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演題発表④
演題発表④
4.地域包括ケア病棟を利用した新たな取り組み~レスパイト入院の実践報告~
宮田琴江(恵寿総合病院けいじゅサービスセンター MSW)
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私どもは社会医療法人と社会福祉法人から成るけいじゅヘルスケアシステムとして、「先端医療から福祉まで『生きる』を応援します」というキャッチフレーズで事業を展開している。私たちのシステムには、基幹病院、クリニック、老人の入所施設、小規模多機能など、在宅を支援する施設がある。当院所在地である七尾市は、最近では毎年800人強の人口減、高齢化率は33%と、典型的な過疎地域型となっている。
当院は能登中部医療圏の七尾市に位置している。1キロ圏内には同規模の公的総合病院があり、その他近隣も含め、能登中部・北部の公的病院群に囲まれ、民間としては孤軍奮闘の毎日である。地域の住民にとってはぜいたくな医療環境となっている。
能登半島の地図である。この赤い印が私どもの病院、クリニック、施設である。恵寿総合病院は能登では最大の病床数で、唯一の公立ではない公的な社会医療法人の病院である。一昨年度当院から退院した方々の人数は、3,859名である。100km離れている所からも入院してきている。
入院後、退院支援、退院調整をスムーズに実施するために、情報収集のための面談、課題整理のアセスメント、ケアプランの作成、担当者会議の実施、支援の実施、サービス提供事業所を交えての担当者会議、退院調整と、一連の流れに急性期病棟と地域包括ケア病棟に大きな違いはないと考える。
退院支援、退院調整は、入院後の関わりが主となるイメージを持たれるかと思う。しかし、入院前から関わることにより、希望場所へのスムーズな退院や平均在院日数の短縮、在宅復帰率向上につながると考える。今回は地域連携担当医療福祉相談員の立場から、渉外活動や居宅介護支援事業所との密な連携により、病床稼働率の在宅復帰率の向上に貢献できた取り組みについて報告する。
当院でのMSWである私の所属についてお話しする。私たちMSWは事務部けいじゅサービスセンターに配属されている。2012年2月に医療福祉相談課は、地域連携課、コールセンター課とともに、けいじゅサービスセンターとなり、前方後方窓口が一本化し、同部署として日々連携できる環境となった。
その中でMSWは業務の幅の広さから、病棟担当と地域連携担当に分かれている。地域連携課は、MSWの私が配属される前は、事務職で構成されていた。このため、業務内容は事務処理が中心で、主に病院の中で業務をしていた。そこで、MSWである私が配属された利点を生かし、新規患者を集客するため、さらには退院支援、退院調整をスムーズなものにするために、広報ならびに啓発活動として五つの戦略を実施した。一つ目の戦略は、県内初の設置であり、耳慣れない地域包括ケア病棟について理解していただけるよう、周知および広報活動から始めた。
ここで、地域包括ケア病棟とは急性期の患者の在宅医療へのスムーズな移行を図ると同時に、地域における在宅医療を支えることを使命としている。当院の地域包括ケア病棟であるが、2014年7月に40床で病棟がスタートした。当院が県内初である。翌8月に現在の47床に増床となった。9月にはレスパイト入院と白内障やPSG、大腸ポリープなど、短期滞在入院の受け入れを開始した。今年の2月から看護職配置加算の算定も行っている。以上の内容を周知目的に101の地域の連携医療機関へ自ら訪問した。その際にはこれらの記事が記載された広報誌を持参した。
二つ目に、病床稼働率向上を目標に、地域包括ケア病棟がオープンしたことに加え、その病床の空きを利用して、レスパイト入院の受け入れ体勢を整え、スムーズな利用に結びつけるべく戦略を練った。
レスパイト入院の対象として考えられるケースについて、利用できる方の一例としては、吸痰や点滴、褥瘡など、医療行為がネックとなり介護保険サービスの施設を利用できない方。インスリン注射や吸痰行為など、介護者指導が必要である方。排泄動作や食事摂取など、生活リハビリを必要とされる方。住宅改修の期間など、自宅療養が一時的に困難な方。身体的にも精神的にも負担が大きく、介護者に介護疲れが見られる方。冠婚葬祭や、介護者が病気などで一時的に介護者が不在となるなど、多方面から必要なケースが考えられた。
レスパイト入院は、本人だけでなく、介護者のためにも支援が可能となる病棟、まさに介護の休日を提供するものと考える。スムーズな受け入れがなされるよう、誰が見てもわかるようなマニュアルを作成し、受け入れ体勢を整えた。
三つ目は、新規利用者獲得に向け、地域連携担当者だけでなく、病棟担当医療福祉相談員や病棟師長にともに訪問活動へ参加していただけるよう依頼をかけた。在宅を支える開業医に加え、もっとも身近な相談者である介護支援専門員とのパイプ作りのため、地域包括ケア病棟のパンフレットも作成し、持参した。渉外活動の県内を石川県内だけでなく、能越自動車道が開通したことを生かし、富山県まで渉外活動を広げた。
居宅介護支援事業者に向けて、レスパイト入院の必須条件やアピールポイント、利用の対象と考えられるケースなどを明記した文章を作成した。介護職にもわかりやすい文面を心がけた。
