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記念シンポジウム
記念シンポジウム
ときどき入院、ほぼ在宅
【座長】
加藤章信(第1回研究大会大会長、盛岡市立病院院長)
【シンポジスト】
迫井正深(厚生労働省医政局地域医療計画課長)
仲井培雄(地域包括ケア病棟協会会長)
中島浩一郎(庄原赤十字病院院長)
猪口雄二(寿康会病院理事長)
定光大海(国立病院機構大阪医療センター救命救急センター診療部長)
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〇座長:加藤章信大会長(盛岡市立病院病院長)
2025年問題を控え、地域と共にポストアキュートやサブアキュートの患者に対応し、在宅支援を行う地域包括ケア病棟を盛り上げていくことは大変重要なことである。現在、全国の各医療施設では地域包括ケアシステムを導入する動きが盛んになっている。
運用している病院数は毎月増加しているが、運用している病院の地域間格差も存在している。さらに日常的には、日々の入退院を含め患者の調整で大変苦労しているという現状もある。
従って、本病棟のシステムが今後どんなアウトカムを目指すべきなのか、それぞれの施設で試行錯誤していると考えられる。このような現状で、行政あるいはさまざまな医療機関などの立場から地域包括ケア病棟・地域包括ケアシステムについてのエキスパートによるシンポジウムは非常にタイムリーな企画と捉えている。
今企画では、5名の演者の先生に発表いただくが、迫井先生からは厚労省として地域包括ケアシステムを構築された立場から、また地域包括ケア病棟協会会長で芳珠記念病院の理事長である仲井先生からはこの病棟を推進していく立場から、庄原赤十字病院院長の中島先生からは本病棟を運用している現場の立場から、寿康会病院理事長で中医協委員である猪口先生からは本病棟と診療報酬の関連から、そして大阪医療センターの救命救急センター診療部長の定光先生からは救命救急医療と地域包括ケア病棟との関わり合いの観点からご発表いただけることを期待している。
シンポジウムの進行は、各演者の先生からまずご発表いただき、その後会場の皆さんと一緒に総合討論を行いたいと考えている。
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地域包括ケアシステムから見た病院医療の課題
迫井正深(厚生労働省医政局地域医療計画課長、前老健局老人保健課長)
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最初におことわりが二点、三点ほど。仲井先生からお声かけいただいた時は老人保健課長を拝命していたが、今は地域医療計画課長を拝命している。今日の話の内容はあくまで前職の関係で、地域包括ケアシステムとは何か、ということをずっと担当していたので基本的にそのことを伝えたいと思っている。
基本は厚生労働省が公式に出している資料をもとに説明することになるが、その資料だけだとわかりにくいため私が勝手に解説を加えているものをお出ししている。が、これはホームページを幾ら探しても出ていない。私見や解説を加えないとわかりづらいのではないかという主旨で、わたし自身の見解や意見が出ているがあくまでも個人のものであるのでその前提でお受けいただきたい。
今日話したい内容は、地域包括ケアシステムがあらためて何かということである。特に強調したい点は、包括の意味が医療以外の部分も含んでいるという点であり、ここはぜひわかっていただきたい。それらを踏まえて生活を支えるんだという話につながるが、それを医療で考えるとどういう事なのかいくつかポイントで話していこうと思う。
最初に地域包括ケアシステム、地域包括ケアの考え方だが、「地域包括ケア」という言葉は「地域」と「包括」という意味が重なっている。これをどう捉えるか。結局、「地域で包括的なサービスを提供する」という意味と、「地域が主体となってサービスを提供する」という二つの意味が混ざっている事が分かりにくい要因だと思う。なので、その事を分けて説明したい。
