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【特別講演】
【特別講演】
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地域住民の健康、医療の歴史を繋げていくデジタルコホートの取り組み
【座長】
邉見 公雄(全国自治体病院協議会名誉会長)
【シンポジスト】
川上 浩司(京都大学大学院教授)
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■ 健康の歴史を紡いでいくような基盤を
〇川上浩司(京都大学大学院教授)
私はもともと耳鼻科医であった。現在は、患者さん1人を診るのではなく、社会全体を見るような研究をしている。特に、ビッグデータを使って、どういう人が病気になっていくのか、あるいは、どういった医療を受けるとその後どういう人生を送っていくのかということに注力した研究や教育を行っている。
われわれの提唱しているコンセプトは、「ライフコースデータ」といわれるものである。日本人として生まれると、マイナス1歳から3歳までは母子保健法に基づいた乳幼児検診、6歳から14歳ないし17歳までは学校保健安全法に基づいた学校健診というものが行われる。これらは法律に基づいて昭和33年から行われており、日本人が悉皆で行われているというようなものである。この二つを悉皆で法律に基づいて健診を行っている国は世界で日本だけで、大変珍しい健診である。
そのあと、長じると、医療にかかったり、レセプトが残っていったり、あるいは要介護認定、介護レセプトがあったりするわけだが、こういった多くの情報はばらばらに存在している。特に下の二つは紙である。医療のデジタル化というもの、レセプトの電算化が進んできたが、子どもたちは納税者でも有権者でもないので、政府が見向きもしなかったのではないかと思っているのであるが、子供の部分は紙のままで存在しているのである。
さらに、霞ヶ関での所管が、学校健診だけは文部科学省、残りは厚生労働省ということで、省庁の縦割りもあって活用されてこなかったのである。
そこで、こういった情報をしっかりデジタル化してつなげるようにしておくということで、どのような赤ちゃんがどうやって子どもになっていくのか、あるいは、どういったことを言われた子どもが本当に病気になるのかならないのか、あるいは、どういう医療を受けるとそのあとどのような人生を送っていくのかというような、健康の歴史を紡いでいくような基盤ができればというのがわれわれの願いである。
■ 今後はライフコースデータの活用が重要
新しい法律が今年の5月から施行されている。次世代医療基盤法という法律であるが、例えば健診と医療の情報、あるいは医療と介護の情報のような、今までは違う属性にあった健康関連の情報というのは、勝手につないで解析してはいけないという個人情報保護法における縛りがあったのであるが、認定を受けた事業者であればこの縛りを外し、健診や医療に関しては、しっかりと検討や分析をしていかないと次世代のためにならないので、これを認めるという法律がこの5月から施行されているのである。なので、こういったライフコースデータの活用というのが、今後、重要になっていくのではないかとわれわれは考えている。
そこでわれわれは一般社団法人健康・医療・教育情報評価推進機構、あるいは、学校健診情報センターを設立し、全国の自治体と契約を結び、学校健診や母子保健を中心とした健診データを預かり、ビッグデータにして分析をして、一人一人の子どもや地域に、あなたの地域はこういった特徴があって、将来、こういった健康状態が予想されますよという分析をしてお返しする一次利用というものを無料で行っている。
その代わり、二次利用として、医学研究や将来の予防のためにビッグデータを使わせてもらうという取り組みを行っている。
学校健診というのはこういった帳票である。全国ほぼ悉皆、一律の情報で、小学校6年、中学校3年の9年間分が真っ黒に埋められて、9年分のライフコースになっているのである。項目は身長、体重、視力、聴力のみならず、心電図や尿タンパク、尿糖のような、将来の生活習慣病を強く予想するようなものも、実はこのころからすでに取っているのである。
ところが、制度のあやで、例えば札幌市立小学校、札幌市立中学校と進むが、高校に上がると北海道立高校で、都道府県が高校をなぜか所管しているのである。したがって、全国1747ある自治体の首長が健診を住民に提供していっても、高校に上がったときに、その健診データが県立高校や私立高校に送られてばらばらになって、公文書扱いで5年間で捨てられているのである。したがって、全く活用されてこなかったわけである。
