シンポジスト】
石川 賀代(社会医療法人 石川記念会 HITO 病院 理事長)
吉嶺 文俊(新潟県立十日町病院 院長)
戸田 爲久(第7回地域包括ケア病棟研究大会 大会長/ 社会医療法人 生長会 ベルピアノ病院 院長)
宇都宮 宏子(在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス代表)
【特別発言】
安藤 高夫(医療法人社団 永生会 理事長 / 衆議院議員)
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○平林高之
こんにちは。シンポジウム1「地域包括ケア病棟のこれから(withコロナの時代に向けて)」を開始させていただきます。
私は、座長を務めさせていただきます、砂川市立病院の平林でございます。
地域包括ケア病棟は2014年度の診療報酬改定で新設され、その役割は急性期治療を経過した患者や在宅において療養を行っている患者を受入れ、患者の在宅支援等を行う機能を有し、地域包括ケアシステムを支えると定義されています。
地域包括ケア病棟協会では、地域包括ケア病棟はポストアキュート機能、在宅と緊急受入機能、在宅と予定受入機能、在宅復帰支援機能の4つの病棟を有していると提唱しています。
仲井会長は常々、地域包括ケア病棟は最大にして最強の病棟であるとおっしゃっておられます。実際、地域包括ケアシステムの中で中心的役割を果たし、また今、コロナ禍の中、その役割も問われているところでございます。
このシンポジウムでは、5人の先生方に、それぞれのお立場から御講演をいただきます。進行としましては、前半で5人の先生方に順次御講演をいただきます。御講演終了後は、安藤先生以外の4人先生に参加していただき、ディスカッションの時間を取る予定でございます。
【講演 1 】
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急性期ケアミックス型病院の立場から
石川 賀代(社会医療法人 石川記念会 HITO 病院 理事長)
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○石川賀代
シンポジウム1、急性期ケアミックス型の立場から、HITO病院理事長の石川と申します。よろしくお願いいたします。
私どもはHITO病院を含めた3つの法人で、医療・介護・福祉の複合体を形成しており、石川ヘルスケアグループを構築しています。
当院は、愛媛の東の端、人口8万7千、高齢化率30%の四国中央市にあります。少子高齢化、人口減少に直面している地方都市です。病床数は、257床、HCU、 SCUを有する急性期ケアミックス型、新型コロナウイルス感染症重点医療機関となっています。地域包括ケア病棟は入院料2、現在、53床で運営しています。職員数570名、昨年の稼働率は、89%、平均在院日数は14.7日、自分たちの行動規範の英語の頭文字をとってHITO病院という名称となっています。私どもの行動規範は、Humanity、Interaction、Trust、Opennessとしており、それら4つの英語の頭文字をとってHITO病院という名称となっています。
2014年に地ケア病棟開設後、多職種協働、フラット型のチーム医療、メディカルスタッフが、患者支援の中で、生活の視点を身につける事に力をいれてきました。また、高齢者を支えるための、合併症予防、認知症、SST活動、リハビリ栄養、減薬にも多職種で対応してきました。多職種でのカンファレンスも、現在は遠隔でのTV会議を用いたカンファレンスとなっています。また、早期からロボットリハビリなど、テクノロジーの活用を行い、アウトカムの向上、集団リハビリ・協働リハビリにも取り組みました。
2018年からはICT活用による迅速な情報の共有、2020年からはセルケアシステムを導入し、専門医が治療に専念出来る環境づくり、総合診療医・病院総合医の育成、活用を実践し、働き方改革を見据えて対応しています。
病棟の運営に必要なケアの質と業務効率化の両立を図るため、職種間の情報共有と多職種協働がポイントだと考えます。ケアの質・アウトカム向上については、生活の場面での協働リハビリの実践、患者のリハビリの進捗、リハビリ内容の共有、腰HALの活用、在宅へのケアの継続性、専門医の隙間を埋める総合診療医による介入・支援に取り組んでいます。業務効率化については、職種間のタスクシフトや、迅速な多職種での情報共有をICT活用で行い、リアルタイムの情報の共有を努めています。これらは、今後の働き方改革を見据えた対応となっております。
2020年6月より多職種協働セルケアシステムを導入しました。病棟を区分し、各セルにセラピスト2名、看護師3から4名で配置することで小チームを作り、同一メンバーが、
患者の退院支援における同じ、目的、目標を持ち、多職種協働で質の高いケアを行う体制です。可能な限りベットサイドにいるケアの時間を多くとり、患者のゴールを共有し、最大限にアウトカムを向上させる事を目指しています。
2020年度からは、一部の介護職を除き、出勤者1人1台iPhoneを保有出来る体制となりました。そのため、業務用のSNSを活用し、統一した病棟リハビリを実施するために、セルごとに、看護師が理解しやすいように訓練内容と注意点を記載したエクセルデータを週1回更新し、現状に即したリハビリが各職種で統一して実施出来るようになっています。
また、文章では難しい、装具の装着方法や、移乗時のポジショニングなどを動画撮影することで、多職種で情報が共有出来る事により、ケアの質向上につながっています。
コロナ禍となり、退院支援にむけての担当者会議も非対面でのZoomでの開催となりました。また患者家族への指導についても面会制限のある中で、ケアの継続性が担保出来るように、Zoomを活用し、実践しています。このような対応も、コロナ前からのICT基盤があったからこそ、速やかな移行が可能でした。
後方施設への情報共有も、業務用のSNSを活用し、動画で見やすく、介護職にもわかりやすく共有することができます。嚥下機能の低下している患者さんの食事介助の情報や、施設退院後の情報のフィードバックにより、継続したケアが可能であると同時に、スタッフ教育にもつながっています。
地域包括ケア病棟における総合診療医のフロアマネジメントについては、病棟医長を、総合診療医が担い、毎朝、病棟訪問を行い、病棟の困りごとに対応しています。
「くらしを支える病棟」とチームで病棟にサブタイトルをつけていて、退院困難事例については、週1回の多職種カンファレンスを実施し、多職種での課題解決に努めています。
地ケア病棟入院患者の6割が整形疾患であり、平均年齢も75歳を超えており、脆弱な高齢者が多く、併存疾患を多く抱えた方がおられます。内科的な調整が必要なケースが多く、整形外科の医師と相談し、地域包括ケア病棟転棟後、総診へ転科可能な患者については転科し、在宅への調整や減薬を行い、適切な介入、支援が出来る事により、患者支援にもつながり、病棟スタッフの業務効率化にもつながっています。現在、地域包括ケア病棟の整形外科の患者の半数を、総合診療医が担当しています。日々の相談事は、整形の医師と総合診療科の医師がSNS上でやり取りをしており、確認をしながら迅速な情報共有を実施しています。
整形外科医師は、本来の手術や外来などの業務に専念出来る環境を整え、専門医と総合診療医が互いに協力することにより、より良い働く環境の醸成につながっているのではないかと思います。
今年、法人としては「Challenge」を掲げていますが、地域包括ケア病棟チームは「つながるケア、身体拘束ゼロ」を目指しています。また、院内のクラウド上のダッシュボードで、自らの主要指標を月内に確認しながら、スタッフ、チームが主体的に迅速に課題解決に取り組むための意識改革を目指しています。
コロナ禍ではありましたが、2020年度、地ケア病棟においては、大きな実績の変化はなく、ある程度の数字を維持することが出来ました。また、診療報酬改定後も単価は上昇傾向にあります。加算の実績についても、比較的順調に推移し、特に減薬の取り組みのTAPPチームや、認知症ケア・サポートチームの横断的な活用により成果をあげています。
働き方改革については、働き方改革推進室を私直轄の部署として昨年4月に立ち上げ、部署内の課題を室長である看護部長がヒアリングを行い、解決する体制をつくり実践しています。これにより、時間外勤務は対前年比で63.8%減少しています。今後もさらなるケアの質向上と、効率化の両輪を進めていきたいと思っています。
地ケア病棟は、高齢者の在宅復帰を支え、様々な機能を持つ懐の深い病棟です。多職種協働のチーム医療を実践出来、在宅の視点を持つスタッフの育成にもつながります。また、今回お示ししたようなICT活用により、多職種で、時間と場所を選ばずに、迅速な情報共有が実現し、医療と介護連携が進みつつあります。
今後の働き方改革を見据えて、総合診療医の活躍や、テクノロジーを駆使したケアの質の向上、業務の効率化を目指して、これからもチームで様々な課題に取り組んでいきたいと思います。
ご視聴、ありがとうございました。
【講演 2】
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地域のニーズと将来を見越した地域包括ケア病棟の機能強化に向けて
