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【シンポジウムⅡ】
【シンポジウムⅡ】
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これからの地域包括ケア病棟の質を考える
【座長】
邉見 公雄(全国自治体病院協議会会長)
【シンポジスト】
迫井 正深(厚生労働省保険局医療課長)
今中 雄一(京都大学大学院教授、日本医療機能評価機構理事)
上西 紀夫(日本長期急性期病床研究会会長、公立昭和病院院長)
仲井 培雄(地域包括ケア病棟協会会長)
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大会の最後の演題として全国自治体病院協議会の邉見公雄会長を座長に迎え、シンポジウムⅡ「これからの地域包括ケア病棟の質を考える」が開催された。厚生労働省の迫井正深保険局医療課長は、次期診療報酬改定について「地域包括ケアシステムと地域医療構想に対応した報酬設定が基本構図」とし、地域包括ケア病棟の評価のあり方にも言及した。京都大学大学院の今中雄一教授は、まちづくりの観点からの地域包括ケアシステムの構築を提言し、「産官学の連携によりシステムの組み方やケアの質評価を行っていく必要がある」と指摘。一方、公立昭和病院の上西紀夫院長は、地域医療構想の進め方について「急性期医療の自己変革と病病間の調整が必要」と強調し、不足する地域包括ケア病棟の整備に向け決意を新たにした。最後に登壇した仲井培雄会長は、地域包括ケア病棟の地域医療に与える影響を評価したうえで、「サブアキュートなどの受け入れプロセスを診療報酬上で評価したらどうか」などの提言を行った。
■地域包括ケア病棟は地方創成でも一番大事な機能
〇座長(邉見公雄氏)
シンポジウムⅡのテーマは「地域包括ケア病棟の質を考える」である。地域包括ケア病棟の質を上げていくうえで、どのような課題があるかを考えていきたい。地域創生は、医療と教育と1次産業の6次産業化が十分条件ではないが必要条件だと考えている。そういう意味で、地域包括ケア病棟は今後の日本の地方生き残りのために一番大事な機能ではないかと考えている。
私の務めた赤穂市民病院にも地域包括ケア病棟をつくっているし、院長時代は公立病院で恐らく1番目か2番目の老健もつくった。田舎ではそういうものが必要なのである。公民や急慢の区別はない。患者、地域住民が必要なものをつくらなくてはいけないと思ってやってきた。
シンポジウムには入るが、まずトップバッターの迫井正深先生にお願いしたい。迫井先生は今回の診療報酬改定を司っている保険局医療課長である。私も中医協委員を一緒にやったが、2回とも診療報酬を上げていただいた。今回もそうしていただけるのではないかと期待している。
次の演者、京都大学大学院教授で日本医療機能評価機構の理事もされている今中雄一先生に、地域包括ケア病棟のこれからの質の評価ということにも関係があると思う。
日本長期急性期病床研究会会長で、公立昭和病院の院長の上西紀夫先生には、長期急性期病床と地域包括ケア病棟の定義や違いについてお話いただければと思う。
最後の演者として地域包括ケア病棟協議会会長で、芳珠記念病院理事長の仲井培雄先生から、特に地域包括ケア病棟におけるPOCリハビリの重要性などについてお願いしたい。
【講演1】
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地域包括ケア病棟の中身と体制をどう評価していくか
迫井 正深(厚生労働省保険局医療課長)
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(要旨)
厚生労働省保険局の迫井正深医療課長は、まず人口動態や疾病構造の変化に言及し、そのうえで「在宅・居宅の環境変化により在宅ニーズが高まっており、地域包括ケア病棟の役割がより重要になる」と指摘した。また、今後の政策課題を解決していくためには、「地域包括ケアシステムと地域医療構想に対応した報酬設定が基本構図」と次期診療報酬改定の方針を示した。そのうえで地域包括ケア病棟の機能について分析し、「病棟の組み合わせが地域包括ケア病棟の運用に影響を与えているのは明らか。それについてどう考えていくのか」と診療報酬改定の論点を匂わせた。
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評価指標の運用で地域のパフォーンスを見える化していく
今中 雄一(京都大学大学院教授、日本医療機能評価機構理事)
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まちづくりの観点から地域包括ケアの質やコストを研究している京都大学大学院の今中雄一教授は、地域包括ケアシステムについて「住まいや生活サービスなどを統合的に捉えていくとなると、医療者や介護者だけで構築するのは容易でない。産官学の連携によりシステムの組み方やケアの質評価を行っていく必要がある」と指摘。質の評価においては、例えば認知症サポーターが不足している地域は介護度悪化率が高まるなどの調査結果を公表した。また、行政にリソースを動かすまでの権限はないとしたうえで、「地域の計画を実現していくためには医療者や介護者、行政や市民、教育機関などが共同で地域を運営していく視点も持つべき」と提言した。
■地域包括ケアはまちづくりの観点からも重要なテーマ
まちづくりということも医療・介護と並行して、より統合的に考えていこうという動きがある。アカデミアもそれに応じていかないといけないということで、建築、心理、社会、あるいは地域経済、情報技術を専攻されている方、特にそのなかでまちづくりの研究、フィールドワークなどで頑張っている方たちを京都大学中から集め、超高齢社会デザイン価値創造ユニットというものを正式に大学内で立ち上げて活動を始めたところである。
