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演題発表②
演題発表②
2.Point Of Careリハビリテーション(POCリハ)
合歓垣紗耶香(芳珠記念病院リハビリテーション室主任 作業療法士)
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2014年の6月から当院で取り組んでいる、Point of Careリハビリテーション(POCリハ)についてお話をする。当院は石川県能美市にあるケアミックス病院である。予防医療介護複合体として、医療から介護福祉に関して芳珠グループとしてこの地域の住民を支えている。能美市は石川県南部の加賀地方に位置し、南加賀医療圏に属している。
当院の役割は、がん、内分泌疾患、老年症候群、リハビリテーションを主とした地域密着型医療である。
当院の地域包括ケア病棟についてお話しする。当院のリハビリテーションセンターは、PT365日、OTは祝祭日はリハを行い、日曜日が休み。STは祝日・日曜日休みという勤務体系になっている。併設の訪問看護ステーションの訪問リハと介護老人保健施設に出向している。
当院には4階と地下1階二つの地域包括ケア病棟があるが、4階は内科系疾患と脳卒中、地下1階は整形外科、外科系疾患、リハと、原則分類されている。地域包括ケア病棟ではリハビリテーションが包括され、病棟開設の際に、高い在宅復帰率を維持し、質も高めなければならず、何ができるかを考えた。包括ということは、通則のある疾患別リハ等にはない、時間にも場所にも個別や集団にも縛られない、患者中心の生活回復リハが初めて診療報酬上評価されたと考え、POCリハ、集団リハをまず地下1階病棟で導入した。
POCリハについて説明する。POCリハは病棟に作業療法士1名が常駐し、患者が必要なときに、個別で短時間でも排泄、食事、整容、入浴等のADLに直接介入する。POCリハの名前の由来はPOCT(Point of Care Testing、臨床現場即時検査)という言葉があるが、患者のすぐそばでの検査によりすぐに結果が出て治療ができるという概念で、その概念が患者中心の柔軟な生活回復リハと通じると感じたので、地域包括ケア病棟で提供する新たなリハをPOCリハと呼ぶことにした。
運用方法であるが、OT1名が日替わりで担当し、毎週月から土曜日に、月水金は遅出でイブニングリハ、火木土は早出でモーニングリハを実施している。対象は、地下1階地域包括ケア病棟に入院しておりADLが自立していない患者全員で、病棟生活の中の実際のADLへ繰り返し介入する。また、ベッド周囲の環境調整、病棟スタッフへの介助方法の指導や、離床の誘導、認知症患者の不穏時の作業提供等も行う。
POCリハ担当者は黄色い腕章が目印である。専門職として患者に介入している記録を残すため、疾患別リハと同様に記録をし、分単位で勤務時間として計算し、1日8時間、週40時間の労働基準を順守している。
POCリハの実際であるが、患者の病棟生活の中に短時間でも直接介入することで、高いレベルの活動がたくさんでき、ADLの習慣化、動作の習得につながっている。また、介護職員への指導をすることで、病棟全体のケアの質の向上にも関わっている。POCリハ担当者が病棟にいることで、患者家族と会う機会も増加し、直接介護指導する機会が増え、家族の不安を安心に変えることもできる。
ここで、疾患別リハとPOCリハの介入のタイミング、量をイメージしてもらえるよう事例を提示する。疾患別リハで、術後から積極的に介入し、機能回復、離床を進めていく。離床を進めながら少しずつPOCリハが生活に介入し、高いレベルでのADLを行えるようにする。
ADLの自立度が高まり生活の中で自ら活動できるようになることで、活動性・心身機能を維持でき、包括的に病棟生活をアセスメントしながら疾患別リハを少しずつ減らすことができる。
大腿骨頸部骨折の患者を例にあげると、術後は積極的に疾患別リハを行い、状態に応じ少しずつPOCリハでのADL練習を導入していく。自立度の向上に応じ自主練習を増加し、されるリハからするリハへと、疾患別リハ・POCリハの介入量を評価に基づいて減少していき、必要に応じてオーダーメイドの退院支援を行い、退院となる。
地下1階病棟では、リハ栄養にも取り組むようになった。急性期病院では入院患者の3割~8割程度に栄養障害を認めると著書で述べられているが、地下1階病棟の場合は、9月から10月の2カ月間でサルコペニアと診断された方は、リハ対象者全体の内28%であった。積極的に生活回復リハを行おうとしても、低栄養状態で活動的な生活をすることは困難で、栄養問題を克服しながらリハに取り組む必要がある。
そこで、地下1階病棟では多職種でリハ栄養カンファレンスを実施し、サルコペニアと診断された患者にBCAA配合ドリンクを提供している。毎週カンファレンスを行い、栄養状態に合わせ、運動負荷量を調整している。
POCリハが行う、食事、排泄、整容といったADL練習は1.5-2METS程度なので、低栄養の対象者でも早期から実施でき、多くの患者に繰り返し提供可能である。また、実際の食事場面で座位姿勢や環境のポジショニングにも介入し、口から食べることの支援が可能であり、POCリハはリハ栄養を支える関わりも担っている。