吉嶺 文俊(新潟県立十日町病院 院長)
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○吉嶺文俊
皆様、おはようございます。
このたび、このような貴重な発表の場を与えていただきました戸田爲久大会長及び仲井培雄会長に深く感謝申し上げます。
今回、私は、スライド左上にありますように、急性期ケアミックス型中規模公立病院の一つの実践報告として発表させていただきます。
演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などはございません。
皆様、新潟県を御存じでしょうか。新幹線と高速道路と国際港、国際空港を有し、佐渡島から豪雪中山間地まで多様な地域を抱え、明治初期には日本一人口の多い県でした。政令都市の県都でもある新潟市には、県内唯一の医師養成機関である新潟大学があります。しかし、当県は慢性的な医師不足に悩まされており、医師偏在指数は全国最下位の第47位です。
新潟県はお米とお酒が有名ですが、天然ガスと石油生産量が多いこと、虫歯が少ないこと、離婚率が低いことなど、意外と知られていない日本一が存在します。
海岸線は331kmと長く、例えば新潟県の地図を折り曲げると琵琶湖に届いてしまいます。
新潟県の平均寿命は、男性が24位ですが、女性は11位と、全国平均を超えています。新潟県の健康寿命は男女とも成績優秀で、いずれも全国平均を超えています。
令和2年度の厚生労働省医療費マップによりますと、新潟県の地域差指数、すなわち1人当たりの年齢調整後医療費は第47位であり、実は過去5年間においても当県は日本一低いということがわかりました。すなわち、少ない医療費で適切な医療を受けながら、天寿を全うしている県民が多いと言えるのではないでしょうか。
当院の御紹介をいたします。
当院ホームページのトップ画面右下に最近のインタビュー記事がありますので、御覧ください。さらに、病院紹介ビデオを新潟県公式チャンネルにアップしています。十日町病院ユーチューブで検索し、「~命の尊厳・信頼と安心の病院を目指して~県立十日町病院が新たな一歩を踏み出します」というタイトルをチェックしてみてください。
当院は、越後妻有、すなわち新潟県十日町市、津南町及び長野県栄村の一部から成る広大な医療圏で、大阪市の3倍を超える面積です。対象人口は約6万人です。なお、当地域には高速道路と新幹線は通っておらず、圏域全体が過疎地に該当し、無医地区への巡回診療も行っています。
平成28年に十日町地域救急ステーションが院内に合築され、ドクターカーの運用やERにおける救急救命士との緊密な連携が可能となりました。DMATという言葉が誕生する以前から、年間約2,000人の救急車を受け入れている急性期病院です。過去3年間の救急車受入件数も今までと同様であり、昨年度のコロナ禍の影響は認められませんでした。
十日町圏域は新潟県の中で最も医師が少ない地域であり、人口当たりの医師数は161です。26のクリニックのうち5施設が強化型在宅支援診療所です。圏域内の3病院は全て自治体立ですが、十日町市は病院を持っておりません。なお、療養病床と精神科病床は民間病院の閉院等によりなくなりました。また、訪問看護など在宅療養支援に関わる専門職スタッフも慢性的に不足しております。
新潟県は7つの地域医療構想区域を設定しており、赤丸のところが当院が所属する魚沼二次医療圏です。
新潟県は、以前より回復期病床が少ない状況が続いております。魚沼医療圏では2015年以前より医療再編が進められており、県立小出病院と六日町病院という2つの病院が合併統合し、454床の魚沼基幹病院が誕生しています。しかし、十日町市内には当院と松代病院という2つの県立病院がいまだ存在しているなど、病院再編は遅々として進んでおらず、複数医療機関が公立・公的の再検証病院に指定される事態となっております。
ちなみに、魚沼医療圏は、スライド左側の信濃川筋と右側の魚野川筋という2つの区域から成り立っています。近年、広域自動車道のトンネルが開通し、車で30分程度の行き来が可能となりましたが、魚沼丘陵という雪深い峠が両地域を隔てており、住民さんは川筋沿いに移動する傾向があるようです。
スライドに、2020年の病床機能報告をお示しします。
信濃川筋である越後妻有、十日町地域を赤枠で囲みました。魚沼圏域全体の慢性期病床は150であり、全て魚野川筋に存在しています。すなわち、十日町圏域には慢性期病床が全くございません。
このような状況の中、当院は令和2年9月11日に旧病棟から新病棟に移転しました。平成16年の中越大震災の経験から、移転計画当初より災害時に強い免震構造が採用されました。新病棟への移転により、6階建てから7階建てへ、エレベータのスピードアップ、大部屋は6床部屋から4床部屋へ、そして個室は大幅に増えました。計画当初は7病棟体制を予定しておりましたが、諸般の事情で5病棟のままになりました。また、急性期4病棟及び回復期1病棟から急性期3、回復期2を予定していましたが、コロナ禍等の影響もあり、現時点においても移転前と同じ体制を続けております。
新病棟移転で見直しを行わなかったことは、病床数、県立県営という運営基盤、そして職員と院長です。
スライドには、以前、他の県立病院と町立診療所に関わっていた頃に日本医大教授退官後に診療所長に赴任された小川龍先生の提言をお示しいたします。県立病院、町立診療所のままでは、医療の目的が明瞭とならない。現場の長に権限が委譲されないので指導力が発揮できない。必要な分野に医療資源を強力配分できない、人材の登用が難しい。病院経営のプロが育たない。職員共通の目標が描きがたい、経営が悪ければ病院が潰れるという意識がない。セクショナリズムが発生しやすい。働いたものが報われないという、公務員として身の引き締まる厳しい内容でした。
そこで、今回の移転に際して、ハード面だけではなく、ソフト面での改革をいろいろと試みています。例えば、患者サポートセンターの立ち上げ、リハビリテーション体制の拡充、ベッドコントロール管理方法の見直し、各診療科の医師に対する継続的なヒアリングなど、外部のコンサルタントの支援のもとで、職員と私自身の意識改革を行っております。
例えば、スライドのような医師紹介パンフレットを作成し、新病院移転前からセンター長とスタッフが周辺の医療機関まで出向いて回り、患者獲得に努めております。外科系の先生方のへ繰り返す面談により、手術料、手術単価などのアップを図っております。看護師との面談によるベッドコントロールのルールに関しては、簡単なオリジナルシートを用いた情報共有の仕組みを取り入れてみました。さらに、医事や管理部への提言により、看護補助者配置加算の算定が可能となっております。それらの介入により、地域包括ケア病棟1日当たりの患者数は平均43.7人から48.5人へ、すなわち、1日平均4.8人の増加を認めました。急性期病棟も含めた病院全体の入院患者数においても、195.1から196.4へ、すなわち1日平均1.3人と、わずかながらですが増加しました。コロナ禍を考えると、上出来ではないかと考えております。
新潟県では、地域で高度な医療を支える柱となる病院、地域包括ケアシステムを支える医療機関、救急拠点型、地域密着型という3つの役割分担を提言しております。当院はこの赤い矢印部分に相当すると思われ、今後の議論が必要と考えます。
当院の方向性を定める上で、十日町市内にあるもう一つの県立松代病院の動向は重要です。松代病院は現在在宅療養支援病院であり、軽度・急性期と訪問診療、訪問看護を推進していますが、再検証病院に指定されたこともあり、地元住民や行政を巻き込んでの議論を重ねております。
そういう状況下で、十日町市が令和元年10月に創設した十日町いきいきエイジング講座の役割が重要です。
菖蒲川教授の提言では、十日町市における出向くケアと医療の仕組みづくりが最大のミッションです。その一環として、近日中に十日町市直営による訪問看護ステーションの立ち上げが予定されております。この大きな動きに合わせながら、地域包括ケア病棟を最大限活用し、越後妻有の中核病院としての使命を果たしていきたいと考えております。しっかりと救急医療をこなし、しなやかに地域包括ケアを支える、これが当院のスローガンです。
御清聴、ありがとうございました。
【講演 3】
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ポストアキュート連携型病院の立場から
戸田 爲久(第7回地域包括ケア病棟研究大会 大会長/ 社会医療法人 生長会 ベルピアノ病院 院長)
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○戸田爲久
(ウィズコロナの時代に向けて)ポストアキュート連携型病院の現状と今後の展望についてお話をさせていただきます。
まず、現在の当院の立ち位置と周辺環境です。
当院は、地域包括ケア病棟以外に、回復期リハビリテーション病棟と医療療養病棟のみの病院でありまして、一般病床を持たないということで、人員的にも設備的にも感染症を受け入れるだけの余裕がなかなかないという現状であります。また、周辺には急性期病院、特に公立病院がありまして、コロナの受け入れを積極的に行っております関係上、当院はポストアキュート、ポストコロナに重点を置いた対応という形になります。
