地域包括ケア病棟協会

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【特別講演】第8回研究大会

 

    【特別講演】

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    「新型コロナは日本の病院医療に何をもたらしたか」

    【座長】
    田中 志子(第8回地域包括ケア病棟研究大会 大会長/医療法人大誠会 内田病院 理事長)

    【講師】
    太田 圭洋(社会医療法人名古屋記念財団 名古屋記念病院 理事長)

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    ○田中志子

     特別講演を始めたいと思います。

     慣例に従いまして、講師の太田圭洋先生を御紹介いたします。

     太田先生は、1994年名古屋大学医学部を御卒業後、1999年アストン大学経営学大学院を卒業されました。

     職歴としましては、1994年小牧市民病院で研修医を務められ、2000年新生会第一病院に勤務されました。2006年からは、現社会医療法人名古屋記念財団の前身であります医療法人名古屋記念財団の理事長に御着任されました。2015年一般社団法人日本医療法人協会副会長になられ、現在に至ります。また、2021年公益社団法人日本透析医会副会長をお務めです。

     また、委員としまして、今回御講演をお願いしましたエビデンスでもございますけれども、内閣官房新型インフルエンザ等対策有識者会議構成員、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード構成員、また、日本病院団体協議会診療報酬実務者委員会の委員長も兼任されています。

     太田先生におかれましては、コロナウイルスの感染を御自身で経験されながら、アドバイザリーボードの中で様々な知見を積まれて、日本では新型コロナウイルスに一番対抗できる先生ではないかと思いまして、今回の御講演をお願いした次第です。

     それでは、太田先生、よろしくお願いいたします。

     

    ○太田圭洋

     御紹介どうもありがとうございました。 名古屋記念の太田でございます。

     今回、新型コロナは日本の病院医療に何をもたらしたか、非常に難しいお題をいただいたんですが、新型コロナにはこの2年間かなりどっぷりつかってきたと思っておりますので、経験した人間から見て、どんなことが実際に日本の病院医療に影響を及ぼしたんだろうかというのを少しお話しさせていただければと思います。

     自己紹介の一番下を見ていただくとわかるんですけれども、私、病院団体では診療報酬を中心に活動させていただいている人間であります。いわゆる病院全体の診療報酬改定なんかもいろいろと関わらせていただいて、改定要望書を厚労省へ持っていかせていただいたりとかというのをやっていたところが、ひょんなことで、2020年7月から新型コロナウイルス感染症対策分科会、尾身先生が座長をやっている分科会の構成員にならせていただいて。あと、今週もおとといございましたけれども、厚労省のアドバイザリーボードにも出させていただいているということになります。

     写真を持ってきたんですけれども、左上が2020年3月です。2020年2月の半ば過ぎに、その当時、帰国者・接触者外来と言っていましたけれども、屋形船から始まって、ダイヤモンド・プリンセス号や何かがあって、市中感染が出始めたときに、とにかくPCRを採れと行政に言われました。また名古屋記念病院は3月1日から入院患者を受けることになってしまいました。

     ということで、かなり早い段階から臨床面でコロナに関わらざるを得なくなっています。新型インフルエンザのときに、HEPAフィルターか何かを1個買ってもらって、協力医療機関にさせられていたので、名古屋市から言われて断れずに、やらなきゃいけなくなった。

     その当時は僕が採っていたわけじゃないですけれども、タイベックスーツ、いわゆる宇宙服みたいなものでうちの副院長先生と副看護部長が体を張りながら、その当時は気管の中まで吸引チューブを入れて、げほげほさせながらPCR検体を採るみたいなことをやっていました。とにかく雨がっぱがどうだ、PPEがなくなるといって、ごみ袋をぺたぺた張りつけて防御着をつくったりというのも実際していました。

     何でこれを着たかというと、その当時、僕が病院でコロナのPCRを採っていたわけじゃないですが、4月になって宿泊療養施設というのができ始めました。その当時、宿泊療養施設に放り込まれると、2回PCRの陰性を確認しないとリリースできないというので、病院協会からPCRを採る部隊に人を出せというのが病院に回ってきて。ほかの先生方に行ってくださいと言えないものですから、2020年のゴールデンウイークは1週間、僕自身が缶詰めになりましてPCRを採りまくっていたという状況です。

     これ、ひどいんです。ビニールのエプロンで大中小もなく、私のようなデブが着るとすぐ破れるとんでもないものを着ながらコロナのPCRを採っていた。

     右にいろいろと写真が載っていますけれども、2020年3月ぐらいからうちの病院も、入院患者さんの数も外来患者さんの数も減り始めて、平気で10%とか下がっていたんです。4月に入ると20%ぐらい下がりましたですかね。正直、潰れるなと思いました。半年間の損益の予想、固定費は変えずに変動費だけ変えて、入院患者さんが10%20%下がったら、100億円ぐらいの病院ですけれども、半期で6億円ぐらい赤が出るんです。

     これは絶対にあかんなということで、その後、ゴールデンウイークぐらいに様々病院団体でデータを集めさせていただいて、日本の病院はとにかく大変なことになっているんだということで、日本病院会、全日本病院協会と一緒に記者会見もさせていただいてテレビで訴えさせていただいた。最終的に二次補正予算で、今に続く病床確保料、休止病床の部分も含むというスキームができて、何とか全国の医療機関はコロナと闘っていける形になっていきました。当時、病院団体の上層部の先生方、医系議員の先生方は本当に飛び回りまして、政治家回りをしながら制度をつくってきました。

     ひょんなことでNHKの「日曜討論」にも出させていただいて、記念の写真を1枚持ってきました。

     ということで、コロナに関しては、病院団体としても、また自分の病院でもやっているという形になっています。

     その後、その年の冬から自分自身もコロナ患者を診なきゃしようがなくなりまして、レッドゾーンに入って患者さんを診ることも始まりました。

     分科会のメンバーとして、多くの時間をコロナ関係に使ってきております。「何やっとるねんと」いう話は結構あるんですけれども、左側は、通称尾身ペーパーと言われまして、オリンピックの直前に、無観客でやらないとあかんやないですかみたいな提言書を出して結構どたばたになったり。直近は、第7波に向けた緊急提言とか出しています。これらの資料を、分科会ではない裏で山のような時間ディスカッションして資料をつくって提示しているわけで、決して働いていないわけじゃなくて。あんまり役に立っていないように見えるかもしれないけれども、裏ではいろいろと活動していたということなります。

     今日のお話ですが、新型コロナパンデミックは日本の病院医療に何をもたらしたか。

     今までのところ、日本のコロナ対策は、諸外国と比較すると非常にいい成績でこられたと思います。ただ、それが一般の国民の方々にはあまり伝わっていない。その中で、今、医療提供体制の見直しの議論が加速して進みつつあるという状況になっています。

