行政の立場から

 

    地域包括ケアの推進について

    厚生労働省保険局医療課 宇都宮啓

     本日は、地域包括ケア病棟協会設立ということで、誠におめでとうございます。

     地域包括ケア病棟という新しい病棟ができ、早速に協会が設立されたということで、私は非常に感慨深いというか、ちょっとびっくりしている。これから一体改革のなかでの地域包括ケアということですので、その推進に向けて、これから是非、皆さんにご協力いただければと思う。

     本日は、今回の診療報酬改定の地域包括ケアの部分についてお話ししたい。

     今回の改定で課題として一番大事であったのは、社会保障と税の一体改革を進めていくということだった。前回、平成24 年の診療報酬および介護報酬同時改定がその第一歩目。今回は第二歩目ということになる。前回は同時改定であり、一歩目ということでおそるおそる手をつけた部分があったと思う。前回の時は私自身は老人保健課長として介護側の改定をした。介護側に携わっていた3 年間にいろいろと医療側に対して感じたことも含めて今回の診療報酬改定に取り入れている。実を言えばその前の平成20 年診療報酬改定の時も、企画官として診療報酬を担当したため、そういう意味で3 回連続で報酬改定をしており、今回を最後の仕事と考えて取り組んだ。

     一体改革では、なんといってもこの地域包括ケアシステムの構築があげられるが、そのためには、特に現在の医療提供の体制を見直し、機能分化をすすめるということが最大の課題だった。

     それに関連して、私が介護の方も含めて経験した中で感じたのは、この地域包括ケアシステムというのは、できるだけ住み慣れた自分の家や地域で、特に高齢者が生活していけるようにするということ。しかし最近、医療機関を見ていると患者さんを本当に家に、あるいは地域に帰すという部分が、薄くなっているというと怒られるかもしれないが、地域包括ケアシステムを作っていくには足りない部分があるんじゃないかと感じるところがある。急性期であろうと慢性期であろうとどんなステージにあっても、患者さんをできるだけ家に帰す。追い出すということではなくて、ちゃんと家で生活できるようにして帰してあげる。これは医療の方だけではなくて介護の方でも感じたわけだが、生活を分断せず、つまり、入院なら入院したっきり、あるいはそのまま施設に行ってしまうとかいうことなく、ちゃんと自分の家で日常生活を送れるようなそういう所に戻してあげるということを、医療機関の皆さんに意識していただきたいと思った。

     今回、医療介護の一体的推進を考えたわけだが、特に介護側から見ると医療は非常に敷居が高い。慢性期医療の分野に携わっている方は、介護療養をもっていたり、介護サービスを提供している方も結構いらっしゃると思うが、介護から見るとなかなか医療は敷居が高いという話をずいぶん聞く。医療側からは、別に敷居なんか高くしてないよ、いつでもわからないことあったら相談しなさいと言っているわりに、医者も看護師も非常に忙しくてなかなか時間が取れない。ようやく時間が取れて話せると思ったら、専門用語をいっぱい使われて、何を言っているのかわからない。素直に質問すると「それはあなたの勉強不足だ」と怒られる。上から目線で見られるとか、そういう話が聞こえてくる。報酬体系の中には、情報提供や一緒にカンファレンスをするとかいろいろあるが、このまま医療と介護が違う立場でいながら連携を進めようとしても、なかなか進まないんじゃないかと思った。まず医療に、介護はどういうものか知ってもらう。知ってもらうにも実際自分で実施してもらわないと、わからないのではないかということで、今回の改定の項目の中で幾つかは、実際に自分で介護の方に手を出してないと取れない点数、もしくは減算というものを入れている。医療と介護がばらばらでなく、一体的にできるようなものを今回の改定の中で取り入れた。




    (図1)

     そういった一体改革以外の特徴として、今回は、一つは実績に応じた評価ということだが、診療報酬の場合は、看護配置とか、いわゆるストラクチャー評価の部分が多い。一部には、リハビリが一日何単位とか、そういうプロセスの評価もあるが、今回は、評価できるだけ実績に応じて行っている所はちゃんと点がつく、そして行っていない所はつかない、ということを意識した。

     特に在宅について、これまで在宅を推進するということで高い点数がついていたが、残念ながら中には「なんちゃって在宅」があるというご指摘もあった。そういうものを減らしできるだけ実績を伴った在宅にするということも意識した。

     三点目として、中医協などではエビデンス(データ)を非常に重視している。例えばこういう患者さんがいるから、こういう項目について考えたらどうかという提案をしても、データを示すよう厳しく求められて却下される。我々としてもいろいろな調査をかけデータを集め、中医協に臨んでいるが、そもそも日頃の診療の状況がデータとして収集できるのであれば、これが一番強いエビデンスになる。

