- TOP
- 活動
- イベント(活動報告)
- 特別講演
特別講演
特別講演
地域包括ケア病棟における
リハビリテーション栄養について
座長:中井修(九段坂病院院長)
演者:若林秀隆(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科助教)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〇総合司会:安藤高朗(永生病院理事長)
午後の部に入らせていただく。特別講演は、「地域包括ケア病棟におけるリハビリテーション栄養について」というテーマ。やはり人間として食べることは幸せの根本だと思う。高齢者の方のリハビリにおいては、嚥下機能の向上が今後ますます重要になってくるのではないか。
座長は九段坂病院院長の中井修先生、特別講演の演者は横浜市立大学付属市民総合医療センターの若林秀隆先生。それでは、お願いいたします。
〇座長:中井修(九段坂病院院長)
私の専門は脊椎外科だが、今日は座長を務める。講師の若林先生をご紹介したい。若林先生は横浜市立大学を平成7年に卒業し、日本赤十字社医療センターで内科の研修を受けられた後、平成9年から横浜市立大学のリハビリテーション科に入局。横浜市立大学医学部附属病院リハビリテーション科、横浜市総合リハビリテーションセンター、横浜市立脳血管医療センター、済生会横浜市南部病院リハビリテーション科を経て、横浜市立大学附属市民総合医療センターで現在、診療講師として勤務している。リハビリテーション、高次脳機能障害、急性期リハなどを専門に臨床をされている。
その一方で、平成25年4月から慈恵医大の大学院で臨床医学研究を、研究テーマであるリハビリテーション栄養について研究されている。
日本リハビリテーション医学会、日本静脈経腸栄養学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本プライマリ・ケア連合学会の代議員、評議員を務め、日本リハビリテーション栄養研究会の会長をやっている。一流誌に多くの論文を投稿されている。著書も多く、リハビリテーション栄養学、サルコペニアに関する複数の著書をお持ちである。
日本を代表するリハビリテーション栄養の専門家ということで、今日はテーマとして「地域包括ケア病棟におけるリハビリテーション栄養」ということでお話を伺う。
〇若林秀隆(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科診療講師)
みなさんこんにちは。このような機会を作ってくださった大会長の加藤先生、会長の仲井先生に厚くお礼を申し上げたい。
今日は朝から参加しているが、仲井先生のアンケートの中にリハ栄養をやっているかどうかという項目が入っていたことにびっくりした。さらにその中で4分の1くらいの施設ですでにやられているということに、再びびっくりした。みなさんの病院・施設で若干でもリハ栄養の取り組みをされている方がいたら、手をあげていただきたい。ああ、やっぱり4分の1くらい。アンケートは正確だったようだ。
今日は地域包括ケア病棟においては、こういった形でリハ栄養の取り組みができればいいのではないかという私見の部分も多いが、そういう話をしたいと思っている。
一番お伝えしたいことは特にサブアキュートの部分で、地域包括ケア病棟でサルコペニアを作ることをしないでほしいということ。一方、ポストアキュートの場合はむしろサルコペニアを作るよりも、サルコペニアを治す病棟でなければいけない。サルコペニアというのは寝たきりや嚥下障害の大きな原因になる。それを地域包括ケア病棟でいかに作らないか、治していくかが重要な、リハ栄養から見たテーマだと考えている。
内容としては、先にリハ栄養とは何か、リハ栄養の考え方というところから話をしたい。その後にサルコペニア、最後にサルコペニアの嚥下障害ということで、特に高度急性期から急性期病棟では医原性の嚥下障害が作られているという現状と、それに対してどうすべきかという話をしたい。私の話は堅いので、間に何枚か写真を挟みたいと思う。
まず、リハ栄養とはスポーツ栄養のリハ版。スポーツ栄養はスポーツ選手が試合当日に最高のパフォーマンスを発揮するために栄養管理をすること。リハ栄養は障害者や高齢者が最高のパフォーマンスを発揮できるような栄養管理をすることになる。そしてリハの世界でのパフォーマンスとは、国際生活機能分類である。午前中のシンポジウムでも出てきたが、この中の心身機能、身体構造、活動、参加がパフォーマンスである。
リハ栄養ではこれからの生活機能を最大限高める栄養管理をしようという考え方をする。というのは、栄養障害は心身機能の一つに含まれているが、その栄養障害は他の機能障害、例えば嚥下障害や呼吸機能障害などにも影響を与えるだけでなく、活動の妨げにもなる。低栄養の方はADLが悪い。社会参加もしづらくなる、家にも帰りにくくなるということにつながっている。だからリハはとても大事だが、その中で栄養の視点を持って評価することが私はとても重要だと思っている。
なぜリハにおいて栄養が重要かというと、リハを行っている高齢者には低栄養の方が多いからである。施設別に高齢者で低栄養の方がどれくらいいるかということをまとめた論文によると、急性期病院で入院している人で低栄養の方はだいたい4割近く。リハビリテーション施設、つまり急性期の治療が終わった後の患者さんに関しては5割が低栄養。回復期リハ病棟においては4割前後が低栄養であるという報告がある。
おそらく地域包括ケア病棟においても4割から5割くらいの入院患者が低栄養ではないかと思う。そうするとリハは大事だが、リハだけ頑張って低栄養を放置していると、最高のパフォーマンスを引き出すことは難しいということが想像できる。
なぜそんなにリハが必要な人に低栄養が多いのだろうか。理由は三つある。一つ目には例えば大腿骨頚部骨折や誤嚥性肺炎になる方は、もともと病気になる前から低栄養だから。低栄養の方が骨折しやすい、感染症にかかりやすいという背景がある。
