- TOP
- 活動
- イベント(活動報告)
- 演題発表①
演題発表①
演題発表①
1.地域包括ケア病棟における看護職・介護職の役割
竹谷弘江(ベルピアノ病院地域包括ケア病棟リーダー職 看護師)
山下明日香(ベルピアノ病院地域包括ケア病棟リーダー職 介護福祉士)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〇竹谷
地域包括ケア病棟協会の第1回の記念すべき研究大会に参加できたことを感謝したい。それでは本協会の理念であり大会テーマである「ときどき入院、ほぼ在宅」をめざし、「当院における地域包括ケア病棟の看護職、介護職の役割」というテーマで発表させていただきたい。
当グループは大阪府南部に集中し、地域に密着したトータルヘルスケアシステムの実現を目指している。当院は回復期、慢性期を担う192床の医療・療養型病院である。
当院は医療と福祉の複合施設の中核であり、昨年7月、当病棟は医療・療養病棟から地域包括ケア病棟へ転換し、急性期病院の後方支援、在宅からの緊急時の受け入れやレスパイト入院の受け入れ病棟として活動して2年目となる。
開棟した平成26年7月、本年9月までに入院された患者背景について。疾患別に見ると、高齢者に特徴的な骨折、整形疾患が40%。慢性的な循環器、呼吸器疾患、神経難病やがんで50%以上を占める。年齢別では80、90歳以上が70%を占める。
入退院状況では、入院元は急性期病院からの受け入れが70%で最も多く、レスパイトや在宅および施設からの受け入れが30%。転帰先は自宅が50%で、サ高住、在宅強化型の老健と特養を合わせるとほぼ80%であり、1年半を経過し、在宅復帰率は維持できている。
当院での1年半の実績から、地域包括ケア病棟における看護師の役割を考えた結果、①看護師は本人、家族の最も身近な存在であり、退院に向けての意思決定の支援。②個々の多様なニーズをアセスメントし、退院後の健康管理や療養に関する不安軽減のための指導や調整。③退院後に在宅療養を継続するための家族支援。④他職種連携のコーディネーター的役割。以上の4点となった。
まず在宅という患者家族のニーズに応えるためには、情報の共有と顔の見える連携が重要である。そのツールとして地域包括ケア退院支援シートを用いている。患者に合わせたリハビリのゴールや、退院指導の課題を明度化し、他職種が進捗状況を確認できる退院支援介入シートである。
そしてシートを使用しながら、入院時から定期的かつ効果的にカンファレンスを実施し、ケアでの課題、ゴールの確認をする。看護師は入院時からカンファレンスごとに退院支援評価や退院調整役となる。スライドは実際の他職種カンファレンスの様子である。
さらに患者家族も在宅復帰という目標と、退院後の生活のイメージを共有するため、入院から退院に向けての説明をする。家族は患者の状態や退院に関する不安を軽減し、60日目までには退院が実現できるように、心や環境の準備をしていく。
ここから実際の事例をあげ、看護師の関わりを紹介したい。
73歳女性、慢性閉塞性肺疾患。既往に肺がん手術、肺気腫、うつ病、アルコール依存症があり、夫・長男は他界し、独居で近くに住む次男がキーパーソンである。介護認定は要介護5。独居生活で呼吸状態が悪化のため、急性期病院で人工呼吸器管理、心不全と肺炎も併発し、経鼻経管栄養の状態のまま、リハビリ目的で当院に転院した。
問題点をあげ、退院支援シートに準じてカンファレンスを実施した。入院時、家族は経口摂取が無理ならば施設もやむを得ないと考えていた。入院10日目の在宅支援カンファレンスでは重度の嚥下障害と呼吸器疾患により、医学的管理の必要があること。独居であり、介護力不足から在宅は困難か、などの意見もあり、30日後の評価で方針を再検討することとなった。