この健診データというのは、学校から持ち出してはいけないということになっているので、われわれのほうから全国、ご一緒している自治体を回り、中学校3年生の時点で、この帳票が真っ黒に埋められて、あとはなくなってしまうという直前にデジタル化作業をしている。
■ 個人情報が流出しない仕組みをつくった
健診帳票であるが、個人情報と健診の記録というのが当然あるわけだが、われわれのシステムの中で、スキャナーにこの帳票を入れると、瞬間的にこの個人情報Aの部分と健診記録Bが切り離されて、コンピューターで違うフォルダに格納されていくような仕組みを取っている。
1学年分全部終わると、右上にある暗号対照表、つまりAとBをあとでつなぎ戻すための電子的な鍵、ハッシュ関数がコンピューター上で2個だけ作れるようになっており、通常は1個の鍵は学校に、1個の鍵は役所、教育委員会に置かせていただいており、われわれはBの部分だけを持って京都に帰っている。したがって、われわれは個人情報を持ち出さないので、コンピューターが盗まれたり、なくしたり、落としたりしても個人情報が流出することがあり得ないという仕組みを作ったのである。
われわれのほうでは一定期間中に、全てのお子さんの健診データを暗号で分析して、人工知能で解析をしたものを自治体にお返ししている。その自治体にコンピューターのファイルで送ると、先ほどの暗号対照表が残っているコンピューターで、われわれのファイルを開いたときだけ、瞬間的に復元して、名前が複合して、ボタン1個を押せば、お子さん一人一人にお名前で分析結果をお返しできるというような仕組みをつくったのである。
これを毎年ご一緒している自治体の中学校3年生を対象に行っている。14歳で健診が全部真っ黒に埋められて、その3月になると高校に送られて捨てられてしまうということなので、14歳を対象に毎年この取り組みを行っていけば、ゆくゆくはその地域のお子さんたちの健診データが、しっかりと自治体に蓄積されていくということになるのである。
こういったことを教育委員会、自治体でご検討いただいて、学校の校長会でも説明をDVDやYouTubeで見られるようにして、あとは保護者へのお知らせをして、学校をまわらせていただくということをしている。
■ 永劫未来にわたって自分の健診記録を管理できる
データの流れであるが、学校現場で手書きの帳票を先ほどのシステムでスキャンしてデジタル化し、それを京都の二条城のすぐ南側にあるデータセンターで、日々全国のデータを受け入れているのである。
この受け入れたデータをOCRといい、手書きで書いてある帳票をコンピューターの人工知能が読み取って、自動的にExcelに入れていくような仕組みを取っており、これがデータベースに入っていくということをしているのである。
このようにしてまとまってきた情報というものを三つのことに役立てているのである。
一つ目が、大人になって自分の健診記録が分からなくならないよう、これをちゃんと取っておき、将来も見られるようにしてあげようということ、さらに分析を介してあげるということ。
二つ目が、自治体、地域に対して、「あなたの町は全国に比べてこういう健康の特徴があり、こういう地域内での差もあるんですよ」というようなことを出すこと。
三つ目が、日本の将来の健康のため、将来の子どもたちのために、予防医療や難病の理解、薬を作るなど、さまざまなことに役立てればなということがわれわれの願いである。
お子さんたちにはこういうものを返している。これはリポートの範例で、9年間どういうふうに成長したかという成長の曲線や、あるいはBMI、虫歯の本数について、全国の分布で自分がどこにいるのかというものが出てきたり、あるいは、中学校時点での健康の状態が出てきたり、その他注意事項には、例えば春の健診を受けて、夏のPTAで担任の先生が親御さんに対して受診勧奨をしても、親が子どもを病院に連れていかないということが全国的に問題になっているので、「こういったことを言われていたようだが、ちゃんと病院に行ったか」ということが出るような仕組みも作っている。
こういったものを一人一人のお子さんに返しており、今年からはQRコードを上に付けておいて、QRコードをスマホで読み取れば無料で、永劫未来にわたって、自分の健診記録をずっとスマホ等で管理できる仕組みもつくったのである。
例えば将来、大人になってから内科に行ったら、ネフローゼの疑いがあるんじゃないかと言われたとして、いつからタンパク尿が出ているか、タンパク尿が出ていると言われたことはあるかと問われたときに、ちゃんと記録が残っていれば、お医者さんに見せることで、ちょっと早く治療を始めようと、ちょっと様子見ましょうじゃ済まないねというようなことで、しっかりと適切な医療を受けるチャンスが増える。これは大変重要だというふうに思っている。
