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【シンポジウムⅡ】
【シンポジウムⅡ】
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地域医療構想、地域包括ケアシステムの構築に向けた
地域包括ケア病棟(床)の現状と課題
【座長】
小熊 豊(砂川市立病院名誉院長)
【シンポジスト】
1.3つの病院機能から見た地域包括ケア病棟(床)
(1)急性期ケアミックス型病院から──石川 賀代(HITO病院院長)
(2)ポストアキュート連携型病院から──戸田 爲久(ベルピアノ病院院長)
(3)地域密着型病院から──志田知之(志田病院理事長)
2.在宅医療・介護から見た地域包括ケア病棟(床)
田中 志子(内田病院理事長)
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急性期ケアミックス型病院から
石川 賀代(HITO病院院長)
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■ 激動の時代、地域ケア病棟の役割は非常に大きい
地域包括ケア病棟を開設して4年が経つ。この講演では、地域包括ケア病棟の開設を振り返りながら、現在の新しい取り組みについてお話しさせていただく。
社会構造の大きな変化というのは、医療、介護連携にも大きく関わってくるところではあると思うが、これがかなり早く私たちの環境の変化に適用するので、かなり早くやっていかないと大変なことになるのではないかという危機感を持っている。
この5年から10年の激動の時代をどんなふうに乗り切っていくかというところで、地域ケア病棟の果たす役割は非常に大きいというふうに考えている。
私たちがこれまで提供してきた医療のあり方というものに関してもかなり大きく変わってくる可能性があり、生活の視点や、働く側の人間の姿勢というものも大きく変化してくるというところで、それぞれの病院が地域特性を考えた上で、どのように自分たちの行く末を考えて決めるのか、それを決めるのは早く決めなければならないという段階に来ているのではないかと思っている。
私たちの病院は、県庁所在地で四国のどこに行っても1時間以内という四国中央市であるが、愛媛県の東の端で、香川県、徳島県との県境にあり、9万弱の人口である。今、高齢化率が29から30というところにきているので、典型的な地方都市であり、過疎ではないのだが、医療圏は地方都市型となっている。
許可病床は257で、急性期のケアミックスという形を取っていて、新しい病院になって6年目を迎えるのだが、実際にケア病棟が果たしてきた役割というのは非常に大きいと考えている。
「いきるを支える」を使命として、二次救急病院としての救急医療、高齢者の方がこれから増え続けるということで、しっかり在宅復帰を支えるということ、医療連携、地域連携によって、実際には医療、介護連携、それに地域包括ケアシステムの実現に向けて、私どもが何ができるかということが必要となってきている。
私が責任者である社会医療法人石川記念会HITO病院、クリニックと、強化型の老健、在宅医療を中心とした健康会というものと、社福の介護施設中心で、三つの法人で石川ヘルスケアグループというものを作っている。
■ 生活の視点を持ち合わせたスタッフの教育を
地域医療構想というところで、実際にはかなり温度差があるのではないかというふうに考えており、私どもの圏域も、高度急性期が足りていないというところは若干違ってくるのだが、やはり回復期の機能の病院がまだ足りていない。
しかし、この足りていないことをどう考えるかというのは非常に難しく、慢性期のほうでは病床数が現状で多い段階なので、これを自主的にどんな形で機能分化を果たしていくのかというのは、私どもの圏域では話し合いがまだまだ進んでいない状況にある。
私どもは高度急性期のハイケアユニットを持ってはいるが、急性期の学校共済系の病院がもう一つあり、こちらの病院が今後どのようにされるのかというところについても、疾病別の機能分化を図っていきたいというふうに考えているのだが、本部の問題があるのでうまく話が進まないという現実もあり、いろいろな地域でこのようなことが起こっているのではないかと思っている。
私どもは、最初は亜急性期病床からそのままケア病棟のほうに展開したというところから、段階的に45床、53床ということで増やしてきている。地域包括ケア病棟だけではなく、ハイケアユニットを少しずつ増やしている。あと、緩和ケア病棟は人数に応じて少し減らしているが、こうやって自分たちの病床を機能分化した。
だが、病院の中で完結をしようといってこのような形にしているわけでは決してない。実際には、地域の中での地域包括ケア病床を持っている病院も、私どもの病院以外には一つしかなく、非常に後方病床には恵まれていない地域である。
それ以外に、高齢者が安心して入退院できる体制ということ、生活支援型の医療をどのように提供するか、多職種協働の退院支援をどうつなげていくか、地域内多職種協働の在宅復帰支援ということで、どうやって生活の視点を持ち合わせたスタッフの教育を段階的にしていくかといったことを目指しながら、今まで考えながらやってきたというところがある。
■ 多疾患に対応できる体制をどう構築するか
私どもの病院の地域包括ケア病棟の役割は、地域医療構想を踏まえた地域ニーズの、主にポストアキュート機能、一部サブアキュートの患者もいるが、当初はこういった形で始めたのである。
急性期の入院の75歳以上の高齢者の方がもう6割弱になっているが、生活支援型医療の提供体制が必要であり、高齢者が多くなってくると専門医も必要だが、多疾患に対応できる体制をどう構築するかというのは地域で非常に重要である。私どもにも3名の総合診療医がいるが、総合診療医がうまくトリアージをして、実際にはサブアキュートの患者さんにも対応できるというサポート体制が必要である。
在宅復帰では多職種協働の退院支援が含まれる。高度急性期、急性期の診療に専門医が集中できるというのが、地域の中で医師がなかなか増えない状況でやっていると、どうしてもいろいろな疾患がある患者さんをどこが診るのかというのは非常に難しい問題になってくる。なので、そこが総合診療医とコンサルテーションも含めて体制ができるというのが非常に大きいと考えている。
実際の地域包括ケア病棟の多機能だと、レスパイトも含めてサブアキュートの患者さんが経過観察入院というところで、地域のクリニックの先生方からも「こんな人を送ってもいいのか」というものに対しても十分対応できるというところで、次世代に対応する医療環境がケア病棟では十分役割を果たすのではないかと考え、このような形で始めている。
現状の受け入れ機能だが、どこの病院でもされていることかと思う。私どもの愛媛県には、東予、中予、南予とあるが、東予の難病の拠点病院に、今年なったので、難病の患者さんのレスパイトというのは、なかなか老健等ではショートステイも含めて難しいというところがあるので、こちらは積極的に受け入れをしている。
院内多職種協働も、退院支援やPOCリハ、チームカンファレンスというものも段階的に皆さま方の病院でもされていらっしゃるかと思う。
地域内多職種協働というところでスタッフ教育が非常に重要だと考えているが、急性期のスタッフの生活の視点は、環境の中で育つものでは決してない。
