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【指定演題】
【指定演題】
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1.入院時連携から退院時連携、アウトカム評価について
【座長】
高橋 泰(国際医療福祉大学大学院教授)
【シンポジスト】
矢野 諭(多摩川病院理事長)
加藤 章信(盛岡市立病院院長)
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当院における地域包括ケア病棟の現状と課題
矢野 諭(多摩川病院理事長)
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■ 事務長との渉外活動で、自宅からの入院が急増
私たちの医療法人大和会は、多摩川病院のほかに、二つの病院と看護学校を一つ運営している。私はもともと北海道出身なのだが、5年前に単身で東京にわたり、今、この病院の理事長を務めさせていただいている。
調布市というのになじみがないと思うが、人口は24.6万人。どの辺りかというと、近くに3億円事件で有名な府中市があり、東京都の23区から外れているのだが、五つの市と神奈川県の川崎市の多摩区、それから世田谷区に隣接している。
受け入れ先は大学病院が近くに三つあるし、市内の急性期病院もあるし、総合医療センターもある。受け入れ先の上位三つは大学病院が二つ。高齢化率は21.3%である。東西に長い東京都のちょっと23区寄りということになる。
今の病棟構成だが、167床で、全部慢性期である。急性期病棟、一般病棟は一つもない。最初に入院時連携の段階で、病態に応じてどこで対応するかは大体決まってくる。それぞれの機能に応じて患者さんを振り分けている。
もともとは平成22年まで介護療養病床だった。全部167床全部が介護療養病床だったのだが、まず医療療養病床に変えて、回リハを作って、7月に23床で地域包括を始めた。回復期機能を中心に、軽度から中等度の急性期機能も少し兼備する。それから、重度長期慢性期機能も持っている。
平成28年の7月から、渉外活動で、在宅専門クリニックが調布市にすごくたくさんあることが分かったので、自分と事務長で何件か回ると「みんなこういう病棟があると非常に助かる」「そういう病棟だったんですか」ということで、次から次へと患者さんが来るようになり、それが一つのターニングポイントになった。
入院元実績は26年、27年、28年で、自宅からの入院が渉外活動をやってから急増した。自宅が193で、当然、入院数そのものも倍増している。
■ 医療療養病床でもサブアキュートをかなり診ている
退院先だが、自宅退院がまた増えて、半分が自宅退院である。死亡退院はほとんど医療療養だが、そんなに増えてはいない。全体の退院数も増えている。
入院元の内訳は、連携ということで、平成29年度で、92のいろいろなところと連携して、高度急性期がこれである。いろいろな地域の、いわゆる在宅系の施設とかグループホームとか、そういった92のところから受け入れたということになる。
紹介元の内訳だが、今年に入ってから急性期と在宅、前はポストアキュートだけだったのだが、最近、逆転して、在宅がもう5割を超えて、6割のときもあるということである。在宅系の合計のほうがポストアキュートより増えたということ、これはやっぱり渉外活動をやってからである。
回リハを参考までに見ると、回リハはもう全部ポストアキュートだけなので、これは当然である。
それから、医療療養もポストアキュートだけでなくて、在宅から医療療養に、少し長くなりそうな人は最初から医療療養に取って治療して、在宅系割合が増えている。医療療養病床でもサブアキュートの患者さんをかなり診ている。
稼働率・平均在日数・入院単価であるが、回リハ、地域包括、医療療養で4万、3万、2万と大ざっぱに言うと、そういう形になる。
在院日数はもうちょっと短縮しなきゃならないと思っているのだが、46日ぐらい。稼働率が94.5から93.6で、急な入院があるものなのでちょっと空けておかなきゃならないなと油断すると、結構、退院が増えてしまって、もうちょっと上げてもいいかなという感じである。
在宅復帰率は8割前後。医療療養もかなり在宅復帰率は高い、死亡退院もいるがカウントされないので、まずまずの実績である。
今年に入ってから急によくなったのではなくて、大体、安定している。地域包括で9割を切ることもある。たくさん帰っちゃったりする。でも、大体90%の後半は維持できている。単価もほとんど変わらない。
■ 多職種連携をすると地域包括ケアがうまくいく
回リハとの違いをよく聞かれる。要するに、回リハはポストアキュートだけで、集中的なリハが必要な人。ポストアキュートのところは、ある程度共通部分はあるが、回リハはポストアキュートだけ。サブアキュートは大きな差があって、医療区分2以上だし、医療区分に関係なく、医療区分1の重症者と、それからもちろんレスパイトみたいなものもあるので、必然的に在宅から直接入る人が、結構多くなる。
副次的効果ということで、かなり療養から地域包括ケアへ上がるのは、ものすごくいろいろなハードルがある。データ提出加算とか、患者の確保とかである。だけど、うまいことなんとかつらいことを乗り切って、かなりモチベーションも上がった。
それから在宅専門クリニックとの連携で、地域のニーズと合致ということで、ウィンウィンの関係を築いている。