一例のリハの介入量とリハ栄養の取り組みを示したグラフである。
サルコペニアと診断されたら、BCAA配合ドリンクが提供され、定期的にリハ栄養カンファレンスを行い、アセスメントしながら退院となる。
POCリハでは多職種連携が最重要となる。情報共有円滑化のため、記号を用いてADLを視覚化したピクトグラムというツールを導入している。医療看護支援ピクトグラムは、対象者への支援を安心・安全に提供できるよう状態について情報共有するための絵文字であるが、当院の独自のピクトグラムは、多職種で統一したADL支援を提供し生活支援の質向上を図るためのものである。
ベッドサイドに、目標のADLと現在の能力のADLを提示している。更新は週2回、OTと看護師、ライフケアワーカーと一緒に行い、そこでも情報共有をしている。それとは別に、週2回POCリハカンファレンスを看護師と実施し、病棟生活状況の共有をしている。
2014年9月から2015年9月までのPOCリハの実績をまとめた。POCリハの実施内容状況については、排泄が最も件数が多く、次いで移動、整容が多くなっている。POC担当OT1人あたりの1日の平均介入件数は、1人あたり28~29件となっている。平均介入時間はおよそ12分台で推移している。リハの平均介入時間は、下の青い線は地域包括ケア病棟の施設基準である平均2単位40分を示している。当院では、シミュレーションで、地域包括ケア病棟入院料に4単位のリハが包括されていると考えている。地域包括ケア病棟開設以降、POCリハと疾患別リハの平均介入時間は2単位である40分から4単位である80分の間を推移している。
最後に、地域包括ケア病棟開設前後の実績データからの検討を紹介する。対象者は2013年10月1日から2015年8月31日当院に入院し、PT、OTを実施後、同期間内に地下1階病棟を退院した大腿骨近位部骨折患者74名で、2013年10月1日から2014年8月31日までの期間の患者をPOCリハ未加入群、2014年9月1日から2015年8月31日までの期間の患者をPOCリハ介入群とした。
対象者の各データ(年齢・性別・HDS-R・在院日数・疾患別リハ、POCリハそれぞれの合計介入時間・入院時FIM・退院時FIM・FIM利得(退院時FIM-入院時FIM)を算出)をカルテから抽出し、POCリハ未介入群と介入群、2群間で比較をした。HDS-R・在院日数・疾患別リハ介入時間・入院時と退院時のFIMが介入群で有意に低下していた。この結果から、対象者の認知機能の低下の程度が結果に影響しているのではないかと考え、認知機能の低下の程度別にサブ解析を実施した。
対象者の内訳である。認知機能の程度別にHDS-R21点以上を軽度低下群、HDS-R11点~20点を中等度低下群、10点以下を重度低下群と、三つの群に分類した。対象者は74名である。
認知機能の三つの程度別に各データを、POCリハ未介入・介入の2群で比較をした。疾患別リハ介入量は、認知機能を軽度低下群と重度低下群で有意に短縮し、在院日数は中等度低下群で有意に短縮、重度低下群では短縮している傾向があった。ほかの項目に有意差はなかった。
今回の検討で、POC介入群と未介入群ではFIM利得に優位さはなかったが、中等度認知機能低下者の在院日数は有意に短縮し、重度低下者でも同様の傾向があった。高齢大腿骨頸部骨折患者の早期自宅退院に影響を与える要因について、櫻井らの研究では、同居家族があること、術後1週間時点での病棟生活での移動、移乗、排泄と報告されている。前田らも、排泄行為に関わる自立度が自宅復帰を左右すると報告している。
また、認知症治療ガイドラインでは、認知症者の生活能力を維持・向上させるリハの原則として、快刺激であること、他者とのコミュニケーション、役割と生きがいの賦与、正しい方法を繰り返しサポートすることと言われており、POCリハは疾患別リハ以上に、移動・移乗・排泄の実際の動作と家族や環境に直接介入ができるうえ、認知症者の生活能力を維持・向上させるリハの原則をまさに実践している。
加えて、多職種連携も密になったことで、自宅での生活と介護に対する家族・患者の不安を安心に変えることができ、在院日数短縮につながったと考える。
まとめ。当院では、2014年9月1日から地域包括ケア病棟を開設し、病棟にOT1名が常駐し、患者が必要なときに個別で短時間排泄や食事、整容等のADLに直接介入するPOCリハを導入した。地域包括ケア病棟開設後は、開設前と比べてADLは同程度改善し、在院日数は短縮していた。POCリハは患者家族を一員に加えた多職種連携を強め、チームとして認知症ケア・リハ栄養を支えることができ、超高齢化により増加する認知症と低栄養状態を併せ持つ高齢患者に対するリハの新しいスタイルになるものと期待できる。今後もPOCリハや情報共有強化の取り組みを継続し、効果を検証していきたいと考えている。
〇石川座長
ありがとうございました。POCで生活に即したリハビリ提供をすることについてデータ解析に基づき、報告いただいた。非常に緻密なリハビリを提供されていると思う。