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【シンポジウムⅠ】
【シンポジウムⅠ】
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地域包括ケア病棟と医療・介護・福祉連携
―2018年の姿―
【座長】
小山 秀夫(兵庫県立大学大学院名誉教授)
【シンポジスト】
鈴木 健彦(厚生労働省老健局老人保健課長)
猪口 雄二(寿康会病院理事長、中央社会保険医療協議会委員)
織田 正道(織田病院理事長)
武久 洋三(日本慢性期医療協会会長)
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兵庫県立大学大学院の小山秀夫名誉教授を座長に迎えてのシンポジウムⅠは「地域包括ケア病棟と医療・介護・福祉連携 ―2018年の姿―」がテーマ。最初に登壇した厚生労働省の鈴木健彦老健局老人保健課長は、地域包括ケアシステムの構築にあたって同時改定の重要性に言及し、「医療と介護にまたがる部分の評価は双方で手当てしていく必要がある」と明言。中医協委員で寿康会病院の猪口雄二理事長は、地域包括ケア病棟の機能を分析したうえで「地域包括ケアに貢献できる病棟機能をめざすべき」と問題提起した。また、織田病院の織田正道理事長は「良い治療を行ってもケアを継続できなければ意味がない」との問題意識のもと、自宅に安心して帰す、そして在宅でもケアを継続できる自院の仕組みを紹介。最後に日本慢性期医療協会の武久洋三会長が「自称急性期病院や老人収容型の慢性期病院は淘汰される。地域多機能型病院で地域ニーズに対応していくべき」と、あるべき病院像を示した。
■地域包括ケア病棟は急性期から在宅への流れをつくる要の存在
〇座長(小山秀夫氏)
「地域包括ケア病棟と医療・介護・福祉連携 ―2018年の姿―」をテーマにシンポジウムを開催したい。1つの焦点は、医療・介護・福祉の連携と地域包括ケア病棟に注目して考えてみるということである。
ただの病棟の話ではなく、地域包括ケア病棟は地域包括ケアシステムのなかで中核的な役割を担うという観点から、これらの連携を考えてみようということだろうと思う。個人的には地域包括ケア病棟は大変良い制度であり、すでに2,000病院近くで同病棟を有しているが、地域包括ケア病棟協会の活動も大変勢いがあると感じている。
病院の入院医療は大きく様変わりしており、高齢者がどんどん増えている。入院してきて治療が終わっても生活面などで問題が生じて帰れないということも多い。しかしなかには9割もの高齢者を地域に帰している病院もある。帰せる方法があるなら帰したほうがいい。
もう少し別の言葉でいうと、病気を発症する前から日常的に生活支援を要する状態の方が患者となって入院されてくることを、多くの病院にご理解していただきたいと思う。
つまり急性期で治療したからといって、次に回復期を終えて慢性期あるいは在宅というように1本の川の流れのようにはいかないのである。治療以外の理由で流れが滞ったり、途中でまた急性期に戻ったりする。そこのところを地域包括ケア病棟で院内のチームワークと地域との連携チームをしっかりつくって回していけば、もっと高齢者を自宅へ帰していけるのではないかと期待している。
最初に厚生労働省の鈴木健彦老健課長から日本の医療や介護を取り巻く状況や同時改定を中心とした今後の政策の方向性などについてお話をお願いしたい。
次の演者である猪口雄二先生は今度、全日本病院協会の会長に就任され、また地域包括ケア病棟協会の副会長でもあり、さらに中央社会保険医療協議会の委員でいらっしゃる。次の改定は猪口先生次第である。
織田正道先生には、民間病院の病院経営が今とても大変なことになっているが、地域で頑張っていらっしゃる民間病院の代表として、高齢者を元気にして地域に戻していく活動のポイントをお話いただければと考えている。
最後は武久洋三先生である。日本慢性期医療協会会長として、あるいは地域包括ケア病棟協会顧問として、地域における機能分化の重要性、急性期病床や慢性期病床が生き残っていくための心構えや戦略などをお話いただければと思う。
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医療・介護同時の事業計画策定と報酬改定で
地域包括ケアの進捗図る
鈴木 健彦(厚生労働省老健局老人保健課長)
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医療をめぐる環境変化が激しいが、介護についても同様である。鈴木健彦課長は最初に介護保険や地域包括ケアシステムを取り巻く状況について述べ、「人口動態や高齢化率などは各都道府県、さらに市町村でも大きくバラつきがあり、地域の実情を把握した地域包括ケアシステムの構築が必要である」と強調。そのうえで2017年の改正介護保険法の狙いについて、「地域包括ケアの進捗」と「介護保険制度の維持」の2つを挙げ、前者については介護医療院の創設、「我が事・丸ごと」の地域共生社会について解説した。最後に診療報酬と介護報酬の同時改定に言及し、「医療と介護にまたがる部分は、双方で手当てをしながら進めていかなければならない」と指摘、地域包括ケアシステムの構築で不可欠な、医療と介護の連携推進に意欲を示した。
■市町村、中学校区単位できめ細かく地域の実情を掴む
私のほうからは、特に制度面の話を中心に、2018年度の同時改定に向けて今後どうしていくのかを最後に少し触れたいと思う。
まず今、介護保険を取り巻く状況について簡単に説明する。わが国の人口はピークを過ぎ、すでに下降をたどっているが、全人口に占める75歳以上の高齢者の割合だけは増えていくという状況である。なぜそのようなことが起こっているかというと、団塊の世代がどの時点にどこに移っていくかというところに大きく影響している。