実際には退院された患者さんに対しての振り返りのカンファレンスであったり、地域の中で実際にリハケアの勉強会をしたりと、市内のメディカルスタッフ自身が顔と顔が見える連携作りと、医療機能を上げていくといっても、その地域の中で実際にできることを増やしていくということが非常に重要だと考えているので、市民に対しての啓発をはじめ、地域の中で医療介護連携をしていくことに関しては、かなり時間がかかるなというふうに感じている。
■ 患者情報をどのように的確に共有していくか
カンファレンスは、医師、看護師、栄養士、リハビリスタッフ、MSW、医師事務作業補助者が参加し、多職種で行っている。しかし、カンファレンスをすれば全てが解決するものでもなく、ここでファシリテートする人間がいて、患者情報をどのように的確に共有していくかというのが非常に重要で、ここにも教育の場が必要になってくると思う。
リハスタッフとMSWがいる振り返りのカンファレンスでは、ケアマネにも入ってもらうと、「こんなサービスはいらなかった」とか、「こんなところに手すりを付けたのは何なのか?」とかいろいろ言われることがある。そういうことを言われると、スタッフは非常に気付きにもなり、そこで信頼関係も生まれるのである。
ケアマネジャーは、歯科衛生士や看護師をバックグラウンドとして持ち、いろいろな強いところ、弱いところがあると感じるので、医療職からの患者情報を引き出してもらうことはお互いに必要なことだと思うので、それに関しては日ごろからの信頼関係を結ぶというのが、時間がかかることではないか思う。
やってきたことで、実際にまだまだ足りていないなというのを感じたので、総合診療医が救急を含めて全て、内科系の疾患のトリアージを始めたのだが、そうすることで救急がうまくまわるようになってきたというのがある。地域包括ケア病棟のサブアキュートの患者さんも、総合診療医が今は診てくれている。
リハビリというのも、ケア病棟で求められているリハビリ自体が、やはり多職種協働のリハビリで、ほかのスタッフが生活の視点のリハビリを実施するというのは、私にとってはかなり高度だなというふうに感じており、それをどんなふうにつなげていくのかというのをあとでお話しさせていただく。
■ 在宅復帰率をどれだけ上げられるかが今後の課題
稼働率は今、大体96%ぐらいである。ここの在宅復帰率(80.7%)が4月、5月のデータなのだが、やはり在宅復帰率は強化型の老健に退院していたというのがあり、在宅復帰率をどれだけ上げられるかが今後の課題となってくる。
平均リハの単位数はあまり大きく変わりはないが、私どもの病棟のケア病棟の在院日数は25日以内というところで今、設定をしている。それはなぜかというと、稼働率を維持するということは比較的容易にできるのだが、新しい患者さんに入ってもらって、よくして帰すというところがやはり重要であるので、スタッフがそれに慣れる環境が必要だと感じている。それを今からどう実践していこうかというところで悩んでいる。
この4年間で、100歳も含めて6割がもう70歳以上の方で、この1、2年で、この80歳代、90歳代というのがかなり増えてきている。この方たちを生活復帰させるというのが非常に難しい。これがこの4年間、特に感じていることで、ここに対応するために、治してとは言わないが、自分らしい生活に戻るためにどうするかということが非常に大きな課題になる。
4年間でまとめるとこうなのだが、骨折や肺炎は大きく変わっていないが、サブアキュートの患者さんが増えているので、総合診療科がどうしても増え、循環器であったり、かなり幅が広くなっている。いろいろな疾患をお持ちの患者さんは、一部、廃用も含めて、アプローチの仕方は、専門医としては異なると思うが、生活に戻るリハビリという視点ではかなり共通のものがたくさんあると感じており、専門医だけでは対応できないような状態に地域はなってきているというふうに感じているので、ここをどうしていくかというのをあとでまたお話しさせていただく。
運営上の課題とあるが、70歳以上の高齢者の方が80%を占める現実ということと、最初は排せつの部分をクリアしていけばおうちに帰ってもらえるだろうというところで始めてはいたのだが、おうちに帰るためのなんとかトイレに行けるというところが家族に求められることが非常に多い。いくらサービスを使っても、排せつの部分は非常に重要だと認識している。
■ 安心して地域に戻す多職種のアプローチ
医療依存度の高い方をどうやって自宅で診ていくか。私どもの圏域も積極的に、24時間訪問診療等で対応していただける施設がかなり少ない現実なので、安心して次のかかりつけの先生にお返しするまでの間をどうするかというのが一つ悩みになってきた。
多疾患に対応するスタッフというのは、今は総合診療医で対応している。
新規入院患者の確保というところで、どうしても新しい患者さんをどこからどう引っ張ってというところが必要になる。
機能回復に向けたというところで、ここから集団リハビリというものと、多職種でどうやって自立支援にもっていくかということを考えている。
今年、多職種の地域包括ケアステーションというのを作る予定にしており、1カ月以内の医療度の高い患者さんの訪問診療というのを、退院後すぐに具合が悪くなって病院に戻ってくるというケースも多疾患の方は多いので、実際に退院後どうだったのか、安心して地域に戻すために、多職種のアプローチで「ここで大丈夫だね」といって、かかりつけの先生にお返しするということを実践していこうと思っている。
ここは今もだいぶ前からやっていることと、私どもの圏域は特に県境にあるというところなので、どうやって他圏域からも受け入れ機能を拡大するかということが、今後も大きな課題になってくると思う。
■ サブアキュート機能を非常に強化した
地域包括ケア病棟を立ち上げた当初は、院内のポストアキュートの機能がほとんどで、9割近くが院内の受け入れだけをしていた。
「これではいけない」という思いがあり、昨年はポストアキュートが65%と、それに比して、サブアキュートの部分が最初開設したときには2%ぐらいだったのが、去年は22%ということで、サブアキュート機能を非常に強化したというところと、レスパイトのほうもかなり増えてきているというので、この部分を私どもの病院では、どんなふうに今後受け入れ強化をしていくかというところになるかと思う。
サブアキュートを増やそうというのでやってきたので、この3年間の間にもかなり増えて、今、月平均で20名ぐらいの方が入院しているという現状になっている。
渉外活動をして、頑張ってほかの病院さんから、遠いところからでも来ていただこうと、圏域外の病院さんからのポストアキュートの入院も70%を占めるので、数としてはもう一歩というところはあるが、選ばれるために何が必要か、リハビリなのか、多職種協働の復帰支援なのかというところは、まだまだ試行は必要にはなるかと思うが、県境という特性をうまく利用しようと思っている。
今年の4月、5月、老健が一定数あるので、在宅は7割は超えてはいるが、ここに今まで行っていた患者さん、この自宅に帰る方をどれだけ増やせるかということがこれからの課題となってくる。
集団リハビリを段階的にやってきて、平成28年の実績は、FIMもN数が少ないが、介護職やリハビリスタッフによる多職種協働でリハビリの支援をしていこうとなると、最初はどうしても評価から始まって、リハのセラピストが評価をしても、最初は縦割りで、リハビリはリハビリで、実際には生活支援の中に入っていくのも、かなり最初は入りにくい。介護の方も、排せつの手助けはできても、リハビリの視点というところを、教育的に自分も学習していくというのは、かなり時間がかかることのように感じていた。