われわれの研究室は、医療・介護の質とコストを考えていこう、そのときにそれをシステムとして捉えていこうとしている。そうなると、地域包括ケアシステムは、われわれにとって重要なテーマである。
3つの重要な機能をデータで見ていくと、急性期病院の中に地域包括ケア病棟をつくった場合と別の場合とでは、構造がかなり違うという話は何度も出ていると思うが、今回DPCデータにある地域包括ケア病棟のデータの分析結果をはじめにお示しし、後半は勝手な意見を述べたいと思う。
急性期からの受け入れ、在宅復帰支援、緊急時の受け入れというものがどれだけ果たされているか、伏見班の2014年度のDPCデータ(244病院、患者数4万9,000人分など)から見ていきたい。
まずどういう病院が地域包括ケア病棟を持っているか。急性期の1日当たりの平均医療費を横軸に見ると、かなり平均医療費が高い病院でも包括ケア病棟を有していることがわかる。地域包括ケア病棟の平均在院日数は暫定値で約22日である。患者在院日数分布を見ると、上位5分の1と下位5分の1では平均在院日数が2倍以上開きがあり、かなりばらつきがある。
次に入院経路、退院経路について見ていくと、これもDPC病院への入院経路であって地域包括ケア病棟への入棟の経路ではないのだが、基本的には家庭からの入院が80%となっている。一方、回復期リハなどは他の医療機関からの入院が結構多く、病棟ごとに構成はかなり異なる。
入院時の意識障害レベルについては、地域包括ケア病棟では意識障害なしの患者が比較的多い。はじめにDPC病棟に入院した場合がほとんどだと思うが、そのときの病名群は骨折、脳梗塞、肺炎が多く、回復期リハのほうがより整形外科領域、脳卒中領域が多いのに対し、地域包括ケアは回復期リハほどではないが、骨折、肺炎が多くなっている。
■各種指標の数値化で医療・介護度悪化率との相関を調査
ここからは、地域包括ケアシステムについて話す。このシステムにケア、サービス、住まいを統合して考えていくとなると、やはり医療者や介護者だけでつくるのは容易ではない。産官学連携が必要であり、学もそこで存在感を発揮できるように頑張らないといけないと考えている。例えば1つのアプローチとして建築的な融合の例がある。
藤沢のサスティナブル・スマートタウンは、2つの建物がタウンの一角にあり、サ高住と特養、ショートステイやデイサービスに加え、保育所、学童保育、学習塾まで入っている。高齢者と子どもとのインタラクション(相互交流の場)も多少組み込まれている。またクリニックがあり、薬局、訪問看護の施設も併設されている。
このような建物でいろいろなサービスを一体的に提供できるしくみをつくっていくという取り組みである。実際、東京都内の真ん中にサービス一体型の建物を建てて、各種の介護サービスを受けられるようにしていくということが進んでいる。医療者や介護者が、より主体的にまちづくりにどうかかわっていくかが、今後の課題になるかと思う。
一方、サービス的な融合の例もある。横浜市の場合、介護拠点や相談窓口等をコンビニの中に併設しようという試みがある。別の地域では、生活から医療・介護までを幅広く支援する施設を目指し、薬局と訪問看護ステーションとコンビニを一つの建物内で実現していくという取り組みを行っている。
また、まちのパフォーマンスを数字で「見える化」していこうと、例えばWHOでエイジフレンドリーシティのコア指標が提案されている。かたや、ディメンシアフレンドリーシティ(認知症にやさしいまち)についても指標化が進んでいる。
具体的には、公平性や物理環境のアクセス、社会環境の包摂性といってボランティア参加率や雇用率などがある。これらの指標を地域包括ケアとしてもう少しわかりやすくできないかというところを考えている。
介護保険データの要介護度を分析すると、年齢や認知症の有無で確度の高いリスク悪化予測モデルをつくることができる。これを統計的に調整し、市町村ごとにリスク調整悪化率を出してみると、地域ぐるみで介護を考えているようなところは、結構リスクが低くなっていたりする。こうした指標に加え、包括的に医療や介護、市民のサポート力などを数値化していくと、医療・介護度悪化率、リスク調整悪化率が高い地域では、例えば認知症サポーターが少し少ない、地域密着型サービスも少ない、グループホームも少ない、施設サービス量は結構多いといったような状況が浮き彫りになってくる。
一方、悪化率が低い地域は、例えば認知症サポート活動や介護側の地域密着型サービスが盛んで、グループホームも充足し、地域包括ケア支援センターが機能しているなどが大きな要因となっている。このようにさまざまなデータを数値化して示すことで、地域ごとの医療・介護体制を目に見えるようにできるのではないかと考えている。
■地域を共同で経営していくという視点
今後、限られた財源のなかで質が高く効率の良い公平・公正なしくみをつくる必要があるが、一方で人々が負担に耐えうるしくみにしていく必要がある。例えば、認知症の介護における経済的な負担を考えたときに、介護保険でいくらお金を出していくかが注目されており、数字としても把握しやすいが、一方で介護保険外の介護費、特に在宅等でのインフォーマルケアのコストが結構大きい。そのためサービス別や居住形態別に調査を進めている。例えば在宅でもインフォーマルケアの費用が嵩んで施設に入所するより高くなるという場合もある。
在宅の形も、例えばまとまって住んでいるような場合や、患者宅がバラバラの場合もある。例えば、山間部では5人の患者さんを1日かけて回るという事例もある。介護保険制度の維持ももちろん重要だが、一方で個人の負担がどうなるのかにも着目しながら、いろいろなサービスのあり方を考えていく必要があると思われる。