「地域で包括的なサービスを」とは、地域で必要なサービスを提供するという意味である。
地域包括ケアシステムで一番有名なのは山口昇先生のお話である。山口先生自身が今80歳前後の高齢者であるが、昭和の頃、当時の青年・山口先生は脳外科の手術を一生懸命やっていた。さぞや皆よくなったろうと思っていたが、気付いてみると自分の手術した患者が全部寝たきりになっていた。こういう話が出発点である。
手術がうまくいき、地域でピンピンしていると思っていたが、それが実は違って、日本特有の「寝たきり」「寝かせきり」という状態になっていた。それでは駄目だと。今でこそ訪問介護、訪問看護、リハビリがあるが当時はそれがなかった。だから全部自分たちでやらないと駄目なんだというのが原点である。結局、イメージとして病院医療の部分しか見れていなかった。そこだけを見ていては駄目なんだという話である。そうではなく、あくまでもトータルで見るというのが地域包括ケア、地域で必要なサービス全てを包括するという意味である。
だが、実はこれだけでは地域包括ケアシステムの事は語りきれていない。ここから先が医療ケアとして伝えたい事である。それは地域自身が提供するという部分である。さっきお伝えした山口昇先生の患者の例はどちらかというと要介護認定重度の方だが、それ以外の要支援、要介護1,2の軽度の方々をどう考えるのかという話である。比較的軽度の要支援者の特徴は、ADL系(身の回りの動作、立ち上がったり排泄したり)のものは大体大丈夫だが、組み合わせの動作であるIADL系が難しい。動いて片付けたり料理したり、買い物したり、そういった事ができない。逆に言うと、ここさえ何とかすれば自立した生活を地域でできる。
じゃあそこをどうしたらいいのかというのが地域包括ケアシステムの大事なパートである。それが俗にいう生活支援のニーズ。昔は核家族ではなく大家族だからできたことや地域でのお互いの関わり合いでできたことが今はできない。独居になっているためにどうにかしなければ、という話である。生活支援にどう対応していくか考えた時のポイントを、結局高齢者自身にも参加してもらい地域力でやっていくことが大事である。
逆にいうと、生活支援を事業者がヘルパーを派遣してやることもできるが、そういう事を全て事業者がやっていっていいのか、という話である。生活支援を地域でやるイメージが医療関係者はあまり湧かないと思うので代表的なものを示してみる。ゴミ出し、話し相手、見守り、配食などを地域住民で行う。何てことない地域の寄り合いなどを各地でやっているところもある。
こういった事をしっかり地域で行い、高齢者自身にも参加してもらいやっていくということが、高齢者もかえって元気になっていくという相乗効果、一挙両得がある。病院や介護施設でもなく、これを地域でやっていくことが大事な話である。地域自身がサービスを提供し、地域作りによる生活支援をやるという事と皆さんを含めたプロフェッショナルが重度の患者をケアするという事、この両方が揃うことが地域包括ケアシステムである。
この事を伝えたく地域包括研究会で植木鉢の図を作成した。植木鉢が例えていることは、葉っぱは医療介護の専門家が行うプロフェッショナルサービス、土は生活支援や福祉サービスを行う地域力、植木鉢は地域力の前提である住まい・建物。土(地域力)のないところに葉っぱ(専門サービス)を植えても意味がない、という関係性を伝えるために植木鉢で表現しているわけである。それぐらい土のところ、地域力というのは大事だということをお伝えしたい。
これに高齢者のニーズを加えて、全体で見ていくことが地域包括ケアシステムの考え方である。これを前提に、地域包括ケア病棟で生活を支えるという視点をもっていただきたい。とかく、医療関係者は医療と介護が連携すればいいのだろうと話をしがちだが、大事なのは地域力だということを是非理解してほしい。