したがって、最初、トイレ歩行に恐怖心がある患者さんに対して、トイレの移乗動作などというところを、多職種でまず始めようというところで、平成28年度にはこういったことをやり始めた。
■ 「できた」を実感してもらうことが重要
今まで私たちは患者さんが「できる」を応援しているわけだが、患者さんにしてもらってというところを、過剰になんでもしてしまうのである。なので、患者さんができるものも過干渉になっていないか、過介助になっていないかというのは、スタッフのほうからかなり声が出た。「できるADL」に変えていくためには、かなり細かく、実際の排せつ場面でもアセスメントをして、今の多職種協働には必ず、ケアプロセスのアプローチの中で、多職種でそれを検討していくということが非常に重要になってくると考えている。
こういった取り組みを含めて、実際にFIMで診ている数は少ないけれども、入院時と退院時と比べると、集団リハビリをする意味というのはかなりあり、教育というところも非常に大きいと思っている。
高齢者の方に、私たちが生産性を上げつつ、少ないスタッフの中で改善をしていく一つの取り組みとして、今、自立支援用のHALというものを使っている。実際の医療用のHALとは違って、かなり装着は簡単で、この座ったり立ったりということを繰り返してするのだが、実際にはかなりよくなる方がおられて、身体機能の回復につながっているケースがたくさんある。
「どうしてこういうものを?」というところに関しては、早くよくして帰ってもらうというのがどれだけ大事かというのと、急性期から、ポストアキュートで来られる患者さんが、他病院からのご紹介だと、底上げをするのが非常に難しい現実もあり、こういったものを今、使っているのである。
今年の4月から始めていて、圧迫骨折等の方は適用にはしていないのだが、セラピストがまず、この方を実際にできるかどうかということを医師と一緒に評価する。一番大きな効果は患者さんが自分でできるんだということを実感することである。
セルフエフィカシーとあるけれども、自分ができるということを自分が認識することによってより力が出る。もう高齢者になってきて、「私はもうここで亡くなるかもしれない」というような悲嘆に暮れている状況から、「できた」ということをどう実感してもらうかが非常に重要で、自宅復帰にも「私は帰れるんだ」ということが、家族、患者ともに意思として持っていただかないとなかなかそこに持っていけないというのがあり、実際に期待できる効果は、まだ2カ月だけれども、かなり手ごたえを感じている。
■ 多機能である力を最大限に活用し、立ち位置を明確に
いろいろな疾患の方がおられるが、90歳代の方もおられる。腰HALの使用回数に比例し、立ち上がったり動き出したりする際の時間がかなり短縮している。
しかし、まだこれからで、学んだ知識が、ここで体の動きに関しても看護師、介護士等も理解ができ、かなり短い期間の間に患者さん自体も習得できるというところで、可能性を感じているところである。
高齢者の方を支えていくということの難しさを、常日ごろ感じているので、これがどんな形で結果を結んでいくのかというのは、これからの取り組みになるかと思っている。
75歳以上の高齢者の入院の割合の増加によって、機能回復というか、自分でできること、排せつや経口摂取も含めて、在宅復帰につなげていくということが重要ではないかと考えている。
多職種で効率的に生活支援型の医療を実践するには、入院前、ケアマネジャー、介護士、地域とどのようなつながりを持って構築していくかということが、日ごろの教育も含めての連携が必要である。
働き手の減少によって、実際にはICT活用や情報共有をどうするか、介護ロボット等も含めて、導入してもそれを使える環境というのは非常に時間がかかる。したがって、環境をどう整えていくかという、私たちの頭の切り替えも必要かと思う。
医療度の高い患者さんを、多職種でどうやって安全に地域に返すかというサポート体制を、私どもも病院から発信していきたいと思う。
地域医療構想・地域包括ケアシステムの実現に向けて、今あるケア病棟の多機能である力を最大限に活用して、自ら地域に必要とされる病院を目指して、立ち位置を明確にすることが、今、全ての病院に求められているのかもしれない。
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ポストアキュート連携型病院から
戸田 爲久(ベルピアノ病院院長)
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■「ベルアンサンブル構想」が実現した
当院は療養型病院でもある。大阪府の南部、堺市から泉州で医療と介護を展開している社会医療方針法人生長会、社会福祉法人悠人会グループの中の一病院である。法人内には急性期病院が三つあり、いずれもDPC病院で一つはⅡ群である。当院だけが療養型の病院で、ほかには超強化型の老健が三つ、特養が三つなどいろいろあるが、唯一の療養型病院であり法人外も含めたいろいろな急性期の病院の後方病院的な位置付けとなっている。
急性期から患者を引き受けて在宅へ帰す、あるいは長期療養も含めて対応するというのが当院の法人内での役割ということで作られている。
同じ敷地内に特養が一つとサ高住が一つあり、三つで一つの施設を形成している。この一つの施設の中の医学管理のほとんどを病院が担っているところが特殊なところである。また、同じ敷地内に在宅部門を一カ所にまとめた地域医療・在宅療養支援センターがあり、居宅介護支援事業所や訪問看護、訪問介護、訪問リハビリ等々が一カ所に集まっている。
当施設は「ベルアンサンブル構想」という形で作られており、医療から介護、生活、在宅も含めていろいろなことが一つの施設で提供できるような体制を作られている。法人の創設者が30年以上前に考えていた構想がようやく実現した形となっている。
ただ、当施設で全部を丸抱えして患者さんをケアするのは無理であり、もちろん法人外の事業所とも協力しながら医療、介護を提供している。
■ 地域で中心的な役割、しかし全部を担えるわけではない
周辺環境だが、当院のある堺市は政令指定都市で堺市全域が一医療圏であり、人口が80万あるかなり大きい医療圏である。その中で、高度急性期の病院が幾つもあり、1000床クラスの療養型病院が二つあることもあって療養病床数も余っている状態である。
回復期病床は比較的少なく急性期、療養も病床が多い状態にあって、今後回復期病床の増設が望まれるということになる。逆に言えば、いま現在よりも回復期病床を目指す競争相手がどんどん増えていくという環境の中にいるというところである。
当院は平成24年にオープンし、その時点で回復期リハビリテーション病棟を作り、在宅復帰を目指していこうというのをスローガンに挙げて病院を始めた。平成26年7月に療養病床一つを地域包括ケア病棟に変換している。
その後、地域の流れを見て少し基本方針は変更しているが、地域包括ケアシステムということに主眼をおいて当院が中心的な役割を果たしていくが、全部を担えるわけではなく、交通整理のようなことを含めて対応しようというような形の基本方針としている。
現在、外来では訪問診療で薬剤指導、栄養指導が加わり、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、そして在宅復帰機能強化型である医療療養病棟が二つある。
入退院支援室があり、入院に関しては一括で管理している。引き受けに関してはそこに一任をして全てを管理する形になっている。もちろん、病棟の状況等を把握する必要があるので、各部とも協力しながらやっている。また、150名規模の通所リハビリテーションセンターを併設している。入退院支援室を作ることで、病床稼働が安定してきたという効果が出ている。