     先ほど鈴木先生の話がありましたけれども、もともと、人口動態が変わっていますので、日本の医療制度、医療機関の体制というのは見直していかなければいけないというのは地域医療構想なんかもそうですが当たり前の話です。しかし、その流れがコロナにより加速するし、より強制力を持って進む形になりつつあるのかなと思っています

     後段は後で述べさせていただきますが、今日はこういう話をさせていただきます。

     これはコロナ分科会の写真を持ってきています。ここに尾身先生がいて、この当時は加藤勝信さんが厚労大臣で、こっち側に西村経済再生担当大臣。コロナ担当の大臣で2人の先生方。こちら側に厚生労働関係が、副大臣、政務官、医務技監、局長が並ぶんです。反対側は内閣官房側の偉い人が並んでいます。

     厚生労働省の会議や審議会に何回か出させていただいているんですけれども、その議題を担当する部局の局長さんが出てくれれば結構立派な会議で、大体は担当課長さんなんかが仕切っています。この分科会は2時間3時間平気でやるんですけれども、お忙しい国務大臣が2人も最初から最後までずーっとおるような感じで、かなり格式の高い会議に参加させていただくことになったんやなと思って緊張したりしました。テレビでも結構映ったりことがある会議体です。当初の頃はだいぶ期待されていたんですけれども、ネットとかSNSを見ていると、何の役にも立っていないと書き込まれるようになってきて、ちょっと悲しい思いをしております。

     我が国のコロナ関連会議の変遷を、説明のためにちょっとまとめさせていただきます。

     一番最初、厚生労働省内にアドバイザリーボードというのができました。2020年2月7日と2月10日に専門家が集まって、厚労省内の対策本部がスタートしていったんですけれども、2回開いたらすぐ、内閣設置の新型コロナウイルス感染症対策本部の下に改組されて専門家会議に名前が変わって、第1波の対応を専門家として助言していく組織に変わっていっています。

     第1波のとき、緊急事態宣言が出ました。町から人がいなくなった。そのときに、この状態ではやばいです、80万人になりますみたいな話を、疫学含めていろんな専門家の先生方がおっしゃって、安倍内閣を動かしそういう状況に持っていって、第1波、諸外国は大変な思いをしましたけれども、日本はそれで乗り越えた形になっています。

     ただ、このときに、何で経済に大打撃を与えるようなものをわけのわらかない医療の専門家が決めてるねんという批判がいろいろと出ましたし、議事録がないという批判も国会でされたりして、結局7月3日にこの専門家会議は廃止されて、新たに先ほど言った分科会ができた。この当時の専門家会議にいらっしゃった先生方の3分の1ぐらいが分科会に移行して、あとは経済が専門の先生とか、自治体行政の方とか、保健所の人とか、マスコミとか、各層の人が入った分科会が構成されて、今に至っています。実際、専門家会議を首になっちゃった先生方もいますので、元に戻して、厚生労働大臣の助言組織としてアドバイザリーボードという形で毎週やられています。私は2020年の7月からこの両方に入らせていただいて、日本のコロナ対応をいろいろと見させていただいてきた形になっています。

     アドバイザリーボードは、2年で91回だったですかね。1年は40何週しかありませんで、ほぼウイークリーでずっと会議をやっている形になっています。

     何もやっとらんやないかと言うんですけれども、実を言うと、数えてみると、むちゃくちゃいろんな提言というのを専門の先生方が裏でいろいろとディスカッションをして、文書をつくって出しているんです。

     これは、アドバイザリーボードで過去、専門家としてどのような形の提言を出してきたかを一通りまとめています。

     分科会も、役に立っていないみたいな話があるんですけれども、様々な政策課題がディスカッションされるときには、それに対する意見とかいうのを事前に様々議論して出して、今に至るという形になっています。数えてみると結構たくさんあるんやなと思います。

     日本のコロナの成績を見るのに、諸外国比較ということでアドバイザリーボードに出てきている資料を持ってきています。

     左上がJapanです。オーストラリア、イタリア、フランス、ジャーマニーということで、全ての国が3個ずつありまして、全て人口で補正しています。人口10万当たりだか100万当たりに対して、青が感染者数、赤が死者数、黄色が入院者数です。

     これは第6波まで入れていますけれども、諸外国と比べて日本は感染の規模を明らかに小さく抑えたということが、青の面積の積分を見ていただければわかると思うんですけれども、特筆すべきは赤の死者数です。高齢者の死亡率が高い疾患で、さらに言うと高齢者人口の比率が世界で一番高い日本でこれだけに抑えてきたというのは、世界に誇っていいことだろうと思います。

     実際、イギリスは、日本と比べてこれだけ死んでいるんです。カナダ、アメリカと比べてどうだこうだと言わるのは心外なところはあるんですけれども、現実にそういう状況です。

     ただ、1個だけお話ししておいたほうがいいのは、例えば韓国もすごく上手に対応してきたけれども、第6波のときにとんでもない感染拡大を起こして、最後、今までの貯金を全部吐き出すような形で死者数が出ました。香港もそうです。台湾も人口当たりでの死者数を結構出しています。

     今我々が向かいつつある第7波というのはかなりの感染規模まで拡大していきますので、日本の死亡に対する成績は変わってくる可能性がありますけれども、今までのところは結構いい成績で乗り越えてきたということが言えるかと思います。

     実際、今年の5月から6月にかけて、日本のコロナ対応を有識者が検討するという会議が開かれました。そこで出された、人口10万当たりの死者数がOECD各国の中で下から2番目という資料です。諸外国と比べると、感染者数もそうですし、死者数も非常に小さく抑えられていることが示されております。

     入院できなかったじゃないかという意見とかいろいろと出るんですが、これは、上がアルファ株のとき、下がデルタ株のときの感染ピークを挟んでの2週間に感染者のうちどれぐらい入院者がいたかという比率を出しているものです。

     先進諸国と比べると、明らかに手厚く患者を入院させながら日本の医療は対応してきたということが言えます。日本の医療は決してサボっておったわけではないということは強く言いたいと思います。

     なので、今年の6月15日に出された、今までのコロナ対応を検証してきた有識者会議の「新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について」も、一番最初の文章で、国際的に見ると我が国の超過死亡数はかなり低い、医療関係者の尽力と国民各層の協力がみたいなことを書かざるを得ない状況になりました。

     後で述べますけれども、この検証は、医療がコロナに対応できなかったからこういう形で改革をしていかなきゃいけないじゃないかというのをまとめるためにという意味合いもあって行われました。結構批判的な社会学者の先生が入ったりとか、いろいろあったんですけれども、やっぱりまとめとしては、客観的に数字を見るとこういうことになる。