これは私見であるが、地域包括ケアシステムの構築というのは、要は地域作りのことであると考えている。さらにこういった地域包括ケアの視点で病院医療の実践を考えるとどうなるのか。いろんな側面があると思うが、病院医療が生活全体を見るためには日常生活とのインターフェイスとなる必要があり、その典型が広い意味での入退院時調整である。例えば看護師が今まで行ってきた本来の仕事である退院調整だけでなく、入院調整を早い段階から始めるなどである。また今日軽く触れておきたいのが生活期のリハビリテーション。これも結局インターフェイスの話になる。リハビリテーションについて概念的に見ると、単なる機能回復訓練ではなく日常生活への活動、社会への参画も考慮される。
ICF(国際生活機能分類)を図式で見るとこんな図になる。
理屈から見ると皆さんご理解されると思う。心身機能ばかりでなく活動や参加にもいろいろあるという話である。
しかしながら私が日頃感じている事は、医療の世界でリハビリテーションというと、急性期や回復期の病棟で行うリハビリテーションから生活期のリハビリテーションへの移行が一本道に見えるという事である。急性期や回復期はリハビリテーションを一生懸命やる、その後は生活期でどうぞやってください、という様な一本道のイメージである。しかし、私が介護の世界でリハビリをやって感じたことは、地域包括ケアシステムのリハビリは少し風景が違うのではないかという事である。
生活視点でのリハビリは、実は二次元三次元の世界である。最初疾病があって、心身の機能のリハビリテーションをしっかりやる。でも本当のゴール、エンドポイントは生活に戻ることである。なので、段階に応じて機能が全て回復すれば言うことはないが、ある程度回復したところで社会への参加など、意識して作戦を変えていかなければならない。しかしながら、どうも一本道、画一的になってるような気がしてならない。それで27年の介護報酬改定の時にそれらを意識した改定を行っていて、いくつかエビデンスを示している。
さっき見ていただいた生活機能でみると、バランスが非常に悪い。訓練一辺倒である。内容を徐々に変えるのではなく同じ内容のものを二年も三年もずっと継続していく。それから生活重視の視点のはずが、目が行き届かず自立支援になっていない。こういった事をデータで見ると、本来生活期に移行するリハビリはいろんな事をやらなければならないのに、明らかに病院の機能訓練をそのまま引きずっているという事である。
あるいは報酬が悪さしているという説もあるが、画一的に皆が20分1単位週2回続けるパターンで、いろんな人のニーズに対応できるのか。さらに一度始めたリハビリをずっと続けている事業所がほとんどである。
これも山口昇先生と同じ話で、機能回復という一部分だけでなく全体を見てほしいという話である。なので、急性期回復期の入院医療と地域のリハビリを含めたさまざまなサービスとどうつなぐのかを考えていただく事が地域包括ケアシステムから見たリハビリテーションである。例えば介護でそういった事を意識してもらうため、こんなサービスを導入した。
ニーズ把握表を導入し、最初に患者である利用者のニーズを聞く。聞くべき項目の中に、例えば「居酒屋に行く」「ギャンブルをする」など、そういった事も言ってもいいと利用者にも分かっていただき、スタッフ自身にもこういう事を目指して生活支援のリハビリをやるんだという事を分かっていただいた。
これらを突き詰めていくと多職種連携の話につながってくると思う。多職種連携という言葉が、地域包括ケアシステムでいう「多職種連携」と、入院医療を行っている医療関係者の「多職種連携」とでは明らかに違うように私は感じている。例えばケアマネに聞くと、医師との連携が取りにくいという話をよく聞く。お互いの言い分があるだろうが、実は根っこは似ているように思う。
医療で多職種連携と聞くと、いろんな専門職同士がお互い連携してチーム医療を行い、より質の高いサービスをそれぞれ役割分担で行う技術思考のことである。しかし地域包括ケアシステムで全体を見ると、町内会の会長やヘルパーさん、学校の先生など医療の素人がたくさん出てくる。そういう世界で専門用語というのは通用しないという話である。