大阪は急性期病床が逼迫、特に第4波で逼迫した状態となりまして、ポストコロナの受入要請が何度もございました。そのために、大阪府からポストコロナに対する協力金も今年度からスタートしているという現状であります。
本日の内容ですが、大阪府での感染症の推移、それから当院での感染対策、感染症が起こった当院での経過、ポストコロナの受入れ、今後の退院支援というところでお話をさせていただきます。
まず、大阪府でのコロナの現状です。
周期的に見まして、今回、4月から第4波ということで、ほとんどが英国型と言われていますが大きく感染者数が増えて、全国で1番という状況になっております。この中で、急性期病院の受入病床、軽症・中等症含めて受入病床が逼迫して、足りないという状態まで陥っていたということであります。
当院の感染対策としては、患者に対する感染対策、面会制限であったり患者のマスク着用、あるいは食堂での集まっての食事摂取を制限するという対策を取っております。また、職員等も当然感染対策が必要となっております。
面会についてですが、世間の患者数の推移、もしくは緊急事態宣言の動向を見ながら、面会制限解除、あるいは面会制限、面会禁止という3段階で対応しておりました。現状も面会禁止のまま経過しておる状態であります。幸い、患者数は緊急事態宣言とともに減少しておりますが、まだ十分な減少がないということで、いまだに面会禁止のままの状態で経過しております。
職員の感染防御策ですが、マニュアルを作成しまして、それを周知する。マスク着用等々、体調管理は一緒ですが、症状があれば休ませる、必要であれば核酸検出法にて検査を行うという体制をとっております。また、リハビリセラピストであるとか看護師、介護士は患者との距離が近いあるいは接触時間が長いということで、接触時、マスクの上からフェイスシールドをした上で対応するという対策を取っております。エプロン着用は現在、吸引のとき以外は義務づけておりません。また、職員の食事摂取の際、職員同士の感染ということも考えて、間を開けて会話をせずに食事を摂取するように。そのためにスペースも必要となるので、会議室等を昼食場所として提供して、距離をとって静かに食事を取ってもらうという対策を取っておりますし、職員希望者には全員ワクチンを接種することができております。
当院での感染の経過です。
当院で感染が起こった場合、職員に感染した場合は、当然職員を休ませるという形になりますし、発症前日からの接触者の把握。職員、患者も含めて接触者を把握し、その中で接触状況を確認して濃厚接触か否か判断をする。必要時はPCR検査をして陽性・陰性を判断するという形にしております。幸い、職員から患者、あるいは職員から職員への接触はほとんどなかった。濃厚接触とされる場合はありましたが、陽性者は出ずに済みました。
患者が1病棟で2名発生することになりました。2名発生した時点で、大阪府のコロナフォローアップセンターというところに急性期一般病院への転院調整を行いましたが、結果的に急性期の病床が空かないということで、去年の段階だったので病床数はまだ余裕があったんですが、やはり受入れは困難ということで、自院で個室隔離の上、経過観察をしてほしいという依頼でした。
当該病棟全員の検査、感染経路確認のため全員のPCR検査を施行し、結果としては全員陰性であったことから、感染経路不明と判断しております。2名のうち1名は呼吸状態が悪化し酸素吸入が必要となったため、何とか受入病院を見つけてくれて転院となっております。
隔離した個室内は、レッドゾーンとして十分な感染対策をした上で職員は出入りをするということにしましたし、病棟内、廊下も含めてイエローゾーンということで、決して100%安全ではないという認識のもと感染対策を講じております。したがいまして、他病棟への患者、職員の移動は禁止して制約しております。物品の出入りに対しても十分な制約をした上で、消毒をして対応するという形にしております。
当該病棟の入退院は制限し、ストップしておりましたが、どうしても期日とかいろんなことで退院という場合には、PCR検査をして感染していないことを確認した患者を退院としております。
このような対策を通じて2週間経過を観察し、新たな陽性者の発生がないということが確認できたため、感染隔離は解除となっております。
このような結果から、当院での陽性患者の受入れ対応は非常に難しいという判断をいたしまして、要請はありましたが、受入れはお断りするという形になっております。
ただし、ポストコロナ、治療後の患者さんの受入れは積極的に行うという方針で運用しております。急性期病院での治療が終了し、国が定めた退院基準を満たしている患者であれば受け入れますという返事をしております。転院後の感染隔離としては行わず、そのまま一般病室で、大部屋で受け入れておりますし、PCR検査をわざわざすることもないですし、急性期で陰性を確認しないと取らないということもしておりません。結果として、合併疾患に対するリハビリを行って家へ帰るというのが前提での引受けであり、長期療養としては現在はお引き受けしておりません。
誰がコロナの感染症だったかということがほかの患者さんに知れると、やはり患者さんにとってよくない話になる可能性もあるということで、職員にはその辺の情報管理は十分徹底するように指示しておりました。
実際、2020年5月、去年の5月から今年の6月20日まで、1年ちょっとの間に27名の患者を受け入れております。男性17名、女性10名、平均年齢77.4歳です。最高齢は95歳でした。合併疾患のためのリハビリが必要な患者さんは5名です。脳血管疾患で入院した時点で陽性と判断された、あるいは運動器疾患で入院中に感染したという患者さんが約5名おられました。人工呼吸管理を受けていた患者が12名です。患者さんは、陽性発覚から入院までの期間が約6日です。人工呼吸管理を受けた期間は平均10.8日ということです。急性期病院での入院期間は平均29.8日、約1か月です。最短10日、長い方は149日になります。いろんな合併症を起こして、そのためにその治療に難渋し、結果的に入院期間が約5か月に至ったという患者さんであります。
当院の受入病棟ですが、地域包括ケア病棟で12名、回復期リハビリテーション病棟で8名、残り7名については医療療養病床のほうで受入れをしております。患者さんの状態を確認して、病棟科長と相談の上、入院受入病床を決定しております。
入院時酸素吸入が必要であった患者が4名、経口摂食できなくて輸液あるいは経管栄養であった患者は4名です。入院期間は平均38.1日、最長129日という形になっております。
転帰先としては、自宅退院が17名、施設へ転帰したのが2名、急性期病院に戻ったのが3名という形で、残り5名は現在も入院中です。
受入患者数の推移ですが、急性期の陽性患者数の波とほぼ一致した形で、約半月から1か月遅れで受入れ要請が来て、受け入れているところであります。
それぞれの患者さんの入院期間等をグラフにしたものです。青が当院での入院期間、赤が急性期での入院期間。
3名を除いて60日以内に退院できていますので、大部分の患者は地域包括ケア病棟でも対応可能であったとは推測できますが、入院した時点で全てを判断することが難しいため、それぞれの患者さんに応じた病棟での受入れとなっております。入院期間に関して、急性期での入院期間であるとか人工呼吸管理をしていたかどうかということと当院での入院期間では必ずしも相関がないということから、なかなか当院での入院期間の予測は困難と考えております。
事例ですが、78歳の女性です。11月2日同居の夫が発熱して、翌々日にコロナ陽性と判断されています。同日、本人も陽性と判明しました。10日後に呼吸状態が悪化し入院となっております。その2日後気管内挿管され、ステロイド等の治療を受けて、10日後に抜管し、ステロイド中止。リハビリ目的に、12月18日当院に転院しております。廃用が著しかったということと嚥下障害も結構あったことから、回復期リハビリテーション病棟での受入れで対応しております。
入院後の経過ですが、入院時、下肢筋力が5分の3から4、経管流動食を注入して、咽頭痛のためなかなか摂食は進まないという状態でありました。FIMが34でした。当初、疲労感が強くリハビリが進まず、69日目にやっと3食経口摂食に移行しましたが、なかなか摂取量が安定しない。回復期ではしっかり経口摂取ができることを中心にリハビリを行い、その後のリハビリ継続と在宅復帰支援ということで、90日目に地域包括ケア病棟に転棟となっております。この時点でFIMは87でした。4月26日、129日目に自宅退院となっております。FIMがその時点で103まで改善いたしました。自宅では家事も自分でできるようになって、御夫婦で過ごしていると聞いております。このような長い患者さんもいるわけですが、その状態に応じて退院支援を行っていきたいと考えております。
コロナにおける退院支援の問題点と経過ですが、入院調整における問題点としては、入院前の本人の面談が困難なため状況が把握しにくい。伝え聞きであるために、以前は御本人に面談して状況を見ていたんですが、それが困難なため、受入病床に少し齟齬が生じることがあるというのが1つ問題点です。