各専門職が関わり、30日目の中間評価時、リスクはあるものの、とろみ剤併用で3食経口が可能となった。患者は家に帰って好きなものを食べたいと話し、食事はデイルームで他の患者と楽しく摂取する機会が増え、1人でいる時間が少なくなり、表情も明るくなった。そして家に帰れるのでは、母の思いをかなえたいと、自宅退院への家族の決定につながった。
独居であり、周囲や家族の介護力が弱い場合でも、安全で充実した在宅生活を継続するための大きな課題は、嚥下障害に関連した食事、栄養管理、疾患や病状を踏まえた内服管理と健康管理だった。
家族の意向が自宅に決定後、在宅生活への具体的な課題に対し、指導と支援、サービス調整を開始した。言語聴覚士とともに接触に関連する訓練と指導の継続、義歯調整の依頼や管理栄養士による栄養指導の調整をした。さらにとろみ剤やレトルト食品など、嚥下障害に対応できる配食サービスを調整した。また特に重要な発熱など、病状悪化時は急性期病院への受診を指導し、内服に関しては薬剤師による服薬指導を含め、自己管理に向けて次男にも協力を依頼し、確実な内服管理が可能となった。
独居でアルコール依存症もあったことから、社会的交流はほとんどなく、入院当初も他の患者との会話や交流もなかった。しかしもう一度、地域に帰って暮らしたい、を意識して働きかけるうちに、次第に他の患者との会話も増え、表情も明るくなり、退院前カンファレンスに訪れたケアマネージャーが患者の変化に驚いたほどだった。
退院前カンファレンスでは各専門職からサービス担当者に、必要かつ重要な支援を引き継いだ。介護負担の軽減や、安全な生活を継続するためだけでなく、他者との交流を持ち続けるためにもデイサービスやショートステイなどの調整を依頼した。担当ケアマネージャーが退院後のモニタリングの焦点を確認し、患者家族の支えとなることを提言してくれたことは、病院から地域へつなぐ役割が達成できたと実感できた。
地域包括ケア病棟の看護師は、本人、家族を中心に、他職種で実践する在宅復帰へのゴールを共有し、切れ目のない連携が重要で、そのコーディネーター役を担うことが求められる。この事例は在宅生活に対して迷いがあったが、まず患者が自分らしく生きたい、住み慣れた地域に戻りたいと思えることが重要だった。家族はその思いを支える在宅生活をイメージし、在宅への意思決定の支援ができた。特に嚥下障害による誤嚥性肺炎のリスク管理や病状管理、生活に関する指導が不安の緩和になった。
そして社会資源の調整は、患者家族のニーズに合致していたことだと考える。何より担当ケアマネージャーが退院後のモニタリングの焦点を確認し、患者家族の支えとなることを提言してくれたことは、病院から地域へつなぐ役割が達成できたことを実感できた。
住み慣れた地域で暮らし続けるためには、家族の介護負担を軽減することも重要で、その時の状態に合わせて入院や手術のレスパイトの調整も必要と言える。この事例は地域包括ケア病棟であったからこそ、在宅への目標が達成できたのだと考える。
〇山下
引き続き、地域包括ケア病棟における介護福祉士の役割を発表したい。
はじめにベルピアノ病院における介護職人員配置数について。地域包括ケア病棟の介護職の配置基準はないが、在宅復帰を目指す病棟として介護職は自立生活支援の中心的役割を担う重要な職種であると考える。そこで地域包括ケア病棟における介護福祉士の役割について考えた。
①介護福祉士は生活ニーズの視点から他職種と共同で、在宅療養生活を継続するための安全・安楽な日常生活自立支援をすること。②入院中であってもその人らしく生き生きとした療養生活を送るために、その人の住まいや生活を意識した環境や時間の過ごし方を提供すること。
ここで事例を通して介護福祉士としての関わりを紹介したい。
84歳男性。下肢動脈閉塞により両下肢を切断され、要介護5。在宅復帰を目指して転院してきた。妻と2人暮らしで患者家族は車椅子での移乗動作自立、排泄の自立を強く望んでいた。
入院10日目の在宅支援カンファレンスの際に、84歳と高齢であり、両下肢切断の状態で移動も困難な状況ではポータブルトイレ自立は困難と思われた。しかしポータブル排泄の自立という思いに沿えるよう、動作訓練は続けていくこととした。安全にリズムのある生活を送るために、リハビリセラピストと連携し、座位保持自立と安全な車椅子への移乗自立に向けて病棟内で生活リハビリとして取り組んだ。