1990年は、団塊の世代が40歳前後でちょうど働き盛りで、団塊ジュニアはまだ働く前だが、この頃には65歳以上人口1人に対して、20~64歳人口5人で支えるというような状況だった。2010年は、団塊の世代が60歳になり、団塊ジュニアが30代になって働き盛りになってくるが、65歳以上人口と20~64歳人口は1:2.6という状況になる。それが2025年、われわれは2025年問題として捉えて対策を考えているが、このときの問題は、団塊の世代が75歳、いわゆる後期高齢者に入っていくことである。
つまり、ジュニアはまだ生産年齢人口にいるが、人口のピークである団塊世代が高齢者になっていくため、結局は65歳以上の高齢者1人に対し、生産年齢人口約1.8人で支えていかなければいけない。ここが急激に変わってくる。
さらに2060年になると、ジュニアも65歳、75歳になり、今後子どもの数が急激に伸びていないかないと生産年齢人口1人で高齢者1人を支えていくような状況になることから、莫大に増えていく高齢者をいかに支えていくかが、今後の日本の大きな課題となっている。
要介護認定についてもやはり、非常に右肩上がりで伸びている。要介護認定が始まった2000年は218万人が認定を受けたが、2016年4月末現在では2.85倍の622万人まで増加している。特に要支援1・2、要介護1の軽度な要介護者は、2000年に比べると3.53倍に増えている。軽度の方々が増えてきていることに対しては、われわれは予防という形でも何らかの対処をしなければいけないだろうと考えている。
都道府県別の高齢化率でもかなり差が出てきている。75歳以上人口の2015年から2025年までの伸び率は全国平均で1.32倍であるが、埼玉県は75歳以上人口が急速に増え、2015年から2025年までの伸び率は1.5倍を超える。沖縄県はそれよりさらに高齢化が進み、2040年になってもまだ高齢化率は伸びたままで、プラトーになってこない。一方で、山形県や島根県は、逆に75歳以上人口の伸び率は全国平均よりも低くなり、急激に伸びない状況になっている。
これをさらに市町村ごとで見てみると、2015年から75歳以上人口の伸び率が減っていく自治体が約17%ある。一方で1.5倍以上になっていく自治体もまだ多くある。都道府県ごとの差だけでなく、市町村ごとの差もきめ細かく考えていかないと対策は取れない。われわれは地域包括ケアの普及・啓発を推進しているが、少なくとも市町村単位、もっといえば中学校区単位で進めてほしいということを、このようなデータを用いて市町村や都道府県に説明している。
■介護保険制度存続のカギ握る地域包括ケア
介護保険については、ご存じの通り税金が半分、保険料が半分でまかなわれている。この保険料については、2つの保険財政があり、1つは第1号被保険者という65歳以上の方々の保険料、もう1つは第2号被保険者という40~64歳までの方々の保険料である。
この保険料が今後どうなるのかというと、介護保険が始まった2000年の総費用額が約3.6兆円で、65歳以上が支払っている保険料は全国平均で3,000円弱ぐらいだった。これが2017年だと総費用は10.8兆円、約3倍膨れ上がって保険料も全国平均5,514円となり、このままのペースでいくと、2025年の第1号被保険者の保険料は8,000円を超えるだろうといわれている。なかには年金で暮らしている高齢者も少なからずおり、介護保険料8,000のほかに医療保険料、さらにサービスを受けたら、医療費あるいは介護費の1~3割も支払うことになるので、保険料を少しずつでも抑えていかないと、年金暮らしの高齢者などが暮らしていけない世界になっていくだろう。われわれはサービスを考えるだけではなく、やはり支払い側の保険料のほうも考えながら、地域包括ケアシステムを進めていこうという状況である。
介護保険の基本理念については目的の第1条にあるとおり、「これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」に、きちんと保険医療サービス、および福祉サービスの給付を行うという、こういった目的でつくられている。
また国民の努力・義務としては、「要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする」と条文に明記され、国民もサービスを受けるだけでなく、自分でできることは自分で行うようにするといったことが盛り込まれている。
こうした国民の義務を踏まえ、最終的には国および地方公共団体の責務の第3項にあるように、要介護者になっている人たちが「可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療及び居住に関する施策との有機的な連携を図りつつ包括的に推進する」とされ、いわゆる地域包括ケアを、国と地方公共団体がきちんと整備しなければいけないと法的に定められている。
■改正介護保険法で示された新たな介護保険施設と地域共生社会
地域包括ケアシステムとは、住まいのなかにいる高齢者等が普段は介護予防や、自治体、老人クラブなどによる生活支援を受け、必要に応じて医療・介護サービスにアクセスし、その人が地域で安心して暮らしていけるような包括的なサービスを提供しようというものである。この地域包括ケアシステムを進めていくため、2017年に介護保険法の一部を改正する法律案が成立した。2つの大きな柱があり、1つは地域包括ケアシステムの深化・推進、2つ目は介護保険制度の持続可能性の確保である。
地域包括ケアシステムの深化・推進については、まず自治体の役割、評価ということである。特に市町村においてはデータに基づいて地域の課題を分析したうえで目的、計画、取り組み内容を明記してもらい、それを実行して最後に評価をする。いわゆるPDCAサイクルを回し、それらに対して国や都道府県は適宜支援せよということを法律のなかで明記している。そのアウトカムについて、財政的なインセンティブを国がきちんと付与して、自立支援・重度化防止に向けた取り組みを進めていこうというのが、今回の法律改正の第1の内容となっている。