いろいろいいことがあったのだが、当院から帰るときに、在宅はちょっと厳しいなというときに、新たな主治医になってくれると在宅専門の方が言ってくれたので、それでまた少し帰せる人も増えた、非常にうまくいったのである。在宅医療専門医が新たな主治医になった。それからほかの病棟の退院促進にもなった。ある程度、質の担保というのが求められることになる。
慢性期病院に求められる一般的なもの、時々入院をサポートするのは地域包括である。認知症の身体合併症、ターミナルは、介護医療院、それから医療療養である。一般的な、軽度から中等度の急性疾患、これは医療療養でいく。
在宅療養支援診療所と提携して後方支援をやる、これは必須なのだが、自院の医師が、積極的に地域の訪問診療に参加するということもやると円滑にいく。
いずれにしても、地域の中で多職種連携をすると地域包括ケアがうまくいく。地域多機能型病院と言っているが、多彩な診療機能を整備しなければならない。
■ 公開セミナーなどで定期的に地域に知らせる
入退院支援の話だが、自宅とか特養からの入院のサブアキュートは、退院先はそこに帰れればいいわけなので、多くの場合、同じになる。
だから、これは入院時にタイムリーな受け入れをやれば、帰るときも円滑である。すでに在宅医療専門医がいたり、ケアマネジャーも決まっていることが多いので、できるだけそこに帰せるようにすると、大体うまくいく。
ただ、とにかくタイムリーな受け入れで、こういう方がいるのだがどうかと先生を探していて、ないときに、専従の看護師さんがある程度トリアージもできるので、いいですよと言ってから医師に報告するということもできるわけで、これは看護師である。
急性期からのポストアキュートの場合は、どこに帰るかがなかなか決まらないので、入院前にいろいろな情報を得て、いろいろなところを多角的に考えなければならない。だから、これはちょっと時間がかかる。やっぱりソーシャルワーカーだとなかなか判断できないので、看護師さんである。
でも、諸事情、身体面・精神面、CGAの話がさっき出ていたが、当然である。それでどこに入れるか、どこに帰れるか。結構、お金の問題がある。こういうことまで含めて、ちょっと時間をかけてやらないといけない。
ケアマネジャー、退院後の主治医選定、先ほどの先生たちが具体的に言っていたようなことを当然やる。多職種カンファレンスということになる。誰が主治医になるか。
今後の課題は、もう高いハードルではなく、幸いお医者さんが入ってくれた。それで、もう3カ月で20件をなんとかクリアして、実績を積んでなんとか1にする。1日180点の加算になるので、50床前後で三千何万ぐらいになると思うのだが、いずれにしても、今後は自分のところも一定数の訪問診療、訪問リハをちょっと請け負う。
ただ、在宅の方とバッティングしないように、初めて主治医になるようなのは当院が積極的にやればいいのである。介護医療院にどのぐらい地域が転換していくかちょっと分からないので、そこらへんをもう一回把握して、こちらとの連携もしないといけない。
いずれにしても、三つの病棟をうまく使っていく。患者の確保、診療の質の確保、採算性確保である。
医療と介護の一体化ということである。「時々入院、ほぼ在宅」を支援する、地域の多職種スタッフ、特に医師会との連携は絶対大事だし、やっぱりキーパーソンはこの人たちとケアマネジャーということになる。
地域公開セミナーなどをやって、定期的にどんなことをやっているかを常に地域に知らせるようにしている。
■ 公開セミナーなどで定期的に地域に知らせる
在宅医療専門医の方とも連携して、大変うまくいった。トリアージがある程度可能である。これはちょっと多摩川では無理だが、これは高度急性期だな、ここまでならもう大丈夫だなというのがもう大体分かってきたので、そんなに難しい患者さんが来ることはない。
7、8人の医師でやっているので24時間365日やっている。ターミナルもやる。それから病院でできることは、私たちは全部できるということなので、それもやる。こういうふうに、この在宅医療専門医との連携がやっぱり一番必須だということである。だから、もっと在宅医療専門医の方の評価をしていただきたい。
そして、後方支援とともに、自分の病院も在宅医療に積極的に関与する。医師の需要としては、総合診療医のほうが圧倒的に需要としてはあると思う。もちろんこちらも大事である。
そういうことで、受け入れ元によってかなり入退院時連携が異なるので、専従看護師、それから専従MSW、ケアマネジャー、これがうまく連携して、受け入れ元によってどういうふうに退院支援をしていくかが、かなり細かな対応が求められることになる。
以上、当院の現状について、主に入退院の実績を中心に報告した。今後は訪問診療件数を増加させる必要がある。
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急性期ケアミックス型病院での入退院患者支援センター設立に向けて
加藤 章信(盛岡市立病院院長)
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■ 自治体病院の役割が問われている
入退院支援センター、Patient Flow Management(PFM)は、すでに多くの病院で採用されている。私どもの盛岡市立病院では、遅まきながらこのシステムの試行を始めている。
PFMをすでに運用されておられる医療機関の皆さんには経験されている事項だが、今後導入を計画されている皆さま方にとって、当院の進行形の現状をお示ししたいと思う。
発表のキーになる部分は、仲井会長の提唱されるPFMのpatientからpersonにするということと、ケア病棟が病院運営の中心の中でどのように「入・退院調整」(日常生活とのインターフェース)と連携させるかがポイントと考えている。