     その資料の中に入っているものですけれども、超過死亡で見ると、日本は2年間でマイナスだった。そういうデータも委員会で示されています。

     ここからです。

     ただし、コロナ対応を経て、マスコミを含めて医療に対しては非常に厳しい論調になっていると思います。先生方もテレビでいろいろと見られたと思いますけれども、民間病院バッシングというものがございました。民間病院がサボっておるから、俺らはこれだけ重点措置や何かを食らって大変だという意見もいろいろとありました。ちょうど2020年末ぐらい、第3波の頃から出てきたと思います。

     あと、日本医師会・開業医悪者論みたいなものもありました。その当時の前会長が女性と寿司を食いにいったみたいな話なんかも週刊誌でたたかれたりした。日本医師会の前会長の発言は、発言内容だけ見ると、決して間違ったことは何も言っていないです。ただ、言い方とか、言うタイミングとかで国民になかなかメッセージを伝えることができない中で、医療が頑張らないからあかんやないかみたいな議論がどんどん積み上げられていった。

     幽霊病床というのも2021年ぐらいから、特に財務省または日経を中心にキャンペーンを張られました。金だけもらって、コロナ患者を入れていない病床がたくさんあるやないかみたいな議論です。

     コロナ分科会も働いておらへん、アドバイザリーボードも何をやっておるかよくわからない、尾身先生、JCHOで金だけ稼いでおるやないかみたいなことも、あることないことがSNSなんかで拡散されました。

     個別に反論は、その都度その都度していたんですけれども、マスコミは取り上げてくれないんです。やっぱり国民が見ておもしろいと思わないようなネタは、悲しいかな、訂正記事すら書いてくれない。

     一番最初の民間病院バッシングで使われたのが、地域医療構想のときのワーキングで出された資料です。2020年秋の資料ですけれども、公立・公的・民間とこれだけの病院があるのに、コロナを診ておるのはこれだけ。同じぐらいの数は診ておるんだけれども、パーセントで見るとえらい少ないやないかという言い方です。

     これはどういう病院がリストアップされているかというと、地域医療構想で急性期の病棟を1個でも持っている病院の中で何ぼコロナを診とるねんという資料のつくられ方でした。そうは言ったって、民間は規模が小さくて、急性期の病棟が1病棟しかないようなケアミックスの病院はたくさんあって、この当時、病棟単位が基本でしたので、そこをコロナに転用しちゃったら病院機能が一気になくなってしまう病院が山のようにあるので、せめて2病棟急性期病棟があるところでリストをつくってくれないかとか、いろんな話もしました。

     また、第3波、第4波で、特に大都市部で医療崩壊に近いことになった。大都市ではICUを持っている民間病院が47%あるんですが、100万人以上の都市では、その当時で52%の民間病院がコロナを診ています。同じ資料に書いてありますので、決して民間が診ていないわけじゃなくて、診られるところは診ていたというのは、この資料からも明らかですけれども、それがなかなか伝わりませんでした。その当時、まだぶら下がり取材なんかもあって、いろんな資料を出して反論したんですけれども、非常に悲しい思いをしました。

     しばらくそれを放っておいたんですが、2021年10月15日に日本医療法人協会として、特に大都市部、大阪、東京、沖縄なんかで感染が爆発的に拡大したところで民間病院がどのぐらい活動しているのかという資料をつくりました。

     これは大阪の資料ですけれども、第3波になると、公立と民間で診ている患者さんの数というのは、中等症以下だと逆転して、大阪はその後は民間が主体で診ているという資料になっています。実際、実数がそういう形になっています。重症になるとさすがに公立病院の比率が多いですけれども、それでも民間も結構診ているというのが大阪の姿でした。

     沖縄、今も大変なことになっていますけれども、初期から大変です。これは第1波のときの沖縄で、どこの病院が何人コロナを受け入れたかです。赤丸がついているところは民間病院ですが、第1波のときから民間も診られるところは全部診ていたということを示させていただきました。

     数もそうです。これは2021年秋までですけれども、東京も、民間病院は数的にいうと2万人以上。ほかの類型と比べても決して遜色ないぐらい、民間病院が頑張っていたというのがあります。

     一番最初の地域医療構想のデータはいつまでのデータかというと、第2波までのデータです。2020年の夏です。我々、民間病院がコロナに対応できるようになっていったのは、第二次補正で病床確保の補助金ができて少しずつ病床確保を始めたときだから、第3波ぐらいからしか多くの民間病院はコロナの治療に参画できなかった。第2波までのデータでバッシングされて、それに反論ができなかったというのはいかがなものかと思います。

     何でこの資料を出したかというと、岸田内閣に替わった後、第6波対策で感染が拡大したとき、感染力が2倍3倍になったときみたいな骨格という資料が出た中で、民間病院の「民」の字は一つもなかったんです。全部、公立病院なんかは命令するどうのこうのという話で、明らかに政策を決定している方々にマスコミを通じての誤った情報しか伝わっていないところで政策が決定されていることに非常に大きな危惧を受けて、こういうキャンペーンを去年の秋口は張っています。

     この資料は、2021年11月コロナの分科会にも提出させていただいて、説明させていただきました。阿南先生を筆頭に、医療系の先生方、経済系の先生方でまとめた資料です。幽霊病床と言われたものに対して、医療として反省すべきものは反省すべきだけれども、日本の医療にはこういう理由もいろいろあるんだよというのをわかりやすくまとめて説明する資料をつくって、キャンペーンを張って説明したりもしましたが、国民の日本の医療に対する不信感というのはなかなか拭えなかったところがあります。

     我が国の医療の特徴。

     確かに軽症患者管理の比率が高いというのはあります。高齢化が一番進んでいる国ですので、それに対応できるような形で病床の機能を分化させてきたというところもございます。さはさりながら、コロナ病床も結構増やしてきたんだよという実績も、現実に第1波、第2波からお示しさせていただきましたし、コロナ病床を確保するのはすごく大変な話ですという話もお伝えさせていただいた。

     さらに全然伝わっていなかったのが、一般医療と両立をさせることの大変さです。

     先ほど諸外国の死者数の数字を見ていただきましたけれども、一般医療もかなり大きな制限をかけながら、多くの犠牲を出しながら、コロナに対応してきているというのが一切伝わらないまま、あれだけの患者数が出ても、レストランをやりながら何とかなっとるやないかみたいな話をマスコミは平気で言う。当然、マスコミは外国のデータを調べようと思ったら調べられるわけですけれども、決してそういうことは報道されない。コロナだけが医療じゃありませんので、地域の救急も守らなきゃいけないし、様々な患者さんに対して対応していかなきゃいけないというのも一応説明しました。

     特に、何で50%60%で病床に入らなくなるんだというのが非常に強い批判でした。これは非常に上品な言葉で、「一部自治体は患者ケアのキャパシティよりも病床をなるべく多く確保することを最大限優先せざるを得なかった」という、何が書いてあるかよくわからない文章になっちゃったんですが、多くの幽霊病床というのは公立公的医療機関で起きました。決して民間がずるして金をがめるためにやったわけじゃなくて。