第2の大きな内容としては、新たな介護保険施設の創設である。いわゆる慢性期の医療介護ニーズに対応するために、日常的な医学管理が必要な重介護者の受け入れのほか、看取りやターミナルケアを行う機能と、生活施設の機能を併せ持った新たな介護施設をつくるため、「介護医療院」を法律のなかで位置づけた。細かい基準や報酬等については今後、介護給付費分科会で検討することになるが、こういった新しい施設をつくることによって、先ほどあった地域包括ケアシステムを少し後押しするような形での役割をこの施設が担っていただくことになる。
今回は少なくとも介護療養病床と医療療養病床の一部を念頭に置いた介護医療院が創設されることになり、地域包括ケア病棟はより医療面での役割にウェイトが置かれていると思うが、介護医療院と今後有機的に連携していく必要もあると思う。
3点目としては、地域共生社会の実現に向けた取り組みの推進である。われわれは高齢者対策を第一に地域包括ケアシステムをつくっているが、そのシステムをほかの障害者や子どもにも拡大し、高齢者だけでなく地域の多様な生活課題も併せて解決していく地域福祉の理念を規定した。「我が事・丸ごと」のように地域の問題点について対応していくというものである。
例えば、親の介護と障害を持つ子どもといったダブルの問題を抱えている人たちに対して、別々だった介護保険や障害者の窓口を一緒にしてワンストップで相談に乗れるようにする。これをきちんと福祉計画のなかに位置づけようというのが、今回の法改正の目的の1つとなっている。
法改正のもう一つの狙いである介護保険制度の持続可能性の確保については、2割負担の方も現役並みの所得がある方は応能負担により3割負担をお願いすることになる。また、各保険者が納付する介護給付金においても総報酬割(報酬額に比例した負担)を導入し、保険者の支払い能力に応じて保険料を払っていただく。給与の何%を保険料として支払ってもらう、総報酬割により、今回負担増となるのは1,300万人いるが、減る方もおり、より公平な負担になるのではないかと考えている。
■医療と介護の事業計画と重なった、かつてない大きな同時改定になる
これまでお話してきたことを踏まえ、介護報酬改定を行うことになる。直近では今年度、介護人材の処遇改善で1.14%のプラス改定を行っている。ただ、前回の2015年度の改定では-2.27%と、大きなマイナス改定だった状況も踏まえ、今回は各方面からプラス改定を望む声が非常に高まっている。
ではなぜ今回の改定は重要なのか。診療報酬との同時改定も一つの大きな点ではあるが、もう一つ大きいのは、介護保険事業計画と医療計画も同時に改定されるからである。医療と介護で計画と報酬を一緒に変えることから、かなり大きな改定になるという状況である。 診療報酬と介護報酬で共通して改定の核となり、大きな柱となるのは、やはり医療の機能分化・連携強化、地域包括ケアシステムの推進である。そのほかでは医療では効率的・効果的な医療提供の推進や薬価制度の改革、調剤報酬の抜本的見直しなどがある。
介護のほうでは、介護の人材確保や、ロボットやICTを使った効果的な介護サービス提供体制の構築などであるが、介護サービスの適正化という問題も避けて通れない。今回の同時改定では、特に医療と介護の連携推進で、医療と介護にまたがる部分は、きちんと双方で手当てをしながら進めていかなければ駄目だろうと考えている。
特に特養における医療ニーズや看取りにより一層対応できるようなしくみや、介護保険と医療保険の連携の問題、2006年から課題になっているが、維持期、いわゆる生活期リハビリテーションの介護保険の移行をどうしていくのかなどは議論しなければならないだろうと考えている。
本来なら医療の問題は中央社会保険医療協議会で、介護の問題は社会保障審議会の介護給付費分科会でそれぞれ議論するが、この3月と4月に「医療と介護の連携に関する意見交換会」を開催して、それぞれ中医協と給付費分科会の双方から関係者を集め、両方に関係する4つのテーマについて意見交換をしていただいた。看取り、訪問看護、リハビリテーション、関係者・関係機関の調整連携の4つがこのときのテーマである。それぞれの問題点や、医療側と介護側双方から相手方への注文や意見も言っていただいたが、この結果については厚生労働省のホームページに載っている。
介護報酬の改定に向けた議論は、4月26日から行っており、全体的なスケジュールについては、最終的に診療報酬は2月上旬に改定案を答申、介護報酬は1月から2月上旬に答申する予定となっている。その間、内閣で12月下旬に診療報酬と介護報酬の改定率が決定され、これを受けて双方それぞれで調整のうえ点数が設定される。秋口から細かい議論に入っていくが、その段階からもう少し焦点が定まった議論ができるようになると思う。
そのなかでもやはり、今回の大きな目玉となる医療と介護の連携については、きちんとした議論を行い、双方良い改定にしたいと思っているので、ご協力をよろしくお願いしたい。
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“地域包括”の名に恥じない病棟機能を目指すべき
猪口 雄二(寿康会病院理事長、中央社会保険医療協議会委員)
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全日本病院協会会長、中医協委員を務める寿康会病院の猪口雄二理事長は、地域包括ケア病棟の前身である亜急性入院医療管理料の創設の経緯を踏まえ、6万床近くになった地域包括ケア病棟の機能について、「7対1のある・なしで機能的に少し異なるようだ」と分析。また、地域包括ケアシステムを構築していくうえでの様々な課題を挙げ、「地域ケア会議の参加や地域連携部門を必ずつくり、医療と介護の連携推進に努めていくべき」と、地域包括ケアを提供していくための病院の役割を挙げた。そのうえで、急性期からのポストアキュートが主体となっている地域包括ケア病棟の現状に対して、「地域包括ケアに貢献できる地域密着型の病棟機能を目指すべきではないか」と提言した。