二つ目に急性期病院で栄養状態が悪化する。一つは病気そのもの、骨折や手術、重症疾患など大きな侵襲が加わるとき、人の体は自分の筋肉を壊して病気と闘うようになる。つまり病気そのもので栄養状態が悪化してしまうことが一つである。
それはいたしかたないことだが、急性期病院での栄養管理が残念ながらずさんな現状がある。急性期病院では、いまだに入院してきたらとりあえず腕からの点滴で、1日260キロカロリーくらいで1週間2週間、ひどいと1カ月、栄養管理されているケースがよくある。点滴だけで栄養管理されているというのは、いわばポカリスエットやアクエリアスだけ飲んで、あとは何も食わないで生きていけといっているのと大差がない。
特に、脂肪やアミノ酸を点滴で使わない場合が問題である。みなさんが病気で入院したとして、食事が何も出ないで、ポカリスエットとアクエリアスの2リットルのペットボトルだけ渡されて、1日1本これだけ飲んでください、あとは何も食うな、病気のことはなんとかするから、と言われたら、その病院を信頼するだろうか?しないと思う。だけどそんなことが今でも高度急性期では普通に行われている。そのために栄養状態やサルコペニアが悪化してしまっている。
三つ目にリハ病棟、リハをしている方自体の栄養管理がずさんというのが実はある。回復期リハ病棟に関していうと、常食の上限が1400キロカロリーという病院がある。1600キロカロリーという病院はざらにある。一方で、頑張っているところは3000キロカロリーでも出す。同じリハをしてかたや食事が1400とか1600キロカロリーしか出さない。かたや必要であれば3000キロカロリーでも食事として出す。となったら、これはリハの効果が当然違う。地域包括ケア病棟はこんなに栄養管理がばらつく病棟であってほしくないと、私は期待している。
リハ栄養評価のポイントは、栄養障害、嚥下障害、サルコペニアがあるかないかをまず評価すること。その上で栄養のゴール設定、目の前の方の栄養状態を今後よくできるのか、よくできないのか、維持できるのか、あたりの改善か維持か悪化の方向性だけでも定める。
その上で機能訓練として、筋肉量や持久力をつけるようなしっかりしたリハをやっていいのか、それともそうしたしっかりしたリハは今の全身状態と栄養状態ではできないと判断するのか、そこを決める。目の前に動けない、食べられない、歩けない人がいたら、じゃあどんどんリハをしましょう、というわけにはいかない。その人の全身状態と栄養管理を考慮しなければ、動けなくて食べられないけど、今は維持的なリハだけしましょう、と言わざるを得ないケースもよくある。一方でしっかりリハをすることができるケースもある。
こちらは当院のデータだが、65歳以上で廃用症候群と診断した人が1年に169人いた。その方たちの栄養状態をMNA-SFというので調べたものになる。廃用症候群、みなさんご存じだと思うが、今までADLが自立していた方が入院して安静臥床を余儀なくされて、ADLの介助が必要になってしまった状況である。歩けなくなった、トイレに行けなくなった、自分で食べられなくなったという人たち。その人たちで低栄養がどれくらいいるかを見ると、88%、ほぼ全員と言っていいくらいが低栄養だった。他の人たちの研究結果を見ても少なくとも5割、多いと9割くらいの廃用症候群の人が低栄養となっている。
リハの世界では、廃用症候群というのは安静臥床によって生じたんだから、ひたすらリハをすればいいんでしょ、というのが従来の発想だった。でも違う。なぜ廃用症候群になるかというと、病気の影響が一つ。安静臥床が一つ。さらに低栄養が加わっている。疾患と安静臥床と低栄養の三つが同時に加わったことでADLが介助になってしまう。
ということは、この人たちのパフォーマンスを最大限に高めようと思ったら、疾患の治療、リハ、低栄養に対する栄養改善の三つを同時にやっていかないといけない。ADLをまた自立させる、しかもポテンシャルを最大限発揮させることは難しい。
低栄養の原因は大きく三つに分けることができる。一つ目が「飢餓」。これは食事の摂取量が足りない、もしくは食べてなくて栄養管理がずさんという、いわゆるエネルギー・タンパク摂取量不足による低栄養で、疾患の影響はないもの。二つ目が「侵襲」。急性炎症によるもの。骨折や誤嚥性肺炎などの急性感染症、手術、外傷、重症疾患などによって生じた急性炎症による低栄養。三つ目が「悪液質」。これは慢性疾患、慢性炎症に伴う低栄養で、がんや慢性心不全、慢性肝不全、慢性呼吸不全、慢性腎不全や、関節リウマチなど自己免疫疾患といった疾患に伴う低栄養。つまり疾患の影響のない低栄養と、疾患の影響のある低栄養に分けることができる。
そして低栄養の原因によって栄養管理も違う。疾患の影響のない飢餓であれば、栄養管理だけで栄養改善は容易にできる。しかし炎症がベースにあると栄養管理は大事だが、それだけで十分な改善は難しい。廃用症候群の人たちがリハ科に併診になった時に栄養評価をして退院時にどのくらいADLが自立したか関連を調べてみた。するとリハ科併診時にアルブミン値が低い人、MNAの点数が低くて低栄養だった人、そして悪液質があった人は、理学療法を当然やっているが、リハをやっても退院時のADL自立度が低かった。つまり低栄養の人はリハを頑張ってもあまりADLが自立しない。これは脳卒中、大腿骨頚部骨折、内部疾患などいろいろな疾患で言われているので、おそらく真実であろう。
では低栄養の人に栄養強化療法をしたらもっとADLがあがるかどうか。いくつか最近、エビデンスが出てきている。例えば筋肉量の少ない高齢者で回復期リハ病棟に入院している患者さんに対して、通常の栄養管理にプラスして1本200キロカロリー、タンパク質10グラム、分岐鎖アミノ酸2.5グラムという栄養剤を強化すると、しなかった場合と比較して退院時に筋肉量は有意に多くて、ADL自立度も有意に高かったというランダム化比較試験が今年日本から発表されている。