     病床を確保していくときというのは、知事さん、首長さんが、我が県は何床確保するんだと計画を決めます。それで各病院に何とか頼みますわみたいな話になる。民間は、やれもしないことを言って、お金をもらってやらなかったらとんでもないことになるので、「それは無理ですわ。うち、人がいませんし、ほかの救急も取れなくなりますから」みたいな形でいけるんですけれども、公立病院とかはそうはいかない。「先生のところの規模だったら、これぐらい何とかお願いしますわ。後で何とでもなるようにしておきますから」みたいな形で、診られもしないものを、例えば40床50床出すことにされちゃったという病院が、病床確保の段階で山のように出たんです。患者ケアのキャパシティよりも病床をなるべく多く確保することを最大限優先せざるを得なかったというのは、そういうことです。

     現実にそういう病院が出たことは事実なので、私は、そういう病院はお金を返せばいいと正直思っていました。だって、やれないものを押しつけられて、お金だけもらっておくというのはずるだなとます。臨時の医療ステーションも、人のことを何も考えずに計画するから機能しなかったという話もお伝えさせていただきました。

     ただ、去年の秋以降になると、厚生労働省はともかく、財務省からの医療に対するバッシングは非常に強くなってきました。

     ここから何枚かは、財務省の審議会、財政制度分科会の資料を引っ張ってきていますけれども、医療提供体制等の強化のために16兆円。病院に16兆円来たわけじゃないですけれども、これぐらいお金を使ってきたのは事実です。緊急包括支援交付金、病床確保料として使われたのは、たしか6兆円ぐらい医療のへ金が回ってきています。病床確保のための緊急支援0.3兆円。1,500万円とか、450万円余分につけておきますわみたいなことを言われた第3波のときの緊急の病床確保予算というのもありますし、確かにお金をいろいろと使ってきたのは事実です。

     その結果、病院の経営がどうなったかというのを、財務省は昨年の医療経済実態調査の結果とか公立病院の企業の決算や何かで持ってきます。国立病院、ほとんどちょびちょびしかなかったのが、2020年度一気に大黒字になっとるやないか。JCHOもすごいやないか、公立病院もずーっと赤字だったのにこれだけ黒がついておるやないか。これは事実ではあります。ちょっとやり過ぎではなかったですかと。

     民間の医療法人の経営実態についても、医療経済実態調査、あるいはコロナ関連補助金を含めれば堅調であった。これは民間ですけれども、どんどんどんと来てここまで落ちたけれども、補助金を入れるとここぐらいまでにはなっているやないかという言い方です。

     どうしたいと財務省が言っているかというと、減収への対応に関しては、感染拡大など一定の合理的な時点と同水準の診療報酬を支払う。いわゆる概算払いという形で、今の病床確保料という形の医療機関の支援策を変えるべきじゃないかというのを財務省はちょっと前から言い始めています。しかも、それを1点単価を変えるような形でやったらどうだという話もされていますし、実際、受入れが伴わなかった病床がクローズアップされた。あんたらがクローズアップしたんやろというところもありますけれども、運用実態の確認結果が公表されるべきである。

     多額の公費が入っていますので、それはそうだと思います。実際こうでしたというのがあって、どうしてもそれはあかんと言うんだったら、返金するぐらいのことはやらないかんとは思います。特に国公立病院に関しては、先ほどの大黒字がありますので、どうしても適正な理由がなく断っている状況があるのであるならば、受け取った病床確保料の実績は公表されるべきですという言い方をしています。

     さらに、医療機関の経営実態が見えないので、見える化を進めるべきであるということで、今問題になっている医療法人の決算関係の届出書類をネット上で公表するということを財務省は早急に仕掛けてきていて、今、検討会で議論がされるようなステータスになっていっている。

     いろんなことに影響が出てきています。

     外来はこれから一番大きなトピックになっていくと思います。財務省の書き方は結構辛辣です。世界有数の外来受診回数の多さをもって我が国医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは肝心なときに十分に機能しなかったので、制度的な対応が不可欠という形で、財務省というのは、今回のコロナ禍をもとにいわゆるかかりつけ医の制度化というものを非常に強く主張してきていて、後で述べますけれども、結局それが骨太の方針とか様々な政府方針に盛り込まれて、具体的な政策課題として議論される状況まで来てしまっている状況になります。

     確かに、熱が出ても近くの開業院の先生は診てくれなかったというのは恨み節の中で非常に多いです。実際、診てもらえなかった開業医の先生もたくさんいるんですけれども、国の制度として診られなくしたというのもあります。当初は帰国者・接触者外来でしたし、今は診療・検査医療機関と呼びますけれども、それに限定しているという制度の中で我が国のコロナ対応を行っているということなので、これもちょっと言い過ぎなところはあります。

     これは、WAMから持ってきている病院の経営状況です。

     もともと一般病院、急性期でこれぐらいの利益率です。コロナ初年度は結局マイナス1.1まで落ちて、慢性期も結構大変です。精神もここまで下がって補助金を入れて。先ほど、財務省は2.2と言いましたけれども、1.9ぐらいまで上がったというのが我が国の2020年の病院の経営状況です。

     慢性期は今回かなり下がって、結構大変です。病床に対する支援策の今のスキームは、コロナを診たところにしか届かないスキームになっていますので、非常に儲かった病院もあれば、全然救ってもらえなかった病院も出たというのが、この2年間かなと思います。

     これは、先ほど言った医療経済実態調査のスライドを石井先生からもらってきました。

     医療経済実態調査をまとめただけですけれども、医業損益率は、医療法人は0.7。何とか頑張っているんですが、国立がマイナス8、公立マイナス21、公的マイナス3、社会保険JCHOマイナス5.7とかですけれども、もらった補助金がこれだけあって、これだけ違うんです。結局経常損益率になると、こちら側はこれだけよかった。

     税金を払わないでもいい病院さんがたくさんございますので、減価償却控除前の税引き後の損益というと、確かに公立公的はむっちゃよかったという状況になります。民間はそこそこという数字だろうなと思いますが、ばらつきが非常に大きいということだったかと思います。

     そういう様々な動きの中で、先ほど述べましたけれども、結局今年の骨太の方針には、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うという文言が明記されました。都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する。地域医療構想を推進するために何らかの法制上の措置をさらに追加で検討するということも明記されました。医療費適正化計画のあり方の見直しや、都道府県のガバナンス強化などの関連する医療保険制度の改革とあわせて着実に進めるんだというのが今年の骨太でまとまった文章です。