地域の医療・介護システムを計画し実現していくにあたって、市町村や都道府県は病床規制や補助金などの力をもっているが、リソースを動かす権限は持っていない。場合によっては首長が公立病院に権限を持とうというような話もあるが、基本的には医療提供者や行政に加え、市民の役割は大きいと思うし、マスコミも大きいと思う。
保険者、アカデミア、教育界も今後重要だと思うが、いろいろな産業がかかわって、地域を共同で経営していく視点が重要である。今もいろいろな形で協議が行われているが、地域ケア会議で地域のあり方をもっと共有し、おのおのの役割を果たしていきながら、もっと明示的に経営していこうというような動きが出てくるのではないかと思う。
われわれはそれを、ソーシャルジョイントベンチャーと呼んでいるが、医療者や介護者だけではなかなか実現できない。市民の力が必要である。市民の力をパワーアップさせるためには市民への教育・啓発活動にもっと力を入れる必要があり、今どんどん増えている認知症サポーターの普及や活動の充実をさらに進めていく必要がある。小学校、中学校から認知症の教育をしているケースも増えてきており、イギリスでは日本のこのしくみを手本に、ディメンシアフレンズというものを開始している。
最後になるが、地域包括ケア病棟のような機能は今後、地域医療の中核をなす非常に重要な機能であることは間違いない。そして、この病棟のパフォーマンスや地域包括ケアシステムのパフォーマンスを見えるようにしていくことも、これから進んでいくと思われる。そこに地域システム改革やまちづくりがリンクしていくことは必須であり、一方で地域の計画を実現するために行政や医療職、介護職の団体が共同して運営していく必要があると考える。
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病病間の多職種交流で地域医療構想の推進図る
上西 紀夫(日本長期急性期病床研究会会長、公立昭和病院院長)
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日本長期急性期病床研究会会長で公立昭和病院の上西紀夫院長は、まずアメリカの長期急性期病床機能のLTAC (Long Term Acute Care)について解説。そのうえでLTACと同じような病床機能として地域包括ケア病棟を挙げたが、同病棟について「急性期からリハビリまで懐が深く、非常に幅広い機能を持っている。それが逆に問題点となるかもしれない」と指摘した。また、北多摩北部圏で地域包括ケア病棟の整備が進んでいない状況について、「急性期を維持したい病院が残念ながら多い。医療提供者の自己変革も必要」と問題視し、病病間の多職種交流等によって地域医療構想を進めていく考えを示した。
■急性期医療の入り口と出口をどう考えるか
われわれの病院では地域包括ケア病棟を導入していない。ただ、地域でいくつか活動しているのでその話をさせていただくが、とりあえずLTAC (Long Term Acute Care)について簡単に説明させていただく。また、東京では今、地域医療構想が急速に進んでいるが、私どもの地域でどういう問題が起こっているのかをお話しさせていただきたいと思う。
公立昭和病院は高度急性期を掲げ、3次救急やがん診療連携拠点病院など、いろいろなことをさせていただいている。基本は胃がんと、もう1つは脳血管障害や交通外傷などの救急医療、と大きく分けてこの2つをミッションとして活動を行っているが、その対象はどんどん高齢者になっている。
したがってcureからcareへ比重を移していかざるを得ないが、「ときどき入院ほぼ在宅」とよく聞かれる言葉は、要するに病気をある程度コントロールして、生活復帰を支援するリハビリが重要だろうということを言っているものだと思う。私どもは、cureのことばかり習ってきた世代だが、やはりこれからはそうではない。ここが大事で、特に高齢者が増えてきた現代ではそういうことだと思う。
ということで、やはり高齢者に対してはある程度段階を分けて医療、あるいは介護を提供していかないと、生活復帰はなかなか困難であろう。つまり、医療の機能分化を進めて適切な医療・介護を提供するために、高度医療、急性期医療の入口と出口をどう考えていったらいいかということなのだろうと思う。
さて、LTACの話だが、これはもともとアメリカにおける病床機能である。まずSTAC(Short Term Acute Care)、これは短期急性期病床でアメリカはたぶん在院日数が5日前後で大変短い。そのあとを引き受ける病棟が必要だということで、LTAC、そしてそのあとにリハビリがあったり、日本にはまだないが、スキルド・ナース施設でケアをする。最終的には帰れる人は在宅に帰る、こういうシステムが一応アメリカではできている。
LTAC病院の定義は、複数の合併症を有し、ある程度の長期入院が必要で、重症度の高い患者に対し、専門性の高い急性期ケアと同時に、広範囲の医療およびリハビリケアを提供する病院となっている。向こうではだいたい平均在院日数は25日以上で、2011年時点で436施設が認可されている。ここが重要なのだが、LTAC病院からSTAC病院への転院、要するに下から上に上がるのは駄目で、患者の流れを上から下にするという考え方になっている。裏を返せば、LTACとSTACでやりとりをして医療費を余分に取ってはいけないという背景もあると思う。
日本でもこういうLTACの長期急性期的な病床は必要だろうということで、2013年にLTAC研究会が発足した。どちらかというと急性期から見て回復期や慢性期はどのようにあるべきかという考え方を勉強しようという会である。
■LTACに該当する機能は地域包括ケア病棟か?