■ 20年後の地域の健康状態などを分析できる
自治体向けには、例えばあなたの市、町で、中学校ごとに、どういう健康状態が違うかという情報を返している。
われわれは多くの自治体とご一緒して、いろいろな経験をしてきたが、例えば同じ市内でも、ある中学校とすぐ隣の中学校で肥満が3倍多いというようなことをよく経験している。これはいわゆる健康格差というもので、おそらく中学校3年時点の健康格差は、20年後も引き継がれる可能性が大きいというふうにわれわれは考えている。
したがって、医療費を自治体も負担するわけだから、こういったことをしっかり見ることによって、20年後の地域の健康はどうなっていくのかを分析したり、あるいは、生活保護や子どものさまざまな状態と突き合わせて比較して、どのように保健教育やあるいは社会福祉施策に用いるかといったりというようなことを、首長や教育委員会等でも話し合っていただきたいというふうに思っているのである。
こういったものを自治体に返しており、年に一回でも確認してもらうような自治体が増えてきているところである。
この取り組みは平成27年から開始し、当時、全国教育再生首長会議の会長だった山口県防府市の松浦前市長から応援をいただき、全国11自治体でスタートした。そのあとは、さまざまな先生方からも自治体を紹介していただき、昨年、平成29年は70自治体とご一緒した。人口規模としては1000万人近くの人口規模の自治体とご一緒しているということになる。
今年はそれ以外に、おとといまでで72自治体を行脚して、子どもの健康は大事だと言って一生懸命説明しているのであるが、仲間を増やし、子どもの健康というのをちゃんと考えることで予防、将来の病気を減らしたいという思いがあるわけである。
どれぐらい自治体をまわっているかというような例であるが、写真集も作っていて、皆さんの地元の市町さんも映っているかもしれないが、こうやっていろいろな市町さんをめぐって、この辺の下ぐらいからが今年になってまわったところであるが、三重県や岡山で、茨城県は今年、15自治体くらいまわり、いろいろと理解をいただいているところが増えてきているところである。
さらに横のつながりで、例えば左上にあるS市市長は、健康に対する意識が大変高いので、仲のいい市長さんに電話してくださり、紹介していただいたりということもしている。北海道もつい3週間前に3自治体回ってきた。
■「乳幼児健診を最大限活用した子育てシステム」で子供の健康管理を
今年から母子保健にも真剣に取り組んでいる。乳幼児健診というのは法律に基づいて行われているのだが、やり方も、様式も、保存年限も、項目も、自治体ごとにばらばらである。なので、実は厚生労働省も全国の統計、比較、経年変化はやっていないのである。健診はやりっぱなしである。
大変もったいないなと思い、昨年、加藤厚生労働大臣にこれは大事だということをご理解いただき、今、母子保健課のほうで標準化の検討会というのをしていただいている。全国ばらばらにやっている健診を、少なくとも身体測定部分は同じように実施して、ちゃんと比較できるようにしておこうというようなことが検討されていて、これが検討されると、全国の自治体は、乳幼児健診の様式を変えて、標準項目をちゃんと盛り込んで乳幼児健診を行って、それを国に提出するということが来年から義務付けられる。
そこで、われわれが無料でマークシートを開発して、各自治体に無料で、法定健診分の1歳半と3歳、そして4カ月分をお渡し、お配りして使っていただくと、もうお母さん、保健師、あるいは医者がチェックすれば、あとは読み取れるのである。そういったものをお使いいただくことで、人間が入力しなくても健康の記録がちゃんと蓄積されていくというような仕組みを作った。
自治体に無料で帳票を提供すると、国に提出するのもいちいち人間が打つ必要はなく、ボタン1個で国に提出できる。さらに分析結果もフィードバックされて、先ほどの学校健診とつながることもできる。つまり、健康の状態がマイナス1歳から14歳まで、15年間分つながるわけである。
それが地域に残っていけば、子どもの健診記録のデータと大人のレセプトデータを突き合わせることで、例えば同じ市内でも、この学区は、大人は健康だけど子どもが健康じゃない、あるいは、この地域は、大人は不健康だけれども子どもは健康、これは意味が全然違うので、そういったようなちゃんと大人と子どもの世代を比較することで、次の世代にどうやって役立てるかということを考えていただければというふうに思っている。
これから少子化が進む中で、お子さんやお母さんに子どもの健康の意識を高めていただくきっかけになればいいなと思っているのである。
■ 子どもの健診も大事にしていくべきではないか
先週もいろいろ新聞報道をしていただいたようだが、われわれはさまざまな母子保健データや学校健診データを分析する中で、幾つかのことに気付いてきた。