私どもの自治体病院、公立病院は、昔は「地域医療の砦」と言われていた時代もあったが、いろいろなことがあって、現在、オフィシャルに期待されている機能というのは、山間部あるいは救急・小児といった不採算部門とか、あるいは、静岡県立がんセンターみたいな機能、それから医師の派遣の拠点といったようなことがいわれている。
当院のように県庁所在地にある市立病院だとか県立病院は、どういう意味があるのか、どういう役割をするのかといったことが問われている現状だと理解している。
盛岡市については、県庁所在地であるので、病院とか医師の不足がないという条件があり、大学病院とか日赤とか中央病院といった大規模な病院があるということで、私どもの病院はナンバー4ということで、大病院のミニチュアでは存在理由がない。
米国の自動車産業でも、ビッグ3はつぶれなかったがナンバー4はつぶれたということもあり、自治体病院自体の逆風というか、厳しい状況もある中で、どうやって自分たちの存在理由、意味付けを出していくかということが求められていると思う。
武久洋三先生が2014年に自治体病院協議会の地方会でご講演されたが、自治体病院こそ地域の在宅療養後方支援病院となるべきだということをおっしゃっておられる。
■ 病床利用率を上げるため、全力疾走している
私どもの市立病院の役割としては、大学病院等からのポストアキュートであり、それからもう一つは、地域と地域医療・介護機関との連携をとって、地域包括ケアシステムを支えるといった役割があろうかと考えている。
地域医療連携について、社会の変遷だが、2000年ぐらいから前方連携重視といったことが出てきたし、2006年ぐらいからは後方連携重視といったようなことの概念が出てきた。2008年からは、地域全体を包括したことを考えていこうというような流れになっている。
その中で当院の変遷を見ると、当院も亜急性期病棟というものを持っており、地域連携室担当看護師長を配置していた。
2014年から、地域包括ケア病棟40床、翌年には60床、1フロアということにしている。そして、各病棟に退院支援看護師を配置したということになっている。
昨年の10月から後方支援担当の看護師長を配置して、前方、後方の支援の役割分担をしようということになっており、進行形と申したように、今年の10月から入退院患者支援センターを導入しようということにして、現在準備中である。
入退院支援について、進行した結果のアウトカムというものはお示しできないわけだが、現状はどうなっているかというと、一つは包括ケア病棟の運用状況では、結石除去とかの泌尿器科の手術、糖尿病教育入院という、サブアキュートというか、フレッシュな患者さんを入棟させているが、病床利用率が85%ということで、まだ十分ではないということがあった。
それから、60日の入院期間がある中にもかかわらず、介護申請や認定に時間がかかるとか、あるいは、お金のかかる施設には入りたくないといった、家族の同意が得られないというようなことがあって、転棟患者が60日で退院できないという事例も表面化してきた。
しかしながら、病床利用率を上げるといったこともあり、転棟基準の見直しをして、退院支援を進めないことが問題だということで、そこの運用の改善計画を図る必要があるということが現状の把握である。
先日、地域包括ケア病棟協会の参与をされている小山秀夫先生が当院にお越しいただき、ご指導いただいた。「やっぱりこの85%じゃ駄目でしょう」ということで、「90%以上の目標にするように」と言う。大変、明快なご指導をいただいて、これがきっかけで当院の看護師をはじめ、スタッフがみんな、「これなんだ」ということで、今、ここに向かって全力疾走しているところである。
■ 病院と地域が統合された巴の関係をつくる
当院は地域密着型の病院としてやっているので、従来からの専従看護師1名では業務過多であった。2名にはしたのだが、まだ十分、運用がいっていない。それから、診療報酬の加算が取れる体制が不十分だったり、各部署での退院支援が自立不十分だったりということで、地域包括ケア病棟があるのに活性化が足りないのではないかということで、このPFMをやることと、地域包括ケア病棟を活性化するということの、両方を行うためのシステム化、刷新が必要だという現状である。
抄録では入退院患者支援センターという名前にしていたのだが、従来から当院では、地域医療連携室というもので運用していたので、地域の先生方とか、介護施設のスタッフの方になじみ深いようにということで、現実的には医療連携支援センターという名前で運用させていただくということになっている。
高度急性期病床の効率化を図る、生産工程の前倒しとか、在院日数の短縮といったことを解決するために、Patient Flow Managementという言葉が出てきたわけだが、仲井先生の提唱されるPerson Flow Managementということで、病院と地域とがお互いに連携するということが大事であり、病院と地域が統合された巴の関係をつくるということが、この地域、社会にとって非常に大事であるという考え方から、当院でもこのPerson Flow Managementという概念を取り入れようとしている。
ご本人やご家族の安心・安全を中心に据えて、入院・外来の流れの中で、そして、在宅といったそれぞれの役割分担があるが、これを上手に連携していくという意味でPersonなのだということを、私どもも考えている。
■ 在院日数の短縮がゴールではない
当院での役割だが、大きく言って入退院支援業務と療養支援業務がある。治療の説明とか、生活のオリエンテーションというのはどこでもやられていることだが、当院で特に必要なのは、サブアキュートがうちは多いので、医師の協力もいるわけだが、サブアキュートの患者さんをどこに入れるかということの判断をクリアにして、そして、地域包括ケア病棟を充実させるところに力を入れたい。