あえて言えば、生活の支援という視点で言うと医療はほんの一部分である。医療が生活全体にならないという事をわかった上で支えていくのが地域包括ケアシステム、高齢者の自立支援であり、異分野、異業種の方々との交流が不可欠という事をわかっていただく必要がある。地域包括ケアシステムで顔の見える関係を築いてほしいというのは、この事を意識している。
従って、各市町村で地域包括ケアシステム推進のため研修プログラムを行う際は同じ専門分野、同じスキルの方同士で研修をするのではなく、他流試合をやっていただきたい。特にドクターの方は、コーディネーターやファシリテーターをやって周りに医者がいない環境でやっていただきたい。
それによってコミュニケーションスキルが身についてくるし、これが地域包括ケアシステムの非常に大事なポイントになってくると思う。地域包括ケアシステムの研修で飲み会も許容する意味というのは、結局異分野異業種の方々との交流を通じでスキルアップしてください、という意味合いもある。こういった事をポイントとして念頭に置いていただけると、地域包括ケアシステムというのは分かりやすくなるのではないかと思う。
まとめとして、地域包括ケアは「地域」と「包括」のかけ詞である。特に包括の意味は地域をあげて提供するということを忘れないでいただきたい。そして多職種連携を始めとして生活の視点として考える事が非常に重要になる。これを念頭に特に入院医療の組み立てを行っていただけると、本来求められる地域包括ケアシステムと地域包括ケア病棟のより優れた運用につながるのではないかと思う。ご静聴ありがとうございました。
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最大で最強の地域包括ケア病棟
仲井培雄(地域包括ケア病棟協会会長、芳珠記念病院理事長)
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今日はシンポジウムということで、あらかじめスライドを準備していたが、アンケート調査の結果が出たので、今日はほとんどそちらに時間を費やしたいと思う。
地域包括ケア病棟誕生の背景は、簡単にサマライズすると、こういうことである。人口減少、少子化、超高齢、地域間格差、治す「従来型医療」から治し・支える「生活支援型医療」への転換、国民皆保険の維持、次世代の財政負担の軽減などがポイントである。これからはすべてスライドに示した医療介護総合確保のロードマップで表現できると思う。こういうことを医療と介護の現場でやらなくてはいけない。
中医協では地域包括ケア病棟に関するいろいろな要望や協議が行われているが、それはそれとして、本当の機能とは一体何かということで、今回、地域包括ケア病棟の機能などに関する調査を行った。調査項目は、お手元の資料にあるが、Aの基本情報から、Gは地域包括ケア病棟入出状況についていろいろ調べた。ほとんどがワンデー調査であるが、Gだけは10日間の実績を調査している。
もう一つ、今回私のほうで設計が十分ではなく、入院と退院の患者の集団をバラバラに調査したので、入退院を関連づける調査はできていない。それでは、解説したいと思う。
調査分類はドナベディアン分類の医療の質で分類し、。Structure、Process、Outcomeの表示をつけてある。地域包括ケア病棟の四つの機能について、これまで四つの機能を、三つの受け入れ機能と二段階の在宅生活復帰支援と言っていたが、アンケート調査をする際に、この分類ではわかりにくく答えようがないことが判明し、三つの受け入れ経路、機能と二段階の在宅生活復帰支援に再分類した。
厚労省では、「急性期からの受け入れ」「緊急時の受け入れ」「在宅・生活復帰支援」、この三つの役割になっているが、協会では、「その他の受け入れ」を加えて四つと言っている。これは以前と変わらない。3つの受け入れを「急性期からの受け入れ経路」、「緊急時受け入れ経路」、「その他の受け入れ経路」の3つの経路と、ポストアキュート、サブアキュートの中核機能と周辺機能の3つの機能に分類し直した。