病床機能はいろいろな分類ができると思うが、いわゆる急性期病床群、亜急性期病床群、慢性期と大きく分けて3つあり、このなかでLTACを入れるとなると、私としては2番目の亜急性期の一部のような気がしている。
ところが地域包括ケア病床は亜急性であるが、実際は急性期とポストアキュート的な医療、そしてリハビリや慢性期的な機能も持って何かあったらその中で動かすという、非常に幅が広く、懐が深い機能を持っている。しかし、このことが逆に言うと、いくつかの問題点でもあるのかもしれないと考えている。
地域包括ケア病棟あるいは病床のある病院の多くは、高度急性期を持ち、その受け皿として地域包括ケア病棟を併設している。自院の中でかなりの患者を引き受けて完結しているパターンであり、ある面で国の7対1を減らしたいという意向に乗った格好になるかと思う。
また、ポストアキュートと同時にサブアキュート的なところで、ある程度の急性期医療や救急にも対応し、リハビリを入れてミックス型のような形で運営しているパターンもある。さらに慢性期あるいは回復期のなかからつくられていく地域包括ケア病棟あるであろう。
地域包括ケア病棟には大まかにこの3つのタイプがあると、私なりに解釈している。確かに懐が深くていろいろ形があるが、たぶんこの慢性期型からの地域包括ケア病棟は機能的にかなり厳しいのではないかと思う。
私どもの地域でも慢性期から地域包括ケア病棟にされた病院もあるが、やはりなかなか運営が難しいようで、少し病床を減らしたという話も聞いている。ただし、どの形が良いかはたぶんこれからのいろいろな話で決まってくる可能性もあるが、私としてはポストアキュート寄りとサブアキュート寄りの地域包括ケア病棟が主流になってくるのではないかと考えている。
■機能によって患者が流出・集中する地で地域医療構想をどう実現していくか
私どもは地域医療構想を推進していかなければならない。地域医療構想における当院の状況について簡単にお話しさせていただきたい。
私どもの病院は北多摩北部の小平市にあり、主に北多摩北部の5つの市と、北多摩西部の東大和市、北多摩南部の小金井市、この7つの市が中心となって診療圏を形成している。ここの人口だけで70万人以上、周辺を合わせると90万近い人口のなかで運営している病院である。
東京都は2次医療圏を中心に、地域医療構想を進めており、何回か会合が持たれている。東京都の出したデータには今後、患者がどのように移動するかも示されている。
高度急性期は、都内に大学病院やがんセンターなどが豊富にあることから、23区内に集中する。北多摩北部にも大学病院が1つと日赤があるので、ここに集まるだろう。急性期もだいたい同じところで集まっており、高度急性期よりは少しばらけるところはあるが、基本的には同じような構図である。
回復期になると都内への集中は少し減り、私どものところに都内や埼玉から来るというようなことが想定され、さらに慢性期になると急性期とは全く逆で、都内の中心からどんどんこちらへ流れてくる。
言い換えれば、私どもの地域は病床数がそれなりにあるが、都心からどんどん慢性期の患者が来ると、地域で慢性期の医療・介護が必要な人を受け入れる場所がなくなる。そのためにこの地域に住んでいる方々は残念ながら、もっと遠くに行かざるを得ない。こういう問題を抱えながら、地域医療構想をどう進めていくのかが私どもの課題である。
北多摩北部には42病院あるが、病院機能報告制度によると、2014年の1年で高度急性期が少し減少した。回復期は基本的にリハビリの病院で変わらず、慢性期も変わらない。こういうなかで地域包括ケア病床がどうなるか。この辺が実際に私どもの地域で非常に悩んでいるところである。
地域医療構想の必要病床数をみると、高度急性期は現状の半分にして、急性期は同じぐらいである。しかし回復期はまったく不足しており、慢性期は減らしていく方向で、その分をたぶん在宅でカバーしていくという話になるのだと思うが、こういうなかで地域包括ケア病床がどの機能に入ってくるのが今一つわからない。急性期と回復期の両方にあたるのかという気もするが、このようななかでどのようにしていくか、話し合いをしているところである。
地域の地域包括ケア病床は現在、名乗りを上げたのは79床だけである。たぶん、地域としてはこれでは全然足りないと思うので、今後どう調整していくのかが一番の問題だと考えている。
■急性期のプライド? 地域包括ケア病棟の整備が進まない
当院の現状についてお話しさせていただく。昨年の患者数は少し減ったが1万2,000人ほど入院患者がいた。だいたい予定入院と救急が半々である。3次救急と2次救急を標榜していることから、救急の入院でも救急車で来る患者と、予定だったけど急に悪くなって搬送される患者さんの2通りがある。
救急患者数は年間で1万7,000人ぐらい。救急車は年間7,500台ほど受け入れており、たぶん都内で4番目ぐらいに救急の多い病院である。そういうなかで緊急手術が多いのも当院の特徴といえる。
年齢別の患者数をみると、比較的若い方も多いが、65歳以上の前期高齢者、75歳からの後期高齢者、85歳以上の超高齢者と、半分以上が高齢者で占めており、だいたい8割弱である。高齢化が進んでいるため2年前の統計と比較しても2、3%増えている。もう数年たつと高齢者だけで60%を超えると思う。やはり高齢者の救急医療への対応は、そのあとの治療や退院支援を含め、非常に大きな問題ではないかと思う。
全入院患者の退院先は、88%が自宅に帰り、他の異なる機能の病院や介護施設に転出される方がだいたい8.8%である。転院先は回復期が多く、残念ながら地域包括ケア病床に移る方は非常に少ない。ある面で、比較的元気な方が利用しているのと同時に、やはり地域で地域包括ケア病床の整備が進んでいないという理由もある。