それから、公立病院でなかなか表には出て行けていなかったが、これからは当院のかかり付けの患者さんへの訪問看護を開始する。
専門・認定の看護師がいるので、総合診療をやる内科医師といったようなものでチームを組んで、そして、「民業を圧迫しない」と書いたが、地域でそういうことをやっている先生と良好な関係を取りながらやろうということである。
PFMスタッフと病棟スタッフの連携で、フレキシブルなケア病棟入棟条件、それから在院日数の短縮がゴールではないといったところを強調して進めていきたいと思っている。
当院ではベッドコントロールは看護部がしているので、これは継続するし、外来でのオリエンテーション、入院時からの退院支援、それから訪問診療・訪問看護の対応といったことを行えればと思っている。
目標としては、ケア病床の運用はこういったPFMを行うことで90%を目標にしたいと思うし、院内転棟とともにサブアキュートが多いので、こういった人たちの入院先を、基準を見直して、退院支援の進捗にこだわらず、転棟させていきたいということを考えている。医師との協力、連携も必要である。少しずつ退院支援の現状が増えている状況がある。
改めて職員の意識の改革というものが必要になるし、行政や医師会などの情報提供、それから、市内を中心にした医療機関・介護施設への訪問といったようなもので、情報提供をさせていただくということが重要になろうかと思う。
一つは、この職員の意識改革ということ。もう一つは、医療支援センタ-というものをおいて、専従の職員がこのフォローを行うことで、県庁所在地にある公立病院としても、大学のミニチュアではなくて、地域に密着した医療を提供できるのではないかと期待しているところである。
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2.退院前訪問指導と退院後指導、診療体制について
【座長】
高橋 泰(国際医療福祉大学大学院教授)
【シンポジスト】
小笠原 俊夫(真栄病院理事長)
織田 良正(織田病院連携センター)
【指定発言】
宇都宮 宏子(在宅ケア移行支援研究所代表)
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生活復帰につながる・生活を改めて考える退院支援
小笠原 俊夫(真栄病院理事長)
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■ 三つの病棟と一つの施設という四つの機能で運営
退院前訪問指導、退院後指導ということでテーマを頂いたのだが、皆さまにどのようにこれをご紹介したらいいか迷った。リハビリテーションを中心に関わっている皆さまだったら、改めてという感じもあまりしないのだが、今日は急性期の先生方もいらっしゃると思ったので、改めて私どもの退院前訪問、退院前指導についてのいろいろな実例等をご紹介できればというふうに思っている。退院後指導というのは、私どもは実際にはほとんどしていない状況なのだが、そのへんについてもちょっと触れて紹介したいと思う。
そのあと、実はこのテーマ自体を頂いた中で、高齢者、障害者の入退院支援をしている中で、私たちは非常に奥深さも感じたので、そのへんについても触れさせていただければと思っている。
私ども真栄病院は、三つの病棟と一つの施設という四つの機能を持って運営している。今日、お話しするのはそのうちの一病棟であり、ケア病床18床と一般病床37床で一つの病棟として運営している。算定の基準については書いてあるとおりの状況である。
病院の特徴をお伝えしたいのだが、入院元の紹介の内訳を見ると、55床の病棟全体では急性期病院からのポストアキュートが約半数ちょっと、サブアキュートに値する患者さんが45%ぐらいという状況である。
それを地域包括ケア病床18床だけで限定してみると、院内の一般病床からの移動が60%とかなり多い状態である。急性期から直接入られる方は25%で、整形外科疾患の方がほとんどである。在宅系の方が11%、18名ぐらいなのだが、この18名のうち緊急入院になっているという方は13名しかいない。
入院時診療計画書を書くときに、どのぐらいと大体の予想を立てるのだが、自分なりになるべく正確な予想を立てられるようにと思った。
そうすると、2カ月ではなかなか退院できないだろうと思われる方が、3分の1ぐらいいた。この未定というのは、もしかしたらすぐ亡くなるかもしれないなというような状況なので、3カ月以上とはちょっといえないのだが、この3分の1の方たちは、2カ月では退院できるというふうにはちょっと想定できないという状況だった。
こんな状況の中で、ケア病棟18床だけの退院先なのだが、なんとか75%を保ちながら、在宅の復帰率をクリアしている。自院の中で、一般病床で一度受け入れて、そこで患者さんのコンディションを整えて、退院がある程度見えたら、地域ケア病床のほうに移動しているという、急性期の病院でケアミックスみたいな形で利用しているものと基本的には変わりはないと思うが、このような形で運営している病院である。
■ 服薬管理、栄養摂取は見逃してはいけない点
退院前訪問指導の対象として私どもは、ご自宅に帰られる、在宅系に帰られる人たちは基本的に全員対象だというふうに考えている。
ただ、その中で、IADLも自立されて、身体的・社会的に課題もないなという方は除いている。回復期病棟もある病院なので、基本的には在宅へ帰る方のほとんどが対象となるというふうに、病棟内、リハスタッフ、ソーシャルワーカーは全て考えているという状況である。