これまでは「その他の受け入れ」の中に「その他機能」があると言っていたが、よく考えると、「緊急時の受け入れ」の中にもその他の機能があるとわかり、ここをはっきりさせるためにいろんな分類を試みた結果、今回この新しい分類を活用して、地域包括ケア病棟がやらなければいけない分野を明らかにする。
社会保障審議会医療部会で「急性期病床群」を作るという話が出た際、これは廃案になったが、使われた急性期の分類のしかたが、判りやすかったので活用した。
緊急度が高く重症度が高い人はもちろんであるが、重症度だけが高いという方もいるし、緊急度が高いがそれほど重症度が高くない場合もある。であるので、赤い破線で囲まれたのが急性期病床であると。これを私はこう解釈した。この赤い破線が、高度急性期や急性期病床で見るべき患者ではないかと。であれば、地域包括ケア病棟はどこを見るんだと。ここだと。
つまり、緊急度が高いが、それほど重症度が高くない。それから、重症度はそこそこあるが、緊急度はあまりない。あと、リハビリの分野、こういったところが、地域包括ケア病棟で見るべきところではないかと思う。
緊急入院は当然緊急時の受け入れになる。予定入院が、急性期からの受け入れとその他の受け入れになる。これが受け入れの三つの経路である。それから、それぞれに機能をくっつけると、緊急時の受け入れで、入院の契機となった疾患が発症する前から日常的な生活支援が多い人、これはサブアキュートの中核機能である。
それから、急性期からの受け入れはポストアキュート、これも中核機能。そして、生活支援が少ないが、緊急時の受け入れをするという周辺機能とした。その他の受け入れの周辺機能と、少し複雑だが、経路と機能を分けなければアンケート調査やデータマイニングができないとわかり、このような形でまとめた。
それがこの話で、三つの受け入れ経路は、緊急時の受け入れ、急性期からの受け入れ、その他の受け入れ。機能は、中核機能のサブアキュートとポストアキュート。それから、周辺機能の三つに分かれる。周辺機能は、その他の受け入れと緊急時の受け入れに再分類される。
これをもうちょっとわかりやすくしたのがこの図で、疾患と患者像でいえば、緊急入院は緊急時の受け入れで、肺炎、骨折、腸炎などの軽症の急性疾患。サブアキュートは、介護施設や在宅で療養をしていて、障害児者、老年症候群、受け入れ時年齢は不問である。周辺機能の緊急時の受け入れは、7対1、13対1の代替機能として生活支援が少ない感じを受ける。
それから、ポストアキュートは急性期からの受け入れであるが、地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟では若干機能が違う。これはアンケートでもわかった。中重度の脳卒中や、重症整形外科疾患などの術後のリハビリなど回復期リハビリテーション病棟の様々な要件があるが、そこで選ぶのが回リハ病棟、それ以外が地域包括ケア病棟という大きな分け方ができる。
その他の受け入れの周辺機能は、7対1、13対1の代替機能、ケモ、緩和ケア、短期滞在手術基本料3、糖尿病教育入院、医療必要度の高いレスパイトケアなどである。
そもそも、生活支援の多寡による患者像について、入院契機となった疾患が発症する前から生活支援が多い方と、少ない方がいるということも非常に大きなポイントである。
二つ目の機能である、在宅・生活復帰支援は2段階あり、院内の医療職を中心とした多職種協働であるチーム医療と、地域包括ケアシステムの中の地域内の多職種協働という観点と、本当に地域の中で暮らしている人たちと一緒にチームを組む、ネットワークを組むというのは全然意味合いが違う。
そもそも院内の多職種協働では労使関係や上司部下の関係のもと、非常に高い信頼関係の中でできた強固なチームワークであるが、地域内はまったく別である。その中でどういう関係を作っていくかが、地域包括ケア病棟を持つ病院の大きな役割の一つではないかと。まちづくりを見据えた地域包括ケアシステムへの参画は、大変重要なことだと思っている。