     我が国において毎年6月に閣議決定される骨太の方針、正式名称は経済財政運営の基本方針といいますが、ここに書かれていることの影響力は非常に大きいです。骨太にこう書いてありますので、いつまでにこれをやらないといけませんので、今日検討させていただきますという形で、様々な検討会の資料が出てくる。ここに書かれると、様々な省庁の官僚の方々にはやらないという選択肢はないんです。

     それは当然です。閣議決定というのは、全ての省庁の親分さんである大臣が全部、賛成のサインをしているんです。その政権の方針なわけです。財務省が勝手に言っていることを厚労省がやらないのはルール違反ではないです。別の省庁が勝手に言っているだけですけれども、自分のところの親分さんの厚労大臣までサインをしてしまっている文書に逆らうというのは、その下で働いている人間はなかなかできるものではないです。特に、上のほうの公務員の方々の人事というのは内閣人事局というところが全部握っていますので、ここで書かれたことは非常に大きな影響を及ぼしてくる。

     細かい、ビジーなスライドなので、見ていただく必要はありませんけれども、結構いろんなことがどさくさに紛れて、どちらかというと財務省系、規制改革関係を進めている方々の主張というのが今回の骨太にはたくさん書いてあるなという感じがします。

     リフィル処方箋の普及・定着のための仕組みの整備をやらされる。OTC関係も書いてありますし、見える化、電子開示システムも書いてありますし、オンライン診療の促進。いいことと悪いこともありますけれども、大体において、どちらかというと改革派の意見が全部入ってきた。

     先ほど言ったコロナの対応を検討しましょうという有識者会議は、こういう方々がやられています。社会学者の古市さんとか、テレビに出ていますけれども、医療に対してえらいきついことを発言しておった方々なんかをいろいろとまとめて、中長期の課題をあぶり出したレポートです。この検討会は4回5回で終わりました。

     医療提供体制に関しては、各地域で平時より、医療機能の分化、感染症危機時の役割分担の明確化を図る云々のための法的対応が必要。かかりつけ医療機関に関しても、感染症危機時の役割分担を明確にして云々かんぬんするよう、法的な対応を含めた仕組みづくりが必要。かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うということが、コロナを受けて、コロナの我が国の対応を検証して、これをやらなきゃねという報告書がまとまって、その2日後に、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部というところが「対応の方向性」というのを出しました。今後、これをコロナ対応でやっていきますという文書です。国会が閉じる前に、最後に出してきたものです。

     日本版CDCをつくりますとか言ってマスコミで騒がれたときに、医療提供体制に関しては何が書かれたかというと、あらかじめ医療機関との間で病床確保なんかの協定を締結する様々な仕組みを創設して、公立公的医療機関等に関しては、その協定を締結する義務を課します。また、協定に沿った履行を確保するための措置というものもいろいろと考えます。都道府県知事の勧告・指示、特定機能病院の承認取消し等も具体的に検討を行いますということで、行政に権限をかなり付与する形の改革を今後始めていきますというものにまとまってしまいました。

     ここまでで一旦のまとめですけれども、とにかく今までのところ、日本のコロナの対応は、我々頑張ったと思います。国民もそうですし、医療機関もかなり頑張ってきたと思いますが、マスコミ、SNSを通じて、医療提供体制への不満、不信が増加したことと、それをちょうどいい機会だということでいろいろと攻めてきた方々がいらっしゃって、医療提供体制見直しの議論が加速して、様々な方針が出てきた。

     まとめてみますと、財務省の医療制度改革への関与の増大、財務省主張の医療制度改革がより加速していく形になったのではないかと思っています。医療機関に対する行政の権限の拡大、かかりつけ医の制度化は大きいです。今後はどんな形でこれを落とすのかわかりませんけれども、下手すると、我が国はフリーアクセスがなくなっちゃうかもしれません。財務省は登録制まで言っていますので。

     登録制になったらどうなるんですかね。入院するには、登録医の先生が、あんたのところの病院にかかっていいよと紹介状を書いてくれないと、病院側は客が来ないということになりますわね。200床以下は、ひたすらかかりつけ医機能を発揮しながら患者さんを確保するみたいなことをやらないといけない形になりますし、どう変わっていくかわかりません。医療法人の経営状況の見える化も議論されています。

     また、お金の面でも、やっぱり今回コロナがかなり大きな影響を及ぼしたと思っています。診療報酬改定の話を少しします。

     これは今年の診療報酬改定の改定率です。毎年、改定前年の12月中旬ぐらいに厚生労働大臣と財務大臣が話し合って改定率を決めるんですが、そのときの文書です。改定率、診療報酬本体0.43%、薬価マイナス1.35なんちゃらとか書かれています。

     これは毎年出てくるんですけれども、今年が異例なのは、これだけの文書が書かれたということです。診療報酬改定をやっている人間からすると、これは異例です。リフィル処方箋でマイナス0.1%、看護の処遇改善でプラス0.2とかだけじゃなくて、医療機能の分化・強化、連携の推進に向けた、看護配置7対1の入院基本料を含む入院医療の評価の適正化という文言がそもそも大臣折衝文書に書いてあるんです。いろいろです。包括払いや何かの推進とか、OTCも書いてあるし、そんな感じです。

     ちょっと前、先ほどの鈴木先生が診療報酬改定をやった頃だったと思いますけれども、先ほど言ったように改定率が書いてあるだけです。時々書かれても、下のほうにちょろっと書かれるぐらいですが、さっき見ていただいたように今年の改定率の文書はこれだけ様々なことが書き込まれたというのがとにかく異例だった。

     何でこれが異例で、これが今後大変なことになっていくと私が思っているのかだけ説明させていただきます。

     診療報酬改定というものを、多くの先生方は意外をどういうものなのか正確に認識されていらっしゃらないです。

     このスライドは、診療報酬改定を説明するために厚生労働省がつくったスライドです。予算編成過程を通じて内閣が決定した改定率を所与の前提として、社保審の医療保険部会及び医療部会において策定された「基本方針」に基づき、中医協において具体的な診療報酬点数の設定等に係る審議を行い実施されるもの。まさにそのとおりですけれども、内閣、社保審、中医協があって、それぞれやる。ここに吹き出しがあるんですが、内閣が医療費総額を決定して、医療政策の方針決定を社保審がやって、医療費分配の決定を中医協がやっていますという説明です。

     これに違和感を感じられる先生はいないですかね。

     医療費総額の決定を内閣がやっている。そうなんです。日本の医療は総枠予算制でやっているんです。来年度、医療に幾らお金を使っていいかというのはもう決められているんです。その方針に従って、中医協というところで個別の点数を決めますが、それは分配をやっているだけです。だから、多くの医師会の先生方なんか、改定率の交渉でどうだこうだ、0.0何%上がった下がったみたいな形で言っているのは、来年度日本の医療で幾ら使っていいかを決めているので、非常にすごい闘いをやっているんです。来年使っていいお金がそこそこたくさんあれば、あそこの領域の病院が厳しいから点数をちょっと上げたろうかということができるでしょう。だけれども、来年使っていいお金があまりないところでそこを上げようという形になったら、どこかを下げるしかないです。下げられるところは、経営がよかろうが悪かろうが下がるんです。