今日頂いたテーマの中で、退院前訪問指導についてお話ししていく前に、実際の訪問というものとは別に、私は退院に向けての指導という要点を一度皆さんと確認したいなと思う。
とても大切な要点としては、一番はやはり家族、本人の非常に不安が強く、特に医療管理等について、ここに書いてある痰の吸引、カテーテルももちろんそうなのだが、とても重要なのは服薬管理である。薬の薬効のこととか、その服用の仕方の作法とかそういうもの、それから栄養摂取、このへんは見逃してはいけない点かと思う。
それから2点目は家族負担の軽減、それから、本人のリスク管理等の指導もしっかりしていかないといけない。あと、経済的な基盤の準備、急性増悪時の準備で、少なくとも上のこの四つはとても重要な状況ではないだろうか。
家庭内役割、社会参加、このへんはリハビリテーションに携わっている方たちは非常に重要だというふうに考えていると思う。
私ももちろん同じように考えているのだが、2カ月以内の短期間でご自宅へ帰っていただく中で、私どものように障害が結構重い状態で受け入れる方を家に帰すとなったら、この二つはもしかしたら最初からご家族やご本人に担わせるのはちょっと荷が重いんじゃないかという印象を持っている。ご自宅に帰ってから、地域の介護、在宅医療を支える方たちに、ここは少し委ねたいというのが率直なところである。
実際に、今度は退院前訪問指導に行くときになると、もうちょっと視点を少し狭めてもいいかと思うが、内外のアクセス、寝る、食べる、排せつ、保清、このへんの実際の状況、動作とそれらの間の移動方法を確認していく。それから、本人の能力、パフォーマンス、これはリスク管理も含めてそういう能力をしっかり確認する。それから、家族介護の指導という、この4点に少し注目して実際に行っている。
■ 私たちの大胆な提案に、ご家族は積極的に取り組んだ
昨年1年間で私ども地域包括ケア病棟から退院された方の、実際の退院指導に行った例なのだが、18名でちょっと少ないかなという感じはするが、一番向かって右側にFIMが書かれている。これは訪問時のときのFIMである。
一番高い方で114、一番低い方で18、ほとんど全介助である。こういう幅が非常に広く、介護度も全介助から、ほぼ自立に近いぐらいの状況の方たちでも実際に退院指導をしたほうがよかったという方である。
実例をちょっと紹介させていただく。この方は84歳の男性で、脳出血の後遺症の方なのだが、回復期に入棟するチャンスを逃してしまった。肺炎等の合併もありながら、胃ろうを作るかどうかということを迷いながら、まず、私どもの病院の一般病床に入ってきて、嚥下の評価とかをしながら、胃ろうを作って、地域包括へ入って退院に向かった方である。
私たちは、まずこの方の持っている生活のイメージというところから入っていくが、介助者が奥さまと娘さんということ、ほぼADL全介助で、食事摂取は胃ろうから、アイスクリームを食べることが少しできるというような状況の方だった。服薬管理等に関しては、もちろんご自分ができるわけではなくという状況である。
実際、訪問に行くと、エレベーターホール前に階段が3段ある。こういう状況で、車いすでほぼ全介助の方が帰るとなると、それなりにハードルが高いなと理解していただければいいと思う。
ご自宅の部屋は、玄関から入り、廊下があって、寝室、居間である。ここに問題点が書いてあるが、先ほどの玄関のところは、車いすを二人以上で持ち上げないと無理である。
それから、あとは大切なところは、介助をするのは奥さまで、奥さまと一緒にこの寝室で二人に寝るのにはあまりにも狭い。介護用のベッドと一緒に、もう一つ布団を敷くとか、そういうことはなかなか難しい状況であった。
それで、ここで提案したのは、廊下側のここの側面を撤去したらどうか、それから車いす洗面台を使用することがとても難しいので、オーバーテーブルを使ったらどうかということを提案したりしている。
この細い廊下の左側に、ここに寝室の入り口がある。ここの壁を取ることを提案した。結構、大胆な提案だが、一応したところ、ご家族としてはすごく積極的にこれに取り組んでいただいて、実際に撤去をしていただいている。このような形で変えられた方である。
■ 入院での診療と在宅、ここをなんとかつなぎたい
もう一例の方は、今度はFIMが非常に高く、ほぼ歩行器等を使いながら、ご自宅では自立した生活ができる方なのだが、この方は廃用症候群なのだが、もともと腰部脊柱管狭さく症があって、歩行が不安定だったのだが、合併症で、さらに歩行、移動能力が落ちて、私どものところに入ってきて、地域包括ケアから治療をして帰られた方である。
この方の指導については、ご自宅へ行って、夜間とかに転倒をなるべく防ぎたいので、多くは転倒しやすい状況を中心にして4点ぐらい提案をして、手すりを付けるとか、浴室の中で転倒しないように滑り止めマットを使うとか、そういうような提案をしている。こういうような提案をして、退院前指導をしていく。
退院後指導についてなのだが、実はほとんど実績はないとお伝えしているのだが、指導という形での実績はないが、私どものところでは、退院後の生活状況、特に心配なここに挙げられているような方に関しては、ソーシャルワーカーが中心に、地域の在宅系の方たちとの連携を取っていて、その後どうなっていますかという情報確認をすることはとても多い。
情報確認をする中で、何か問題があれば、改めてそこに提案をしたりすることはあるが、指導というような形では、介入しているとはちょっと言いづらいなと思っている。
ただ、私どもは退院後指導までいけるかといったら、実際に同じ法人の中で、私どもの法人の訪問看護ステーションを使っているとか、私どもが実際に訪問診療に行っている中で指導することは普通にあるのだが、ほかの医療機関が主治医であったりすると、なかなかここへ踏み込むのが難しいなというふうに思っている。