入院元はほとんどが紹介で、回復期リハビリテーション病棟に関しては今、法人外の病院の割合が増えており、地域の急性期病院から脳血管疾患等で紹介をいただいている。こちらが脳血管でいっぱいになると、自然とリハビリのための整形外科疾患を地域包括ケア病棟のほうで引き受けるので法人内病院からの転院が約半数という形になっている。療養病棟のほうはレスパイト入院がかなりの割合であり、医療ニーズの高い患者さんに向けての定期的なレスパイト入院を引き受けているというところである。入院患者の医療ニーズに関しては療養病棟では胃ろうや吸引などが非常に多い状態である。
■ 入院時も含めて定期的に多職種でカンファレンス
地域包括ケア病棟の在宅復帰は9割前後ぐらいを維持しているが、平均在日数は療養病棟からの移行が影響しているのか比較的長くなっている。リハビリで入院して60日しっかりリハビリしてから帰りたいと言われる方が多く、そこを短縮させていくかどうかが今後の課題なのかもしれない。
リハビリ提供単位数は地域包括ケア病棟では2.53、回復期リハビリテーション病棟では7.44であり、平均日数は回復期病棟で77日、地域包括ケア病棟で52日ぐらいになる。
疾患別でみると、地域包括ケア病棟では外傷、整形外科疾患半数以上を占める。リハビリテーションの対象疾患も廃用症候群も多くなるが整形疾患もかなりの割合で、回復期リハビリテーション病棟ではほとんどが脳血管疾患という現状である。
リハビリの効果では、回復期リハビリテーション病棟はアウトカム評価を求められており入院時FIMと退院時FIMを比較すると45.4となる。地域包括ケア病棟のほうは、退院時FIMは大体同じぐらいまで到達するが、回復期リハビリテーション病棟よりも入院時FIMは比較的高そうな感じである。入院日数からみると、リハビリの効率は地域包括ケア病棟ではあまりよくないのかなと感じている。
嚥下訓練については、比較的STもたくさんいるので経口摂取回復率もかなり高い数字を維持できているところである。なんとかご飯を食べさせてあげたい、家族が食べられるようにして帰ってほしいという希望もあるので、そういう形で引き受けてリハビリをしていくというニーズも地域では高くなっている。実績もあり、それを目指してご紹介いただくことも増えてきている。
退院に向けて、60日丸々いたいという患者さんもいるが、退院を支援していかないといけないため入院時も含めて定期的に多職種でカンファレンスを行いながら今こういう状態で、こういうことをすれば帰れるということを話し合い、クリニカルパスを作って期日を決めながら退院支援を行っている。入院期間は60日までと書いてあり、患者さんは60日丸々いられるように感じるが、早く帰れる人は帰っていただくようにはしている。
■ 在宅生活の様子をイメージできれば、次の退院支援につながる
退院支援については、具体的には入退院支援室に退院支援看護師がおり、各病棟に配置した社会福祉士や病棟の退院支援看護師とともに支援を行っている。ケアマネジャーも施設内に事業所があるので、カンファレンス等に出席し、入院時からこの人が帰るにはどうすればいいかという相談もしながら退院支援を行っていくという形である。
また、退院後訪問指導として病棟では退院後の患者さんの様子を見に行くということもしている。患者さんの様子を把握して、それが次の患者さんの退院支援に生かせれば良いと考えて、コストのことは考えずに訪問に行ってもらっている。
現在、退院後の生活の内容が病院ではなかなか分かりにくいこともあるので、ケアマネジャーが退院した患者さんの退院後の生活の報告会を月一で開催して、看護、リハビリ、在宅の事業所のスタッフが来て、今の生活をみんなで聞くということも行っている。在宅の様子を把握して、それをイメージできれば次の退院支援につながると考えている。
転帰先は、在宅復帰率が90%前後でありほとんどの方が自宅または在宅に類する施設に帰っている。しかし、今回の改定で在宅復帰として老健が算定できなくなっているが、それでもどうしても老健でないとという方もおられるため今後対策をしながら対応していかないといけない。
紹介先は、その後のフォローをどこでしているかであるが、回復期リハビリテーション病棟は診療所や他院外来が多く法人内の割合は15%ぐらいで残りは他法人に全てご紹介をしている。地域包括ケア病棟も36%ぐらいは院内、あるいは同じ法人の病院の外来に戻っているが、それ以外の半数以上は法人外の診療所にご紹介しており、当院でフォローされている患者はわずかである。この様な部分については地域との連携をうまくやっていかないと帰るときに困るというところが出てくると思う。
退院後の在宅療養の支援については、当院では訪問診療、訪問栄養食事指導、訪問薬剤管理指導を行っており、栄養指導では嚥下食の指導、宅配サービス等も行っている。退院後訪問で生活や療養の指導や訪問看護との連携を行い、退院されてから在宅の生活が老老介護に近い状態で過ごされている方もあるので、必要な場合には定期的なレスパイト入院も含めて対応はさせていただいている。
レスパイト入院では登録患者が80名を超えており、現在新規の定期利用をお断りしている状態で、月々レスパイト入院患者数が40名を超える状態である。しかし、定期的な利用では繰り返し入院されるため入院日数の通算が60日を超えてしまい地域包括ケア病棟で継続して入院するわけにはいかず、療養病棟も含めて受け入れさせていただいている。不定期で依頼が来る場合もあり、その場合には地域包括ケア病棟も使いながら引き受けている現状である。
当院の訪問診療の登録者数は約八十数名であり在宅看取りも含めて対応しているが、必要な時には入院で対応し、退院したあと訪問診療を再開する行く形でやっている。施設内にサ高住があって、そちらに退院される患者もおられるが、屋根続きで雨が降ってもやりが降っても通院できるのでほとんど訪問診療には結び付いてはいないが必要なときには訪問に行く形にしている。
通所リハビリテーションの利用者も増えている。一昨年に短時間特化型として、1-2時間から3-4時間の方のみのリハビリセンターを増設した。現在、その部分の利用者が毎日50名から60名ほどになっている。
■ 在宅サービスを1箇所で管理し、在宅支援に結び付ける
当院が退院後の在宅生活を支援するという意味では、在宅療養支援センターの役割が非常に大きいと思っている。介護相談センターのケアマネジャーがほとんどを仕切っているのだが、いろいろな在宅を支えるサービスがあってそれを1箇所で管理できていることが、在宅支援に結び付く一つの大きな要因になっているのかなと考えている。
とはいえ、施設内でほとんど丸抱えをしておらず、大概の場合が施設外にいろいろなサービスをお願いしてサービス調整を行っているので、そういう事業所の連携も大事になってくる。介護事業所等々とは、年に数回、医学セミナーと称していろいろなレクチャーや交流会、事例検討会等々も行っている。
当院の地域包括ケア病棟の特徴として、療養型病院の中の地域包括ケア病棟であるため急性期病院からの紹介がほとんどである。ただ、法人内からの紹介が多いが、一カ所に頼っていると急性期病院がくしゃみをしたら、こちらは風邪をひいて重病に陥るということもありうるため複数の急性期病院と連携してお引き受けをする形をなるべくとっていきたいと考えている。
一方で在宅からの入院が約20%前後だが、今後の時代の流れからするとこの割合を上げていく必要は出てくる。そのためには、地域の診療所であるとか、老健とか、特養との協力というのは大事になってくると思う。