     診療報酬改定は毎回毎回環境が違います。そのときのテーマもあります。ここは上げなきゃいけないというところがあるときに、改定のときにつける財源がなければ、どこかの領域を暴力的に点数を下げるしかないです。なぜなら、中医協というのは分配するだけの機能ですから。

     これが諮問書というものになります。

     これは今年、厚労大臣の後藤さんが1月14日に中医協の会長宛てに出したものです。諮問に対して答申という形で、点数を2月の上旬に出すんですが、この諮問書に何と書いてあるかというと、健康保険法、云々法、様々な法律に基づいて貴会の意見を求めます。お値段表を出してくださいねということです。なお、答申に当たっては、別紙1「診療報酬改定について」、別紙2「基本方針」に基づいて行っていただくよう求めますです。自由に議論するんじゃなくて、少なくとも資料1と資料2に基づいてやった答えを出してこいというのが、中医協での診療報酬改定のルールです。

     大臣との折衝文書というのは別紙1ですから、先ほどの文書にあれだけのことが書かれたので、あそこに書かれたことは絶対ということです。

     中医協の診療報酬改定のスケジュールを見ると、諮問、答申があって、4月1日スタートです。先ほど言ったように改定率は12月の中旬に決まるんですけれども、その前に医療経済実態調査、全国の医療機関の経営状況がどうかというデータは上がってきますので、一応建付け的にいうと、病院の経営状況を見て、来年使っていいお金の総額を決めて、最後分配してというプロセスにはなっているんですが、僕が見ているところ、ここで、病院の経営がどえらい厳しいから改定率が大きく変わったということはほとんどない。この10年なかったと思います。

     それよりも別のところで、来年の医療に幾ら使っていいか、いわゆる改定率というのも決まっていっている。何で決まっていっているかというと、やっぱり骨太の方針です。骨太の方針で、社会保障関係費でどういう文章が書かれているか。実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめる。これはここ最近ずっと文章が変わっていないですけれども、これが我が国の医療費を規定する一番大きな文章です

     高齢化が進むと、当然医療費はどんどん上がっていきます。高齢者人口が増えるとかいろいろあるんですけれども、医療費の自然増は高齢化の分だけじゃなくて、医療の高度化分というのがあります。ロボット、ダビンチだとか、高い薬が出てきたりとかあるんですが、それは財政的には見ないというのが我が国の方針です。だけれども、実際にダビンチを使ったり高額な薬剤を使っているのはどうしているのかというと、それは財政的には見ないけれども、医療の中で何とかやりくりして使えるようにしなさいというのがこの文章の意味です。その分、医療の中でどこかで財源をつくって、具体的に言うと、今だと薬価の引き下げによってつくられた財源を使っているということです。

     なので、この10年間、これも財政審の資料から持ってきていますけれども、毎年毎年、放っておくとこれだけ上がるという社会保障費を抑えてきている。

     ビジーなスライドで申し訳ないですけれども、2年に一回、診療報酬改定がある年は、診療報酬、いわゆる医療費で自然増の圧縮分、骨太に求められているものを行っています。今年、令和4年度というのは、放っておくと6,100億円増えると言われていたものを、高齢化による増加分というのは3,900億円だったので、これだけちゃんと抑えましたよというのを、財務省は約束したことはやりました。この辺をいじって、ちゃんと自然増を圧縮しておきましたというのを出している。

     何でこんなに厳しいかというと、先生方御存じのように、我が国の財政が非常に厳しいからです。社会保障費というのは一般会計歳出の3分の1になっています。実際、国債費と地方交付税を除いて、通常に政策経費で使えるものの半分が社会保障費です。

     これが毎年毎年、5,000億円6,000億円規模で増えています。防衛費とか公共事業費を削れば何とかなるやないかと言う先生もいるんですが、毎年5,000億円6,000億円増やすのに、防衛費5兆円、公共事業費6兆円ぐらいを削っていったら、5年でなくなるというぐらいの話なので、無理です。社会保障費を何とかしないことには我が国は予算も組めないというので、来年度社会保障費をどうするというのが決まって、医療費はどうする、幾らまで使えるというのが決まって、その結果を、中医協が来年使えるお金、改定率はこれだよというデータを見て点数を決めているということです。

     今年の診療報酬改定の一番大きなトピックは、やはり重症度、医療・看護必要度から心電図モニターがなくなったことだろうと思います。

     中医協総会で議論された翌日に、私と私の親分さんの医法協の加納会長との連名で要望書を厚労省へ持っていっています。この心電図モニター管理の削除は今回の改定ではやっぱり行ってはいけなくて、内科系の入院医療の新評価方法を検討し、導入する際に併せて行うべきである。そうじゃないと、内科系中心の病院に非常に大きな影響が出るんだという話は主張しましたが、結局通ることはありませんでした。

     何でか。ここに書いてあるからです。先ほどお見せした文書です。看護配置7対1の入院基本料を含む入院医療の評価の適正化をやるというのは、中医協でやる改定の大前提の文章です。大臣折衝の別紙1にこんなことが書かれちゃったら、パーセントを上げて厳しくするか、何か項目を変えて厳しくするか、とにかく厳しくするということはやらなきゃいけないということに、既に12月の半ばのときになっていたということで、止められないことになっているわけであります。

     今年の改定が終わって、財務省はそれをどういうふうに評価したかというと、財務省は昨年12月の建議では、「医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし」の考え方を示すと同時に、様々な提言を行いました。その結果、令和3年12月21日大臣合意において、医療提供体制改革に資する個別の改定項目の見直しの方向性が盛り込まれ、令和4年度診療報酬改定に一定程度反映させることができました。今後も具体的な提言を強化し、その反映に努めますと、財務省としては今年の改定を評価しています。

     ぶっちゃけて言うと、味をしめたと思います。禁じ手を使ったとも思いますし、ここに書き込むとあの人たちはやらざるを得ないのねという感覚に気づいちゃったんじゃないかと思います。

     毎年毎年改定のときに大臣折衝で改定率が決まるんです。0.01%余分につけてあげるけれども、この項目を入れておくね、どうするみたいな話に多分これからなるんでしょう。中医協の議論の形骸化と発言された中医協委員の先生がおられますけれども、まさにそういうことが今後起こっていく可能性があります。

     今年、その改定が終わった後、財務省の一松主計官が医療系のファクス新聞の質問に対して、一松さんとしての考え方というのを述べています。なるほどな、こういう考え方をするのかという形で感じ入ったところもありますけれども、考え方はまあ厳しいです。