■地域包括ケア病棟の創設につながった2003年秋の病院調査
今日は地域包括ケアシステムと地域包括ケア病棟についての話である。一昔前になるが、全日病を中心に四病院団体協議会(四病協)で地域一般病棟という概念をつくった。これは地域の一次医療圏や生活圏で、連携を中心にした地域密着型の病棟もしくは病院が、特に高齢社会のなかでは必要であるという考えから生まれたものである。
具体的には、急性期の入院に24時間対応するほかに、亜急性期という言葉を使い、地域や介護保険施設から何かあったらとにかく受け入れ、手に負えなかったら高次機能の病院に送り、高次病院からはまたリハビリ等で受ける、さらに在宅医療も推進するという、今でいう地域包括ケア病棟とほぼ同じような概念を、このときつくっている。
これを提唱した2003年ころ、亜急性期もしくは亜急性医療とは何かということが話題になり、当時、高橋泰先生や安藤高朗先生と2004年改定直前の03年秋ごろになって、急いで病院の調査を始めた。どういう疾患で患者はどう流れているのかを何十病院と調べてデータにし、医療課に提出したことを覚えている。そして2004年4月に新設されたのが、亜急性期入院医療管理料である。そこからしばらく時間がたち、地域包括ケア病棟という形で拡大していくという流れがあったと思う。
地域包括ケア病棟は、ご存じの通り急性期からの受け入れや緊急時の在宅等からの受け入れ、在宅への復帰を支援する、この3つが大きな役割である。現在、5万何千床まで増加し、約6万床の回復期リハビリテーション病棟に近づきつつある。
そのなかでやはり一番多いのは、地域包括ケア病棟入院料1ということになる。その設立主体を見ると、相当の割合で公的医療機関がつくっており、そのほかは民間が主体になっていると思う。
地域包括ケア病棟を導入した入院医療機関のどの病棟が減ったかというと、地域包括ケア病棟入院料1を新規に届けた場合、7対1病棟が減っている。これが入院管理料、つまり病床単位のほうは10対1病棟が減っている。自院に7対1病棟ありの場合だと、地域包括ケア病棟の患者は自院の他の病棟から移るケースがほとんどである。
ところが、7対1病棟がない場合は他の病院からも患者が結構来ている。来ているのも結構ある。仲井会長の調査では急性期病床の有無で分けると、明らかに病棟の性質・機能が異なるというデータもある。
地域包括ケア病棟の患者の流れを見ても、自院の7対1、10対1から来ているのが約半分、次いで多い自宅が4分の1で、他院からは13%しかない。どうも自院の急性期病棟から自院の地域包括ケア病棟へという流れが非常に強いということがわかる。
また前回改定で、手術と麻酔を別途算定できるようになったが、算定しているのは3.5%しかなく、手術はそれほど行われていないという状況である。
■山積する地域包括ケアシステム構築に向けての問題点
一方で地域包括ケアシステムは、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目指し、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるように、地域の包括的な支援サービス提供体制をつくるということである。
しかし、これもまだ概念であり、果たして一つひとつの地域包括ケアシステムがどうなるか、同じ都道府県内においても、このつくられ方は資源によって変わってくるので、これからではないかと思っている。
地域包括ケアに必要なものとして、自助、互助、共助、公助がある。私は今、江東区で小さい病院を運営しており、区単位で地域包括ケアシステムや医療介護連携の会議があるので、私もよく出て話をしている。
そこでグループワークがあり、医師や訪問介護ステーションの訪問看護師、地域の代表の方も参加し、在宅にどう帰すかをテーマを議論したとき、私は例えば団地などに戻ったときは、そこの自治体の方が面倒をみるというような互助が大事だと言ったら、とある町会長さんに「冗談じゃない」と怒られた。医師や看護師とは異なり、われわれは資格がないので個人情報にかかわる情報が一切入らない。それなのに面倒をみろといわれてもみようがない。医療者からわれわれが情報を聞くと、皆さんの守秘義務にも反するから、そんなに簡単な話じゃないというのである。確かにそういう話を聞くと一筋縄ではいかない問題だと感じざるを得ない。
地域における医療や介護の連携も今問題になっている。介護保険は生活圏なので市区町村が基本になっているのに対し、医療保険は医療計画にしても地域医療構想にしても2次医療圏が基本である。2次医療圏を仕切るのは都道府県であるが、地域包括ケアシステムは間違いなく生活圏が基本単位になるので、市区町村になるはずである。そうすると、市区町村と都道府県が協議の場をつくることになるが、それぞれの自治体ごとに考えがあり、進捗にばらつきが出ている現状があると思う。
■地域包括ケアで求められる病院の多様な役割
地域包括ケアシステムに必要な医療は、訪問看護ステーションから診療所、地域包括ケア病棟も含め数多い。要介護の高齢者を診ていたらすべての医療機関がかかわってくる。歯科も薬局もリハビリテーションもあるというなかで地域包括ケアシステムで病院が何を行っていかなければならないかと言うと、やはり地域ケア会議に参加したり、医療と介護の連携体制を構築したり、地域連携の専門部署を必ずつくっておく必要がある。在宅や介護施設の患者の急変時の受け入れ、レスパイトの受け入れ、往診や訪問診療の支援や実施。さらに一般の患者に地域包括ケアを啓発していくために病院の役割を策定して地域に公表し、併せて行政に協力していくことが必要だと考えている。