在院日数は、どうしても60日いたいという患者さんもいて、なかなか在宅への退院調整が進まないという現状があるが、適切な時期で帰っていただけるようにはしていきたいと思う。療養環境が比較的ゆったりはしているので、落ち着いた環境で居心地がよすぎるから帰らないのかもしれないがゆっくりあとのことを考える、調整ができるというメリットはあると思う。
退院支援については各種在宅事業所が施設内あり、非常に相談しやすい、いろいろなサジェスチョンを得られるところ、このような人でも帰せるかというのを手軽に相談できるというところに一つのメリットがあると思う。
退院後自宅などで何もしないという患者も出てくるので、そのときには通所リハビリを使ってもらうということも含めてお話をしている。病院と同じ場所なので、患者さんも比較的来やすいメリットもあると考えている。
■ 急性期から在宅までの連携、「一歩通行ではない」
今後の課題であるが、当院はポストアキュート連携型の病院であり入院元として特定の病院からの紹介にどうしても依存しているところがある。万が一のときや、今後の情勢によってはしんどい話になるので、紹介元の拡大を考えていく必要がある。
また、在宅からの入院に対応するべく、体制も考えいかないといけないかもしれない。ただ療養型の病院であるということで、治療の手段がどうしても限られる。「これはちょっとできないが、それでもこちらの病院に入院するか」ということを患者さんと話をしながら、入院の承諾を得るという話になる。「何かあったら急性期病院に送ってください」と言われると、じゃあ、最初から行きますかという話になるので、そこをどうするかというところである。
そういう意味では急性期疾患に対してスタッフも緊急入院等々に十分慣れていないというところもあり、治療手段等の問題があって何でもすぐに当院でとりあえず一度引き受けて入院させてというわけにはなかなかいかない。急性期疾患の入院を進めて行くにあたって、言うのは簡単だが実現できるかというところになると少し考えて体制を整えていく必要が今後あると考えている。
急性期病院からだんだんと流れていって、最後に自宅、あるいは老健とか特養に流れていくという形で現在は言われている。ただ、現状として一方通行ではないだろうというふうには考えている。
当院に転院しても急性期病院に戻る患者がおられる。急性期病院で「なんで帰ってくるのか」と言うけれども、帰る必要がある患者もおられる。在宅療養でもそこから入院を引き受ける、あるいは特養からの入院の引き受け、必要であれば在宅に返すということも含めてやっていかないといけない。そういう意味では、そういう地域包括ケアの中心となっていく必要があるのかなと考えている。病床数も少ないし、機能も限られているが、マインドとしてはこういうことが必要と考えている。
急性期機能がないため、いろいろな制約がある中で現在ポストアキュート型病院として機能しているが、今後診療報酬改定とかいろいろ見ていくなかでポスアキュートだけではないという話になるので、急性期病院との連携、あるいは地域の事業所、施設と連携して、紹介いただくような信頼を得ていくことが、今後サブアキュートをお引き受けするなどいろいろな機能を果たしていく上で大事だろうと考えている。
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地域密着型病院から
志田 知之(志田病院理事長)
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■ 人口減少、マンパワーが非常に不足
佐賀県の医療法人天心堂志田病院の志田である。私の病院は52床で、もともと療養だけの病院、一つは地域密着型として、地域土着型みたいな感じで、非常に地域に根付いた形でやっている。それから、このご時世に、来年増床することになっており、そこも地域医療構想と絡めてお話しさせていただく。
当院がある佐賀県鹿島市は九州の北部だが、一番長崎県側のほうにあり、米、ミカン、ノリといった農業、漁業が盛んな田舎町である。人口2万9000人台で、高齢化率は昨年も30%を超えている地域である。
全国的に有名なものとして、日本三大稲荷の一つの祐徳稲荷神社があったり、干潟の上でイベントをやるガタリンピックというのがあったり、酒造りが盛んで酒蔵通りというところで人口の何倍かの人がいっぺんに押し寄せたりする酒蔵ツーリズムというようなものが比較的有名だが、年間を通じて観光客が来るようなものが全くないので、今後、人口減少が非常に心配される。
医療従事者の方には、織田正道先の祐愛会織田病院さんが非常に有名だと思うが、私の病院から南に800メートル行ったところに織田病院があり、日ごろから非常にお世話になっている。
当院の概要だが、スライドにあるように複数の診療科があるが、クリニックのような、診療所のような形で外来をやっており、外来の受診者数が多いのが一つの特長である。ただ、マンパワーが非常に不足しており、毎日非常に忙しく診療している。
当院の外来の定期受診をされている方はもう80代がピークで、高齢の人が多いなと思って統計を取ると、毎月通われている方は80歳代が最も多く、もうすぐ亡くなっていくような世代の方が多い状況である。
当院は小児科もあるので、未満児とか10歳代、このあたりも外来のほうにはたくさん来ていただいており、このへんが救いと言えば救いである。
当院は在宅療養支援病院で、かなり以前から訪問診療のほうにも積極的に携わっている。今、在医総管、施設総管を取っている患者さんが50件ほどで、毎月100名を超える訪問診療に行っている。
当院は病院も小さいが、まわりに各種介護保険のサービス事業所が、それぞれ小さい施設ばかりだが展開していて、コンパクトな形の医療・介護複合体を形成しているところである。健診もわりとやっていて、健診の部門も建物がある状況である。
これが当院の職員室だが、常勤医師が非常に少ないというところが一番特長かもしれないが、それ以外は回復期リハをやっているので、セラピストが全部で36名ほどいて、52床の病院にしてはMSWが5名いる。あとは自前でいろいろとシステムを作るのが好きで、SEが3名常勤でいる。そういったところが特長だと思う。
■ 小さい病床の変更だが、大きく舵を切るつもりで
現在の当院の病床の構成である。一つが回復期、リハビリテーション病棟で、32床で運営している。今、入院料3でやっている。非常にセラピストも病棟も頑張ってやってくれていて、実績指数でいうと常に40から70台を経過をしているというところで、人員配置をとにかくアップグレードして、できるだけ近いうちに入院料1をこちらも取りたいというふうに考えている。
もう一つの病棟が、うちではこの全体の病棟の名前を地域包括ケア病棟と呼んでいるのだが、地域包括の入院管理料の1で12床と、療養病棟の入院基本料で8床、この12と8で20床、これが1病棟ということで、非常に効率が悪い病院運営を現在もやっている。
これが平成12年ぐらいからの当院の病床の変遷を示したものなのだが、スライドにあるように最初46床で移転して、病院を建て直した。その後、翌月から介護保険が始まったので介護療養を始めた。その後、平成19年から回復期リハを始めた。平成27年の1月から地域包括ケア病床を始めているところである。
よく見るとほかにも小さい病床の変更があるのだが、大きな病院の皆さまには取るに足らない細かいことだと思われるかもしれないが、当院にとってはそれぞれ大きく舵を切るつもりで病床運営をやってきた。