また、家族への病院の説明であるとか、どういう病院である、どういうことをしていくんだということの説明も電話になるために、やはり家族さんの理解状態を把握することも少し困難になります。来てから、こんなはずじゃなかったという部分も多少出てくる。ホームページで各部署の写真とかを載せながら、具体的にイメージしやすい対策はとっておりますが、まだまだ解決すべきところはあるということです。
退院支援における問題点としては、やはり家族が入院中に面会できないため、患者さんの状態をなかなか家族が理解できないということです。歩けますよと言っても、そうですかねと。転院したときには歩けなかったし、とてもそんな状態とは思えないということで、御家族に退院できる状況を説明しても理解が難しい部分があるということですね。退院前の家屋調査等も行っていたんですが、これもやはりコロナの状況で多人数が集まって行くことが困難となりましたので、おうちの状況の把握も難しい。あるいは、退院に当たっていろんな介護系の施設も含めて調整していくんですが、その中で連携することがちょっと困難になっていくというところになります。
解決策として、必要時家族に状態を把握してもらわないと退院が進みませんので、最低限の人数でリハビリをやっているところを見てもらって何とか家族に理解してもらうというところ。あるいは、家屋調査とか退院前カンファレンスは広い部屋で、なるべく少人数で短時間でカンファレンスをして状況を確認して退院支援していくという対策をとっておりますし、ITを利用したリモート面会等もするようにしていますが、動作の状態までというのは今後の課題になるかと思います。患者の状態について問い合わせに対応する、あるいはそれぞれ連絡してお知らせするという対策も取っておりますが、この部分もこれからの課題になるかとは思います。
まとめといたしましては、今後もコロナの感染がなくなるわけでなく、第5波、第6波が起こることは十分予想されます。今後も検査体制あるいは感染対策を整えて、当院の機能を十分踏まえた上で地域に対する役割を果たしていく必要があると考えています。人工呼吸管理の患者も多くなりますし、気切等の患者も多くなっているとは聞いています。より医療ニーズの高い患者の受入れや、面会制限が必要な状態も続くと思います。この中でどのように退院支援していくかというところで、まだまだ解決すべき問題点はあると思いますが、コロナ患者におうちへ帰っていただくための支援を今後も続けていきたいと思います。
御清聴ありがとうございました。
【講演4】
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生活・暮らしの継続(aging in place)を目指して
~ケーススタディから見えてきた匠の技を普遍化する~
宇都宮 宏子(在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス代表)
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○宇都宮宏子
地域包括ケア病棟のこれから、シンポジウム1、私からは入退院支援についてお話をさせていただきたいと思います。
開示すべきCOIはございません。
病院での退院支援を経験して、2012年に独立起業しました。日本中の病院や地域に出向いていって、病院から在宅への移行支援、そして病院と地域の連携について、皆さんと一緒に研修を続けてきました。
昨年4月、コロナ禍で研修は全て延期・中止になりました。これまで大切にしてきた、おうちへ帰ろう、暮らしの場へ帰ろう、最期まで自分らしくを伴走しよう、自分の価値そのものが否定されているように感じることもありました。5月頃からリモートで研修をしたり病院ナースとの交流会をしていく中で、患者さんに寄り添ってきた看護ができないこと、退院支援が必要な患者さんにはどうしても医師からの説明がつらいニュースになります。電話だけで行われる説明、家族が面会に来られない、対面のカンファレンスができない、病棟での多職種カンファレンスにも制限が出ている地域や病院がありました。それでも、これまで培ってきた地域連携のネットワークの成果で、帰ってきていいよ、在宅でちゃんと手技指導するからと言ってくれる地域と病院との関係がありました。丁寧な電話連絡をしたり、感染対策をしての必要な退院時共同指導を実践しているところもありました。
退院支援看護師の研修を全国でやっていますが、講義やグループワークだけではなく、訪問看護の実習を体験し、2、3か月たった後で、実際に退院支援の事例展開したものを皆で持ち寄るということをやっています。
若い看護師さんでした。末期のがん患者さんで、家族に会えない、このまま一人で逝くのは嫌だと看護師に声を出したそうです。研修での学びを実践しようと、看護師は訪問看護師に相談してみました。新規の依頼です。何とかこの人を帰したいんですという看護師の思いに、訪問看護師はちゃんと応えてくれました。病状は、どんな症状緩和が必要、ADLは、これからどんなことが起こる、自宅の環境は、家族はどんなふうに思っている、いっぱい質問されました。それでも、その実践を通して看護師は最低限病院がやっておくこと、整えること、在宅支援者と共有しておくことが何なのかを教えてもらうことができました。
退院の日、翌日に、自宅で在宅チームが集まってサービス担当者会議をしてくれました。そこに病棟ナースは退院後訪問指導という形で同席することができました。病院で見ていた末期がんの患者の顔ではない、家の家長として、生活者の姿がそこにありました。「あんたのおかげで帰れた。ありがとな」の声を胸に、今も退院支援に頑張っています。
ケーススタディ、終了した実践支援を皆で振り返る方法です。ケアマネを対象にした看取り研修をやっています。そこではいろいろ調整中だったのに、コロナが感染拡大したことで、退院前カンファレンスも退院前自宅訪問も全部ストップしてしまったケースがありました。ケアマネはどうすることもできずに諦めようとしていたのですが、御家族から電話があって、このままだとあの人帰られなくなるから何とかして。ケアマネジャーは家族の声に背中を押されて、地域の診療所のドクターに相談をして、訪問看護に連絡をして、在宅側が中心になって移行支援をすることができました。
地域包括ケア病棟が関与したケーススタディもありました。同じ病院の急性期病棟から転棟してくるのですが、急性期からの情報はあまり十分なものではなかったようです。ただ、地域包括ケア病棟では転棟して来た日にリハやケアチームも入れた多職種カンファをしています。そのときに、急性期病院でのADLをそのまま受け入れるのではなく、入院前に関わっていたケアマネジャーからの情報をみんなで読み取って、ここまで動けていた人なんだね、リハビリの目標はどこに持っていこうかということを話し合いました。そして、何より大きかったのは、御本人にどうしたい、どんな生活を送りたい、真ん中に本人を持ってきたのです。座りたい、自分で便所に行きたい、風呂入りたい、本人の目標を真ん中において暮らしを組み立てるプロのチームとして支援していました。
こういうふうな形でホワイトボードに書いて事例展開をしていきます。横線1本引っ張って時間軸、何があったかを書き出していきます。そして、そのときに病棟外来の医療者、地域連携室はどんなことをした、どのタイミングで地域支援者は動いてくれた、そのとき患者さん、家族のどんな言葉で私たちは動いたのかな。振り返ることで大事なことに気づきます。そして、課題も見えてきます。新たなに取り組む解決策も見えてきます。
リフレクションするときに、まずこのケースの振り返る目的を確認します。再入院が多いな、何がいけなかったんだろう、在宅チームと一緒に振り返ります。転院相談のときに移行支援が始まっていることが見えてきます。そんな事例をみんなで共有していこう、目的を確認します。
プロセスをリフレクションするときは、事実として起きていること、病気の経過や患者・家族の言葉、行動、ケアチーム・医療者の言葉、行動、客観的な事実と合わせて心理的な事実を共有します。これはそのときどんなふうに感じたの、ファシリテーターが声をかけます。感情、心模様です。反省ではなくて、自分の行為や心理を内省するのです。こんなふうに思ったのかな、こういう気持ちがバリアになっているのかな、みんなで静かに耳を傾けリフレクションしていきます。なぜそういうことが起こってしまうんだろうね、行為の関係づけや意味づけを共有します。そして、そこから見えてきた導かれた知見、こういうときはこんなふうにすることが大事だねとか、こういうふうに思ってしまいがちだよね、もう一歩チームで話し合っていこう、そういったことを共有するのです。
振り返り検討会のときの大事なポイントは、何を語っても許される環境であるということ、そしてポジティブアプローチです。解決に焦点を当てるのです。頑張っていることもたくさんあります。続けたいことは何、変えたいことはどんなこと、こんなふうにしていきたいね、それをみんなで共有して前に進むのです。
地域包括ケア病棟が関わったケーススタディ、大事なことがいっぱい見えてきました。ポストアキュート、経路によって違うなということもありました。実は、入院決定時から暮らしの再構築が始まっています。同じ病院内の急性期からの転棟の場合、まだまだ丸投げであったり、転棟基準が明確になっていないこともあります。60日では帰せません、不安いっぱいで、地域包括ケア病棟に異動になった看護師もいました。