よく地域包括ケアのこの図は出ていると思うが、何よりも私が大事だと思っているのは、在宅における医療・介護連携の推進である。おそらく地域包括ケア支援センターが中心となり、その数の分、地域包括ケアシステムができると思うが、そのなかで医療サイドの在宅医療・介護連携支援に関する相談窓口が極めて重要である。ところが今、相談窓口は今年度中につくるという話になっているものの、あまり整備が進んでいない。
例えば、江東区では50万の人口に対して地域包括ケア支援センターは20以上あるが、相談窓口は1カ所しかなく、連携は難しい。地域に密着した病院や訪問看護ステーションがこういう窓口をつくって、データをしっかり蓄えていくことが必要ではないかと思う。
■ポストアキュートだけでは回復期リハとの差別化が図れない
厚生労働省は“ときどき入院ほぼ在宅”のようなイメージを想定しているが、地域包括ケア病棟が地域包括ケアシステムにおいて活躍していくには、連携部門を持つことと、在宅や介護施設からの急性期の受け入れを必ず行うことである。また急性期からの患者の受け入れ、医療・介護連携事業への参加、診療所と在宅医療との連携など、繰り返しになるが結局これらを実践することに尽きると思う。
急性期病院に地域包括ケア病棟を持つと、どうしても急性期からのポストアキュートが主体になるが、それだと回復期リハとの差別化が図りにくい。地域包括ケアという名称がついているのなら、やはり地域に密着した病院として成り立たせることを考えていくべきである。
例えば、患者のデータ管理としては、特に高齢者になると全く健康な人の骨折と要介護3の人の骨折では治療への考え方が全く異なるので、発症前と入院時、退院時、それと発症後、これを一連のデータとして持つことが重要だと思う。
当然、入院時と退院時の連携支援も必要である。また、リハビリテーション機能も、状態の悪い高齢者の場合、バーサルインデックスなど点数として良くなる以上に、生活するためにどういうことに目を向ければいいのかというような視点で考える必要があり、この点についても従来の評価と少し違うという気がしている。最後に、地域包括ケア病棟だけの病院が運営できるような評価システムを考えている。
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病院全体で継続ケアに取り組み85歳以上患者の9割が在宅復帰
織田 正道(織田病院理事長)
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急速に進む少子高齢化に伴い、病院医療は変革を余儀なくされている。織田病院の織田正道理事長は冒頭、「これからの病院は病気の治療と同じくらいに、生活の場に帰すこと重要になる」と強調し、多職種フラット型のチーム医療、ディメンシアケアユニット(DCU)やメディカルベースキャンプ(MBC)の開設など、安心して在宅に帰すとともに退院後も継続してケアを提供していくしくみを紹介した。なかでも、多職種型フラット型のチーム医療については、「在宅介護の現場も多職種フラット型であり、病院もそこに合わせていかないと入院から在宅へのシームレスな連携ができない」と指摘。これらの取り組みが奏功して高齢の患者でも早期に退院し、退院後も継続ケアができている現状を報告した。
■85歳以上の患者の急増が地域医療は劇的な変化をもたらす
「地域包括ケア時代の病院のあり方」をテーマに、われわれの病院を例に挙げて話を進めたい。特に退院後のケアの継続が非常に重要で、どんなに良い治療をしてもケアが継続できなければ全く意味がないと考えて、さまざまな取り組みを行っている。
佐賀県鹿島市にある当院は一般病床111床の、地方の小さな病院である。地域包括ケア病床は8床しかない。開放型病床があり、登録医は60名。診療科は内科・外科を中心として10診療科、看護体制は7対1である。新規入院患者は3,200人、111床なのでフル稼働であり、いかにして退院を促していくか、安心して在宅に帰ってもらうかが、重要なテーマとなっている。
われわれの病院の役割の1つは、高齢で外来に来られないといった患者を地域の先生に逆紹介していくことであり、以前は600~700人ほどいた外来患者は現在、300人くらいである。代わりに連携センターの電話番号1499(イイヨキューキュー)の周知を徹底し、地域の先生方からの緊急時の受け入れ要請は、すべて引き受けて対応している。
2つ目の役割は、大学病院等で治療を終えた患者の調整である。場合によっては、8床の地域包括ケア病床に入ることもあるが、多くは在宅にそのまま帰っていただき、われわれが地域の先生方を支えながら一緒に診ており、今7つの在受診をバックアップしている。
85歳以上の人口の急増に伴い、地域医療は大きく変わった。75歳以上ではなく85歳以上である。地方は団塊の世代が半数ほど東京に出ているが、戦前生まれの方は地元に定着しており、85歳以上の方が増え続けている。
われわれの医療圏の85歳以上の救急車の搬送件数は10年くらいまで600台だったのが、今は1,440台で2倍以上に膨れている。さらに85歳以上の新規入院の方は同じく10年前は278名だったのが、今はもう800名を超えてきた。
介護についても、85歳以上の半分以上が要介護状態という状況である。10年くらい前までは要介護といっても75歳は1割ぐらいで、しかもパートナーである奥さんが70歳ぐらいだから家に帰れた。ところが85歳以上になるとパートナーも80歳ということで、家に帰すのが難しくなってくる。
そして、85歳以上は認知症や運動器障害の合併も多くなる。
入院医療分科会の資料によると、実に7対1の入院患者の18%が85歳以上である。ちなみに10対1は30%、地域包括ケア病棟は37.8%、療養病床は46.5%が85歳以上ということになる。
■多職種フラット型の医療チームが入院と在宅をシームレスにつなぐ