     このようなことから、7:1と、まさにこの地域包括ケア病棟については、データ提出を義務づけている。そして、それ以外の全病棟についても、データを提出したいという所については加算という形で評価を行い、できるだけデータを集めるようにした。今後、こういったデータを踏まえて医療提供、あるいは診療報酬の議論ができるようになってくるだろう。裏返して言えば、実際自分たちが行っている診療が外に見えるようになるということ。今まである意味ブラックボックス的な部分が結構あったわけだが、そういうものが外に見えてくることを意識して診療にあたる、あるいは算定する必要があるだろうということだ。こういったことが、今回の全体の改定の特徴と言える。

     改定率は大変厳しかった。社会保障制度改革国民会議が去年の夏に出した報告の中で、地域包括ケアシステムというものを推進していくということが謳われている。これを踏まえて、社会保障審議会の医療保険部会、医療部会で出された改定の基本方針の中では、こういった一体改革の内容「医療機関の機能分化、強化と連携、在宅医療の充実」が重点課題として取り上げられた。この改定率と基本方針をふまえて中医協において、個別の項目、点数についてご議論いただいた。

     そもそも地域包括ケアシステムとは何かと言う話だが、このようなスライド(図2)を何回かご覧になってると思う。基本的には、全国おしなべて人口1万人ぐらいの中学校区程度の基本的な生活圏域の中で、医療、介護、予防、住まい、生活支援、こういった5つの要素が包括的かつ継続的に提供されるような体制を作っていこうという話である。



    (図2)クリックで拡大

     医療関係者の間で結構誤解があるようだが、地域包括ケアシステムを介護のものだと思っている方が多い。地域包括ケアシステムの概念は、広島県のみつぎ総合病院 山口昇先生が提唱されたもので、医療側から出てきたもの。それまでの急性期的な医療だけでは、患者さんが自宅に帰ったら寝たきりになってしまったというようなご経験をされたことから、リハビリとか介護が大事ではないか、ということからこの地域包括ケアシステムの考えが生まれてきたと聞いた。

     ただ行政的に言うと、厚労省老健局の中でそういう研究会を作って進めてきたため、あまり経緯をご存知でない方は介護の概念だと思われているかもしれない。そうではなく、スライド(図2)にも書いてあるように「医療・介護・予防・住まい・生活支援」こういうものがそれぞれが一つの要素としてある。つまり、医療はお客さまではなく、主役の一つであることを、まず頭の中に入れていただきたい。


    (図3)クリックで拡大

     診療報酬改定は、もちろん医療の改定だが、今回は介護、住まいあるいは予防も含めて意識した改定にした。

     まず入院については、7:1が36 万床あるにも関わらず、受け皿側の病床が非常に少ない。これが今からさらに進む高齢化のニーズに合った形なのか。看護配置の手厚い7:1には、重度重症急性期を担ってほしいが、その実際の患者層というのは、私よりむしろ現場の先生方が実感されていると思うが、80 歳90歳という方も多く、いくつもの慢性疾患を抱えている患者がほとんどである。

     であるなら、現在の病床数の分布が本当に地域のニーズに合っているのか。これをもうちょっとニーズに合った形に直して、しかも入院だけでなく外来あるいは在宅の裾野を広げていくというのが、本来の大きなテーマである。

     入院について言うと、高度急性期と長期療養の間に、これまで回復期リハと亜急性期の病棟があったわけだが、亜急性期というのが非常にわかりにくいというご指摘をずいぶんいただいた。そこで、地域包括ケアを進めるという議論の中で、この急性期と慢性期の間にあって、いわゆるポストアキュートとサブアキュート、在宅支援、生活復帰支援、それにリハビリの機能を加えた多機能の病棟もしくは病床として、今回地域包括ケア病棟あるいは病床というものを作るに至った。

     そういう意味では、どういう患者像が対象になるのかわからないというご指摘もあるが、今言ったように幾つかの機能を持っているわけであるから、それぞれに応じたタイプの患者、あるいは幾つかの要素を併せ持ったような患者を想定してほしい。この病棟に入院する患者は、必ずしも一つのタイプではないと思う。

     ここで、ご注意いただきたいのが、全てのステージからこの在宅復帰に向けての矢印があるということだ。今回の改定では全てのステージに対して、在宅復帰の指標を設けた。実は平成24 年の改定のときに、老健施設に同じように在宅復帰率の指標をいれて、その率が高い所については、基本料が高いあるいは加算を設けた。それを今回、医療側の急性期、回復期、地域包括ケア、慢性期の病棟にも持ち込み、在宅復帰に向けての流れを作ろうと考えた。