入院契機となった疾患が発症する前から日常的な生活支援が多い患者の入院から退院のコースは、3つの機能で受け入れると、緊急時の受け入れはサブアキュートになるが、在宅・生活復帰支援をしないと復帰できないので、日常的な生活支援を退院後も継続するパターンとなる。アンケートの中でわかったのであるが、退院後に日常的な生活支援がいらなくなった方が少ないがいる。これは非常に大きなポイントで、今まで私はそういうのはあまりないと思っていたので、急きょ、「退院後不要になった」を付け加えた。
それから、もともと日常的な生活支援が少ない患者を3つの機能で受け入れた場合、緊急時の受け入れでは、周辺機能になるが、在宅生活復帰支援が不要な方が多い。中には、ポストアキュートで来て、そのまま日常的な生活支援が必要になった方もいる。
病院の機能、病院のタイプについていろいろ考えた。高度急性期や急性期病床機能を持つ病院は、以前は従来型だけであったが、いろんな方からご指摘を受け、生活支援型医療も入るだろうと。つまり、寝たきりでも認知症がない方で、体だけ動かなくてしっかりしゃべれる方が心筋梗塞になったらどうするか。そのまま様子を見るのかと。高度救命救急センターに送ったりいろいろしないかと。ということであれば、生活支援型医療にも高度急性期医療や急性期機能が絶対に必要になる。そこで、このように書き換えた。かつ、地域包括ケア病棟を周辺機能の用途で使うということは急性期病床の従来型医療があるということなので、図のような形になる。あとは、回復期、慢性期病床は生活支援型ということになる。高度急性期・急性期の先進・専門領域を集約して広域をカバーしていかなければいけないし、その他の全人的医療の部分はアクセスよく日常生活圏域をカバーしないといけない。
地域包括ケア病棟を持つ病院のタイプについては、全体に急性期を担っていて、地域包括ケア病棟をあとから持つというパターンのケアミックス型では、この破線の部分がおそらく一番多いと思われ、もともとフルラインナップで亜急性期病床を持っていたところが地域包括ケア病棟を持ったパターンもある。
それから、地域密着型は、そんなに病床は多くないが、軽い急性期から地域包括ケア病棟、あるいは回復期リハなどを持っているもの。高度急性期病院の周辺でポストアキュートを中心にされているポストアキュート連携型。以上4つのタイプに仮説として分けている。今回のアンケート調査でこの分け方でよいか立証できないかと思ったが、できなかった。
結果と考察である。地域包括ケア病棟協会の会員のうち、地域包括ケア病棟を持つ病院、会員の約3分の2にあたる220病院にアンケートを送付した。そのうち回答があったのは75件34.1%。開設者別で見ると、公的が2割、民間が8割弱。無回答もある。総病床数でいくと最も多い層が100床から200床未満である。総病床数は14,493で平均193.2床。介護保険病床、介護療養型医療施設を持っているところは6病院となった。
医療保険病床は特定入院の高度急性期病床、これを持っている所は合計241床あった。それから一般病棟入院基本料7対1・10対1は6,504床。13対1・15対1は279床。医療療養は1,429床。回リハ(回復期リハビリテーション)は1,818床。そして地域包括ケア病棟は2,722床で18.8%。その他の入院料は1,187床となった。
サブ解析で一般病棟10対1以上の病床の有無で見ると、有りが57施設76%、無しが18施設24%となった。併設する関連施設の有無は有りが56で81.2%である。
やはり地域包括ケア病棟を持っている所は、地域に対する感受性が高いので併設施設を持っている所が多いと感じる。下に併設関連施設の種別を書いている。そして診療報酬改定について重症度、医療・看護必要度が厳格化された場合、7対1病棟を転換する可能性は高いかということを聞いたところ、回答数が非常に少ない。その中で20件回答があり、「はい」と答えたのが11件。あまりにも数が少ないため、解釈はしないということになった。ただこちらが思っていたように、手術が出来高になった場合は転換先として地域包括を選びやすいのかと。そして手術が出来高になった場合は直接地域包括ケアに受け入れる、つまり他院からのポストアキュートを急性期の病棟で受けてそのあと地域包括ケア病棟にスキップしてくるというパターンが減るというような感触は得ているが、はっきりとは言えない。