ただ、その中で、実際に指導に当たるスタッフが、日々の診療から離れて訪問指導に行ったら数時間不在になる。その空けるだけの余裕というのは、入院のリハや入院の看護、入院の診療をするので、もう精いっぱいだなというのが率直なところである。
それから、もう一つ、指導を行うスタッフの知識・経験・技術不足である。これはうちのスタッフの技術がないということをお伝えしたいのではなく、入院の診療とかその内容は充実しているのだが、ご自宅に帰ったときのその方の生活のイメージというのが、リハスタッフはかなりでき、ソーシャルワーカーもかなりできるが、看護師、ケアワーカーたちは、ここが弱い。入院での診療と在宅というところは、そこで切れてしまうというところが、私どもの問題だなと思っている。ここをなんとかつなぎたい。
退院支援の専従の看護師さんがうちにはいないのだが、そういう方がここにとても重要な役割を果たしていくのではないかなと思う。それから、地域の医療・介護職からフィードバックでまかなえることも少なくないということがある。
■ 入院中に対応したスタッフがご自宅まで見に行く
ご自宅に帰ったら、ADLが思ったよりすごくよくなった、戻ったという症例は少なくない。訪問診療している方であれば、経験がたくさんあるんじゃないだろうか。
逆に、ずっとなんとか横ばいだという方や、少しずつ悪くなっていく方、はっきりとした原因で悪くなっていくのであればすぐ解決できるが、年齢の経過とともに落ちていく状況で、自分たちが提供しているケアや医療が本当に正しいか、皆さんも自信を持って言えないのではないだろうか。
私も自然経過なのか、ケアが悪いのかと迷うことが多々ある。こういうときには、本来、ちゃんと指導をするというか、実際に見に行くことがとても大切である。それから私たち自身の、在宅の生活のイメージを少しでも作るためにという意味では、入院中から関わった看護師や医師、介護士たちが、実際にご自宅へ行ってみるということはとても重要だと思う。
効率のよい指導方法とは何かといったら、私は最もいいのは、入院中に対応したスタッフたちがご自宅まで行って、実際に見てみるということだと思う。
私は高齢者、障害の方たちの入退院支援を医師として関わることが多い。自分の病院の中で入退院支援とはどんなことをしているかということを言葉にすると、こういうものを丁寧にしているかどうかというふうにしか、私はちょっと思えない。
その中でも、私の病院の中では、この入院前面談または入院前に訪問して、実際に患者さんの状況をこちらから見に行く。さすがに入院前訪問までは医師は行けないのだが、入院前面談では、医師、看護師、ソーシャルワーカーがほとんど関わる。
そして、入院時カンファレンス、入院診療計画指導、このときに医師、看護師、ソーシャルワーカーを含め、病気の治療の目的とかいろいろなものを共有するということはとても重要だと考えている。
■ 最期をどう迎えたいか、どう生きたいかを一緒に考える
昨年度の入院前面談を実施した状況だが、地域包括ケア病床と一般病床全体で55床。入院患者さん347名のうち、入院前面談を実際にした方は102名である。
どういう方がしているかというと、全員ではないが、やはり障害が重くて、予後が私たちも自信を持ってなかなか伝えづらい、ご家族も非常に理解が難しいだろうなという方、それから、家族の方やご本人が治療の効果を非常に高く期待していて、私たちが予想するものよりもずっと上のものを期待しているなというようなときで、102名しているのだが、このほぼ全例に医師が関わっている。
入院前面談の要点は、治療の目的、入院期間の共有、それからここは結構重要だと思うのだが疾病の予後、それから、退院するときの生活のイメージというのを、本当に具体的にお話ししないといけないと思っている。
そして、病状の重い方を診ることも少なくないので、まず私どもの病院の持っている医療の限界というものをちゃんと理解していただく。私どものところでは人工呼吸器を持っていない。あったのだが、高齢者中心の医療の中で、人工呼吸器を使って、いいことがなかったので、そういう物を使わなければいけない状況の方たちは、私たちのところではちょっと診られないと、はっきり私たちはお伝えしている。
そういう中で、もしだんだん悪くなっていって亡くなるときに、最期をどう迎えたいかとか、または、いろいろなリスクを抱えながら生活へ戻るのであれば、どう生きたいかということを一緒にここで考えるということが、とても重要な、最初の機会だと思っている。
私どもの病院の地域包括ケア病床18床から元気で退院されることが目的で私たちは治療を続けている。しかし、残念ながら院内の他病棟へ移られた方がいる。昨年度1年間では19名の方がいる。その中で、やはり病状の経過が予想外に悪くて、12名の方が療養病床に移られたり、一般病床で治療し直したりということがある。それから、退院経過が思ったように進まずという方が7名ぐらいいる。
こういう方たちにも、ある意味では、退院ではないのかもしれないが、疾病の予後を理解していただいて、最後をどう迎えるかという、ACPのことを考えるのであれば、これも入退院支援の大切な一つの在り方、役割ではないかと思っている。
入退院支援の目的というのを拡大解釈したら、私としては疾病・障害の予後をしっかりイメージしていただくことがとても重要だと思っている。
それから、治療方針の理解をしっかりしていただいて、選択をしっかりしていただくということが重要であろう。