例えば、これは3年前に神戸市とご一緒して、神戸市の過去8年分、77000人の母子保健データを解析することで、たばこを吸っている家庭に生まれたお子さんは、たばこを吸ってない家庭に生まれたお子さんに比べて、3歳になると虫歯が2倍に増えるということが分かった論文で、世界中で報道していただいた。
この理由というのが大事で、人間の体は遺伝子でできているが、遺伝子は大体2万個あり、遺伝子からタンパク質が作られ、人間の体が作られて、われわれは活動している。じゃあ、遺伝子が全く一緒だったら同じ人間が生まれるか、同じ人生を送るかというのが20世紀最大の謎だったわけだが、最近、決着がついたことは、マイナス1歳から5から6歳ぐらいまでの間に、自分の遺伝子から子育て環境や家庭環境に合わせて、この遺伝子は使わなそうだから取っておこうとか、あるいはこの遺伝子が大事そうだからもっとタンパク質を出しておこうとかということを人間の体というのは決めているそうである。これをエピジェネティクスという。
したがって、実は人間が一生でかかる病気というのは、70%は大体5歳ないし6歳までで決められているというふうにさえ考えられているのである。WHOもそういったことをもう発表している。
であるので、大人の健診は意味がないとまでわれわれは考えている。大人の健診は病気を見付けて医療費を削減することには役立つけれども、もう病気になっているので、そもそも予防できない。ところが、子どもの健診はまだ病気になっていないので、病気になるかもしれない人を見付けて予防したり、何らかの介入ができたりする最後のチャンスになるわけである。したがって、大人の健診だけではなく、子どもの健診も大事にしていくべきではないかということをわれわれは考え、こういった取り組みをしているところである。
さらに、ご一緒している自治体では、スマホで赤ちゃんの状態から子どもの状態をちゃんと確認できる、さらには大人になると両親から本人にこのデータが引き継がれて、自分が病気にかかると、今度は電子カルテもこれで見られるような、いわゆる電子生涯健康手帳、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)といったような仕組みも作っており、今年から各自治体で使っていただいているところである。
市民やマスコミからも大変評価がよく、おととし7自治体でアンケートをしたが、生まれてから高齢者になるまでのいろいろな健診の記録というのがばらばらになっていて、実は多くの市民というのは、自分に戻ってきていないのを不満に思っていて、ちゃんと活用してほしいというふうに思っていることも分かってきている。
■ 匿名化されたビッグデータを疫学研究などに使う
われわれは電子カルテのほうの統合、分析という取り組みもしている。われわれの一般社団法人と、私の弟子の医師たちを中心に運営しているリアルワールドデータという会社が全国の病院とご一緒して、電子カルテをお預かりして、ビッグデータにして、分析してお返しすることで、「あなたの病院は全国に比べて、この病気の治りが悪いですよ」とか、「この病気で薬を使いすぎていますよ」とかというようなことを分析する。その代わり、二次利用として匿名化されたビッグデータを疫学研究などに使わせてもらうというような取り組みをしている。
日本の8500の病院のうち、電子カルテの導入率というのはまだ40%にいかないぐらいである。電子カルテは、お金ばかりかかって、全然役に立ってないと思っていらっしゃる方も少なからずおられるというふうに聞いている。しかも、医局人事で病院を移ると、病院ごとに電子カルテの形式が違うから医者もいちいちまた覚えないといかず、理事長、病院長としてみても、せっかく電子カルテにしても形式が違うから自分の病院とほかの病院が比較できないということで、役に立っていない、ただ紙が電子化されただけみたいなことになっている。
そこでわれわれは現在は総務省からご支援いただいて、われわれの法人が全国の病院と契約をして、データを預かって、分析してお返しし、それを二次利用として学術研究や社会での活用を行うということをしている。
■ 2000万人近い規模のデータベースになっている
現在、北は北海道から南は沖縄まで、大体200病院とご一緒していて、患者さんの総数で2000万人近い規模のデータベースになっている。
どういうような一次利用、リポート分析をしているかというと、われわれは全ての検査値等も統合して標準化しているので、例えば、「あなたの病院にかかっている2型糖尿病の患者さんの血糖値のコントロール、Hba1cのコントロールは全国平均に比べてちょっと悪いみたいですよ」というようなことが分かる。