あとのC~Gの項目は「ときどき入院ほぼ在宅」を実践する上での院内・地域内多職種協働についての医療の質を調査した。まずベッドコントロール。管理部門を持っているところがほとんどである。ただ行政、社会福祉協議会などの関連団体との連携は若干低い。組織形態も一部門で統括しているところは半分である。連携システムとして統一したアセスメントツールがあるか、これは残念ながら無しが61.4%、有りが18.7%と非常に少ないということで、ここは一つ強力な地域包括ケアシステムを進める上で重要課題。今日はその「あり」の施設からの演者が最後のところで話をしていただくことになっている。
それから認知症患者については、こちらは対応が全体に遅れ気味である。精神科を標榜しない施設であっても、新オレンジプランに準拠した取組が求められるのではないかと思われる。専門外来がなかったり、サポート医がいなかったり、認定看護師がいなかったり、サポートチームがなかったり、院内デイサービスがなかったりということで、「ない」というのが圧倒的に多い。
そしてNST、こちらは活動している病院のほうが圧倒的に多く、活動しているところの活性は高い。
VFやVEをやっているところは8割以上やっているが、ただリハビリ栄養、今日は若林先生に話をいただくが、それに対する活動はまだ若干少ない。
NST対象患者への薬剤管理指導や調整、これは8割が実施している。嚥下機能評価の担当科も内科が一番多いが、耳鼻科、リハビリ、歯科口腔外科。ここで歯科の役割が出てくる。
そしてポリファーマシー対策、これもしていない所が多い。有りが43.1%。ポリファーマシーはあらゆる患者に良い影響を与えない。その対策は、NSTの場では薬剤師が中心となっている。自由記載で目立ったのは他院からの処方の変更の難しさであった。これは病院レベルでは解決できない。医師会レベルでも無理と思われる。薬剤師会、ケアマネなど全部含めてやらないと難しいと感じられる。
また、リハビリについてだが、50床あたりのリハビリ職員数は常勤換算でPOST合わせて8.3人。充足度はというと、充足していないほうが若干少なかった。それが不十分なところでは増員予定があるということである。
専従、非専従で業務内容の違いはないというほうが多かった。リハビリ実施状況はone day調査であるため平均単位が届かないところもある。大体2単位前後ということで問題はないと感じている。
いわゆるがん患者、疾患別のリハビリ以外の「1単位20分」以外の関わり。これをやっている所が6割近くあった。内容も個別、集団、指導と多様で、これは介護施設に近いようなリハビリが提供されはじめていると思われる。先ほど迫井先生も述べたように身体機能だけではなく、活動や参加に結び付くそういったIADL(手段的日常生活活動)に対するオンデマンドのリハビリをしており、これも最後のセッションで発表される予定である。
そして地域包括ケアのリハビリの実施内容であるが、個別の20分未満のリハビリは86%実施されており、50床あたり平均で2.4人の療法士が、6.1人の患者に関わり、内容も多彩だと。PT、OT、STそれぞれ特徴的な動きをしている。
PT、OT、STどれもやっているのは自主トレーニング指導である。回リハ病棟を併設している施設は36あって過半数である。そして回リハの中でも「1単位20分」以外のリハビリの実施はあると。やはり先輩格の回リハ病棟では、地域包括よりも若干そういう活動が多いということである。ただ診療報酬上は回リハ病棟のほうが残念ながら評価されていない。地域包括はリハビリが包括なので、どういうタイプのリハビリであっても評価されていると考えている。