これは最初の頃ですが、がん治療をしている病院でいよいよ治療困難になってきたとき、急性期病棟にいたがん患者が帰りたいなと一言言った途端に、地域包括ケア病棟に移動になって、そこで急いで介護保険の申請をしたり訪問調査が入ったりして、患者さんの病態も不安定です。当然急性期病棟へ移動になり、間に合わず亡くなるというつらい体験をしたこともありました。
他院からの急性期の場合は、転院相談があったときに、MSWが中心に丁寧な情報共有をしていました。患者・家族の状況を確認しながら、必要に応じて急性期病棟へ患者さんに会いに行っていました。MSWと病棟ナースが一緒に行ったり、患者さんの状況によってはリハスタッフが行くこともありました。当然本人、家族にも会います。ここで転院の目的を共有するのです。転院してこういうことを頑張っておうちに帰ろうね、暮らしの場に帰ろうねということを患者・家族と共有するのです。転院してから早期に自宅訪問することもあります。在宅チームが自宅に集まってくれてカンファレンスをします。
在宅療養からの入院、サブアキュートや予定入院、在宅復帰支援がありますが、地域側がどんなニーズを持っているのか、医療ニーズの高いレスパイト入院もあります。でも、看取りをサポートしている地域包括ケア病棟も増えてきました。緩和ケアの認定ナースを地域包括ケア病棟に配置して、がん以外の、呼吸不全や心不全の症状緩和にも力を入れている病棟もありました。
認知症初期集中支援に取り組んでいる病院では、地域包括ケア病棟を認知症患者のために再編していました。デイケアルームも作りながら、地域にいる認知症を生きる人が時々入院しながら暮らしの再構築ができるように取り組んでいる病棟の姿も見えてきました。
抄録に在宅移行支援の3段階のプロセスを書いています。私は、退院支援のプロセスの中で、2つの視点でマネジメントすることをいつも勧めています。病状・病態から考えられる医療看護上の視点、そしてADL、IADLから考えられる生活ケア上の視点です。
病状・病態から考えられる視点では、今の病態だけではなく、これからどんな見通しがあるのか、これから先どんな変化が起こり得るのか、ここにはアドバンスケアプランニングの場面も入ってきます。
高齢者は一度の入退院では終わりません。自宅や、時に高齢者住まいから何度も入退院を繰り返すこともあります。退院支援が必要な患者さんは、aging in placeをかなえるための分岐点にあると私は思っています。入院医療を受けたけれども治せない病気や老いによる変化を抱えながら、これからをどう生きるか、人生の再構築を支援する分岐点です。ADL・IADL低下、リハチームが中心になりながら、患者とともに暮らし方を再構築します。そして、病気の進行や老いによる変化もあります。エンド・オブ・ライフ期に向かっている人もいます。侵襲性の高い医療は、その人が帰りたい場所に帰ることを阻むこともあります。本人を真ん中に置きながら、本人にとっての最善の医療を考えることが重要です。
ICの場面、ちゃんと双方向の説明できていますか。医師からの医療情報だけではなく、患者の語りです。こう生きていきたい、こんなふうに思っている、その2つの情報をすり合わせながら、チームで一緒に共同意思決定していくのです。
これまでの生活情報からこれからの未来を導いていきます。患者・家族からこういった情報を聞き取ることは難しい状況に今あります。
これは、ケアマネジャーが、自分が担当している人が入院したときに、病院側に情報提供するシートです。この中に、病気のこと、本人が大事にしていること、嫌だなと思っていることを書く欄があります。また、右側には暮らしぶり、家での工夫など、急性期病院から転棟してきたときには見えない、生活者としての姿が書かれています。
地域で緩いルールを作りましょうということを私はいつも言っています。入院から早い段階、1週間目、退院支援計画書を立案するときに、それまで関わっていた在宅チームや施設関係者と一緒にミニカンファレンスをします。そして2つ目は、医師からの病状説明の場面にそれまでの支援者が同席できるようなルールを作っていくことです。医学的状況を踏まえ、患者の意向を把握しているそれまでの支援者とともに、本人にとっての最善、これからの人生を組み立てていくのです。
思いは揺れるんです。揺れていいんです。最初に思っていたことが変わることだってあります。地域包括ケア病棟で聞いた本人の大事な思い、どんなふうに記録に残していったらいいだろうか。在宅ICTに病院側が一定期間参加することも必要になってくるでしょう。病院で聞いた思い、地域でつないできた思いを、療養場所が変わってもつなぎ、つむいでいくことが大事です。
地域包括ケア病棟が取り組んできた成功事例を地域の皆さんと一緒に振り返ってみましょう。そして、皆さんがやってきたことを地域にも情報提供しながら、地域の強みも活かし、そして必要なとき地域包括ケア病棟としてサポートしていく。私は、地域包括ケアシステムをかなえる要になるのは地域包括ケア病棟だと思っています。これはポストコロナの時代も変わらないのではないでしょうか。
ありがとうございました。
【特別発言】
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国政の立場から
安藤 高夫(医療法人社団 永生会 理事長 / 衆議院議員)
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○安藤高夫
皆様、こんにちは。衆議院議員で、地ケア病棟協会の副会長の安藤です。
このたびは、第7回の地域包括ケア病棟研究大会開催、誠におめでとうございます。
私からは、「特別発言 国政の立場から」ということでお話をさせていただきます。
私は今、八王子で永生会という法人をやっておりまして、この図にありますように、急性期の南多摩病院、回復期から慢性期の永生病院とみなみ野病院、そして在宅医療を担う診療所や訪問看護ステーション、介護施設等をもっています。その中で地域包括ケア病床は、急性期に22床、慢性期に50床あります。また、コロナ病床は、急性期に23床、それから、珍しいんですけれども、慢性期にも24床準備をして受入れをしております。
本日は、この目次にありますように、1つには地域包括ケア病棟の重要性、2つ目にはウィズコロナを見据えた戦略、3つ目には医療界への今後とメッセージということで、医療政策あるいは介護政策の安藤案というものをお話しさせていただければと思っています。
第1番目のテーマですけれども、地域包括ケア病棟というのは本当にすばらしい病棟、最強の病棟と思っております。日本の医療政策の2つの柱である地域医療構想と地域包括ケアシステム、この重要な2つをつなぐものではないでしょうか。様々な機能があり、カジュアルな病棟でもありますから、まちづくりにも役立ちますし、人口減少社会の中での地域創生にも役立っていくという優れものです。
永生会には海外、特に東アジアからのお客さんがよく来られます。なぜ来るのかというと、少子高齢化の波にさらされいて、日本の地域包括ケアシステムに非常に興味を持っているからなのです。特に中国、韓国、台湾、香港、シンガポールからの地域包括ケアシステムへの注目度が高いように感じます。韓国では、日本の回復期リハの病棟そのままそっくり作っておりますし、今後は地域包括ケア病棟も作っていく予定だそうです。中国では、びっくりすることに、大学病院に慢性期病棟を作ったりしているのですが、日本の慢性期病院を参考にしたそうです。中国のリハビリテーションの学会や老年医療学会に呼ばれて、地域包括ケア病棟についてお話をさせていただいたこともあります。
患者さんの入院前の生活がどうであったか、退院した後その人がハッピーになるようにどういうふうに生活をマネジメントするかが地域包括ケアの基本ではないかと思っております。また、ポイント・オブ・ケアも非常に重要なテーマです。「ケアマネと連携し、入院前の生活がどうだったか、入院後の生活をどうするかを踏まえた医療を行うことが重要」という仲井会長の叫びは本当にすばらしいですし、診療報酬等の制度にも反映されました。
2番目のテーマは、ウィズコロナを見据えた戦略です。
地ケア病棟協会からも、地ケア病棟でのコロナ患者さんの受入れ、あるいはポストコロナの受入れという御提案を頂いております。
自民党内では、医師や看護師をはじめとした様々な医療系の職種の議員が、去年の4月ぐらいに新型コロナウイルス対策医療系議員団を発足しました。私は地域医療体制支援の担当になりまして、コロナ拡大当初のマスクがない、手袋がない、様々なグッズがない、また検査も遅れている、医療機関も非常に厳しい状況に追い込まれているという中、ゴールデンウイークの頃ですかね、毎晩徹夜をして、私とスタッフでシミュレーションを行いました。そして、医療施設・介護施設に約8兆円の支援が必要という政府への提言を行い、補正予算や予備費でそのうち約半分が認められました。