このような状況だと在宅医療ニーズが急増する。85歳以上の方が病気が発生すると10年前は結構家にも帰れるし、地域の先生方にもどんどん紹介できた。だが今は回復期リハも療養も、いろんな制限があるためなかなか帰れない。一方で急性期の在院日数は短縮せざるを得ず、そうなると家に帰らざるを得ないという状況である。
となると85歳以上の患者が急増する時代、地域医療を担うわれわれのような病院は、病気の治療と同じくらいに、生活の場に帰すことが非常に重要になってくる。今の地域包括ケア病床8床ではとても足りないため、病院全体として在宅へ帰すためのしくみづくり、退院後もケアの継続ができるようなしくみづくり、そして地域とともに支えるしくみづくり、この3つについて取り組んできた。
まず安心して在宅へ帰すためには、多職種フラット型のチーム医療の強化と認知症のケアユニットであるディメンシアケアユニット(DCU:Dementia Care Unit)を開設し、ケアの継続を図るために、自宅版の地域包括ケア病棟であるメディカルベースキャンプ(MBC:Medical base camp)を設けた。
まず多職種フラット型のチーム医療についてであるが、ケアマネジャーたちに在宅医療・介護における課題を聞いてみると、医師との連携が取りづらいということである。基本的に今はしかし、医療技術の進歩や記録類の増加等により医師の業務は増え続けており、ドクターに退院後のケアまで考えてくれというのはもう無理である。そうなるとケアマネジャーも誰に相談していいかわからず、従来のピラミッド型のチーム医療では退院後の継続的なケアは望めない。
高知市の近森病院がフラット型チームで高度急性期を運営しているのを見たとき、これは在宅支援にも応用できると考え、生活の場に帰すためのフラット型チームをつくった。看護師、薬剤師、リハビリスタッフ、MSWなど多職種を病棟に専従配置し、自分の部署を持たせない。だから薬剤師も薬局ではなく病棟につきっきりとなる。
これにより、ケアマネジャーは病棟専従のMSWに相談すれば患者の状況を把握できるし、また薬のことは薬剤師、栄養状態は管理栄養士へと非常にスムーズに連携できるようになった。医師も退院支援の業務から解放され、診療に集中できるようになった。
一番重要なのは、多職種が病棟に常にいることで看護師は薬剤師に薬のことを何でも聞ける。薬剤師も看護師たちが疑問に思っていることがみえてくるので勉強せざるを得ない。これは管理栄養士も同様である。また、コメディカルが病棟にいることにより、単に医師の指示をまつのではなく、どうしたら在宅に帰すことができるのかを、皆で一緒に考える風土ができた。これが非常に重要なことだと思う。
医療はピラミッド型で運営されているところがまだ非常に多いが、在宅介護の現場はフラット型である生活の場に帰すということに関しては、医療もフラット型にしない限り介護とはなかなか結びつかない。
例えば、循環器チームは、朝7時半に多職種で前日の入院患者を確認し、患者の治療方針等を話し合い、一緒に回診する。フィジカルアセスメントもとれるようにコメディカルたちをトレーニングすることによりモチベーションもかなり上がっていく。
また、退院支援の方針や内容についての打ち合わせは立ったまま行う。1日にどんどん退院していくため、座っての話し合いではとても間に合わない。すべての職種が入院したときから患者の状態を把握していることから、話し合いもスムーズに行えるようになる。その後は、家族を呼んで退院前のカンファレンス、場合によっては自宅まで訪問することもある。
■地域包括ケア病棟の“在宅版”MBCの活用でケアの継続を実現
在宅に返すためのもう1つの柱は、ディメンシアケアユニット(DCU)である。85歳以上の患者が増えてくるのに伴い、認知症の方の入院も急増している。国立長寿医療研究センターの調査によると、救急病院の78%で転倒・転落を防ぐなどの理由から身体拘束を行うという結果だった。実際、認知症の方が救急病院に入院し、認知症が悪化したということもよく聞かれる話である。
われわれの病院では、スタッフステーションに高齢の方を集めて見守るという取り組みを行っていたが、スタッフは目が離せないし、高齢者はスタッフが走り回るため精神的にも落ち着かないという環境だった。
そこで2014年にDCUを開設し、完全ユニット化した。ユニットは8床しかないため、環境により状況が悪化する人を中心に入ってもらっている。特に認知症の患者にとっては環境が重要であることから、DCUは非常に有効だった。認知症ケアチームも認知症の認定看護師が中心にチームで動くが、DUC開設により、チームスタッフの認知症への理解と、ケアの質向上への意欲が生まれてきたのは大きな成果である。こういう環境をつくることで、認知症の方もスムーズに退院し、退院後も安定しているケースが多い。
次に退院後のケアの継続を図るしくみづくりとして、メディカルベースキャンプ(MBC)についての話をする。われわれの病院では85歳の方でも2週間ちょっとで退院していくが、当初は地域のかかりつけの先生から「なんでこういう状態で帰すんだ」とクレームをよくいただいた。家に帰ってからも2、3日後に熱発し、再入院する患者も少なくなかったため、MBCという多職種チームをつくり、退院と同時にチームが患者宅を訪問、退院後2週間たって病状が安定した段階で、地域の先生方にバトンタッチをする形をとった。
本来、地域包括ケア病床がもう少しあればいいのだろうが8床しかないための取り組みであり、病院から半径2キロ以内に限定し、MBC、すなわち在宅の地域包括ケア病棟を使って在宅支援を行っている。スタッフは病状が安定した段階でかかりつけの先生と連携を取っていくという流れである。MBCのスタッフは30名で、訪問看護師、リハスタッフ、ヘルパーなどの多職種が一緒に仕事をしている。壁をつくるとセクトになってしまうが、一緒の所にいると非常にスムーズに動きだす。
ここには大型モニターが備えられており、MBCが訪問する家をプロットするようになっている。患者宅を病室というイメージで捉えてもらうとともに、チームが移動している状況がわかる動態管理も行っている。