ほかにも、急性期病院入院後に早期リハを行った高齢者に、1日600キロカロリーの栄養剤を、通常の食事に加えて投与することで、1年後まで筋肉量やADLをより維持することができたというランダム化比較試験もある。つまり低栄養やサルコペニアの人に関しては、通常のリハや栄養管理にプラスして、栄養強化療法をするとよりADLを高くすることができる。そうするとより在宅に退院しやすくなると考えている。
ここから地域包括ケア病棟でのリハ栄養をどういうふうにしていったらいいかという私見を少し話したい。当たり前と言えば当たり前だが、まず栄養評価を入院当日にやっていただきたい。そして栄養のゴール設定も同時に行っていただきたい。少なくとも栄養状態が今後悪化する人なのか、改善できる人なのかという二択でいいのでやっていただければと思う。
例えば、サブアキュートで誤嚥性肺炎の診断で入院してきてCRPが10とか15mg/dlくらいの人の栄養改善は難しいので、栄養維持が目標になる。一方、ポストアキュートで初期治療が終わって炎症や全身状態が落ち着いてきた場合には、栄養改善が目標になる。栄養評価に関しては最も重要なのは現体重、BMI、そして体重減少率である。このあたりだけは押さえておきたい。
そしてリハ栄養評価にも嚥下障害というのを入れている。地域包括ケア病棟であればEAT-10でなければいけないとは言わないが、入院当日に全患者に嚥下スクリーニングをやっていただきたい。嚥下障害の存在に気がつかなくて、通常の食事を出して誤嚥性肺炎になってしまってから、嚥下障害があったんだ、じゃあどうしよう、では遅すぎる。誤嚥性肺炎の予防が大事だと思う。
EAT-10というのは自記式の嚥下スクリーニング質問指標である。例えば食べるときに咳が出ることがあるか、飲み込むことがストレスになってないかどうか、そういった10項目に関して0点から4点で答えて、40点満点で3点以上だと嚥下障害が疑われるというツールである。EAT-10には使い方が二つある。まずこういった質問に回答ができるかどうかというのが、一番はじめのスクリーニングとなる。
私の研究では、このEAT-10に認知症などで答えることができない人は嚥下障害の可能性が高い。つまり、EAT-10に回答できない人は看護師なり、どの職種でもいいが、入院時に嚥下機能をきちんと評価すべきだということになる。もう一つ、スクリーニングテストができて、3点以上だった場合には誤嚥の可能性が高かった。
従って、やってみて3点以上だったら、誤嚥があると考えて、より詳しく嚥下機能を評価することが必要となる。この質問紙でなくても構わないが、誰かが入院当日の間に嚥下機能を評価をすることが大切である。嚥下機能を評価をしないでいきなり常食とか、ひどい場合には常食よりも誤嚥しやすい食事が出ているケースもあるが、そんなことをしたら危険だと思う。
次にこれはサブアキュートでもポストアキュートでもそうだが、入院当日にとりあえず禁食にするのはやめていただきたい。嚥下機能を評価した結果、重度の嚥下障害で食べられないから禁食にして、静脈栄養などで管理するのはまったく構わない。
だが、「とりあえず禁食」はやめてほしい。高齢者の肺炎、誤嚥性肺炎の人は多いが、そういう人も含めて早く経口摂取をしないと食べられなくなるというエビデンスが最近出ている。入院後2日以内に経口摂取を開始する。これは1日1回ゼリー1個でも構わない。入院後2日以内に経口摂取を開始した群と、入院後3日以降に経口摂取を開始した群と比べると、退院時に3食経口摂取、経管栄養や静脈栄養なしで退院できた割合が、2日以内に経口摂取している人たちは95%、3日以上かかった人は81%という結果だった。決して81%でも悪い数字ではないと思うが、入院後2日以内に経口摂取した場合はほぼ全員と言ってもいいくらい3食経口摂取で退院している。
なぜかというと、後半でも話をするが、医原性のサルコペニアの嚥下障害を病院で作らなかったからである。だからこそ入院後2日以内に嚥下機能を評価して、どうしても重度の嚥下障害の人は禁食にする。そうでない人は1日ゼリー1個でも早期経口摂取を開始することが、サルコペニアの予防として重要になる。
地域包括ケア病棟では当然、入院当日にICF(国際生活機能分類)で基本的な生活機能、個人因子、環境因子も含めて評価した上でリハのゴール設定をしてほしい。そして当然であるが、入院当日に「とりあえず安静」にはしないでほしい。リハも原則として入院当日から開始してほしい。ADLが不自由なくすべて自立している人は開始しなくていいと思うが、そうでなければ原則として開始すべきだろう。
例えば、全身状態を評価したところ、循環動態がとても不安定で、ギャッジアップするだけでも不整脈がどんどん出るとか、呼吸が極めて不安定だとか、そういったもので離床が全然できない。もしくは脳梗塞で麻痺が進行しているという状態であれば安静でいい。しかし「とりあえず安静」はやめてほしい。
誤嚥性肺炎の人に「とりあえず安静・禁食」とするとまずいというエビデンスが最近出た。早く理学療法、リハを始めないと死にますよ、というエビデンスである。入院後3日以内に理学療法を開始した場合と、4日以降に理学療法を開始した場合で入院後30日以内の院内死亡率が5%対7%と2%違った。これは日本のDPCデータ6万数千人の解析なので、おそらく日本中の病院に当てはまると思う。とりあえず安静にしていたら、肺炎の死亡率まで高くなる。だから「とりあえず安静」ではなく、むしろリハをとりあえず開始してよいと私は思う。その上でどんなリハをするかは、評価した上で変えていくという形にすればよい。
