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高度急性期・大規模病院の立場から
日本長期急性期病床研究会副会長、国立病院機構大阪医療センター救命救急センター診療部長
定光大海
高度急性期の大規模病院の立場からということで、荷が重いが駆け足でお話したい。
私は大阪の中心部にある国立病院機構大阪医療センター、650 床の急性期病院の三次の救急医療センターに勤めている。医学部卒業以来30 年以上救急に携わってきた。
今日は、地域包括ケア病棟についてということだが、そこに至る過程で一番問題になる救急医療に関する話に特化して話を進めさせていただきたい。
救急体制は従来、初期、二次、三次という体制でがっちりと組まれて、それからその救急搬送を担う病院前救護の救急救命士などのメディカルコントロール体制で行われている。その中で最後の砦としての救命救急医療を担う三次救急医療が全国に265カ所ある。その裾野には、ほとんどの救急医療の患者を担っている二次救急医療機関が広がっている。
この二次救急医療機関が地域包括ケア病棟とどういうふうに絡むかいうのが大きな課題となるのかもしれない。救急医療が進む中で、地域の連携体制を構築するための医療計画があり、4 疾病、5 事業から精神疾患が入って5 疾病5 事業。こういう地域連携の体制構築が進められてその中に救急医療とか、災害医療も含まれている。
(図5)
こういう医療計画の次に、入院病床の機能分化と診療報酬の改定があり、先ほども説明されたように、この中心点に地域包括ケア病棟等、地域に密着した病床が位置づけられることになった。
救急患者を受け入れていくというのは、救急医療センターがあるし、それぞれの専門診療科を持っている三次救急病院もある。二次救急は、急性期の医療機関が行っているわけだが、ここに地域包括ケア病棟が加わることになるのだろう。
(図6)
救急出動件数の推移を見ると、一時期、平成20年当時にいったん下がったのだが、その後はどんどん上がっている。増えているのは人口が増えているからではなく、人口はすでに減少に転じていても救急搬送件数が増えているのは、高齢者が増えているということだ。
実際に年齢層別救急搬送件数を見ると、大阪消防局によれば、平成25 年には48.6%が65 歳以上という状況になっている。したがって救急医療も高齢者医療をどうするかということになる。
救急搬送人員の成人と高齢者を分けて高齢者の方を見ると、高齢者の増加の中でも特に軽症、中等症の増加が目立つ。三次とか高度急性期でこれらを全て担うのは、もはや非現実的な話である。地域の中核的な病棟になる地域包括ケア病棟がどう担うかが大きな課題になってくるのではないか。
私どもの病院で年間200 名以上の心停止の患者が運ばれて来るが、その人たちの5 割はADLが自立しておりご自分の住居から、それ以外の15%が介護施設等にある居住空間で倒れている方が運ばれてきている。今後ますます増えるこういった患者を、皆、三次とか超急性期に運んでいくのかとなると、医療資源の効率的問題が生じる。また、受け入れた患者の一定比率は、心拍再開してもどうしても意識回復は得られない。そういう人をどこで長期的に診ていくのか。
(図7)
受け入れに関わる三次救急には別の大きな問題がある。高齢者が増えていると同時に、他の病院で受け入れ困難の患者を三次救急で受けざるを得ない状況が発生している。受け入れが難しいというのは、専門外とか外傷、自殺企図とか精神疾患、独居の高齢者など。これらの患者を受け入れると後が大変であるため、どこにも受け入れてもらえず、回り回って三次救急に来る。もう一つは医師の不足。
こういう患者を受け入れた時に、転院することが難しくなるのはなぜかというと、精神疾患、特に身体合併症を持つ精神疾患とか外傷、そしてこれから問題になるであろう耐性菌の問題がある。多剤耐性菌の発生は大きな問題で、病院の連携をとる上でも大きな問題になるかもしれない。社会背景としての独居高齢者あるいは生活困窮者がいて、こういう人たちをどこでみていくのか。
やはりバッファーとして地域包括ケア病棟というような地域に根ざした病院群が一手に引き受けていくようなシステムがないといけないのかなと思う。
そのためには、患者さん、ご家族にも、社会的な医療体制の変化をある程度理解していただくのが必要だろう。
救命救急センターを中心とした入院患者がどうなっているかというと、31%は慢性期医療機関に移るが、42%は自宅あるいは介護施設に移っている。一方で30%弱が急性期の病院へ移っていく。急性期から急性期への移動は在宅復帰率に絡むと気になるところだが、そういう連携をとるために、大阪では緊急連携ネットワークという三次救急医療機関と慢性期医療機関が連携して患者の流れを作るというのを5 年前から行っている。
(図8)
これは日慢協 地域医療連携委員会委員長 井川誠一郎先生を中心として慢性期の医療機関の方でコーディネートしたシステムで、急性期側がコーディネートしているわけではない。急性期側が慢性期医療機関にコーディネートを依頼して、病院を探してもらうというシステムであり、連携紹介数がすでに500 例近くなっている。
しかし、私どもの病院にも180 日以上入院している人もいる。どこにもいけないような人もどうしても出てくる。救急というのはそういう人を抱え込まざるをえない面があるので、長期入院の患者がどうしても残っている。また、救命救急センターという性格上、どうしても急性期─急性期の連携も一定比率ある。
それから、精神疾患が三次救急には多い。こういう患者を急性期医療の病床に転院させないといけないので、大阪には単独型の救命センターというものが複数あるが、救命センター単独で在宅復帰率を達成するのは難しいのではないか。
そういう問題が若干残っているが、高度急性期としては、地域包括ケア病棟と連携を今後とらないと、とてもやっていけないと思う。
(図9)
図9 は、大阪緊急連携ネットワークに加わっている35 病院に診療報酬改定後の届出についてアンケートを実施した結果である。
地域包括ケア病棟入院料1、2 の届け出をしますか、在宅復帰機能強化加算の届け出はどうですかと聞いたが、半数はまだ届け出をしないということで、それぞれの病院はペンディングというか悩んでおられるようだ。ですが、私どもが連携をとるためには、選択をしていただく必要があるし、地域で持ち寄って考えないといけないと思う。
(図10)
救急に携わっている立場として、急性期─急性期医療機関連携が在宅復帰率に算定されないとすれば、その部分がデメリットになる。つまり、救命救急センター単独では在宅復帰率のクリアが難しい。
しかし、救急医療体制そのものを支えていくためには、二次救急機能、受け皿という機能、在宅に帰す機能、それらを持った地域包括ケア病棟との連携は必須で、その役割は非常に大きいと考えている。