このような取り組みによって、当院における85歳以上で在宅復帰率は9割となっている。1つの事例として今日は話をさせていただいたが、とにかくこれから85歳以上の方が増えていく。今日の話が少しでも参考になればと思う。
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地域多機能型で地域に選ばれる病院へ
武久 洋三(日本慢性期医療協会会長)
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日本慢性期医療協会の武久洋三会長は冒頭、急性期指標の影響について「自称急性期は追放される」と予測するともに、「病院は高度急性期型と地域多機能型に二分されることになる。後者の代表が地域包括ケア病棟だ」と機能分化の方向性を示した。また、地域多機能型に必要なのは、「複数疾患を診れる総合診療専門医であり、臓器別専門医は不要」と一刀両断。慢性期病院についても「老人収容所では生き残れない。地域包括ケア病棟などで高齢者の救急等に対応するなど、地域に選ばれる病院にならなければならない」と、地域や時代に合わせた経営の必要性を示唆した。
■急性期指標が導入されると自称急性期はバタバタ倒れる
高度急性期は広い地域から患者が集まるが、地域急性期は近くからしか来ない。中途半端な自称急性期病院がいよいよ客観的な指標により医療界から追放されるのは確実である。
今お話された織田先生の病院は別格といえる。うちは急性期だと言いながら、実際は寝たきりの後期高齢者ばかりで、しかも施設へしか送れない、家へ帰れない、帰るときには霊柩車というような病院は、これから生き残っていけないだろう。
世の中は変わり、急性期指標という考え方が出てきた。奈良医大の今村知明先生が代表として厚労科学研究で開発された急性期指標は、病院機能報告の442項目のなかから急性期に関連する219項目をピックアップし、それを66項目まで集約。これらを足して許可病床数で割ることで1床当たりの“急性期度”を数値化している。
外側からの評価であり、この66項目が適切かどうかは別として、ある県の病院を急性期指標を測ると、70点超から0点に近いものまである。この上位半数が急性期だと言われたら自称急性期はバタバタ倒れるであろう。細かくみると一般病床でも中心静脈栄養すら行っていない病院もある。少し理解に苦しむが、このような病院が実際、地方にはぞろぞろあるのが実態である。
地域急性期は地域包括ケア病棟へ移行しなさいと午前中おっしゃっていた宇都宮先生が、この地域包括ケア病棟を2014年につくった。近い将来、日本の病院は、高度急性期病院と地域多機能型病院に二分される。地域多機能型は、高度ではないがいろいろな機能を持った地域病院である。織田先生の病院は7対1でかなり高度なこともやられているが、地域多機能型の機能も併せ持っている。
現状が地域急性期であるならば、地域包括ケア病棟があれば運営できる。プライドがあるから7対1は一部残したいという病院もあると思うが、将来的に地域包括ケア病棟と回復期リハ病棟は一緒になるであろう。また高度慢性期病床、要するに20対1、25対1の療養病床は、重傷者をたくさん入れてきちんと治療するところしか認められなくなる。それ以外は介護医療院へ行けと命令されているわけである。
地域包括ケア病棟の役割は、近隣の高度急性期病院から治療後の患者を引き受けるとともに、地域の軽中度の急変患者を受け入れ、ともに継続的治療やリハビリにより、早期に在宅復帰や社会復帰を行う機能の病棟であると考えている。同病棟に入院する患者は、主に骨折等の外傷患者が想定されてきたが、実質は術後の患者、高齢者のがん患者、慢性期の急性増悪患者など非常に多様化している。
では地域多機能型病院とはどういう施設か。1つは回復期・慢性期から多機能型にレベルアップする場合が考えられる。もう1つは自称急性期病院で、それらの病院では病床稼働率が低下しているため地域多機能型病院に移らざるを得ない場合がある。しかしながら、一般病床から地域包括ケア病棟になっている病院が1,781カ所あるのに対し、療養病床から転換している病院は131と1割にも満たない。結局、自院の急性期の受け皿として使っているケースが圧倒的なのである。このような地域包括ケア病棟と、私どもの療養病床から地域包括ケア病棟になったところとの、明らかな差をお見せしたいと思う。
■地域包括ケア病棟は垂直連携のための病棟か?
自院の2階から3階に移るのは、垂直連携である。これに対し急性期病院から地域の回復期リハ病棟や地域包括ケア病棟、慢性期病院に移るのが水平連携である。垂直連携にするために地域包括ケア病棟をつくったのかと問いただしたいが、おそらく宇都宮先生は、そうではない、7対1を減らすための第1関門だとおっしゃると思う。7対1の相当部分をとりあえず地域包括ケア病棟に転換させ、ある程度それが達成できたら、多機能型にしていこうということではないかと考えている。
私どもが運営する博愛記念病院の地域包括ケア病棟は、当院他病棟(一般・回復期リハ)からの転棟は全体の1.2%にすぎない。他病院の急性期から16.4%、一般・慢性期から8.3%であり、自宅からは18%である。また、老健や特養、その他の介護施設からの入院は55%に上る。これは明らかに他の多くの地域包括ケア病棟と明らかに異なる点である。
やはり地域の介護施設からの急変患者が高度急性期病院や救命救急センターに搬送されたら、それらの施設も困るであろう。地域で引き受けていくことが必要であると考える。
2014年の改定では、地域包括ケア病棟には救急指定が義務づけられたため、慢性期が主体だった当院でも救急指定を取得した。月に20件くらいの患者が運ばれてくるが、ほとんどはお年寄りである。一方、地域包括ケア病棟に入院する患者の重症度を見ると、当院の地域包括ケア病棟は平均38.5%と非常に重症が多い。また在宅復帰率は80%をクリアしている。