次にきれい事かもしれないが、1日平均2単位にこだわらないリハを提供してほしい。そうはいっても2単位以上と言われたら、2単位平均ぎりぎりに収めるのが現実かもしれない。1日平均2単位にこだわらないリハには二つあると思う。一つはポイント・オブ・ケアのやり方で2単位やって、それ以上はあまり単位数にこだわらない形で進めていく方法である。もう一つはこの人は1日2時間くらいリハをしないと、本気で家に帰すのは難しいと思ったら、6単位でも平気でやってしまう方法である。
全員にそんなことはやっていられないだろうから、評価した上でこの人は重点的にリハをする人と決めたら、その人に関しては集中的にリハ資源を投下する。そうでない人に関しては2単位にするというやり方はありだと思う。平均2単位こなせばいいよね、という感じのリハだったら勘弁だなと私は思う。
そしてリハ栄養評価で欠かせないのは、入院当日にサルコペニアがあるかないかを評価して、さらにサルコペニアがあった場合には原因を評価することである。
リハ栄養の考え方をおさらいすると、リハをしている高齢者、障害者の中には低栄養の人がいっぱいいる。中には残念ながら栄養管理がずさんな人もいる。
私が少し前にリハ科でみた高齢女性は、身長145センチ、体重19キロだった。肩と腕の真ん中の上腕の太さが11センチだった。みなさんの手首よりもかなり細い腕をしていた。栄養管理は禁食で、腕からの点滴が一日100キロカロリーのみだった。
このような人が地域包括ケア病棟に入院したら、みなさんならどうするか? リハだけするか? そんなことしていたって解決になるわけがない。これは極端な例だが、男性だと体重30キロくらいしかない人、女性だと20キロ台は当たり前。それもNSTではなくてリハ科に来る。そういった現状がある。
そういったところでリハだけ頑張ったって仕方がない。なぜなら低栄養で機能やADLが下がっていて、家に帰れないのだから。栄養療法をしっかり行って、その上でリハをしていくことが不可欠だ。しかしそれがなかなか臨床現場ではできてないし、低栄養や栄養管理がずさんな人が相変わらず多い。だからこそ「栄養ケアなくしてリハなし」「栄養はリハのバイタルサイン」というのを、ぜひ臨床現場で実践していただけるとありがたい。
次にサルコペニアの話をしたい。もともと加齢のみが原因で、筋肉量低下のみをサルコペニアと言っていた。加齢による筋肉量低下がサルコペニアだった。しかし今では違う。活動によるもの、つまり動かないこと、廃用によるものだ。とりあえず安静・禁食だとか、在宅であれば閉じこもりなどが含まれる。栄養によるもの、これは食事摂取量が足りない飢餓によるもの。栄養管理が悪いものも含まれる。そして疾患によるもの。この中に急性炎症による侵襲。慢性炎症、慢性臓器不全なら悪液質。そして筋ジストロフィーや筋炎などのいわゆる神経筋疾患が含まれる。
こういったすべての原因によって起こっているものが、現在ではサルコペニアである。そして筋肉量低下は必要条件だが、筋肉量低下にプラスして筋力か身体機能が落ちて、初めてサルコペニアと呼ぶようになった。なぜかというと筋肉量も大事だが、筋肉の質も大事だということが最近認識されてきたからだ。
サルコペニアがなぜ問題かというと、寝たきり、嚥下障害、呼吸障害の原因となるからである。呼吸筋のサルコペニアの極端な例は、人工呼吸器管理からの離脱困難である。こういった背景にサルコペニア、特に医原性サルコペニアがかなり関与していると考えている。
また障害になる前段階においても、サルコペニアは重要である。フレイルである。自分で歩くことはなんとかできるが、痩せていたり、体力が落ちていたり、疲れやすかったりする。介護認定で要支援か要介護1~2くらいの人たち。ADLは自立しているが、IADLに関しては生活支援が必要な人たちが増えてきている。
このフレイルの中核要因というのが、実はサルコペニアと低栄養なのである。つまりサルコペニア対策と栄養改善、この二つをすることで障害予防ができるだけでなく、フレイルから場合によってはより健康な状態に持って行くこともできる。障害予防という点でもサルコペニア対策、栄養改善は大切だと言える。
次に現場でどうやってサルコペニアを判断するかだが、まず握力、歩行速度で筋力と身体機能を評価することを、アジアのサルコペニアの論文では推奨している。握力は男性26kg未満、女性18kg未満。身体機能は歩行速度で秒速0.8メートル以下というのが基準となっている。歩けない人は歩行速度0なので、この時点で身体機能低下ありということになる。この握力と歩行速度が両方とも正常であれば、サルコペニアではない。そしてこのどちらかが異常だった場合に、筋肉量を評価する。
実際、病院の現場で楽に筋肉量を測定できるのは、ふくらはぎの一番太いところの太さ、下腿周囲長を測ることだと思う。これが男性34センチ、女性33センチ未満だったら筋肉量低下だと判断するということにしている。ふくらはぎ、握力、歩行速度を見て筋肉量低下があって、筋力、身体機能のどちらかが落ちていればサルコペニアとなる。
しかし実際には寝たきりに近い人、自分で歩けない人はもう身体機能低下があるので、あとはふくらはぎの太さだけ測って、この数字以下であればサルコペニアということになる。
サルコペニアの判断まではそんなに難しくはないと思う。難しいのはサルコペニアの原因が何かを考えることである。しかしここが一番大事なステップなのである。繰り返しになるが、サルコペニアの原因は加齢・活動・栄養・疾患の四つに分かれている。そしてサルコペニアの原因が何かによって、目の前のサルコペニアの人に筋肉量をつける筋トレをしていいのかいけないのか、栄養管理で体重・筋肉量を増やす攻めの栄養管理をしていいのかいけないのかが変わってくる。がりがりで歩けない人を、よくリハの現場で見る。歩けないから身体機能低下があって、筋肉量も当然足りない。こういう人は一瞬でサルコペニアであるとわかる。
おそらく地域包括ケア病棟においてもサルコペニアの人、5割くらいはいるのではないかと推測する。ではこのサルコペニアの人に筋トレをがんがんやれるだろうか? がんがんエネルギー・タンパク質を入れる攻めの栄養管理をするだろうか?