その原因としては、各病院の体制が整っていないことと、お互いにどういう患者をやりとりするかが、まだ少し見えていない面もあるのかなと思う。
もう1つの側面としては、聞いてみると各病院ともやはり急性期を維持したいという気持ちが残念ながらまだ多く残っているようだ。この辺が少し問題であると考えており、こういう研究会で検討あるいは勉強し、少しずつ地域に地域包括ケア病床を増やしていきたいと思っている。
■病病間の多職種連携を強化して病床機能分化を推進
私どもは、北多摩北部の病病連携会議を4年前ぐらいに立ち上げた。もともとは東京都のいろいろな受託事業から始まった会議であるが、42の病院が集まって病院相互の情報交換などを行っている。現在の大きなテーマは、機能分化をどう図っていくかということに尽きる。連携会議には病院や医師だけではなく、北多摩北部の5つの市の医師会の代表者や病院の連携職の方にも入っていただいている。
年1回以上の総会や幹事会のほかに、連携職会議を年2~3回開催し、事務職やMSWなどさまざまな職種の方が毎回80名ほど参加していろいろな情報交換を行っているが、これが病院間の連携を円滑にしていくうえで非常に重要な役割を担っている。この会に行政が入ればさらに有意義なものになると思っているが、それは今後の検討課題である。
このような会合などを活用して地域医療構想について情報交換をしたり、勉強会を開催して地域包括ケアシステムをどのようにつくっていくも考えていく必要がある。そのためには、やはり地域の各病院がバラバラに動いていてもまとまらないことから、急性期と慢性期とで話し合いを行い、看護と介護でお互いに勉強する。また、MSWや、今後はたぶん薬剤師や歯科医師も入ってくると思うが、こういう方々との情報交換をまとめてやらないと、地域全体として良くならないと思う。
そこで、先ほど紹介した連携会議を例えばNPO法人にするということも考えていたのだが、国のほうから地域医療連携推進法人というアイデアが出てきた。これがうまくいくかどうかわからない。しかし考え方としては連絡会議と共通しているところもあり、今後検討していく必要があると考えている。
大きな声では言えないが、こういう地域の調整会議を今、医師会主導で行うという声も聞かれるが、実際それは私は無理だと思う。やはり病院が中心となってある程度話し合いを行い、そのなかで医師会の先生が施設と話をしていくという形にしていかないと、たぶん物事は進んでいかないんではないかと小さな声で付け加えておく。
社会保障制度国民会議報告書によると、提供体制の改革は、提供者と政策当局との信頼関係こそが基礎であると記されている。診療報酬・介護報酬による誘導は、確かにこれまで効き過ぎるほど効いてきた。7対1などはその典型である。今後、地域包括ケア病棟についてもいろいろな誘導があると思うが、提供体制の形をゆがめる一因となりかねない。
政策当局は提供者たちとの信頼関係を再構築していくためにも、病床区分をはじめとする医療機関の体系を法的に定め直し、それぞれの区分のなかで相応の努力をすれば、円滑な運営ができるという見通しを明らかにする必要がある。この部分で迫井課長は今大変ご苦労されているだろうとは思う。私どももぜひコミュニケーションを十分に図って協力していきたいと考えている。
確かに時間軸で考えると、短期と中長期に分けて実現すべきことがあるのと同時に、やはり医療提供者の自己改革も必要なのであろう。この辺は反省すべき点も多々あるが、情報交換を進めながらと研さんを積んでいきたい。
以上、雑ぱくな話だが、医療経済や医療レベルだけでなく、患者側からの視点、地域からの視点がこれからはより重要になる。地域医療構想、あるいは地域包括ケアシステムを進めていくうえで、私どもの考え方をかなり変えていかなければ、これからは非常に大変だと考えている。
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地域包括ケア病棟の質とその評価をどう考えるか
仲井 培雄(地域包括ケア病棟協会会長)
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地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長は、2015年から3年間のデータを駆使して地域包括ケア病棟の機能や型を分析し、「地域包括ケア病棟の設立によって、地域との調整や新たな職員の雇用が進むなど多くの波及効果をもたらしている」と評価した。一方、院内ポストアキュートで在院日数60日に近づけるような運営を問題視し、「地域包括ケアシステムを促進させるサブアキュートや院外ポストアキュートの受け入れプロセスを、診療報酬上で評価してはどうか」と提言した。
■協会提唱の周辺機能による受け入れは約4分の1
「地域包括ケア病棟の質とその評価」をテーマに講演を始める。2015年度、2016年度、2017年度のデータを駆使しながら話をしたいと思う。
まず2017年度のアンケート調査については6月に行い、厚生局の調査で4月末に届出されていた1,894病院すべてに送付し、614病院と3割近い病院から回答をいただいた。アンケートの概要は、客観的指標として地域包括ケア病棟(病床)の状況と、主観的な意見としての診療圏の状況、そして地域包括ケア病棟(病床)の運営について書いていただいた。
現在の日本は、人口減少、少子化、超高齢社会、認知症高齢者の激増、地域間格差の時代である。地域医療構想の策定と地域包括ケアシステムの構築で、効率化と質の担保とまちづくりは必須である。