地域包括ケア病棟の案内のパンフレットを作成した。地域の中でもっとも身近に感じていただけるような病棟としてアピールを継続していきたいと考えている。内容には、レスパイト入院のほか、退院後のフォローアップについても盛り込んだ。これはどういうことかというと、準備を整えて退院したものの、退院後に不安を生じた場合、病棟看護師による電話相談を受け付けるといったものである。在宅に戻っても切れることなく支援をすることで、安心の提供につながるものと考える。広報活動として能登全域220事業所に加え、富山県氷見市の13事業所へ、個別に一つ一つの事業所を訪問した。
こちらは実際に昨年9月からレスパイト入院を受け入れした今年の9月までの実績である。受け入れの総件数は81件。月に5~6件の受け入れを行っている。市町村別の受け入れ割合については、近隣のみならず富山県からの新規顧客や奥能登地区、能登北部からも受け入れていることより、広報周知の効果があったと思われる。
レスパイト入院の相談経路としては、ケアマネージャーからが最も多く、全体の9割を占めている。利用申込先を、地域連携担当のMSWにすることを広報したことで、お待たせすることなく相談対応をすることができた。レスパイト入院を希望した理由については、介護者の都合で急きょ利用を希望されたケースがもっとも多かった。吸痰や、医療依存度が高く、介護サービス利用困難、また、インスリンや医療処置などの指導目的に利用されたケースなど、看護配置が充実している医療機関ならではのケースがほとんどであった。
レスパイト入院を利用された方を対象とした退院先を示したグラフである。利用前より、自宅退院を基本とした説明をしたため、大半が自宅退院をされたが、入院中に新たな病気を発症され、急性期病棟へ転科されたケースも見られた。これは病院のレスパイト入院を利用された結果、よい結果が出たものと考えられる。
こちらは、地域包括ケア病棟に入院された方の内、レスパイトや短期滞在入院など、直接入院の割合である。濃い水色が直接入院、薄い水色が院内からの転棟である。平均で全体の32%をレスパイトなど直接入院で稼働している結果であった。
地域包括ケア病棟全体での退院先の内訳については、自宅や在宅復帰対象の居住系施設や、在宅復帰支援機能加算算定保険老人施設への退院が全体の8割強を占める結果であった。
こちらは実際にレスパイト入院を利用された方の例についてである。39歳時、脳幹出血で両上下肢機能全廃となり、胃瘻増設、気管切開で吸痰を要し、生活全般に介助を必要としたが、医療行為の多さから施設利用の受け入れが困難なため家族介護負担が大きい方であった。24時間医療体制が整ったレスパイト入院を利用することで、短期に入院できる場所、安心できる場所が増えたことを本人、家族ともに喜ばれたケースであった。
四つ目は、全体最適を意識したベッド運用である。そのためにグループ内のMSW、ケアマネージャー、施設やサービス事業所の相談員が一堂に会する機会、すなわち相談員によるベッドコントロール会議の場を設けた。ベッドコントロール会議の場では、単に空所ベッドの確認や、それぞれの事業所の稼働率にとらわれず、老健、特養、ショートステイ、小規模多機能など、グループ保有のベッドを有効活用し、患者の状態やニーズに応じた療養先、介護サービスの提供に努めた。また、当法人は多様な会議体を通してタイムリーな情報共有をしながら、切れ目のないサービスを提供している。
五つ目は、ネットワークを利用し環境整備をしたことである。全施設共通アセスメント用紙を作成した。病院、施設、各サービス事業所でバラバラだった書式をグループ間で統一し、共通の書式にすることでスムーズな調整につなげている。病院施設、各サービス事業所のどこからでも見ることができる。さらに、MSWによるベッドコントロール会議だけでなく、タイムリーな運用をするために、けいじゅヘルスケアシステムのネットワークを活用し、各施設の稼働状況を随時更新、閲覧できる環境を整えた。
一つの例を挙げて説明する。老人保健施設に入所中の恵寿太郎さんが総胆管結石のため1~2週間の見込みで入院したことで空所ができる。空き状況を知ったケアマネージャーが七尾次郎さんのショートステイを調整する。退院調整のあと、恵寿太郎さんが老健に再入所する、以上の流れを実際に共有している画面で説明する。
空き状況ができた部屋がここでわかる。老健の相談員が、空所ができた時点で、入院見込み期間などを入力すると、グループ内で一斉に情報共有ができる。こちらの空欄に退院までのベッド利用の予定を随時入力する。今回は居宅のケアマネージャーが空所情報をもとに、リハビリ希望のあった七尾次郎さんのショートステイを利用する調整をした。平行して、老健の相談員は、病院と恵寿太郎さんの再入所の退院調整を行った。
このように、各担当者が随時ネットワークを確認し、空所ベッドを有効活用し、調整を進める。グループ全体で取り組むことで、互いの在宅復帰率や稼働率への貢献にもつながる。
以上、五つの戦略の結果、地域包括ケア病棟における在宅復帰率要件70%を全月クリアすることができた。在宅復帰率を、レスパイト入院の受け入れを開始した平成26年9月前後で比較すると、昨年の4月から8月の平均は77.9%。9月以降の平均は85.7%と、大きくパーセンテージを上げることができた。地域包括ケア病棟で、レスパイト入院中の患者に飲み込みの訓練をしている場面においても多職種で確認することにより、支援経過を把握し、認識を統一することができる。日常生活場面において、押し車を利用し移動されている患者に、病棟看護師長自ら安全移動を支援する場面もみられる。
これからもより自宅に近い環境作りを行い、介護の休日をよりよい形で提供し、今以上に能登地方独自の地域包括ネットワークを作り上げ、地域医療連携に取り組むことで、スムーズな退院支援、退院調整が展開できるよう取り組んでいきたいと考える。