それはこの人のサルコペニアの原因が加齢・活動・栄養・疾患のどれかによる。それによってすべき時としてはいけない時が分かれる。だから原因がわからないまま、サルコペニアの人が来たからがんがんリハをしようとか、がんがん栄養を入れようというのは間違いなのである。
そしてこれは1人で考えるよりも2人以上、2職種以上で考えたほうがうまくいく。ということで今から時間を少々作るので、テーブル前後の方同士で話し合ってほしい。この写真を見て、この人のサルコペニアの原因が加齢・活動・栄養・疾患のどれであるかを、ちょっと話し合ってみてもらえるだろうか。
いかがだろうか。サルコペニアの原因がわかった方、手をあげてみていただけるだろうか。はい、みなさん正解。「サルコペニアの原因はわからない」というのが正解なので、今手をあげなかった方が正解である。手をあげた方は間違いだが、みなさん手をあげなかった。写真1枚でわかるわけがない。
この人がどんな病歴や背景で入院してきているのか、どんな状況なのか、どんな栄養管理がされているのか、そういったことは医療面接やカルテ、検査、診察で情報を集めて、そして多職種で話し合わなければわかるわけがないのである。
でも臨床現場では医師や看護師がこういう人を見ると、がんとか悪い病気があるんじゃないか、という疾患から考えがちだし、管理栄養士が見たら低栄養だから栄養改善しようと考える。リハのスタッフが見たら、廃用症候群だからリハを頑張ろうと考える。老年医学の専門家が見たら、これは加齢によるサルコペニア、老化だという。それではうまくいかない。
加齢・活動・栄養・疾患、この四つの要素のどれがあって、どれがないかをきちんと押さえて、その人に見合ったアプローチをしなければ、最高のパフォーマンスは引き出せない。みなさんのところでは、サルコペニアの原因を多職種で話し合っているだろうか。
サルコペニアの原因別の話を簡単にしたい。まず加齢によるサルコペニアは、日本人高齢者なら1~2割程度にあると言われている。加齢だけでサルコペニアになっているのであれば、1番の治療は筋トレ。2番目の治療は筋トレ直後30分以内に分岐鎖アミノ酸、BCAAを含んだ栄養剤や食品を摂取する。最近だとタンパク質強化の牛乳やヨーグルトもあるので、そういったものを使ってもいいし、リハ栄養用の栄養剤やゼリーなどを使ってもいい。
次は廃用によるサルコペニア。1日中寝ていてはいけないよ、ということである。昼寝はいいし、夜寝るのもいいが、1日中ベッドで寝ている、1日中禁食はまずい。この予防・治療は無駄な安静、無駄な禁食を防ぐこと。きちんと評価した上で、なおかつ禁食・安静にしなければいけないのだったら禁食・安静にすべきだが、評価もしないでとりあえず安静・禁食というのは問題外だと思う。これが病院の中でサルコペニアを作っているから、医原性サルコペニアと私は呼んでいる。医原性サルコペニアをいかに地域包括ケア病棟で作らないか。これが大事なポイントである。ただ地域包括ケア病棟では1日2単位以上のリハを行うことになっているから、まだいいかもしれない。
問題はむしろ栄養にあるのではないかと思う。資料の写真の女性、がりがりだが、こういう人がいたとしたらとりあえずリハを頑張ってもらうだろうか? 拒食症の女性だが、それでもリハだけでいいだろうか? 栄養管理がずさんな状態でリハだけ頑張ったら、この人はどうなるだろうか?もっと痩せるだろう。
だから、サルコペニアの場合、リハだけ頑張ればいいというわけではない。栄養も頑張らないといけないのである。今までは栄養のことを気にしないで動けない、筋肉が落ちている、だからどんどんリハしてくれと医者も言うし、それに従ってリハスタッフも一生懸命リハをするが、管理栄養士はリハを考えた栄養管理をしていなかった。こういったがりがりに痩せている人の栄養管理に関しては、従来の栄養管理ではうまくいかないと思う。
従来のNSTがやっている栄養管理は、基礎代謝、基礎エネルギー消費量をまず計算して、活動係数とストレス係数をかけて、エネルギー消費量を計算してそれを投与している。でも、リハでどんなことをしているか考えないで活動係数を決められていることがほとんどである。
しかも、今はエネルギー消費量の計算である。ガリガリの女性のエネルギー消費量が1200キロカロリーだった場合、それをそのまま投与していたのが従来のNSTのやり方だった。ではこのガリガリの女性に1200キロカロリーを毎日投与して、1カ月経過した。何が起こっているだろうか? がりがりのままである。消費量と摂取量が同じなのだから、体重や筋肉量が増えるわけがない。1カ月たってもがりがり、2カ月たってもがりがり。60日たっておしまい。それでいいのだろうか? 栄養によるサルコペニアは、これでは解決できない。
栄養によるサルコペニアに対する栄養管理は、エネルギー消費量に1日200~750キロカロリーくらいプラスして、体重や筋肉量を増やすための栄養強化療法を行う。これが攻めの栄養管理である。急性期で栄養状態が悪化して地域包括ケア病棟にきているから、それを地域包括ケア病棟で取り戻すことが必要である。
そうすると、エネルギー消費量分だけ投与していても不十分で、そこから攻めの栄養管理に転じていかないと、栄養によるサルコペニアの改善は難しい。サルコペニアを改善できれば、それが嚥下障害や寝たきりの改善にもつながる。
また栄養管理がずさんなときにがんがんリハをしても、筋肉量は落ちることはあっても絶対に増えない。だから筋肉量を増やす筋トレは禁忌である。維持的なリハしかやってはいけない。維持的なリハとはどんなものか。安静臥床は活動による廃用性筋萎縮を生じるので禁忌である。1日2、3メッツ程度のADLまでは行ってよい。具体的には階段の上り下り以外のADLに関しては、制限しなくてもいいのではないか、と私は仮説として考えている。