そして、本人、ご家族で生活のイメージをしっかりつくっていただいた上で、もし障害が、または病気が、非常に予後が悪いようなものであれば、人生の終焉に対する準備とか心構えをしていただくということがとても重要なんじゃないかなと感じて、入退院支援に医師として関わっている。
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退院前訪問指導・退院後訪問指導・診療体制について
織田 良正(織田病院連携センター)
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■ 入院患者は、後期高齢者が半分以上
佐賀県鹿島市にある織田病院連携センター/内科医師の織田良正である。今回、退院前訪問指導、退院後訪問指導、診療体制についてというテーマを頂いた。
当院の位置する鹿島市は高齢化が進んでおり、高齢化率は30%を超えている。進み続ける高齢化にいかに対応していくか。当院の取り組みなどをお話ししたい。
当院は、一般急性期病床が103床、地域包括ケア病床が8床ある。平成29年度の平均在日数は12.1日。病床利用率は92.4%で、こちらは稼働率に直すと100.2%である。新規入院患者数は年間3000人を超え、111床の病床を年間を通じてフル稼働している状態である。
当院は開放型の病院にもなっており、登録医の先生が60名おられる。地域の先生と密に連携を取りながら地域医療を支えている。
当院の機能として、まず外来の説明をする。以前1日600名ほど外来がいたが、地域の先生方に逆紹介することで、現在300名まで減らしている。
逆紹介で外来患者を診て頂いている以上、精密検査、入院治療が必要で地域の先生方から紹介して頂いた患者さんは24時間365日断らない。これが当院の役割だと自覚している。
また、医療機器に関しても、CTやMRI等は共同利用を進め、年間1000例以上の紹介がある。当院で完結できない検査、治療に関しては、佐賀大学病院を始めとした高機能、高度急性期の病院にお願いしている。
逆に、高度急性期から退院した患者を受け入れる役割を担っているが、当院の地域包括ケア病床では高度急性期からの転院加療、いわゆるポストアキュートの患者を受け入れる際に利用している。地域包括ケア病床でポストアキュートをケアした後に、きちんと自宅に帰す、そして開業医の先生方、かかりつけの先生方に戻すというのが第2の機能だというふうに感じている。
実際に当院の入院の患者の内訳は、平成28年度の段階で、75歳以上の方が50%を超えている。65歳から高齢者ということだが、後期高齢者の方で半分以上を占めており、さらには4人に1人が85歳以上という状況である。
■ 救急を断らない、きちんと紹介患者を受ける
そういった中で、今までのように「病気を治す」だけでは退院は難しくなっており、病気を治した後の生活を支えるというところまでをどう実現していくかを模索しているところである。
自宅に安心して帰るというのはどういうことか。やはり退院前後での連携、そして退院後の診療体制の構築が非常に重要だと思っており、急性期病院も自宅に帰った後というところを意識しないと、病床を上手く稼働させることができなくなり、急性期機能自体が維持できなくなってしまう。
75歳以上の入院の患者はもちろん、85歳以上の入院患者数は、数でいくと10年前より3倍ぐらいになっている。10年前は3000人入院して300人ちょっとなので1割程度だったが、今は900人近くに上っており、入院患者全体の3割近くになっているという状況の中で、当院の役割は、やはり救急を断らない、そして開業医の先生の外来で診ていただいている状態の悪化した方の紹介を受けるというのが役割なので、患者を受け入れ続けるためにも、しっかり帰し続けなければならない、病棟を回転させなければいけない。
平成25年度から、いわゆる多職種協働というところで、薬剤師、管理栄養士、セラピスト、医療ソーシャルワーカーを病棟に専属配置として、入院したその日から全員で、総力戦で退院支援を行っている。こちらは朝の申し送りの写真だが、看護師以外にも多職種が参加しており、自分が請け負っている部分の進行状況などを、それぞれ報告している。
多職種の病棟常駐によって、それこそ普段の会話自体がカンファレンスと同じようなものなので、非常にスムーズに連携が取れているというより、もう普通の会話が退院支援につながっている。さらに各科の回診に多職種が入ることで、自宅での内服薬はどうなっているのとか、栄養はどのような形態がよいかなどを、各専門職にその都度確認して、自宅でも十分生活が出来るかどうかをチェックして、退院が可能かどうかをリアルタイムにその場で話し合うことができる。
ソーシャルワーカーも回診に参加しているので、退院調整もその場で即座に行うことができる状況である。
■ 退院直後のケアに必要な多職種が連携センターに集結
退院前の訪問指導については、加算を取るということになると、1カ月以上の入院が見込まれるという算定要件が入ってくる。
当院は、そもそも在院日数自体が12日で回しているので、退院前の訪問指導が必要な方はいるが、指導料の加算自体は難しい。大体、月に3件程度の算定に留まっているが、在院日数が短いため仕方がないと考えている。
入退院支援加算は昨年度、退院支援患者の約9割以上で算定している。あとは介護支援連携指導料も、要介護者の60%弱で算定している。
退院後の訪問指導はどうしているかというと、退院後の訪問指導に当たるかどうかはなかなか難しいが、自宅に安心して帰ってもらうというところで、当院では必要に応じて退院直後に訪問サービスを利用している。どういうことかと言いますと、急性期病院から退院後は当院に通院するにしても、かかりつけ医に通院するにしても、次回外来までの間、つまり退院直後から退院後外来日までにどうしても空白が生まれてしまう、入院中のケアが途切れてしまう。