これが回リハ病棟と地域包括ケア病棟のリハビリの違いである。これは考え方、ポリシーをきいた。回リハ病棟に入れる人と地域包括に入れる患者との選択基準である。回リハ病棟を要する状態の要件が必要かどうか、年齢で分けるのか。これは75歳以上、以下で区切った。予想在院日数は60日以下と61日以上。認知症はⅢ以上が有りか無しか。予測リハビリの提供料は4単位以下か5単位以上か。予測ADLの改善率は低いか高いか。発症する前の日常的な生活支援の有無はありかなしか。それともう一つ、どれもそれは選択基準にはないという答えと、これだけ用意した。
その結果、14個の回答項目があるわけだが、11の項目で選択基準なしが最多の回答であった。回リハの中では要件と予測リハビリ提供量1日5単位以上が最多であった。そして予測ADL改善率の高い方を10以上の病院が2番目に選んでいた。地域包括ケア病棟では60日以下の予想在院日数が最多であったが、予測リハビリ提供量1日4単位以下を10以上の病院が2番目に選んでいた。ということで、回復期と地域包括ではポリシーとしてこのような違いがあることがわかった。
そして入院患者についてだが、10日間の実績で、入院元は院内53.3%、自宅26.6%、院外は9.2%。疾患は整形外科的疾患が4割を占め、消化器、呼吸器、神経と続いている。
これは先ほどの受け入れ経路と受け入れ機能別に見た患者の数である。10日間、1182名の患者の解析である。サブアキュートは入院患者全体の9.9%。ポストアキュートは68.8%と最も多い機能である。その他の受け入れの周辺機能は13.3%。緊急時の受け入れの周辺機能は8.0%となる。
緊急時の受け入れ経路は17.9%ということで、ポストアキュートに次いで緊急時の受け入れが多くなっており、そこそこの緊急症例に対応している。これをサブ解析してみた。受け入れ機能別と200以上、未満の病床数であるが、大差はない。10対1以上の病床の有無は差が見られる。10対1以上の急性期病床を持たない病院は、サブアキュートが多く、ポストアキュートが少ない。ただ症例数が「なし」のところが少なく、一桁違うので、もっと多くの方々からアンケート調査をしないとはっきりとは言えないが、傾向としてはこのようなことが言える。
ただ、サブアキュートと周辺機能の緊急を足すと、両群ともに14%以上診ている。従って緊急時の受け入れはそこそこしていると言える。
10対1以上の有無の基本情報だが、開設者で見るとなしのほうは民間が多く、200床未満が多く、回復期リハ病棟の保有率が高いということであった。総病床数に占める地域包括ケア病棟の割合は、両者とも2割前後であった。これで機能別に見ると、サブアキュートの割合が「なし」のほうで多いと。そしてポストアキュートを院内からと院外からに分けてみると院外からのほうが「なし」のほうが多かった。「あり」のほうは院内からのほうが9割を占めている。
そして他院高度急性期から、一旦自院の一般病床15対1以上の急性期病棟を経由して、地域包括ケア病棟に転棟した症例はどうかというと、「あり」が43.3%で、実人数にすると50床あたりで10日間で2.2人。これが直入になると、他院からのポストアキュートの件数を数%程押し上げると予想される。
退院状況であるが、平均在院日数は25.5日であった。退院先は自宅が多く、居住系などを入れると在宅に相当するのは80%弱となる。
この日常的な生活支援の要る人が要らなくなったというのは3.4%あり、これも大事な話だと思っている。不要から要になったのが7%。それ以外の、発症前不要から退院後不要、発症前要から退院後要は4割超である。
入院調整中の患者も50床あたり結構いるし、退院支援の方も50床あたり25.5人。そしてPatient Flow Managementの認知度、これは地域の中から病院の中の全て患者の流れを見えるようにしてマネジメントしていくという概念があるが、「知らない」という方が3割近くであった。以上がアンケート結果である。
〇加藤座長
ありがとうございました。アンケートの結果を見ると、一言では言えないが、地域包括ケア病棟と言っても地域のニーズに合わせてさまざまな形態があり得るということで、それぞれの地域に合わせた地域包括ケア病棟を運営しているのではないかと感じられた。