■ サブアキュートが常に70%程度を占めている
当院がある佐賀県の南部医療圏である。佐賀県の地図がこれだが、下の緑色のところの地図になる。数字を示しているのは、それぞれ医療機関の病床数を表しているのだが、この地域は今、全体では3市4町で人口15万5000人なのだが、当院の現実的なマーケティングエリアとしては鹿島市とその周辺の市町で、大体、7、8万人ぐらいのエリアになろうかと思う。
ご覧いただくと分かるが、非常に小規模な病院ばかり乱立していて、非常に効率は悪いんじゃないかと思うが、もともとそういう地区であった。ただ、実際、精神科の病院もたくさんあり、全体としては病床過剰地域であったので、当院も何度も増床したいなということで検討させてもらっていたのだが、増床できないまま経過している。
当院の地域包括ケア病床開設の経過である。平成26年4月に地域包括ケア病床が新設されて、当院ではすぐに開設の準備プロジェクトを立ち上げた。まず、一番大きな課題は看護体制であり、これをアップグレードする必要があり、人員を増やして、同年の12月までに当時は18床しかなかったのだが、療養病棟を13対1にして、ナースを2人の夜勤体制に移行した。その後、データ提出加算のほうも急ピッチで準備して、翌年の27年1月から地域包括ケアを8床で立ち上げている。
翌年の28年4月には、12床として、そのときから病棟の名前を地域包括ケア病棟と呼ぼうということで、そういうことにして活動している。
病院全体の新規入院患者の推移である。地域包括を始めた27年の1月以降は、黄色いところが地域包括ケアになるのだが、明らかに病院全体として、入院が非常に増えているというのが見て取れると思う。実数で見ると、この赤いところが総数なのだが、最近は年間で300人を超える入院が積み上がっているような状況である。
これは病床稼働率になる。全体として、やや最近下がっている傾向があるのだが、回復期リハと地域包括はいずれも90%以上でキープできている。
これは地域包括ケア病床の入院種別だが、これは当院の特長になると思うが、サブアキュートが常に70%程度を占めているという特長がある。これは当院が在宅療養支援病院であることと、地域密着型の病院であるということの証拠であるというふうに考えている。
今回の診療報酬改定においても、在宅からの入院、それからサブアキュートの評価を上げていただき、3カ月のデータで、入院数がかなり違うので、数%程度増収が上がっているということで聞いている。
■ 各種疾患への対応、できるだけ自分の病院で
サブアキュート症例の疾患である。肺炎、尿路感染種、心不全急性増悪と、どこもそういう傾向だとは思うが、高齢者のこういう疾患での入院が3分の2を占めている。ただ、ほかもいろいろな各種疾患に対応できるものは、できるだけ自分の病院で対応しているという状況である。
ポストアキュートの入院の種別、目的であるが、リハの目的の方が7割弱程度おられて、あとは結構、在宅もやっているので、最後の看取りの部分を病院でやったりというときに地域包括も使ったりしているし、レスパイトを含めた療養という目的の方も中にはいらっしゃって、そういう方が3割程度おられる状況である。
今後、地域包括ケアの部分も増床を考えていて、現在もセラピストが張り付きでいるが、増員を考えている。できるだけ回復期リハ対応外のリハビリ目的の方の入院も、さらに今後増やしていきたいというふうに思っている。少し前になるが、仲井先生の病院もセラピストが見学に行かせていただき、今もPOCリハの導入を進めているところである。
地域包括ケア病床の入院元と退院先である。自宅と居住系介護施設ということになるのだが、入院元も退院先のほうも7割を超えているという状況である。看取りをやっている関係もあり、死亡退院が9.6%あった。
それから、在宅復帰率である。最近では全てが低下傾向にあるのだが、8割は超えている状況で推移をしている。
地域包括ケア病床の在日数である。サブアキュートで見てみると、平均で21.3日で、ただ1週間以内の入院が16.6%、14日以内が46.1ということで、できるだけ早く帰せたら帰そうということで取り組んでいる。ポストアキュートのほうは緩和ケア目的やリハビリテーション目的で、平均で1カ月前後の入院となっている状況である。
■ 鹿島市から病院譲渡の提案があり、計画を進める
当院の地域包括ケア病床についての総括を挙げる。昨年の9月に軽井沢であったLTAC研究会第5回研究大会で、実績の数字は28年度までのデータでご紹介させていただき、小規模な当院のような在宅療養支援病院でも、地域包括ケア病床は非常に使い勝手がいい病棟ですよということを強調させていただいた。
本日は、その後の経過も含めて地域医療構想調整会議等のことも絡めてご報告をさせていただきたい。
当院の隣接地にもともと市営住宅の跡地があり、そこを駐車場とかとして使わせてもらっていたのだが、鹿島市から当院に売却の話があり、ある程度まとまった敷地だったので、どのように活用しようかということで、コンサルも入れていろいろと計画を進めていた。
なかなか採算はどうかという部分があったのだが、有料老人ホームとか、そういう居住系のものをそこに建ててというようなことを考えて、いろいろなシミュレーションなどをやっていた段階で、昨年の5月に当院のすぐ近くの44床の療養の病院が閉院をするということを決められた。
実は院長先生が亡くなって、閉院を9月末でということで、びっくり仰天して、その後どうなるのかということを注目していた状況だった。
位置関係だが、100メートルも離れていないぐらい近い場所にある病院さんである。そういうことで成り行きを見守っていたのだが、しばらくは当院のほうには直接の話もなく、どのようになるのか心配をしていた。
7月初めぐらいに、ようやく当院との交渉もあり得るということで情報が入り、7月末ごろに初めて直接当事者間の交渉をするようになり、話がまとまったのが8月24日という経過になる。
ただ、この間も行政のほうにも、閉院が決まっていてそのあとどのようになるのかということで情報が入って、県のほうも非常に心配をされていて、当院のほうにも全くそういう話がないときから「お宅は買うんでしょ?」とかそういう話で問い合わせが入っており、最初、「全くないですよ」ということで話していたのだが、交渉するようになってからは、きちっといろいろな情報のやりとりというか、ご指導等もいただきながら、この8月24日を迎えたというような状況であった。
8月31日、1週間後に地域医療構想調整会議第1回の分科会が開催されるというのが分かっており、その前に合意しなさいと言われたようなところがあるのだが、合意をして、この事業譲渡についても説明をさせていただいた。
どのように病床を利用するかということについても、この段階でご説明をして、若干、ご質問等も受けたが、基本的にはご了解をいただいたという状況であった。
さらに12月25日、第2回の分科会があり、この場においては、さらに詳細な計画、病棟をどのような場所に建てて、どういう構成でやるかということについて説明を求められたので、説明をさせていただいた。
■ 地域医療構想調整会議、「大変うまくいっている」
佐賀県の地域医療構想調整会議についてお話しさせていただく。佐賀県はもともと二次医療圏が構想区域になっていて、人口も少なく、それぞれの構想区域の中に医療機関が、わりと中核病院があってということで、計画が進めやすいというか、そういう構想になっている。あとは担当の係長さんが非常に熱心で有能な方で、進め方もお上手ということもあり、大変うまくいっているほうだというふうに思う。