そうすると、その病院としては、「うちの患者さんはちょっと治りが悪くて申し訳ないから、出身母校の医局に行って頭を下げて、糖尿病内科の医者を一人非常勤で出してもらおうかな」など、考えるきっかけになればいいなと思っている。結局、医療がよくなれば地域の患者さんの健康がよくなるので、みんなにとっていいことかなというふうに思っているのである。
あるいは、CKDの患者さんで、人工透析をずっと回していると血が薄くなってくるので、ヘモグロビンをちゃんと測っている状態で、ヘモグロビンが低いにもかかわらず造血剤を使っていない患者さんたちはぐったりするので、こういった患者さんがあなたの病院にはどれぐらいいますよということをお見せすると、患者のQOLの把握ができることになるのである。
あるいは、消化器やリウマチでは、生物学的製剤や抗体薬を使うと思うが、その場合疫が落ちるので、B型肝炎のキャリアの患者さんがこういった薬を使っているとき、「HBVの抗原、抗体まで測れ」と添付文書上で書いてあるが、使っていない方がB型肝炎が再燃して、劇症化して亡くなったりするときに、ここをチェックしておらず、病院が訴えられて負けた事例がある。
医療安全のために、どのぐらいちゃんと検査が整備されているかということを見ていただくことで、医療安全の取り組みにもなるというふうに思っている。
整形外科だと、脳卒中予防でNOACとかワルファリンを飲んでおられる患者さんが転倒して、大腿骨骨折をしたりすると、観血的手術の適用になる。このときに、手術前に一回切ったワルファリンを再開し忘れするということが少なからずあると聞いている。
レセプトだと月単位しか分からないが、カルテだと日単位で分かるので、これを可視化することで、自分たちの病院がどれぐらい医療安全やガイドライン遵守ができているかということも一目瞭然で分かるということになるのである。
リハビリも、栄養が低く痩身なのに頑張ってリハビリしてもなかなかサルコペニアでは効果が出ないので、ちゃんと栄養を付けてからリハビリをするといいんじゃないかというような人が、どれぐらいあなたの病院にいるかという分布を出すということもしている。
■ どのような医療が適切なのかを可視化できる
部門別システムといって、例えば、眼科なんかいろいろな検査機械があって、ばらばらに感熱紙で検査結果が出てきたりというのがある。あれを看護師さんが写メで撮って、jpegで撮ったものを眼科のカルテに貼り付けているみたいなことを、どの病院でもよくやってきた。
これは無駄だとわれわれは考えていて、jpegだと解析できないので、ここからcsv形式の数値データで検査結果が送り込まれて、全部入ったものが病院の電子カルテシステムにちゃんと入り込む。
そうすると、ここには薬の名前も入っているので、個人情報を外して解析することで、例えば、眼科だと、緑内障の患者さんがどういうふうに薬を使うとどういう眼圧になるのかというのを経時的にずっと追うことで、その患者さんの適切な医療というのが分析できるみたいな仕組みを作っている。今、全国15の眼科病院で、試行的に使ってうまくいきはじめているところである。
こうすることで、全国のデータを統合すると、例えば、今までは製薬会社が中心になって臨床試験というのが進んできたのだが、データを分析することで、例えば全国のデータからある薬を使っている患者さんと、ある薬を使っていない患者さんとで、尿中アルブミン/クレアチニン比のような腎機能がどう変わっていくのかということを、臨床試験しなくても分析することができるようになっているのである。
あるいは、治療群間比較をしても、ある薬剤を使っている場合と、違う薬剤を使っている場合と、無治療群とで、例えば消化器症状の発症のようなイベントがどのように変わっていくのかというのを、カプランマイヤー曲線を描いて、ハザードで比較することによって、結局どのような医療が患者さんに適切なのかを可視化できるということになるわけである。
われわれは以上のような取り組みをしている。病院との連携について、もしご一緒させていただけるという病院さんがおられたら、言っていただければ資料等でご説明にあがるようにする。
さらに、もしご家族やご親戚などで、自治体の首長、教育長、保健福祉部長、県議会議員の大物がお近くにおられたらぜひ教えていただけたら、駆けつけていって、地域をよくするために健診のデータを分析してお返しするということをさせていただく。
高齢者は確かに重要であるが、これからの日本や地域を考えると、子どもが病気になるリスクをいかに減らせるかということのほうも重要だとわれわれは思っているので、ぜひご協力、あるいは連携させていただきたいと思っている。
(了)
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