現在、地ケア病棟を含めた療養病床でコロナの受入れの場合、一般病棟と同じような病床確保料が出ます。また、ポストコロナにおいても、基本プラスアルファで53万円弱出ることになりました。個室の部分も今回お金が出るようになりまして、約9万円がプラスオンになることになります。また、介護施設においても、ポストコロナ、そしてまたオンコロナの場合でもちゃんとお金がつくようになりました。これも地ケア病棟協会と地ケアでコロナ・ポストコロナ患者を頑張って受入れてくださっている会員病院様のおかげだと思っております。ありがとうございます。
今後の方向を考えるということですけれども、新型コロナウイルス対策医療系議員団では、4つのテーマを考えています。1つ目はI-MAT、感染症が起きたときの派遣医療チームの創設です。例えば、潜在看護師さんを教育して、何かあったときには派遣できるようにします。2つ目は、感染症に強い医療機関を、ゾーニング含めて作っていこうということ。3つ目は、ワクチン接種をしっかりやっていこうというもの。4つ目は、自宅療養体制の整備ということで、自宅待機あるいはホテル療養をされている方に対してきちっとした医療を提供できるようにしようということです。
これは私の考えですが、今後は、地域の人口減少の状況や、地域医療ニーズに合わせて様々な機能の病棟をレゴのブロックのように組み合わせていく、その1個1個のブロックが感染症に強いというものを作っていけばいいのではないかという提案をしているところでございます。
最後に、医療界の今後とメッセージということで、私の考える今後の医療政策についてお話いたします。スライドでは、ヒト、モノ、カネ、情報、しくみに分けております。
モノに関しては、電子カルテの標準化が遅れているということで、これはメーカーさんの電子カルテの部分だけを取り上げて、これを国営にしてもらうというぐらいの覚悟でやっていかなきゃいけないんじゃないかと思っております。
次に、カネの問題ですけれども、診療報酬や介護報酬ということが言われていますけれども、日本の場合はもう公定価格で決まっている、人員配置もがちがちに決まっている、施設基準も決まっているということですから、やはりその病院を将来的に維持していくためにどれぐらいの費用がかかるのかということを積み上げていって、適正利益水準というのを決めていく。例えば、急性期だったら経常利益5%、慢性期や回復期であれば10%とか、そういうふうな形にしていくことが必要ではないかなと思っております。
細かい問題ですけれども、介護施設の介護職に関しては処遇改善加算がつきますが、病院では一切つかない。病院においても介護職に処遇改善加算というものをつけることが必要ではないかと思っております。
また、消費税について、病院や介護施設で物を買ったときには消費税がかかりますが、病院や介護施設への支払いには消費税はかかりません。これらを課税にしていくということが必要ではないかなと思っております。
しくみについては、これは財源の問題ですけれども、消費税だと様々な用途に使われてしまうので、フランスのCSGのように社会保障目的の税を導入してもいいのではないか。もう1つは、コアの保険以外のところには民間保険とリンクしてもいいんじゃないか、あるいはそれのケアミックス型というのがあってもいいのではないかなと思っております。
今、日本の経済が大変だと言われておりまして、どんどん国債を出している状況です。国債を出し過ぎてしまうと危険ではないかということも言われていますが、具体的にどういう場合が危険なのかがはっきりしません。そこで、年金のマクロ経済スライドのような形で、国債においてもある程度インディケーターを作って、これ以上だと危険だよというものがあったほうが国民も理解しやすいのではないかなと思っております。また、医療・介護において、質は担保した上で、規制緩和も必要ではないかと思っています。
最後に、やはり子供のときから税と社会保障の勉強をして、自分の税金がどう使われるのかということを認識してもらう。あるいは、認知症、介護、がんの教育というものをしていって、自分が将来どういう医療、介護を受けたいのかということも認識してもらうことが必要だと思います。そういうことも含めて、最終的には地域包括ケア基本法とか地域共生社会基本法というものができれば、様々な法律や仕組みがうまく連携されて、いい世の中ができると思います。
本日はありがとうございました。
【討論】
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「地域包括ケア病棟のこれから(withコロナの時代に向けて)
安藤 高夫(医療法人社団 永生会 理事長 / 衆議院議員)
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○平林高之
これからは、石川先生、吉嶺先生、戸田先生、宇都宮先生に参加していただき、ディスカッションに入らせていただきます。よろしいでしょうか。
このシンポジウムでは、地域包括ケア病棟のこれから~withコロナの時代に向けてとのテーマでございます。演者の先生方には、それぞれの立場から御講演を頂きました。
初めに、御講演の内容についていろいろ私からお聞きしたいと思っております。
最初に御講演頂きました石川先生、よろしくお願いいたします。
石川先生には、急性期ケアミックス型の病院の立場からということで御講演を頂きました。先生の病院は様々な先進的な取組をされていまして、大変興味深く拝聴しましたが、まだまだ先生何か言い足りないことがあるんじゃないかと思っているんですけれども、何か追加することはございませんでしょうか。
○石川賀代 シンポジウム2で、リハビリ担当の藤川もお話しさせていただきますが、やはり高齢者の方のアウトカムをどう高めるのかというのが課題ですね。多職種協働でとは言っても、これから働き方改革などの制限も入ってきますので、多職種協働+テクノロジーの活用というのが、どうしても不可欠なのではないのかなと思います。
私どもの地域も人口減少が進み、恐らく働き手の確保が非常に難しい時代になっていくということに直面しています。恐らく大都会と地方都市とかなり違いがあると思いますが、スタッフと試行錯誤しながら取り組んでおります。
○平林高之 私、先生の病院を見学させていただいて、非常に驚いた1つですけれども、ICTを非常に活用されておりまして、SNSを用いて情報共有されているということで、それについて伺いたいと思います。
医療の現場では、患者さんを中心として、それを取り囲む多職種連携というのが必須である。これはほかのシンポジストの先生方も共通した認識であると理解しております。カンファレンスなどでの情報共有が重要ですけれども、臨床の場では多職種が一堂に会するということはなかなか困難な場合がございます。診療報酬上、何とかやりたいというふうに思うんですけれども、時間が取れないということが現実かなと思っているんです。
SNSを用いるというアイデアはすばらしいと思いましたけれども、その導入についてはやっぱりいろいろ御苦労があったのではないかなと思います。こういうシステムの導入を考えている施設もあるかと思いますけれども、先生、何かアドバイスなどございますでしょうか。
○石川賀代 ありがとうございます。
私どもは、何か新しいことを始める際は「小さく始める」ということを意識しています。スマートフォンの活用も、まずはリハビリテーション科で始めました。そのときは、カルテ入力を音声入力で行うことで、間接業務を減らし、できるだけ施術時間・単位数をアップすることを目標に取り組んできました。そこで、ある程度の成果が見えたので、少しずつ横展開し、今は日勤帯のスタッフほぼ全員が1人1台のiPhoneを持つということになってきております。
SNSは1対多のコミュニケーションが可能になっていますので、隙間時間を利用して自分で確認ができ、医師への確認も緊急性のある時のみ電話で行うようになってきました。私たちは医師の指示に沿って動くケースが多い職場ですので、医師への確認がスムーズだと、スタッフの業務のスピード感も増していきます。やはりSNSによって新たなコミュニケーションの形と、人の時間を奪わずに、隙間時間を利用しながらカルテ入力等というところも、非常に活発にコミュニケーションがなされているところがあります。
70歳代以上の方もかなりスマホを持っていますので、比較的早い段階で進んできたのかなとは思っております。
○平林高之 ありがとうございました。
情報共有というのは、言葉で言うのは簡単ですけれども、それをどういうふうに具体化していくかの大きなヒントだと思います。
シンポジストの先生方の施設でも、特に地ケア病棟の中での多職種間の情報共有ということ、いろいろ御苦労されているのではないかと思うんですけれども、吉嶺先生の病院では情報共有に関して何か気をつけていることはございますでしょうか。
○吉嶺文俊 うちの病院は、石川先生のところのようにICTがあまり普及していないという感じがありまして。ただ、電子カルテを使っていますので、それで何とか診療科、それから多職種の連携を試みています。
ただし、問題はやっぱり、先ほど御提案が安藤先生からもありましたように、電子カルテのベンダーがそれぞれ違っていまして、更新時期が非常に問題になっていて。また近いうちに更新があるんですけれども、そのときに大幅にシステムが変わってしまうと。あと、県立病院なので、転勤したときに違うベンダーのシステムに、医師はまだ慣れているんですが、看護師さんたちは大変になるので、そういうこと一つも統一できないというのは、やっぱり日本の医療の、特に地域でやっていく上では非常に足かせになっているなというのを当院でも感じております。