去年の6月、厚労省の第6回地域医療構想に関するワーキングでの説明資料なのだが、佐賀県の進め方について説明をなさっておられた。そのときの資料からなのだが、佐賀県の地域医療構想調整会議は、協議の取扱要領というのがきちっと定められており、ここにも書いてあるが、協議を要する事項と協議を行うことができる事項ということで、こっちが必要とする、こっちが協議することができるということで、その項目が明確化されている。
協議を要する事項の中に、1番が地域医療支援病院および特定機能病院の医療機能の大幅な変更等で、2のほうが医療機関の統合ということで明記をされており、当院のほうはこの2に該当するということで説明を求められたということになる。
佐賀県の地域医療構想における目標病床数を示した。地域医療構想調整会議の分科会で調整ということで、分科会の各地区の役割について、非常に明確に位置づけられていて、そのへんの議論がしっかり進んでいると思う。
28年度の調整会議の協議結果のサマリーだが、全体の会議では、会議自体の進め方についてとか、全体的な統計についての報告はなされているが、下段のところが、各分科会での個別的な内容について記されている。
病院名は伏せているのだが、かなり突っ込んだ議論がなされていた。地域医療支援病院なのだが、ケアミックス化をちょっと考えているということで挙げられたが、結局、待ったがかかったというようなことがあった。
それから、私の地区も、地域医療支援病院の地域包括、回復機能をやりたいということでそういう話が出てきていたのだが、結果的にこの会議の中で再考を求める声が多く出て、さらに言うと、高度急性期病院であるので、高度急性期の病床を増やすような計画、2025年プランを出すように求められたというような経緯もある。
■ 2019年初めに新棟をオープンさせる予定
回復期といわれている部分の進め方についてのみ、ご紹介したいと思う。回復期機能については、どの都道府県においても不足しているということが指摘されており、スライドのほうに示されているが、課題ということで、いろいろなことが議論されているかと思う。
佐賀県においては、区域ごとに回復期がどの程度不足をしているのか、また将来にわたり、どの程度の見込みがあるのかについて、病床機能報告のデータを元に分析して、また分科会のほうで情報を共有しましょうということで、実際にはここの1番と2番については回復期機能だろうなというものになるのだが、この3番のほうの回復期に近い急性期というのを、実数を挙げて示されたというのが特長だと思う。
平均在棟日数が22日超の急性期病床については、回復期に移行を検討してくださいということで実数を挙げられたということである。
実際、私どもの南部医療圏において、このへんの数字を出してあるのだが、これに基づくと、1番、2番、これも県独自の視点ではあるのだが、この部分を加えると、必要数の60%程度になるということなのだが、仮に3番の部分が全部、回復期機能に移行すると、充足率は91.8%になるということで、こういったものを各分科会できちっと提示をされて、議論の土台としていただいている状況である。
私の病院の話に戻るが、現在、当院は52床で、実は回復期リハだけ今は32床になっており、地域包括12と療養8でやっているのだが、統合後、回復期リハは32のままで地域包括を28、それから療養を20、合計80床とする予定としている。
新しい建物も建った段階での予定配置になっているのだが、ここの部分が今の病院で、こちらの土地のほうにこのような形で新しい建物を建てて、2階で連結させて、病棟はもう全部2階のフロアにあるような状況にしようというふうに考えている。
新しい建物の2階の部分なのだが、新しい地域包括ケア病棟になる部分である。こちらの緑色のところが地域包括で、ピンクのところが療養で、28床と20床、48床の病棟にするべく、先週、起工式だったのだが、まだ実際の工事は始まっていない段階である。ということで、2019年初めに新棟をオープンさせる予定としている。
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在宅医療・介護から見た地域包括ケア病棟(床)
田中 志子(内田病院理事長)
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■ 最も大切にしているのは、スタッフと共有する理念
私たちの医療法人大誠会グループでは、ちょっと変わった取り組みをしているので、皆さんにご紹介をするようにというミッションをいただいた。
私たちの地域は過疎地で、少子高齢化が進んでいる。その中で地域包括ケア病棟をどう生かしていくか。
まずは人口が保たれないと病院自体が機能しないだろう。大変な危機感を持っており、それに対して何かできることはないだろうか。私たちが日々、取り組んでいることについてお話しさせていただく。
私たちのグループの特長は、「身体拘束ゼロ」で認知症のケアを行っていることである。その取り組みの実態や、医療介護の複合体としてのまちづくりについてもお話しさせていただく。
まず、私たちのグループの紹介である。私たちが最も大切にしているのは、スタッフと共有する理念である。これまで、理念はただ単に言葉の中で共有していたが、「地域といっしょに。あなたのために。」という幹に当たる理念を言っても、何を地域と一緒にやっていくのか、何があなたのためになるのかというのを職員に理解してもらうことが難しい状況があった。
そこで、私たちは地域といっしょに、「共に育む、共に創り出す、共に癒やす」、それぞれ育むものを分けて明示し、自分たちが行っている活動をこの中に当てはめた。
そして、学会発表などでスタッフが発表するときにも、自分は今、どこについて発表しているのか、どの活動をしているのかを明確に理解して活動するように努めてきた。
そんな中、内田病院を軸として、徒歩圏内に老健や、幼・老・障一体型の施設、誰もが使える「みんなの畑」や、りんご畑でりんごを育てるといった活動をしている。病院と一体型の老健、一体型のサ高住、一体型のグループホームがある。訪問看護ステーションも、今回の制度は全く想定もしないで地域外に出していたが、現在は院内のほうに移した。
■ 目指すのは、「医療・介護のベースキャンプ」
当院のある群馬県沼田市の人口は約5万人で、高齢化率は32%である。そんな中で、私たちが目指すのは、「医療・介護のベースキャンプ」である。
当グループは、障害者病棟37床、地域包括ケア12床、回復期50床の病院と、スーパー老健と特養、サ高住、グループホーム、そのほかに予防としてトレーニングセンター、地域に向けての医療塾みたいなものをやっている。子どもの部門では、企業主導型の保育園が90人、学童保育が健常・障がい合わせて50人と、複合的に行っている。
職員は、この5年で約200人増えている。シニアを積極的に採用している。若い職員も増えているので、平均年齢はほぼ42歳で前後している。
私たちの二次医療圏は、急性期だけではなく回復期も多いという全国的に珍しい地域である。7病院中4病院が100床未満で、さらに6病院がケアミックスになっている。
私たちの地域包括ケア病床は12床ではあるが、特長としては認知症の割合が多いことが挙げられる。認知症ケア加算1を算定しており、自宅からの入院と、自宅への退院が多いことも当院の特長である。
■ 役割があることが生きがいになり、居場所になる
私たちが取り組んでいることだが、認知症のある方でも、生きがいを持って活動すればまだまだ生き生きと生活ができるということをうたっている。