食事や着替え、トイレ、病室内、病棟内を歩く。これはよいかと思う。5~10分くらいは歩くのを続けてもいいと思う。しかし、自転車を1時間こぐことや筋トレ、階段の上り下りはやりすぎだと私は考える。その人の栄養管理に合わせたリハをしなければいけない。
次に疾患によるサルコペニアで侵襲と悪液質に関して、ごく簡単に話をしたい。侵襲というのは誤嚥性肺炎などの急性感染症や、骨折、手術、外傷などで急に代謝、炎症が亢進する病態のことである。ざっくりいうと異化期という炎症が強い時期。CRPで言えば5mg/dl以上が目安。5mg/dl以上の異化期とCRPが3mg/dl以下に下がってきた同化期。この二つにまず分ける。異化期というのは炎症が強くて、自分の体の筋肉をどんどん分解して病気と闘っている時期のことである。この時期は自分の体の中で筋肉を分解してエネルギーを作り出しているので、栄養状態が悪化する。この時期は栄養改善が難しいので、栄養維持、機能維持が目標となる。
一方で、CRPが3mg/dlを下回ってくると、同化期という体の中で筋肉や脂肪の合成を十分できる時期になる。ここまで来たら栄養改善、つまりエネルギー蓄積量を加味した攻めの栄養改善もできるし、リハも積極的にやっていく。異化期に関しては控えめな栄養管理を行う。体の中で自分の筋肉や脂肪を壊してエネルギーをたくさん作っているので、外から経口摂取、経管栄養、静脈栄養でたくさんエネルギーを入れてしまうと、栄養ストレスになって脂肪は増えるけども筋肉の質と量はかえって落ちる。だから異化期のときは控えめに、体重1キロあたり15~30キロカロリーくらいで栄養管理する。同化期になったらギアチェンジして、攻めのリハ栄養管理を行う。異化期の時のリハは、飢餓の時と同じように考えてよい。
次に悪液質。従来、悪液質というのはがんの終末期というイメージだったが、最近はなるべく早い段階に診断しようとなってきている。がんが一番多いが、高齢者だと慢性の心不全、呼吸不全、肝不全、腎不全などの慢性臓器不全などを合併症として持っている人も少なからずいるし、関節リウマチや膠原病の人もいるかもしれない。慢性の感染症で3カ月以上、炎症が遷延している人もいるかもしれない。
こういった疾患を持っている人が、低栄養やサルコペニアだった場合には、悪液質かもしれないと疑う。診断基準として一番メジャーなものを紹介する。悪液質の原因疾患があって、1年で5%以上体重が落ちている、もしくはBMIが20未満という痩せ形の人。ここまでが必要条件である。次に筋肉が落ちている、疲れやすい、食欲がない、筋肉量が落ちている、検査値異常。このうち三つ以上に該当したら、悪液質と判断する。
でも、これを覚えるのは面倒くさいと思う。私も覚えられない。なので、6カ月で5%以上の体重減少のある人、そしてCRPが0.5mg/dl以上の人。この二つに引っかかった人は悪液質疑いと判断している。
悪液質では慢性炎症が持続するので、CRPが0.5mg/dlを超えていたら異常なのである。0.3mg/dlくらいでもボーダーラインだと考えておく。CRPが陽性の慢性心不全やがんの人はたくさんいる。そういった慢性炎症がベースにある人は、飢餓と違って攻めの栄養管理だけをしても十分な栄養改善が得られない。悪液質の人には高タンパク質にしたり、魚の脂、青魚やマグロなどに多いEPA(エイコサペンタエン酸)を使用したりする。EPAは多価不飽和脂肪酸で炎症を抑える脂肪酸だと言われている。
EPA製剤としてエパデールなどの薬もあるので、そういったものを使うことで炎症を抑えようという栄養管理を行う。また炎症があると食欲が落ちることが多い。そのため、食欲が落ちている人に関しては、漢方の六君子湯というのを使って食欲を促すようにする。
そして炎症を抑えるという意味では、実は運動が大事なのである。ここでの抗炎症作用というのは、CRPが1~3mg/dl以下くらいの人。それくらいの弱い慢性炎症がある人に対しては、運動をするとよい。運動は筋トレでも有酸素でもよい。運動をすることで炎症が良くなる可能性がある。炎症が良くなると筋肉の分解が減り、食欲も出てくるので、栄養改善もしやすくなる。
つまり、飢餓と悪液質で比べると、飢餓の人ははじめに栄養管理。特に攻めの栄養管理ありきになるが、悪液質の人で終末期ではない人は、私はまずリハ、運動ありきで考える。それで食欲が出てきたら、栄養改善もしやすくなるというスタンスで考えている。そのため、低栄養、サルコペニアの原因が何かによって、リハと運動、栄養のアプローチが変わってくる。
ここまでをまとめると、サルコペニア対策は原因によって違うので、リハ栄養の考え方が有用である。加齢が原因であれば、筋トレが一番で分岐鎖アミノ酸が二番。活動が原因であれば、無駄な安静・無駄な禁食を避けることが一番。早期離床、早期経口摂取を入院当日から徹底的に行う。栄養に関しては適切な栄養管理を入院当日から行う。攻めの栄養管理も必要である。疾患に関しては、当然、原疾患の治療が一番だが、栄養と運動も行っていく。そして地域包括ケア病棟に入院してくるサルコペニアの人は、加齢・活動・栄養・疾患、すべての要素を持っている人が多いと推測する。
この中で対策がしやすいのが、活動と栄養によるサルコペニアである。加齢に関してはアンチエイジングといってもそう簡単ではない。疾患に関しては原疾患の治療を当然している。活動と栄養に関しては、これは予防も改善も比較的容易である。予防は今言った通り、入院当日からきちんとリハをする、経口摂取をする、栄養管理をする。改善に関しては攻めの栄養管理を行う。つまりCRPが3mg/dl以下になってから、炎症が落ち着いてから、攻めの栄養管理と積極的なリハをしていく。そうすることで改善できる。