未来の地域包括ケアシステムは、この保険医療2035において、「高齢者だけではなくて子どもや障害者、困窮者を」と書いてある。2017年3月に出た地域包括ケア研究会の報告書には、「我が事・丸ごと」地域共生社会の実現、地域包括ケアシステムはこの実現のためのしくみだと断言されている。
地域包括ケア病棟の現在の機能について病床機能報告での取り扱いは先ほどからも議論になっているが、地域包括ケア病棟だけが複数の機能にまたがっている。すなわち地域包括ケア病棟は急性期と回復期、さらに慢性期の機能も有しているということである。
地域包括ケア病棟には4つの病棟機能がある。うち3つが受け入れ機能であるが、ポストアキュートは急性期・高度急性期からの受け入れで、院内・院外を問わない。サブアキュートは発症前から生活支援が必要で、在宅療養、介護施設などでちょっと急変した方が緊急の受け入れで入ってくる。周辺機能は、ポストアキュートやサブアキュートといった中核機能の補完機能と、7対1~13対1の一般病棟の代替機能からなり、これも発症前の生活支援が必要ない周辺機能(緊急時)と化学療法や緩和ケア、手術・麻酔等の予定入院の、周辺機能(その他)がある。もう1つの機能には在宅・生活復帰支援機能がある。
ポストアキュート、サブアキュート、在宅・生活復帰支援機能はもともと厚生労働省のほうで提示されているのに対し、周辺機能は当協会が提唱しているものである。2016年度の調査によると、ポストアキュートとサブアキュートの中核機能でだいたい76%、周辺機能で24%である。ポストアキュートは院内からが83%を占めている。サブアキュートは12.3%で患者の平均年齢が一番高い。周辺機能は緊急の受け入れが6.7%と少ないものの、平均年齢は71.3歳と各機能のなかで一番若い。また、周辺機能のその他の受け入れでは26%で手術が行われている。
■急性期CM型、PA連携型、地域密着型の3つに分類
調査においての課題は、入院の契機となった疾患の発症前の日常的な生活支援の必要性がわからないと、サブアキュートの受け入れなのか、周辺機能の緊急の受け入れなのかの判断がつかないことである。
また、各病院で機能的なばらつきが大きいのも特徴である。平均と標準偏差を取ってみるとポストアキュートだけが平均より標準偏差が少ないが、あとはすべて偏差が大きい。その原因を調べるため、10対1以上の病棟の有無、200床以上・未満、地域・タイプで分析してみたが、最も大きな要因は、10対1以上の病棟の有無であった。
猪口先生もおっしゃられていたが、10対1以上の急性期病棟があると、ほとんどの地域包括ケア病棟が院内のポストアキュートとなり、急性期病棟がないと、ポストアキュート、サブアキュート、周辺機能の受け入れが3分の1ぐらいずつになる。そしてポストアキュートの内訳は、10対1以上があると院内、ない場合は院外からが9割を超えている。後者の場合、自前の急性期病棟がないわけであるから、ポストアキュートによる受け入れが他の病院からの転院になるのは、ある意味当然といえる。
ただ10対1の有無だけではなかなか病院の機能がわかりづらいということもあり、協会ではこれもアンケート調査を実施し、急性期ケアミックス(CM)型とポストアキュート(PA)連携型、地域密着型の3つに分けた。
急性期CM型は10対1以上の病棟があり、施設全体として急性期を最も重視しているタイプである。急性期の対応が強みで、地域包括ケア病棟は院内のポストアキュートという位置づけだ。そのため、サブアキュートと院外ポストアキュートの地域ニーズへの対応が課題と言われている。
PA連携型は、施設全体で実患者数のおおむね半分以上が他院からのポストアキュート患者である。こちらは高度急性期~急性期機能を有する連携先の病院にポストアキュートで価値を提供することになる。回復期リハや療養などの後方病床の引き出しや、訪問・通所・入所の併設施設が豊富である。
地域密着型の定義は、上記のどちらのタイプにも属さず、ちょうど中間の機能になる。比較的小規模な病院が多く、日常生活圏域のサブアキュートに主に対応している。なかには手術を中心にされているところもある。
なお、形態分類として、全病棟・病室が地域包括ケア病棟という地域包括ケア病院もある。機能的には地域密着型がポストアキュート連携型のどちらかになる。
2017年度のアンケート調査では、急性期CM型は約6割、PA連携型が15%、地域密着型が25%という構成となっている。病院基本情報として、開設法人は民間が7割、所在二次医療圏の都市型分類では大都市型が3割、地方都市型が5割強、過疎地域が15%ぐらいということになる。
協会ではPerson Flow Management(PerFM)という概念をつくり、患者を生活者の視点で捉えて病院と地域を一体と考え、切れ目ない医療と介護を提供することを提唱している。そのためには在宅でフォローしていた方々が入院となった場合、在宅医や訪問看護師、ケアマネジャーといった方々を通じて院内のスタッフに情報を提供していく必要がある。
また、院内ではリハビリやNST、認知症ケア、多剤投薬対策を包括的に実践し、自由度の高い個別リハビリ(POCリハ)を提供する。これらの院内多職種協働は、退院後の地域での生活を見据えて行われるものでもある。
退院時にはやはり、院内多職種から地域内多職種の方々に情報を提供しなくてはいけない。このときにいろいろな様式があったり、院内・地域内で共通の評価表がないと、なかなかデータの集積・共有が図りづらい。今後ビッグデータなどが整備されていくということであれば、地域や全国共通の生活支援評価票が必須になってくるのではないかと思う。