     毎年5,000億円も増えるのを許容してあげているだけで、あんたら、すごい例外的に優遇されているんだよというのが財務省のそもそもの考え方ですし、さらに言うと、いまだに高確法、1点10円をいじるというものにかなり強いこだわりを持っていらっしゃいます。

     実際、今回0.43%ということになったんだけれども、彼らからすると0.03%だったという説明をしています。プラマイほぼゼロ改定だったという言い方をしていますし、医療政策や診療報酬、財政当局への提言は当然の責務ですというところまでなっています。

     次の改定は多分すごく厳しいはずです。同時改定です。当然、様々取り組まなければいけないところはあるんですけれども、今のこういうロジックが確立した中で次の改定を迎えるというのは、非常に危ない状況に置かれているなと私は思います。

     今お話ししてきたようなことで、財務省の医療制度改革への関与の仕方がかなり、一段階レベルアップして増大してきます。財務省主張の医療費圧縮圧力がより強化されて、次回同時改定の厳しい財源圧縮の圧力の中で行われます。

     また、コロナ病床の確保補助金に関しても、早期のテーパリング、いわゆるとっととなしにしろというのを財務省は主張しています。今後どのような形で、今医療機関に様々な形で支援として入っているものが移行していくかというのは、病院の経営に非常に大きな影響を及ぼすわけですけれども、さらにそれも概算請求払いというのを彼らは言っています。1点単価をいじってやればいいじゃないかということまで言っていて、本当に具体的なところまで来るのかというのは怖いなと思っているところがございます。

     最後に。

     ということで、コロナでやっぱりいろんな影響が出たと思います。各病院にお金が入った入らない、儲かった損したとかいうのもありますし、患者さんに様々な影響が出たというのはあるんですが、やはり医療提供体制の様々な制度改革が一段と加速したし、よりラディカルに動き始めたということが多分一番大きな影響じゃないかなと思っています。

     あと、今後のウィズコロナの流れというのをちょっとお話ししておきます。

     先ほど、私が分科会とかアドバイザリーボードに入っているという話をしましたけれども、4月のゴールデンウイーク前から、第6波が終わった頃ですけれども、今後新たに第7波が拡大していっても、B2の方向へ行くべきだよねということで、分科会の経済系も医療系のメンバーもほぼ一致はしていました。

     AとBの考え方、1と2の考え方があるんですけれども、考え方Bは、法に基づく社会経済活動の制限を講じず、人々の自主的な対応を尊重し、社会経済活動を維持する。Aは、とにかく極力患者さんがお亡くなりにならないように、経済活動よりはそちらを重視するという考え方があって、それはBのほうじゃないですか。1と2でいうと、1は特別な感染症としてコロナというのを扱っていくんだ。考え方2は、特別な対応をより軽減していって、社会の医療資源全体で対応していくような疾病に変えていくんだということで、B2に向かうということは一致していたんですが、第7波にちょっと間に合わなかった。

     いろいろとやっていたんです。6月1日には「小児における新型コロナウイルス感染症の課題について」という提言書も出しています。

     小児は、発熱や何かしてぐてーっとしたときに、やっぱりそれは小児科の先生がぱっと診て、これは帰せる、これは入院させなあかんというのが入院適応の基本です。保健所が入院調整をやって、また聞きで、紙の上の情報で入院させるさせないを決めるなんてことをやっていたら、本当に子供は死ぬんです。なので、入院調整はドクター・ドクター、病診、病病に任せるべきだという提言を6月には出しています。

     6月8日には「“効果的かつ負担の少ない”医療・介護現場における感染対策」というのも出しています。これも結構ラディカルなことを言いました。一般の感染症により寄せていこうとすると、今のフルPPEをゾーンの中に入るとき出るときで毎回脱いで着てやっていたら対応できないです。接触感染対策としても、基本的には体に密着させないような状況だったらガウンは要らんだろうと。サージカルマスクをしていて、フェイスシールドもとりあえずしておるぐらいでいいんじゃないか。とにかくキャップから何からフルPPEまでやらなくて、普通に診ていけるぐらいにしましょうやというのを一応6月8日に出しています。

     また、病棟単位のゾーニングだけじゃなくて、より一般の疾病に寄せていこうとすると、通常の個室でコロナを診られなきゃしようがない。いろんな医療機関がコロナを診てくれなきゃしようがないということで、普通の個室で、奥のほうだけレッド、扉近くで中間のイエロー、廊下はグリーンとかいう見方もいいですよという話までしながら、何とか第7波に間に合うように寄せていこうとしていました。

     いろんなことが入り組んでいるんです。法律上濃厚接触をどうするとかいろんなこともありますし、入院調整をどうするから始まって、当然、病床確保の補助金や何かも絡んでいる中で動かしていかなきゃいけないというのはわかっていたんですけれども、財務省も病床確保料に関しては早期に切り替えるべきだと主張していますし、骨太の方針にも、実際診療報酬の特例等も参考に見直すという文章が入っています。財源的には9月末までの予算しか確保されていないという状況にもなっている中で、現在のコロナ対応の補助金の制度というのは思っているより早く見直されていく可能性があるということは、ぜひ先生方に知っておいていただきたいと思います。

     重点医療機関の先生方は減る方向でなってくると思いますし、重点医療機関になっていないところでも、場合によると、持っていかれ方によっては、「うち、この病床とこの病床でコロナを診るよ」と言ってくれると、コロナがくっついた心不全のお年寄りなんかが来たときに、うちで診ますみたいな形で、診られる状況になっていく可能性は結構高いと思います。そのお金が出るか出ないか、僕は出すべきだと思っていますけれども、そういう形に寄せていくという議論をいろんな形でディスカッションしていたんですけれども、間に合いませんでした。

     7月15日に分科会があったんです。換気方法など、いろいろとディスカッションしていた回ですけれども、現在のコロナ対応、オミクロン株に対して最適解か疑問。これは経済系の先生だけじゃないです。僕もそうですけれども、医療界とか保健所の先生方もずーっとこの2年間続けてきた制度というのはやっぱり限界があって、本当に大規模な感染になったら対応できないというのは前から言っていた。このときは緊急提言が主な分科会でしたが、その後の記者会見で記者さんが一番かみついたのは、コロナを一疾病として日常的な医療提供体制の中に位置づけるための検討を始める必要があるという最後の文章でした。実際、その翌日、山際大臣も即座に議論を進めていくというような形でした。

     当初は、いろんな調整で第7波がある一定程度落ち着いたところでこれをやろうという提言の内容になっていたのを、分科会と同時に並行してやっていきましょうという形に変わったので、今どたばた議論がされていて、感染の拡大もあって、濃厚接触が一気に5日になったりとか、いろんな動きが出ています。