「みんなの畑」を持っていることによって、農家を卒業した高齢者の方に活動していただき、若い職員たちに農業について教えるというようなことを行っている。
あまり知られていないが、りんごの名産地で、りんご畑をもうやめてしまうという噂を聞いて、近くのりんご畑を取得し、そこで畑をなんとか残したいという気持ちで、子どもたちが収穫をしたり、実習に来た医学生が収穫をしたり、私たちの事業所ではないが連携している知的障害の方たちに収穫を手伝ってもらい、お礼をりんごでお返しするというようなことをしている。
それから、とにかく病院に人を集めようということを考えている。高齢であっても、認知症であっても、健常でも障害があっても、役割があることが生きがいになり、居場所になると考えている。
■ 向精神薬を使わなくても、改善している
身体拘束ゼロの認知症ケア「大誠会スタイル」についてご紹介させていただく。全日本病院協会の調査によると、厚生労働省が定めている身体拘束11行為を行うことがあると回答した病棟・施設の割合は、一般病棟から医療、療養病棟まで、全ての病棟で90%以上であった。
さらに、身体拘束ゼロ化に向けた取り組みがあるかないかということを聞いているが、取り組んでいないというところは、消極的なところも含めると、およそ半分のところが取り組んでいないということが分かった。
また、身体拘束を実施する前における、拘束を避けるためのケアを検討しているか、縛らなくても済むかどうかということを聞いているが、30%ぐらいの病院では、積極的にそういったことを検討していないということが分かった。
そんな中で、私たちはBPSDのある患者さんを積極的に受け入れている。在宅で大変苦労されて、奥さんがケアをされていた患者さんがいた。この患者さんは隣人に対する被害妄想がひどくて、転居するぐらいBPSDがひどかった方なのだが、そのために幾つかの病院をまわってポリファーマシーになっていた。
私たちのところでは身体拘束をしないで、薬を適切に減量し、脳活性化リハを行っていく。最初の2週間が勝負である。そうすると、BPSDが軽減して、薬を減らしていくので、活動性が上がってくる。結果的にはスタッフの負担が軽減し、適切な場所に帰ることができる。
特養後には5カ月、現在もご自宅にいらっしゃって、短期入所を特養でくり返している。
また、兄弟間トラブルになりパトカーでおいでになったBPSDの非常に重い女性の患者さんがいた。最初の1週間はしっかり手をかけて見ていく。薬剤や環境を調整し、手間をかけてやっていくと、しっかりFIMは上がって、行動障害のスケールであるDBDは下がってくるというデータが出ている。マスデータで見ていくと、リハビリテーションでも、認知症有り群、なし群では、きちんと差がなく退院ができているということもお示しできた。
BPSDで入院した25症例について、重症度と負担度をNPI-Qというもので測っているのだが、特長は私たちの病院は認知症の本当に重い方を診ているということと、しっかり診断を付けているということである。
入院前1週間と、入院後1週間のデータを比較しているのだが、このように重症度、負担度ともに軽減している。また、せん妄がある人の場合は、有意差を持ってしっかりとよくなっているというところと、せん妄なし群が、n数が少ないので蓄積中だが、改善する傾向が出ているということである。
これが最も私たちの特長であると思うが、向精神薬を使わなくても、環境調整とかリハビリで重症度、負担度とも改善している。
■ 幼・老・障一体型施設によって利用者も職員も増えた
私たちのまちづくりについてお話しさせていただく。昨年の7月1日に幼・老・障一体施設をオープンした。昨年の地域包括ケア病棟大会でもお話しさせていただいている。
どんな所かというと、1階部分は南側に老人デイがあり、奥のほうに保育園がある。保育園の子どもたちは老デイを通って園庭に行くような作りをしている。ところが、制度は縦割りで、ごちゃ混ぜ共生型社会と言いながらも、玄関を2カ所造れというようなことで、まだまだ市町村に下りてくるには時間がかかるのかなというところで、やむなく玄関を2つ造ったり、仕切りを作らなければいけなかったりした。
2階は障害者の学童保育と健常の子の学童保育、それから医療的ケア児、障害のある小さな子どもを預かるところと、保育園の2階部分である。
1年経ってどうなったかというと、しっかりと交流が生まれるようになった。子どもがお年寄りのところに行ったりとか、一緒に遊ぶようになったりとか、活動の時間が大変増えている。子どもが絵本を持って行って高齢者のところでよみきかせを求めるようになってきた。
みんなでドラムセッションなどもやっていて、できるだけ一緒の時間を作る。障害のある子もない子も一緒に活動するということをしている。知的障害の学童に来ている子だが、高齢者と一緒にお料理を作るなど大変楽しくやっている。
建物の真ん中に多目的ホールを造っているので、そこはもうごちゃ混ぜに交流しており、午後の時間など、大変、人口密度が高くなっている。
外に出かけるときもできるだけ合同で出かけるようにしていて、みんなでお花見に行ったりとか、散歩に行ったりとか、障害がある子どもも健常な子と一緒に出かけると、スタッフのマンパワーもかせげるので、電車に乗りに行くなどしている。
結果的にどういうことが起こったかというと、幼・老・障一体型施設を造ったことによって利用者も増え、職員も増えてきたというようなところで、人って集められるんだなということを感じている。
■ 私たちの挑戦はまだまだ始まったばかり
私たちの挑戦は続く。現在、複合施設第2弾を計画している。温泉を掘っており、温泉を軸にして人を集められないかということを考えている。現在もあるが、シェフが作るレストランや、ご紹介したトレーニングセンターを病院連携型のフィットネスにしたり、動画で出たセレクトショップ等を活用しながら、就労支援をしたいと思っている。
今は、障害者の就労はあるが、認知症の就労はまだまだ制度が弱いと思っていて、なおかつ、障害者と認知症の方は就労しにくい状況になっているので、ここになんとか風穴を開けたいと考えている。認知症があっても、障害があっても、仕事をきちんと細分化していけば働けるということも経験しているので、それをやっていきたい。
また、過疎地で孤独死が多い地域になっているので、孤独死を減らしたい。独居でも誰かと一緒にいられる、具合が悪いことに気が付けるような環境をつくっていきたい。
若い人が安心して定着できるということを考えたときには、若い人が働きやすい場所、子どもをどんどん育てやすい場所というのを作っていきたいと思っている。私自身が子どもを3人育てながらずっと仕事を休まず、生きがいを持って働いているので、そういった自分の経験を生かして、お父さん、お母さんの支援をしていきたいと思っている。
温泉は非常に人が集まりやすいツールなので、憩いの場、就労の場、集客の場ということで、複合的な価値をこの場で生み出したいと思っている。
最後になるが、こんな地域の中で、じゃあ、地域包括ケア病棟はどういうふうに活用できるのかということを考えたときに、やはり住まい手がいなければ病棟というのは機能しないだろうということを考えている。患者の機能をみきわめて機能にあった患者を入れていく。
少子高齢化へ、こういったことを生かしながら挑戦をしたいと思っている。私たちの挑戦はまだまだ始まったばかり。楽しんで前を向いてやっていきたい。
(了)
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