地域包括ケア病棟における患者は、骨折や外傷の患者が多いのが特徴で、全体の4分の1を占めている。当院の地域包括ケア病棟と一般の13対1・15対1、医療療養病棟の20対1と比較してどのような患者が入院しているのかを調べたところ、当院は中心静脈栄養13.7%、人工呼吸器3.9%、気管切開3.9%、酸素療法15.7%、喀痰吸引41%、胃ろう29.4%である。また、一般病棟の13対1・15対1よりも医療療養の20対1のほうがはるかに重症患者が多く、中心静脈栄養10.8%、人工呼吸器2.6%、気管切開17.8%、酸素療法21.3%など、非常に重症者をみている。要するに慢性期治療病棟だということがわかる。
こうしてみると、やはり地域包括ケア病棟は大きく2つの機能に分かれる。地域急性期の外傷や高齢者疾病の急性期治療後の継続入院が主体の地域包括ケア病棟(垂直連携)、もう一つは地域の在宅や施設からの急性期入院や他の高度急性期病院からの紹介入院が主体の地域包括ケア病棟である。どちらが正しいかということではなく、両方の機能が必要だと考えている。
どちらかと言うと、織田先生の病院は急性期から在宅のほうへ広げていく。われわれの病院はコテコテの慢性期から、少しずつレベルを上げていって急性期の患者に対応している、という違いがあると思う。そして今、病院が患者を選ぶのではなく、患者に選ばれる時代になっており、慢性期の病院だからといって、「急性期の方は受け入れられない」と言っていられない。慢性期病院でもちょっとした救急患者に対応できなければ、地域ではもう信用されなくなる。
■地域多機能型病院には臓器別専門医よりも総合診療専門医
良い病院とは、やはり迅速適切な治療で病気を治してくれて早くに日常に帰してくれることに尽きると思う。治る病気は治して差し上げる、これは医師として当然のことである。しかし、
この4月、日本呼吸器学会がとんでもないことを言い出した。「成人肺炎診療ガイドライン2017」で「治療しない肺炎」の概念を発表した、要するに誤嚥性肺炎は治せないと学会で宣言したのである。
これに対する私の反論が7月1日の『医事新報』に掲載された。そのまま抜粋する。「高齢者肺炎は低栄養や脱水、電解質異常、貧血などの要因が跳び箱のように重なっていて、一番上に誤嚥性肺炎があるとの考え方を主張し、『肺炎だけを治そうとする臓器別専門医の先生は呼吸器しかみていない。
肺炎だけを治そうとして抗生物質を投与しても治らないのは当たり前だ。アルブミンや水分を適正に管理するなど、跳び箱の下の状態を同時に改善しないといけない。また嚥下機能を回復させるリハビリも必要になる。臓器別専門医の先生方がいる大きい病院ではこうした機能がないので、抗生物質投与に頼ることになる。治る病気は治してあげるのが医師として当然の姿。こういう患者がいたらどんどん慢性期病院に回してくれれば、きちんと治療して差し上げる』と言った」
臓器別専門医に、あちこちの臓器が悪い後期高齢者を診れるのか、ということである。跳び箱の一番上だけ治しても治るわけがない。これは慢性期医療をやると常識なのであるが、常識が欠如している臓器別専門医の先生も、残念ながらいる。
われわれの協会は、感染症は治る病気で治療は可能だと考えている。必ず治るとは言わないが、がんではないのだから治療可能な病気である。栄養と水分を適切に管理しながら、抗生物質等を投与した症例は改善していることを、1月から5月まで調べて確認した。
だから地域多機能型病院での治療は、多臓器の身体合併症の多い後期高齢者患者が多いため、高度急性期の臓器別専門医の治療よりも、むしろ総合診療専門医機能を持つ後期高齢者の治療に習熟した医師が必要となる。
■収容型の慢性期病院はもう要らない
リハビリの完全包括化を考える時期に来ている。包括にしていただければ5分でも10分でもいろいろなリハビリができるが、出来高の場合、19分59秒だったら一銭にもならない。地域包括ケア病棟でリハビリは2単位包括である。
では4単位も5単位もしたら赤字になるからやめるのか。地域で同じような病院が3つか4つしかないなかで競争するのに、あそこの病院に行ったらたくさんリハビリしてくれてどんどん良くなって帰ってくる、別の病院に行ったら何もしてくれずにどんどん死んでいった、それを聞いた家族は自分のお父さんの入院先としてどちらを選ぶだろうか。答えは言うまでもない。
要するに点数のことばかり言っているから駄目なのである。診療報酬の点数がどうだからこれを取ろうとかあれを取ろうという時代はもう終わりである。
在宅医療の99%は慢性期医療である。QOLを保ちながら在宅医療を継続するためには、何かの病状をみつけたら、すぐ後方の地域包括ケア病棟をはじめとする地域多機能型病院に入院し、早く帰すということである。したがって慢性期病院は地域包括ケア病棟をきちんと取らないといけない。地域で慢性期状態の患者の急変に対応せず、老人収容所のままでは、そんな病院は要らないといわれる。ただ看取るだけの医療療養では介護医療院に負けるかもしれない。
急性期指標が明確化されると慢性期指標もはっきりしてくるだろうし、やがて地域包括ケア指標もできてくるだろう。そうなってくると広域急性期は高度急性期、中域急性期は急性期病棟、地域急性期は地域包括ケア病棟、特定除外患者の多い自称急性期は介護医療院、高度慢性期は療養病床の15対1、地域慢性期は療養病床の20対1、収容型慢性期は介護医療院、介護療養型は介護医療院と、このように分別されてくるだろう。
私は、急性期指標により急性期病床が半減する時代が来ると思う。中途半端な急性期病院の平均在院日数を短縮し、日本の総入院日数を半減させようとしてくるだろう。やはり自分自身で自分の病院は時代に合わせて良くしていかないと、ゆで上がって青いカエルが赤くなるということである。
(了)
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