     ここでよく出てくる疑問が、特に7:1 の場合、重症の患者さんがある程度病態が安定してきて、7:1 は退院できるような状態になっても、いきなり家に帰るのは難しいのではないか。もうワンクッションどこかの病院か施設で診ていく必要があるのではないかという時にどうするのかという話がある。これについては、在宅復帰の指標を満たしている病院あるいは老健に移った場合については、自宅等退院患者と見なしてよいとした。これまでの指標というのは、平均在院日数とか算定日数上限であったために、とにかく、まずうちの病院から退院してください、ということになっていた。その結果、急性期の病院は退院したかもしれないけど、行った先の病院でとどまってしまう。あるいはそういった病院を行ったり来たりして、たらい回しみたいになっている。そういうことが起きていたと思う。

     しかし今回の改定の流れは、在宅復帰の指標を満たす病院や老健を動いていくわけであるから、在宅に向けての矢印、流れは変わらない。急性期の病院としても、どこに退院してもよいというわけにはいかなくなった。自分の病院の在宅復帰率の指標を満たすためには、必ず在宅復帰率の指標を満たしている所に行ってもらわないと自分のところの要件を満たせなくなる。そうすると、「どこでもいいから退院してください」ではなくて、退院調整せざるをえない。ちゃんと患者さんの行き先を病院に考えていただく。行き先を考えるためには、他にどんな病院がある、どんな老健がある、ここは満たしている、満たしていないということをちゃんと把握する。つまり地域の中で連携を作ってもらわないと、回らない。

     逆にこれは、長期療養の方からすれば今までは黙っていても急性期の病院から患者さんが移って来たかもしれないが、今後は自分の所が在宅復帰率の指標を満たしていなければ、患者が回ってくる優先順位が低くなる。それでも指標をとらないのか、在宅復帰の指標をとって積極的に患者を紹介してもらう方向にいくのか、そういう決断になってくるのではないか。こういう中で、それぞれの医療機関がどういう役割を担っていくのか。どこもかしこも7対1を取って、うちは急性期だといってやっていくのか、あるいは地域の中で役割分担をして患者さんを在宅に帰す方向に行くのか。

     地域包括ケア病棟という話から少し外れるかもしれないが、今回、家に帰すということで、急性期の方でADL維持向上等体制加算を新設した。これは、介護施設とか在宅で関節拘縮とか褥瘡をつくらないように一生懸命ケアしていたのが、肺炎などで急性期の病院にちょっと入った途端に、肺炎が治って出てきたのはよいが、「関節が固まっていた」とか「褥瘡ができた」とか、そんな話を時々聞くことがあった。介護している人は非常に悲しい思いになるし、医療不信にもつながってしまう。そういうことが起きないよう、急性期病院も患者さんを家に帰すためにはADLも考えてほしい。今までは若い患者さんが多かったので、肺炎なら肺炎の治療に専念していてもよかったかもしれないが、患者さんがかなり高齢化してくると、日常ADLが悪くなりやすい。また悪くなると戻りにくい。そういうことを意識してもらいたいということからこの加算を作った。


    (図4)

     回復期リハでは、入院したときに患者さんの家に行き、その患者さんがどういう環境の中で生活をするのかということを、きちんと把握した上で、それにあったリハビリの計画を立ててもらうということにした。これは24 年の介護報酬改定の時に、通所リハとか老健施設で算定したものを医療でも同様に取り入れたものである。

     療養病床にも在宅復帰機能強化加算を今回新設した。在宅の生活が1カ月以上、重症の医療区分3は14 日以上で在宅復帰と見なしてよいとしている。これも24 年の介護報酬改定の時の概念を入れたもの。

     この加算の意図するところは、1回入院したおじいちゃんおばあちゃんが、家にやっと帰れる状態に戻った時、これまでは、要介護の状態でも一度家に帰るとずっと家で見てくださいということになっていた。そうすると実際、ご家族は介護の負担を考えると「子供が小さいから難しい」とか「私も仕事をしていて大変なので、もうちょっと入院させてください」というふうになる。そうしている間に、そのおじいちゃんおばあちゃんの部屋は、いつの間にか物置になっていたり、子供部屋になってしまったりということで、いよいよ帰る場所がなくなり、そのまま二度と家に帰れず病院で看取られるということになりかねない。

     今後はこれだけ高齢化が進んでいるので、たとえ1カ月でも、重症の場合は2週間でも家族と過ごせる状況があれば家に帰っていただいて、また悪くなったら入院するということでもよいのではないか。施設と病院の間を行ったり来たりは困るけれど、家と病院の間はある程度行ったり来たりは認めてもよいのではないかということを考えて、こういう加算にした。

     ちゃんと家に帰すという考え方の中での地域包括ケア病棟というのは、どういう役割を果たすのかということをぜひ考えていただきたい。今回はリハが包括化されている。あるいは地域包括ケア病棟の1については、在宅復帰率7 割以上というような指標も決められているが、これがどういう意味があるのか、地域の中でどういう役割を果たすのか、ぜひお考えいただいて、地域包括ケアに取り組んでいただきたいと思う。

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