この活動と栄養によるサルコペニアが、医原性サルコペニア。つまり急性期病院でサルコペニアが作られてしまう、寝たきり、嚥下障害が作られてしまう大元であるが、逆にここはアプローチで改善しやすい領域でもある。ここをいかに評価して改善していくか、これが地域包括ケア病棟の重要な役割だと考えている。
残りの時間でサルコペニアの嚥下障害について話をしたい。嚥下障害というと、脳卒中による偽牲球麻痺が一番多い。2番目はサルコペニアだと私は思う。3番目が認知症だと考える。
つまり摂食嚥下障害では、脳卒中・認知症・サルコペニア、この三つをいかに評価、対応していくかが重要だと私は考えている。寝たきり対策としても脳卒中・認知症・サルコペニア、この三つへの対策が重要だと私は思っている。サルコペニアの嚥下障害は全身だけでなくて、嚥下関連筋、飲み込む筋肉にも筋肉量低下、筋力低下が起こっていることで嚥下障害になっているものを指している。
嚥下障害の前に老嚥の話を少ししたい。みなさんはおそらく嚥下障害ではないと思う。3食普通に食べられていると思うが、では今から自分が20歳だった頃の食事のことを思い出してみてほしい。20歳の時と今と、どちらがむせやすいか?今のほうがむせやすい人が多いと思う。少なくとも私は40歳を過ぎてからむせやすくなった。食べた後に咽喉に残留している感じが増えた。最初、筋萎縮性側索硬化症になったのかもと思ったが、老嚥だった。医療者というのは体調が悪いとすぐ深刻な病気を考えがちである。
そこで嚥下筋の筋トレをしたら、私はけっこう良くなった。3食普通に食べてはいるけれど、嚥下機能がだんだん落ちてきている。嚥下障害ではないが、予備力が少なくなってきている一つの要因が嚥下関連筋のサルコペニアなのである。
ちなみに、私がどうやって老嚥対策をしたかというと、嚥下おでこ体操に近いものをやった。嚥下おでこ体操というのは、手のひらをおでこに当てて、おへその方をのぞき込むように、少し下を向くくらいの段階で止めて、手のひらとおでこで力比べをする。おでこは下を向くように、手のひらはそれを押し上げるように、それを呼吸しながら10秒くらい力を入れる。
その間、反対側の手でのど仏の上のあたりを触ってみてほしい。かなり力が入っているのがわかると思う。そこが飲み込むのに重要な筋肉である。嚥下筋の筋トレで、私は嚥下機能がよくなった。もし老嚥の心当たりがあって、むせるのがつらいという人は、自主トレでやっていただくと良くなるかもしれない。
あと口腔、歯も大事である。口腔が悪くて嚥下ができない人はけっこういるので、歯科チェックも大事だ。試しに少し口を開けてみて、舌を上あごにつけないでつばを飲み込んでいただけるだろうか。難しいと思う。私は鍛えたのでできるが、そう簡単にはできないはずである。つまり嚥下が悪いというと咽喉を見がちだが、口が閉じてないとか、舌が上あごについてないとか、口腔が嚥下に大きな影響を与えているのである。これを歯科的なアプローチで改善していくのも重要になる。
次に誤嚥性肺炎になると、嚥下障害や寝たきりが進みやすくなるということを図で説明したい。もともと老嚥の人、加齢によるサルコペニアがあるけれど、3食普通に食べていて、ADLも自立している高齢者がいたとする。ただし低栄養で加齢によるサルコペニアがあって、フレイルの状態である。ADLは自立しているが、IADLは買い物とか生活支援が必要な人がいたとする。
もちろん、それより悪い人でも構わないし、病気で嚥下機能が落ちている人でサルコペニアの人でも構わない。そういった人が誤嚥性肺炎で急性期病院に入院すると、サルコペニアが一気に進行する。なぜ進行するかというと、廃用・飢餓・侵襲によるトリプルパンチが加わるからである。
まず廃用。誤嚥性肺炎の多くはいまだに「とりあえず安静・禁食」で加療される。とりあえず安静にすれば全身のサルコペニア、とりあえず禁食にすれば嚥下筋のサルコペニアが進む。
次に飢餓。誤嚥性肺炎では、「とりあえず禁食」にして腕からの点滴のことが多い。腕からの点滴でいいのだが、アミノ酸も脂肪も使わずに1日300キロカロリーくらいの点滴で1~2週間やってしまうことが今でもよくある。痩せて当然だ。もしみなさんも痩せたければ、2週間ポカリスエットだけで過ごしてみてほしい。必ず痩せるから。今の病院の栄養管理というのは、そういうことを入院患者に強いているのである。
そして侵襲。誤嚥性肺炎は急性炎症であり、炎症が高度の場合には、人の体は1日に1キロ筋肉が分解される。1週間で7キロ。つまり誤嚥性肺炎になると、廃用と飢餓と侵襲のトリプルパンチが加わることで、急速に筋肉量、筋力が落ちる。われわれのように予備力のある人が同じ目に遭っても、予備力が減るだけでまたすぐに歩いて、食べることができる。
だが、もともと加齢によるサルコペニアや低栄養、フレイルがある人の場合には、今まで普通に食べていた、普通に生活していた、歩いていたといっても、予備力が少ないので、寝たきり、嚥下障害になってしまう。しかも重度の嚥下障害で全然食べられなくなる人が多い。これがサルコペニアの嚥下障害のメカニズムである。
このうち、廃用と飢餓によるサルコペニアは医原性サルコペニアである。医師と看護師が中心になって、急性期病院でせっせと作っているサルコペニアである。だから急性期病院はサルコペニア製造工場だといえる。