     我々が裏で議論している、濃厚接触なしでよろしいんじゃないでしょうかみたいなものも実際あります。自主的に自分で感染させるかもしれない状況、いわゆるどこかで危ない行動をして、そこで1人陽性者が出ていて自分が感染したかもしれないとわかったら、法的にどうのこうのじゃなくて、自主的にエチケットとして注意して行動してよというところまで落とし込んでいったらどうでしょうかというのも提言しています。だから、今後どんな感じで動いていくかわかりませんけれども、結構こういう方向に動いていくんだろうと思います。

     ウィズコロナへの出口戦略は、民間病院にその影響がより大きく出ると私は思っています。特に、コロナの補助金の削減の方法論とスピードというのは非常に大きな影響を及ぼします。

     患者の受療動向は変化しています。今、多くの都市で、コロナのために病床を大量に潰しているはずです。例えば名古屋市ですと、500床から600床確保しているんですけれども、急性期病院でその2倍ぐらいの病床を潰しています。そこがリリースすると一気にお金が入らなくなるから、患者を埋めないと病院が潰れるので、必死になって患者の争奪戦が始まっていくんです。そういう状況になっていったときに、本当に自院の病床を埋めることができるのかというのは、非常に大きな影響が出るだろうと思います。

     また、同時改定が2年後にありますけれども、かなり厳しい状況で行われる可能性が現実には高くなってきています。

     先ほど言いました財務省の医療制度改革への関与の増大というのは、下手すると、行政から指示されたら、病床確保せいと言われたら、断る権限すらないような制度をつくられちゃう可能性だってないわけでもないです。

     今年、ちょうど数日前からかかりつけ医機能の議論が厚労省で始まりましたけれども、どんな立てつけになるのか。財務省は、イギリスのGPのような、ゲートキーパー業務をやらせたいと思っています。その先生がいいよと言わなければ高次病院にはかかれない。ただ、皮膚科とか眼科とか耳鼻科とかはどうするんですかね、潰れちゃうよなとか思いますし、逆に、日本医師会の先生方がこれに対してどういう反論をしていくのかも当然気になります。

     今、日本医師会含めて医療界の評判が非常に悪い中で、日本医師会の先生方が反対するならば、「多分これはいい改革やろ」ぐらいのことを国民が思う可能性もあるので、本当にラディカルに制度が変わっちゃう可能性もあります。

     当然、地域医療構想も加速化をします。これは骨太にも書かれています。地域医療構想、やっぱり私、民間病院にとっては、持っていかれ方によっては非常に危険な政策だと思います。必要なことは必要ですけれども、今何が行われているかというと、とにかく急性期病床の整理・統合です。集約化するものは集約化してという形ですが、今、どういう機能を集約化して、どういう機能を分散していくかという議論がないままに、いろんなところでいろんな公立病院のニコイチ、くっつけたりということが起こっていると聞いています。

     これは医法協の加納会長から借りてきているものですが、兵庫県で2つの公立病院が合体して巨大な急性期病院ができました。730床、確かに病床は減っています。

     それまで2つの病院で12億・6億、全体で19億円ぐらいの繰入金を入れていたのが、結局でかい病院をつくったら、毎年毎年30億円の繰入れを入れないと運営できない病院ができました。これ、効率的になったと言うんですかね。

     さらに言うと、一番問題なのは、兵庫県というのも民間の病院が結構頑張っていたところでした。そこは8つの民間病院が二次救急を周辺でやっていました。ただ、この病院ができたことによって、7つの病院は救急ができなくなって淘汰されてやめました。今、二次救をやっているのは1病院だけです。

     何が起こるんでしょうか。誤嚥性肺炎、ちょっとした心不全、全部三次救へ行くんです、このどでかい病院に。救命救急センターに入っていくんです。どれぐらいお金がかかるんですかね。

     そういうところがある一定程度生き延びて、その地域の高齢者救急を担える形というのを絶対に担保できる形で地域医療構想が進まなければ、多分今の路線はとんでもなく非効率な医療に向かっているんじゃないかと思います。やりたい放題やっている公立公的の先生方というのが現実的にいらっしゃることも事実です。

     集約化したほうがいい医療機能と分散化したほうがいい医療機能という議論があまり行われていません。特に高齢者救急という概念で、地域の救急をどういう形で支えて、それを各病院が診ていくのかというのをもう少し議論しながら地域医療構想というのは進めていかなければいけない。

     慎重に議論して進めていくべきだと私が思っていたところに、コロナで一気に進めようとしています。地域医療構想、とにかく病床の数合わせさえやれば日本の医療は効率的になると財務省が思い込んでいる節があるし、それに説得された政治家も思い込んでいる節があります。本当にそれでいいんでしょうかと思います。

     最後のスライドです。現在の医療制度改革の方向性は、「集約化・機能分化と連携」のスローガンのもと、効率的に地域において運営されている民間医療機関に厳しいです。

     本来集約化すべきでない医療機関も集約化され、より非効率な医療提供体制に向かっている可能性が地域でないのかというのはしっかりと検証して、もしそういうことが起こりそうだったら、地域医療構想調整会議の場で、身命を賭して止めなきゃいけないと思っています。これから10年の地域で行われていく医療提供体制の改革で、今後の地域の医療は決まります。何でもかんでもやりたい放題やられると、本当に地域の医療がなくなっちゃう可能性があります。

     そういう意味で、医療政策に対する提言はより重要な局面だと思いますし、ただ、さはさりながら、反対だけしておればいいわけでは当然ありません。

     人口動態の変化というのは各地で間違いなく進みます。各病院は地域の医療需要を冷静に分析して、自院の機能を必要なら変更していく。地域医療構想で何度も言われていることですけれども、これは絶対に必要ですので、やりたい医療だけやりたいんだわは通じない世の中になっているということだけは認識すべきだろうと思います。

     さらに、コロナでどんどん改革がより加速化していっていますので、財務省の財政面からの医療制度改革へ対応していかないといけないと思います。

     彼らはいいこともたくさん言っています。よく勉強しています。でも、地域の医療にとって、日本の医療にとっておかしいんやないというところも結構あるかと思います。彼らはやはりどうしてもお金を中心に医療制度を見がちです。なので、医療政策の決定過程への関与というのを我々病院関係者はより高めていく必要があると思っておりますし、医療界からの発言力をより高める必要あるんじゃないかと、このコロナで様々な状況の変化を見てきて感じたことを御報告させていただきました。

     一旦これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

     

    ○田中志子

     太田先生、ありがとうございました。

     本当に力強く、様々な課題をひもといて説明していただきました。途中で、本当に泣きたくなるような、診療報酬の今後の高い壁みたいなものも感じたわけでございます。

    (了)

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    <<基調講演 シンポジウム1>>

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