同居している妻は高齢で、理解に乏しい部分があった。そこで排泄に関しては尿器差し込み便器使用の獲得を目標とした。
具体的な介入について。生活にリズムをつけ、安全な日常生活を送るために、予定や場所を見てわかるように提示し、声かけをした。在宅生活をイメージするために家屋調査の結果を踏まえ、ベッド周辺の環境を調整した。入院前の情報から趣味を取り入れ、家族とともに病棟喫茶への参加を勧めたり、季節感や生活感を感じる工夫をした。その結果、表情は日ごとに穏やかとなり、他の患者との会話も増えていった。
排泄の自立について。ポータブルトイレの使用については、両下肢の損失から座位保持が不安定で安全面に不安が大きく、スライドボードでの移動もリスクが高いため困難であると評価した。そのため、失禁なく確実な尿器排泄自立と目標変更し、本人、家族へ尿器差し込み便器の使用について指導をした。訓練開始20日目には家族からも「これならできる、頑張ってみます」という言葉が聞かれた。
車椅子移乗自立に向けては、リハビリにより徐々に体幹が強化され、バランスも安定し、座位保持姿勢が可能となった。そこで食事時間、本人の趣味である読書の時など、車椅子移乗を行い、アクティビティの参加も勧めた。座位保持時間も20分から1、2時間へと大幅に延長することができ、家族と過ごす時間が増え、院内の散歩に出掛けるようになった。最終的にスライドボードを用いた移乗方法も自立し、家族見守りのもと可能であると評価し、目標を達成した。
後日、退院後の生活状況について自宅で聞き取りを行った。訪問リハビリ、訪問看護、デイサービスなどのサービスを利用し、療養生活を継続している。デイサービス利用中に病棟を訪ねてこられ、入院時には見られなかった言葉や表情が多く聞かれた。また安楽に尿器で上手に排尿できている。トイレ排泄も試みている。スライドボードで安全な移乗ができている、などの声や、介護タクシーなどを利用することで外出も増え、旅行を考えている。これも入院中に練習し、自信がついたから。今困っていることは特にない、と、自宅での生活に喜びを感じておられる様子だった。
入院当初、他職種カンファレンスで在宅は困難ではないかと思われたが、現状での本人のベストなゴールを見据えた支援が重要であると認識することができ、在宅での生活、地域で生活し続けることで最終目標を達成できた事例となった。
この事例を通した考察について。まず患者家族の思いを受け入れ、介護福祉士として在宅での生活ニーズを捉え、両下肢切断という生活機能障害でも安全・安楽な日常生活が自立できることを目標とし、自分らしく生きるための生活機能を支援した。本人の性格上、身体機能への悲観がなかったことも大きくプラスとなった。認知機能の低下では病棟喫茶や趣味を生かしながら、ベッド周囲の環境調整など、環境的側面から生活リズムを整えたことが効果的であったと考える。
患者家族が望む在宅生活の実現に向け、まず入院中に退院までの目標を基礎とし、退院後もあきらめずに生活し続けられるゴールを設定すること。この事例では60日間で安全に自分らしく生活が自立できる、地域で暮らし続けるための生活機能の目標が達成できた事例だった。
60日間の入院期間を有効かつ効果的に使い、患者家族のニーズに合った支援をすること。そして結果として住み慣れた地域に帰ること。さらに地域とのつながりを継続させることが、チーム医療を担う地域包括ケア病棟の看護職・介護職の役割であると考える。
今後は在宅復帰後の地域での生活の様子を知ることで、病棟での関わりを振り返り、よりよいケアの提供と継続を目指していきたいと考える。ご清聴ありがとうございました。
〇石川座長
ありがとうございました。実際に統一したアセスメントツールを用いた取り組みを実践をされており、また後ほどお話を聞かせてください。