○平林高之 安藤先生の特別発言でもございましたけれども、電子カルテの様式の統一化ということがされれば、コストの面でも非常に有用なので、ぜひお願いしたいところでございます。
戸田先生のところは、回復期、地ケア病棟ということで、その中での多職種間の連携ということで、何か情報共有で工夫されていることはございますでしょうか。
○戸田爲久 通常どおりではあるんですが、その場その場で多職種、一遍に全職種集めるというのはなかなか都合がつかないとかあるんでしょうけれども、リハと介護だけ、看護と介護で集まって、1人の患者さんについて、この人はこうしたほういいんじゃないかという話をするという、ちょっとした小さなミーティングを繰り返していくことで情報共有しているという形です。
あるいは、朝の申し送りの際に、看護だけじゃなくて、ほかの職種が入って状況を伝えるということで職種間の情報共有というのをしていますし、MSWも病棟配属にしていますので、病棟に常駐して常々スタッフと話をしながら退院支援を行っていくという形で、なるべく情報が共有できるようなスタンスをとっています。
○平林高之 ありがとうございます。
宇都宮先生の場合は、お仕事の場が病棟の外で、またちょっと違った環境でございますけれども、ケアマネジャーさんとかいろんな方との情報共有は必須だと思うんですけれども、その中で先生何か気をつけられていることはございますでしょうか。
○宇都宮宏子 ありがとうございます。
北は北海道から南は沖縄まで、いろんな病院とかいろんな地域の入退院の連携のこととか、研修とかで見させていただいていて非常に思ったのは、石川先生のところのように同法人の場合は退院された後の施設での状況がフィードバックされてきたりとか、カルテの中から、帰ってこうしたんだなというのが見えたりするんですけれども、そうじゃないところになると、退院支援をした後の結果が見えない。
私いつも言うんですけれども、病院のナースは再入院してくる残念な姿しか見えないということで、自分たちがやってきたことが何だったのかと。そういったことが今回の一般演題でもちょっと出ていますけれども、在宅の人たちを入れて事例を振り返るということをすると、このやってきたことはよかったんだなとか、この辺はこんなふうに工夫したらいいんだなというのが見えてきて、次の患者さんのところで活かせるのかなと思います。
あと、回復期リハビリ病棟とか地ケア病棟って、当たり前のように多職種と議論することが病棟の文化として根づいているので、そういったことが同じ病院の中の急性期病棟にいい形で影響させているというのは結構あるんじゃないかなと私は感じています。
○平林高之 ありがとうございました。貴重な御意見です。
石川先生、もう1つ印象に残ったことがありまして。
総合診療医の活躍というところで、非常にびっくりしたし、一面うらやましいなと思いました。
特にポストアキュートの地ケア病棟では、地ケアの担当医は急性期科の医師がそのまま担当すると。そうすると、うちの病院でもよくあるんですけれども、特に外科系ですと、地ケア病棟に患者さんが転棟すると、途端に回診の頻度が少なくなって患者からクレームが来たり、指示や処置が滞ったりしてなかなかうまくいかないところもあります。先生のところのように地ケア病棟に総合診療医、または病棟総合医を配置されるというのは非常にうらやましいと思ったんですけれども、実際その総合診療医はもともとの担当課との連携。もちろんこれもSNSを用いてされているんだと思うんですけれども、その辺の難しいところとか、何かございますでしょうか。
○石川賀代 この取組も今年から始めました。地ケアは本当に整形外科の疾患、圧迫骨折や頸部骨折後が多く、回リハに行くほどの体力がなく、在宅復帰で包括リハビリをするという高齢者の方が増えています。保存的に圧迫骨折等で診る方、手術でない方というのは全身管理がほとんどで、あとは在宅復帰の調整です。
そうなってくると、減薬であったり、様々な支援、在宅復帰への必要な指導であったりということがメインになりますので、急性期から地ケアに転棟するときに、全ての患者さんではありませんが、手術が必要でなかった患者さんや、術後でも比較的経過が良好な方は、先もって整形外科から、「この方、総診に転科でお願いできますか」と事前にコンサルテーションして、転科が決まっていきます。
地ケア病棟に転棟する半数の方が、整形疾患です。半分ぐらいの方は総診で診てくれていますので、日中は外科系がほぼ手術で専門医は非常に忙しくしていますので、役割分担してくれています。残念なことに病棟医が不在の時間が長いので、できれば専門医の隙間を埋める形で、病院総合医が急性期の病棟に必ず配置できるような体制を、できれば次年度ぐらいにはやっていきたいなと考えているところです。
○平林高之 私ども北海道の過疎地の病院ですけれども、医師確保というのもなかなか難しくて。
吉嶺先生のところも、なかなか医師確保が難しいというお話でしたけれども、先生のところの地域包括ケア病棟の担当医はどのようにされているかということと、総合診療医の役割というのはどういうふうにお考えでしょうか。
○吉嶺文俊 石川先生の今日のお話は非常に参考になりまして。実は、包括ケア病棟の担当医師というのが1人専従的に配置できておりません。それは医師不足が背景にありますけれども、文化としてそういう医師を置くかどうかというのがまだちょっと、院内外含めてコンセンサスが得られていないことも一因となっています。
ただし、リハビリ専門医の先生に週に1回非常勤で来てもらって、そのときに多職種連携チーム回診という形で全ての包括ケア病棟患者をきちっと診てもらっています。。
地域包括ケア病棟の患者さんは整形と内科が半々ぐらいですけれども、整形の先生は最後まで自分で診るという感じがまだ強いようです。医師が足りない状況ですけれども、やはり専従医師の配置という方向に持っていきたいなと思っています。
1つお聞きしたいのは、総合診療医の場合は、基本的にはバックボーンとしては内科の先生でいらっしゃいますか。それとも、科に関係なく総合診療的に診ていただく先生を選んでいらっしゃるのでしょうか。
○石川賀代 総合診療医、基本的にプライマリ・ケアか、いわゆる1階建ての部分の総合診療医の先生方が今5人いるんですけれども、彼らが診てくれています。
○吉嶺文俊 総合診療の専門医と指導医がいらっしゃるということですね。
○石川賀代 総合診療医、基本的にプライマリ・ケアか、いわゆる1階建ての部分の総合診療医の先生方が今5人いるんですけれども、彼らが診てくれています。
○吉嶺文俊 専門医の先生が入っていらっしゃるということで、もう指導は。
○石川賀代 はい。
○吉嶺文俊 わかりました。非常にうらやましい環境で。
○石川賀代 ありがとうございます。
○
○平林高之 戸田先生、地ケア病棟の担当医について何か御意見ございますでしょうか。
○戸田爲久 うちもそういう専門医がいませんので、内科がグローバルに全部診ているという形です。もともとそれぞれの専門医で、内科の中で血液内科だったり循環器内科だったりはするんですが、循環器疾患の先生は循環器疾患しか診ないというわけにはやっぱりいきませんので、血液疾患であれ肺がんであれ何であれ診てもらっているという形で、結果的に総合診療医的な働きをしてもらっているというのが現実です。
実際、そういうトレーニングを受けたドクターがいることが望ましいとは思っていますが、なかなか都市部ではどっちかというと専門医志向のドクターが多い中で総合診療医を見つけることが難しいというのが現実ですね。
○平林高之 ありがとうございます。
次に、吉嶺先生の病院は、東京都に匹敵するぐらいの広大な医療圏で、そこで急性期ケアミックス型の地域包括ケア病棟を運営しているとお聞きしました。数字も出されておりましたけれども、高齢化率も非常に高くて、過疎と人口減少を抱える地域だと思います。
その中で新病院を立ち上げられ、患者サポートセンターとかいろいろな工夫をされて先進的な取組をなされていると思います。地方ならではの地域包括ケア病棟運営の御苦労があると思うんですけれども、いかがでしょうか。
○吉嶺文俊 公立病院で、特に新潟県立病院の中で地域包括ケア病棟をしっかりもっているのは当院だけでして、いわゆるモデルとなる公立病院が今までなかったので、当地域に合う包括ケア病棟はまだ模索している状況です。
その中で、若い世代の医師、医学生をいかに引き込めるか。現在新潟大学から学生さんが週に2人ぐらいずつ継続的に来ていますので、包括ケアの病棟や訪問診療など多職種連携の場面を体験してもらうことにより、専門医指向の学生さんがどのように育っていくかというところに希望をつないでいきたいと思っております。
○平林高之 地方ですと、医師確保に限らず、いろいろな多職種のスタッフ確保というのも非常に大きな問題がございます。戸田先生のところは大阪という大都市の病院で、それなりにまたいろいろ地方とは違った御苦労があるかと思いますけれども、医師を含めてスタッフ確保について何か気をつけていることとかございますでしょうか。
○戸田爲久 先ほど話をしましたように、1つの法人の中で急性期とかいろいろ抱えている中での回復期ではあるんですけれども、急性期から人材を融通してもらえるかというと、なかなかそこは難しい話です。