特にご高齢の方は家に帰って安静にしているだけになってしまい、入院中はリハビリもしたり、栄養管理もしたりしていたところが、全くなくなってしまうので、特に独居の方、老老介護の方は、かかりつけの先生の元に戻ってしまう前に再入院となったり、かかりつけの先生の外来に行ったときも、状態が悪化しているケースも少なくないため、退院直後を亜急性期と考えケアするために、訪問サービスを利用して退院直後をカバーする体制を整えた。、この退院直後の訪問サービスを院内の連携センターを基地と見立て訪問サービスの拠点とし、病院から多職種で外に出向こうということでメディカル・ベース・キャンプ(Medical Base Camp)と称し、取り組んでいるところである。
もともと当院の連携センターには訪問看護・ヘルパーステーションを併設し、こちらに訪問看護、訪問リハ、ヘルパーが入っていたが、ここにソーシャルワーカー、ケアマネジャーも入れて、退院直後の患者の情報を収集し、退院直後のケアはここで全て完結するための職種が揃っている。
連携センターでは大型のモニターに訪問患者宅をプロットして、そして訪問看護師のiPhoneのGPS機能を用いて、動態管理をしたり、患者宅のテレビを用いて在宅生活の見守りを行ったり、IoTを活用した様々な取り組みを行っている。
■ 治し支える医療の実現に向けて多職種協働
ある日、織田病院で当直した時に、救急、病院内、介護施設、そして在宅と一晩で4人の患者の看取りをした。多死社会は目前に迫っており、今後はいろいろな場面で「タスクシェア」が必要であると痛感している。
例えばある89歳の男性の場合、入院時の病名は急性心不全、誤嚥性肺炎、腎不全、認知症、廃用症候群、骨粗鬆症といったように、もはや主病名は分からないほど多岐に渡る場合がある。複数疾患に対してどのように優先順位を付けて、時には平行して治療しながら、どうマネジメントするかが重要で、診療科、職種、そして病院だけでなく業種を越えた協力体制が絶対に必要だと感じている。
当院は、「2人主治医制」を勧めており、当院では入院主治医、かかりつけの先生方は外来主治医として、入院中の治療、外来での治療を検討するカンファレンスを開催したり、あとは登録医の先生の院内回診も週に1回して頂いている。
今後は医師だけでは手が足りない部分に関して、医療の部分でもやはり看護師の力が必要になってくる。医療連携に関しては、もちろんケアマネジャー、ソーシャルワーカーの役割がより大きくなってくる。
医療・介護は診療報酬改定、介護報酬改定でも示してあるように一体化し、境界はどんどんなくなってきているような状況である。今後も「治し支える医療」の実現に向けて多職種協働で、総力戦で頑張っていきたいと思っている。
あとは現在、私は佐賀大学の総合診療部に所属しているが、今取り組んでいることが果たして正しいのか、データとして出すことができるのか、どういった効果があるのかということを明らかにするために、大学の医局の先生方にご協力いただいて、研究しているところである。 「地域完結型医療」という言葉があるが、今後は一人一人の患者の地域完結型医療を地域の医療機関、地域の先生方と繰り返すという意味で、「地域循環型医療」になってきていると感じている。
「Aging in Place~住み慣れた地域で最後まで~」の実現を目指して、今後も一歩ずつ前に進みたい。
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特別発言
宇都宮 宏子(在宅ケア移行支援研究所代表)
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〇宇都宮
主に病院のナースたちを中心に、看護として退院支援(在宅移行支援)を普及・教育活動をしている宇都宮です。京都から来ました。
退院支援研修に、地域包括ケア病棟を立ち上げることになったので学びたいというナース達の受講が増えている。今回、仲井先生のつながりもあって、一日参加させて頂いた。
ナースやリハビリ、ケア職の方も来ていると思うが、患者は生活者であるということ、入院医療を受けたけれど、これまでとは、暮らし方を再構築しなくてはいけない人が退院支援の対象者である。急性期病棟から、きちんと転棟や転院の目的、どのような状態像をめざすのかが、適時に説明されないまま、皆さんのところや療養病床に転院されているという現実もまだまだあるのではないかなと思う。
今、体に起きていることを知りながら、その上で、これからどうやって生きていくかという“意思決定支援・方向性の共有”を入院決定から、入院中、そして退院後まで含めて、医療チームみんなで実践して欲しい。特に患者のそばにいるナースは、伴走していますか?
退院支援の一連のプロセスを可視化し、在宅支援者も含めたチームで連携・協働していく。その上で、病院医療者は、病院の勤務経験しかないので、ぜひ退院後訪問指導とか、退院前の自宅訪問に出かけていこう。
暮らしの場でどんなふうに療養されてきたのか、患者が、これからどう折り合いをつけながら暮らしていくかを、在宅の場で一緒に考えていこう。そして地域包括支援センターやケアマネジャー・訪問看護・訪問リハビリ等在宅支援者と共に在宅移行に取り組んでほしい。
そこでは、病院では見たことがない“生活者”としてのイキイキとした表情の患者に出会う。そして安心した暮らしへ移行するために、病院でやるべきことを丁寧に実践していただきたいと願っている。
(了)
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