そしてサルコペニアの嚥下障害の人が、ポストアキュートということで地域包括ケア病棟に来たとする。何をすべきか。嚥下リハはもちろんする。だが嚥下リハだけでこの人たちが良くなることは、残念ながら少ない。
なぜかというと、サルコペニアの嚥下障害の原因は、廃用と飢餓と侵襲だからである。廃用に関してはリハが効く。全身のリハ、嚥下リハを行う。しかし飢餓と侵襲は低栄養が原因で、結果が嚥下障害や寝たきりである。低栄養が原因だということがポイントである。リハでは低栄養は治せない。これは攻めの栄養管理、エネルギー蓄積量を加味した体重筋肉量を増やす攻めの栄養管理でしか解決できないのだ。栄養改善するためにはエネルギー蓄積量が必要である。
それにも関わらず、従来の急性期病院というのは重度の嚥下障害だから経管栄養をしましょうといって、1日900キロカロリーとか1200キロカロリーの、おざなりな、栄養状態が良くならない栄養管理のままで地域包括ケア病棟などに転院させる。そのおざなりな栄養管理を地域包括ケア病棟でも続けたら、この人たちは寝たきりと嚥下障害が一生続くのである。低栄養が寝たきり、嚥下障害の原因なのだから、栄養改善しなければ十分に良くなるわけがない。リハだけでは解決できないのだ。
リハは必要だが、攻めの栄養管理のもとでリハを行うと、サルコペニアの嚥下障害は良くなって、寝たきりからも離脱ができる可能性が高まる。リハは大事だが、低栄養や栄養管理がずさんな人、サルコペニアで低栄養の人に関しては、残念ながらリハの効果はかなり限られてしまうのだ。ぜひ攻めの栄養管理という武器を使ってもらえるとうれしい。
廃用性の嚥下障害や、誤嚥性肺炎後の嚥下障害、そして大腿骨頚部骨折の術後は3人に1人は嚥下障害になる。この人たちの多くは、サルコペニアの嚥下障害だと考えていいと思う。そしてありがちなのが、大腿骨頚部骨折の術後に普通に常食を出して誤嚥性肺炎になってしまって、廃用・飢餓・侵襲が進んで、重度の嚥下障害になってしまうパターンである。
今のところサルコペニアの嚥下障害の明確な診断基準はないが、嚥下障害があって全身にサルコペニアがあって、なぜこの人の嚥下障害がこんなに重いのかはっきりしない。脳卒中による麻痺がそんなにあるわけでもないのに、認知症もそんなにひどいわけでもないのに、食べられない、という場合には、ぜひサルコペニアの嚥下障害の可能性を疑ってほしい。可能性があれば、やるべきことは攻めの栄養管理とリハの二つしかない。リハだけでは片手落ちになる。
そして誤嚥性肺炎というのは「とりあえず禁食」にすると、嚥下機能が落ちるだけでなく、肺炎の治りも悪いというエビデンスが最近出ている。「とりあえず禁食」にした場合と、入院後2日以内に経口摂取した場合と比べると、入院後2日以内に経口摂取を開始すると8日でよくなる。「とりあえず禁食」にした群は13日かかっている。この5日の差は大きい。この間にサルコペニアがまた医原性に進行してしまう。嚥下機能は当然、「とりあえず禁食」にした群のほうが1、2段階落ちている割合が多い。
従って、肺炎で直接、サブアキュートで地域包括ケア病棟に入院してきた場合には、「とりあえず禁食」ではなく、入院当日にきちんと嚥下機能を評価する。離床できるかできないかもきちんと評価して、早期経口摂取や早期離床をできるのであれば入院当日から離床もするし、経口摂取もするし、とやっていくと、肺炎が治るのも早くなる。早期退院にもつながる。
最後にもう1回、メッセージを出したい。サブアキュートに関しては、高度急性期病院は今、あきらかにサルコペニア製造工場である。医原性のサルコペニアをがんがん作って、疾患の治療だけして、それですぐ退院させてしまうということをしている。地域包括ケア病棟はそれでは困る。疾患の治療もしながら、生活を支える視点をもっていかに支えられるか。それは医原性サルコペニアを予防することに決まっている。そのためのリハはたぶんそれなりにやっていると思う。
ただし、一部の人にはもっとリハをしたほうがいいと思うし、ポイント・オブ・ケアももっとしたほうがいいと思う。そして地域包括ケア病棟には、低栄養やサルコペニアの人が半分くらいいると思う。そういう人に関しては、侵襲の異化期でなければ攻めの栄養管理をすることが必要である。攻めの栄養管理をすることで、栄養改善しながらリハをしていけば、この人は一生食べられない、一生寝たきりだと思った人が、3食常食を食べられたり、歩けたりもする。5kg、7kgと体重や筋肉量が増えていくと、劇的によくなることがある。
2カ月でそこまでは難しいかもしれないが、できるだけ上げておいて、そこから先は在宅にバトンタッチして、それを在宅でも継続することでさらに上げられるような形に持って行くことは、私は十分可能だと思う。ぜひ地域包括ケア病棟をサルコペニア製造工場にしないで、むしろサルコペニアに対して攻めの栄養管理とリハ栄養で改善する病棟にしていただけると、「ときどき入院・ほぼ在宅」というモットーを実現できる病棟になると考えている。
以上で私の話をおしまいにしたいと思う。ご静聴ありがとうございました。
〇座長
わかりやすくありがとうございました。私が理解した範囲で、私どもが明日からしなければいけないこととしては、入院した患者さんのまず栄養評価。栄養ゴール設定。嚥下スクリーニングのチェック。「とりあえず禁食」「とりあえず安静」はしない。ICFを評価する。サルコペニアを評価する。
こういったところでみなさん、活動、運動だけではサルコペニアも廃用症候群もよくならない。栄養が重要であるというご説明をいただいた。本当にありがとうございました。
(了)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――