急性期の一部のドクターで、やはり急性期はしんどいということで、療養、回復期を希望される先生もおられるんですがごく少数ですし、そういう希望があっても急性期で引き止められたり、大学からほかの病院へ異動になったりして、人材確保は難しいところですね。
そういう中で、総合専門医という形の先生が回復期であったり療養だったり、在宅もやっていますので、いろんな場面を提供できるので、そういうところに興味を持って来ていただけるといいなとは思っています。
近隣の病院の内科専門医研修を引き受けていまして、その部分の地域医療ということで3か月ほど来てくれて、やっぱり急性期ではない視点というところで、うちでの経験を活かして、こういうところもあるんだということは理解してくれています。それがやがてこちらの病院に行きたいというふうにつながってくれればいいなと今の時点では思っています。
○平林高之 宇都宮先生は日本全国いろいろなタイプの病院を見ていらして、いろんな特徴もお知りかと思いますけれども、地方の病院のスタッフ確保、特に教育面での地方と都市の違いとか、また何かお気づきの点はございますでしょうか。
○宇都宮宏子 ありがとうございます。
一昨年でしたかね、戸田先生のところで本来のライブの打ち合わせをしていたときに、戸田先生のところの地域包括ケア病棟の師長さんがすごく表情が生き生きとしていて。多分行ったり来たりしている高齢者の方もいらっしゃるので、入院してきたときにすごく大事な分岐点だと看護師さんたちが押さえていて、アドバンスケアプランニングっていう、まだそんなに広がっていない、3年前なのでふつふつと始まりそうだったときですけれども、地域包括ケア病棟の看護師さんたちがACPのことをすごく当事者目線で議論されていたのにとっても私は感激して、たしか終わった後で戸田先生にもその話をしたと思うんですけれども。
やっぱり医師だけじゃなくて、看護師たちも、急性期医療が私の目指してきたところだと思っちゃう傾向があって。結構地域包括ケア病棟を作ります、異動ですよって言われた途端に撃沈したという看護師の声も聞いたりするんだけれども、いやいや、これからの高齢者が増えていく時代、そして何よりやっぱり御本人の人生に伴走するという意味では、看護とかケアとかソーシャルワーカーもそうだと思うんですけれども、すごくやりがいを感じられるところなので、いろいろ忙しい大変な状況であると思うんですが、動いているお一人お一人のオンゴーイングのケースのときにちゃんとスタッフが感じていることを言語化させるカンファレンスの場を持つとか、先ほどの石川先生のお話を聞いていて、歩いている様子を動画で撮ってZoomの退院前カンファに見せていたりするのがあると思うんです。もちろん、ICTだけで全部できるわけじゃないけれども、ちょっとしたああいう工夫が入ることで現場の業務も整理されるし、その中で大事にしていく看護師としての役割とかソーシャルワーカーの役割っていうのがモチベーションを上げることにもなるのかなと思います。
逆に、私は地方のほうが、北海道もいろいろ関わらせていただいていますけれども、医療資源が集中している地域よりも、病院の役割として、在宅側も何となく納得しながら自分たちのこととして考える場にはなっているんじゃないかな。資源が集中しているところのほうが、ドクターショッピングじゃないですけれども、いろんなことに動いてしまう傾向があるので、今回のメインテーマでもある「地域と共に栄える」っていうところ、私すごい鍵だと思っていて。
多分まだまだ在宅側に、地ケア病棟がこんなふうに支えてくれているっていうの、あんまり伝わっていないと思うんですね。コロナ禍で邪魔されちゃったところもあるので。その辺で、ぜひ地域支援者とか民生委員さんとかの立場の人たちも交えた形で実践を共有することっていうのをやっていただくことが、それが一番現場の専門職の教育の場にもなっていくのかなと感じました。
答えになったかどうかわかりませんけれども。
○平林高之 どうもありがとうございます。
ぜひまた北海道でも講演していただきたいと思います。
戸田先生は、コロナについて非常に貴重な御講演をしていただきました。大阪は一時、日本一のコロナ患者が発生して、府知事さんの顔のやつれ方がいたたまれなかったんですけれども、その中で戸田先生はポストコロナの患者さんを積極的に受け入れられたとお聞きしました。
地ケア病棟のいろいろ制限がある中で、27名ですか、多くの患者さんを受け入れたということで、さぞ御苦労が多かったと思います。どこの病院でもあったかと思うんですけれども、職員のコロナに対する過剰な反応とか地域住民の無理解とか、その辺のところはいかがだったでしょうか。
○戸田爲久 受入要請が出た時点で、去年の段階ですので、すごい早い時期にポストコロナで受けてほしいと依頼を受けた時点で、どういう条件で取るかということは考えたんですが、結局、退院基準を満たして治療が終わっていたら、それ以上言ってもしようがないでしょということで看護部とかと話をしました。看護部のほうも理解を示してくれて、陰性でないと取らないとか、あるいは2週間個室隔離しないと取らないとかっていう話は出なかったですね。幸い、そういうことに関して抵抗なく協力してくれました。
実際問題、そういうのを受けているのでということで、職員の家族からそんなところやめておけという話が出たとも聞いていないです。それを理由に退職したということもありません。もちろん、陽性患者じゃないっていうのが一番大きいと思うんですけれども、そういうのはなかったです。
コロナ陽性だった患者さんも、治ったとはいえ、あの人がそうだということがわかってしまうと、やはり入院している患者さんの中で噂になったりいろんな問題が出てくるということも考えられますので、それに関しては一切、誰がどうとかいうのはわからないようにする、しゃべらないでという、そこは徹底してということは念押しをしています。
実際問題、入院してから熱が出て、調べたら陽性だったという人はおられます。これは、国の退院基準を満たしても陽性が残るということはわかっていますので、調べたら出るよねという話で終わっています。ですので、その後の大きなトラブルはなく、今のところ、今月入ってまた依頼が来ていますので、受けているという状況です。
○平林高之 どうもありがとうございました。
地域によってもコロナ患者さんの数は全然違いますし、また、1年たって住民や患者さんの理解も深まったのかな。いろんな対処の仕方も出てきたと、わかってきたということもあって、少し世の中の雰囲気が変わってきたのかなと思います。
最後に宇都宮先生にお伺いしたいです。最後のほうでACPについてお話がありましたけれども、ACPは患者・家族の心の退院支援と、先生どこかでおっしゃっていたと思います。ACPの取組もやはり病院によっていろんな温度差があるかと思います。特に地域包括ケア病棟、患者さんにとっては、在宅、またはその後のエンド・オブ・ライフといいますか、それに関わる重要な問題ですけれども、職員にACPを普及させる、理解してもらう、患者・家族に理解してもらうというのはちょっと難しいと感じることもあります。その辺の何か工夫とかいうことがございましたら、よろしくお願いします。
○宇都宮宏子 ありがとうございます。
戸田先生のところの地ケアの師長さんがすごくいい表情でACPのことを言われたのが、私はそこですごくヒントがあるなと思ったんですね。どうしても病院の医療者って、元気なときのDNARだと大きな勘違いをしていたり、何か死ぬことを聞かなきゃいけないと思っていて。そうじゃないんですよ。
急性増悪のときって本人も大変だし、ましてや本人は意思表明できない、そばにいる家族もすごいしんどい思いをしているんですね。そこが一旦落ち着いて地ケア病棟でポストでお世話になったりとか、戸田先生のところのように、在宅にいた人、施設にいた人がまた何らかの理由で、サブアキュートだったりレスパイト的に入院されたときって、みんなでもうちょっと先を考えてみようかとか、本人にとっての最善って何だろうねって考える分岐点になると思うんですね。
しんどい急性増悪のときに聞くのは、みんなつらいことです。だから、安定したときとか、回復してちょっと落ち着いたときっていうのがすごく大事なアドバンスケアプランニングの場面になると思っているので、私の中では、地ケア病棟のソーシャルワーカーやナースたちが、ケアチームが、ACPっていうふうにあんまり意識せずに、でもやっちゃっている匠の技が見事なACPの場面だなっていうのがきっとあると思うので、現場からそういったことをどんどんいろんな会とかに発表していただきたいなと思っています。またその辺はよろしくお願いします。
○平林高之 ありがとうございました。
そろそろ予定の時間となってまいりました。今回、5人の先生に御講演いただきまして、これからの地域包括ケア病棟が向かうべき方向性のヒントが得られたと思います。
また、コロナ禍であっても、地域包括ケア病棟の果たす役割は大きいと再認識させていただきました。
5人の先生方のますますの御活躍を祈念して、このシンポジウムを閉じさせていただきます。
ありがとうございました。
(了)
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