■地域包括ケア病棟をめぐる論点を考察─増収増益は約6割
診療・介護報酬同時改定の論点をみると、地域包括ケア病棟の入棟患者のうち、院内の他の病棟から転棟した患者の占める割合が90%を超える医療機関は全体の45%を占め、7対1を持つ医療機関のほうがその割合が多いということが記されている。
いろいろと書かれているので論点を整理してみると、①院内からのポストアキュートが多いという傾向は良くないことなのか。また、②地域包括ケアシステムを促進するポストアキュートやサブアキュート、在宅生活復帰支援機能の評価のあり方や、③入院患者の状態や医療の内容に応じた適切な評価とは何か。それから④地域包括ケア病棟を届け出る病院の別の病棟との組み合わせは、院内・地域内でどのような機能を発揮するのか。そして⑤地域によって一般病棟や在宅医療などの医療資源が異なる場合、地域包括ケア病棟を届ける病院はどのような評価を受けるべきなのか─といったことが問題提起されている。加えて、ここには出てこないが⑥地域医療構想での役割も一緒に考えてみる。
まず①である。地域包括ケア病棟は2017年5月末現在、1,912病院あり、6万800床ある。届出病床は一般病床が93%、療養病床6.9%。医療法上の療養病床だけの病院からは2.1%である。ここからの届出が少ないのは救急の受け入れや在宅医療支援病院の届出のハードルが高いことが予想され、一方、急性期の一般病床からのハードルは低く、逆に届出しやすいということが予想されるわけである。
地方厚生局データのなかから、10対1以上の届出のあり・なし、それから許可病床数200床以上・未満で分けて4つに区分してみると、10対1以上あり・200床未満の病院の届出が一番多く、10対1以上なし・200床以上が一番少ない。10対1以上なしの200床未満の病院の届出は、急性期機能を持つであろう10対1以上の病院に遅れることなく、2度の改定時に届出数が加速度的に増えている。
地域包括ケア病棟を開設した理由として最も多いのは、転換することでより地域のニーズに合った医療を提供できる、2番目は患者の状態に即した医療をケア病棟と組み合わせることでできる、3番目は収益が上げやすい─ということである。そして11番目の理由としてある、周辺の急性期病院の病床転換により自院の回復期・慢性期の患者が減ったからは、わずか2.9%である。この消極的な理由で地域包括ケア病棟を選んでいる病院はほとんどないということがわかる。
また、病棟構成を見直す際の他施設との調整は25.2%である。これを多いととるか少ないととるか賛否はわかれるが、私は多いと考えてる。さらに診療圏において、在宅医療・介護機能の充足度は、充足していると答えた病院が3割もある。これもすごいなというのが率直な感想で、それほど急激に地域包括ケア病棟を持っている病院は、いろいろな化学変化を各地で起こしていると想像できる。
経営状況については、増収増益になった病院が6割近くある。少ないが減収増益になった病院も3.3%あり、合わせて6割ぐらいが増益になっている。変化なしは20%ぐらいあり、減益となった病院は15%くらいである。地域包括ケア病棟と経営状況との関係について、「関係があった」は増収増益で6割を超えているが、減収減益では「関係がなかった」が5割を超えている。
増収増益と回答した病院の自由記述によると、「院内の機能分化が進み、他病棟との組み合わせで無駄がなくなった」、「急性期の医療密度が上げられた、紹介が増えて連携が深まった」、「平均在院数が短くなった」などが挙げられている。なかには「60日まで算定できる」という、少し気になる記述もあった。
減益となった病院は、「療養病棟への転棟が少なくなった」「ケア病棟だけだと増収しているが全体は減収した」などである。
■POCリハビリは地域包括ケア病棟の3割で実践
次に②の地域包括ケア病棟の機能をどう評価するかということである。基本的に、近未来の地域包括ケアシステムがカバーする小児・高齢者・障害児者で日常的に生活支援が必要になっている人の状況が国全体で把握されていない。そこが少し問題であると考えている。
③の入院患者の入院前、発症前の生活支援の情報を得た際の評価については、ケアマネジャーが介護保険で入院した方の情報を提供すると入院時情報連携加算を算定できるが、病院には診療報酬上の直接な評価はない。ただし、入院中にケアプランの変更等を行うことにより、退院時の介護支援連携指導料につながる場合もある。
在宅患者緊急入院診療加算は、在支診・病からの紹介入院で、一定の在宅管理料を算定している患者のみに算定できる。そして現在のところ、福祉関係者から障害児者の情報を得たり、救急隊から救急情報シートで情報を得たり、地域包括支援サンターから相談事例の情報を得ても、互いに評価されることは何もないということである。
地域包括ケア病棟入院料をストラクチャー、プロセス、アウトカムで分けてみると、ストラクチャーではデータ提出やDPCの様式1も含めて脳卒中の発症前Ranking Scaleと入院前の要介護度しかアセスメントの評価の仕方がない。プロセスでは、発症前の日常的な生活支援の必要性を把握するプロセス評価が欠けており、そのために緊急時の入院がサブアキュートか周辺機能の緊急時入院なのかがわからなくなっている。
一方、発症前の日常的な生活支援の必要性について自院で把握されているところが74%と増えている。前回は50%弱であり1年間に25%も増えていることになる。発症前の日常的な生活支援の必要性は、国全体ではまだ十分に把握されていないが、現状は各施設が独自にアセスメントを行い、サブアキュート機能の受け入れ割合の算出や退院時のゴール設定につなげているということである。
そして、在宅・生活復復帰支援への取り組みは、リハビリが96.3%、家族の退院調整、地域ケアマネとの連携が8割以上と多かったのに対し、院内地域内共通のアセスメントの使用や、多剤投薬対策、リハビリ栄養への取り組みは3割未満と、若干少なかった。
地域包括ケア病棟を開設するにあたって新たに採用した職種は、PT、OT、社会福祉士が15%以上と多かった。院内の多職種との関係が深まったは7割を超えているし、地域の他医療機関や介護施設との交流の機会も58.6%と増えており、地域包括ケア病棟への転換による効果がいろいろなところで現れていることがみてとれる。
地域包括ケア病棟で提供するリハビリについてであるが、Point of Care(POC)リハビリテーションは、疾患別・がん患者別リハとして定義されている1単位20分のかかわり以外のリハビリである。半数で導入されており、内容も個別、集団、指導と多様である。20分未満の個別のかかわりは、ありが86%だから、全体では5割弱ぐらいの病院で行っていることがわかる。患者が困っているときに、患者がいる場所でリアルタイムにリハビリを提供するというPOCリハビリが広まりつつある。疾患別やがん患者リハビリとは全く違う包括算定だからできるリハビリで、3割の病院で実践されている。
在宅生活復帰支援機能が抱える問題として、入院患者像や疾患構成、生活支援の提供量がほぼ同一と仮定すると、現行の診療報酬では、積極的に在宅生活復帰支援を行ってALOSを短縮した場合には利益が出にくいということになる。何もしないほうが出やすいというのは、問題があると思う。
■サブアキュートと院外ポストアキュートの受け入れプロセスを評価
次に、④⑤⑥を一緒に話したいと思う。医療機関の機能分化のあり方として地域医療構想の理念では、自主的な取り組みによって地域内の機能分化・連携の推進、地域医療連携推進法人設立、合併、統廃合により、ゴールは2025年である。
それに向けて、将来人口動向の減少段階が進む地域では、院内の機能分化も同時に進むと考えられるので、地域医療構想で拠点となるような高度急性期・急性期病院以外は、非常に動的に変化することが考えられる。例えば急性期CM型になり、さらに急性期が維持できなくなると地域密着型になる。あるいは回復期、慢性期の病院が地域包括ケア病棟を持って地域密着型になり、サブアキュートを行うなども予想される。
一方、将来人口動向の減少段階の歩みが遅い大都市では、高度急性期・急性期病院の周辺の病院機能が動的に変化することも考えられる。特にPA連携型は地方よりも都会に多いことから、PA連携型が増えてくるかもしれない。
今後、人口動態や地域医療構想の協議次第で、病院機能は動的に変化していくと予想されるため、地域包括ケア病棟を持つ3つの病院機能ごとの診療報酬評価は、行わないほうが安心して運営できるのではないかと思う。
また、地方都市や過疎地では、拠点病院が地域医療構想や地域包括ケアシステムを担うことがあると思う。一方、大都市では機能分化がメインになる。そこで500床以上またはICUなどの高度急性期病床を持つ病院は、1病棟のみが現在届出可能となっているが、この制限を廃して2病棟以上の届出を可能とし、地域医療構想の協議の場で話し合うこととしてはどうかと考えている。
最後に、ほとんどの病院は近隣の急性期病院の地域包括ケア病棟届出による、入院患者減少を解消するために地域包括ケア病棟を届け出たわけではない。しかも届出の際に他施設との調整も少なからず実施されていて、届出によって地域ニーズに応え、患者像に即した医療を提供しつつ、増益した病院が多い。在宅生活復帰支援のための取り組みを前向きに実践し、新たな職員の雇用も実践している。院内・地域内の多職種協働も着実に進んでいる。アンケートを通じて、言外に地域包括ケア病棟に対する満足度が高い印象を持った。
地域包括ケアシステムを支える一般病棟10対1以上の高度急性期・急性期機能の病棟で、重症急性期患者を受け入れて治療を実施し、その後、地域包括ケア病棟で院内外からのポストアキュート患者を受け入れて、充実した在宅・生活復帰支援を実践することは、救急・在宅等支援病床初期加算で評価されているので問題ない。
問題なのは、病院理念や地域ニーズ、患者・家族の思いと関係なく、自院だけの経営のために院内ポストアキュートで患者を囲い込み、在宅・生活復帰支援をおろそかにし、在院日数を60日に近づける運営であると思う。
一方で、多職種協働促進による費用対効果や、ALOSの短縮と病床稼働率低下による減収、それらに伴うダウンサイジング、救急対応やリハビリなどの見直し、意識や風土の改革などへの不安の声もある。この不安を安心に変えるために、少し提案したい。
まず回復期機能の病床数が充足するまでPCOリハや集団リハなどの実績を報告し、在宅・生活復帰支援の質を保てば、診療報酬で安定的な運営を担保できると思う。また、地域包括ケアシステムを促進させるサブアキュートや院外ポストアキュートの受け入れプロセスを、診療報酬上で評価してはどうか。
それから2025年度以降の医療・介護・福祉など、ビッグデータ活用に向けて、全国・院内地域内共通の生活支援評価票の開発と、利用促進のための評価もしてはどうか。このようにして2025年の地域医療構想のゴールに向けて、4つの病棟機能と3つの病院機能をより有効に活用するべきではないかと考えている。
(了)
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